父・モリタクは師であり、反面教師!? 少子化対策は減税とイクメンだ!

【この対談は森永卓郎氏がご存命の2025年1月14日に収録されたものです。森永卓郎氏のご冥福を心からお祈りいたします。】
【目次】
00:00 1. オープニング
00:49 2. 理想は男が働いて家庭を維持できる社会
03:02 3. マッチングアプリが少子化対策
06:59 4. まともな経済にしないと子供は増えない
10:54 5. 男女の役割が変わって来た
14:50 6. 子育てができる社会作りが必要
(深田)
皆さんこんにちは。政経プラットフォーム、ITビジネスアナリストの深田萌絵です。
今回は経済アナリストの森永康平先生にお越しいただき、少子化対策のお話をしていただこうと思います。
少子化対策については「やはり減税がいい」とか「男性の給料をもっと上げたら、女性が休めるのではないか」など色々な事が言われています。しかし結局のところ、今の世情では「女性は(外で)働かず家事・育児に専念する」という選択肢があまり現実的ではないように思うのですが。
(森永)
実は我が家も、妻はフルタイムで働いています。それは勿論、妻が働きたいと言っているからでもありますけど、周りを見ても共働きの世帯ばかりです。その話を聞いてみると「今の社会状況では、片方しか働かないのは家庭にとってリスクだから」と言う方が非常に多い。ただ一方で、自分も共働きしているから分かるのですけど、滅茶苦茶大変なのですよ、共働きしながら子育てするのは。
例えば子供がいつ風邪を引くかも予想がつきませんし、うちは3人子供がいますけど、3人が順番に引くのですよ、ほぼ毎回。そうすると、妻は普通の会社員なので有休とかを使って看病するわけですが、もう早々に無くなっちゃうのです、有休が。本来、有休は休暇を取るためなのにずっと病気の看病をしていて、全然本来の使い方ではなくなっている。そんな苦労話を、これから結婚して子供を作ろうかと思っている人達が聞いたら「やはり結婚はやめとこう」となるじゃないですか、近くの人から大変だよってリアルな話を聞いているわけですから。
だから、共働きしたいのならそれもいいと思いますけど、やはり理想は「片方さえ働いていれば子育てできるくらいの給料が普通にもらえる社会」にすること。そうしないと当然子供は減るだろうなと思います。
僕は少子化対策に関してすごく関心があって、それはシンプルに「まず日本人を増やした方がいい」という持論だからです。「移民を入れればいいじゃないか」という人もいますけど。
(深田)
移民はちょっと違うのじゃないのですか。
(森永)
そう、まず文化的にそう簡単には合わないと思う。日本はすごく独自な文化で、日本語習得も難しいし、外国の方はなかなか馴染みにくいと思うのですよ。だから日本人をどんどん増やしていった方がいいと思っていて、そのためには少子化対策が必要だと。僕、岸田前総理の経済政策はボロクソに叩いていたのですけど、褒めたことも1個だけあって。
(深田)
何を褒めたのですか?
(森永)
岸田さんが自分の言葉で「異次元の少子化対策をやる」と言ったこと。僕はこれ、めちゃくちゃすごい事だと思ったのです。だって30年前、僕が公立小学校の4年生ぐらいの時、すでに社会科の教科書に「これからの日本は少子高齢化になります、人口減少が進みます」と書いてあったのですよ、結局そこから30年間、歴代の首相たちは何もできないまま来たわけじゃないですか。それに対して岸田さんは自分の口から対策すると言ったわけだから、この事に関してはもうベタ褒めしたのです「偉い!」と。
その後、内閣官房のホームページに出た「こども未来戦略方針~次元の異なる少子化対策の実現に向けて」というPDFレポートを読んだらすごくちゃんと書いてあって、結論だけ言うと「若者の経済力の低下が少子化の大きな要因の1つだ」とあったのですね。僕はもう、その通りだと思っていました。
レポートが出た年明けに、こども家庭庁が会見をするというので、僕はどんな話が出てくるんだろうとものすごく期待していたのですよ。レポートの結論から国語的に推論すれば「経済力を上げる事、この政策こそが少子化対策だ」となるに決まっているじゃないですか、国語ができる人なら普通そう思うわけです。
さあ何が出るのかと思ったら「子ども・子育て支援金制度」をやると。なんだそれはと思ったら「月500円ぐらい取ります」という話だったので「取るのかい!」と(笑)。
(深田)
「お金がないから結婚できない」「子供がつくれない」少子化問題の対策なのに「医療保険に上乗せして(全国民から強制的に)取りましょう」ときた(笑)。
(森永)
僕は思い切りズッコケたけど、ネットでも結構炎上していましたね。その後2週間ぐらいして、もう一回こども家庭庁が会見するという。ネットが炎上したから取り下げるのかなと思ったら「計算が間違っていて本当は月1500円ぐらいでした」みたいな話で「もっと取るのかい!」と。
がっかりしていたら、今度は我らが東京都民のトップ、小池百合子氏が出てきて「東京は独自の財源がある」「東京は独自の少子化対策をやります」と言いだした。「さすが俺たちの百合子だ!」と思っていたら「マッチングアプリを作ります」と(苦笑)。
(深田)
さすがですね!(笑)
(森永)
既にあるから、マッチングアプリいっぱい(笑)。
(深田)
まさか有料ですか、それ(笑)
(森永)
もう、この2つを見て激しく落胆しましたね、少子化対策は無理だ、この国はと。
(深田)
そもそもね、まともな政治が無理です、この国は。
(森永)
僕、びっくりしたのですよ。官僚の皆さんはめちゃくちゃ学歴もいいし、ある意味頭のいい人たちが集まっていると僕は信じていたから。
(深田)
そうですよ、頭いいですよ。
(森永)
都庁やこども家庭庁で政策を決めるのはすごく頭のいい人達だと思っていたのに、出てきた案が「さらに金を取ります」「マッチングアプリを作ります」だったので、もう心の底から「なんじゃそりゃ!」とズッコケてしまいました。
(深田)
いやいや、賢いじゃないですか。だって国民から絞れるだけ絞り取って、それを自分たちの利権に使う凄い仕組みを作っているわけですから。
(森永)
いつもの「仕様」ですよね……。
(深田)
いつも通り「頭のいい人たち」が考えるドロドロのシナリオです。
(森永)
だからもうダメだと思ったけど、絶望しても仕方ない、なんとかしなきゃと考えて、「子供を持つことの素晴らしさ」もうこれを説いていくしかないと。
(深田)
それ、教えて欲しいです!
(森永)
その過程で「結構まともになるな」と思ったことが一つありました。ただ、誤解して言葉狩りされそうな気がするので先に言いますが、今から話す事は「子供がいない人はダメだ」と言いたいわけじゃないのです。
じつはシンプルに僕、子供ができるまでは正直「日本経済がダメになったら海外で住めばいいや」と思っていた時期がありました。僕自身が海外に住んでいたし、妻も海外生活していたから、僕と妻だけだったら「日本がどうかなったら海外移住すればいいよね」と正直思っていたのですよ。でも子供ができてから「日本人として生まれてくる以上、子供が日本で住みたいと言い出す可能性もあるな」と思ったのです。そうしたら、その日本がマジでどうしようもない国だったら可哀想すぎるじゃないですか。
(深田)
(だから)お父さんは、頑張る?
(森永)
そう、頑張らなきゃと思った時に「日本以外で住めばいいや」という考えがガラッと変わって「いや、それダメでしょ、なんとかしなきゃダメじゃん!」という風になったのです。
(深田)
それで今、こうして素晴らしい言論活動をされているのですね。
(森永)
やはり子供がいると、家庭規模でも責任感を持つし、ある意味オーバーだけど国家規模でも責任を感じた考え方になりますよね。その点、僕に子供がいなかったらそういう思考にもなっていなかったわけで、これはめちゃくちゃ良かったなと思う。それに子供がいると、さかのぼって自分の親(卓郎夫妻)の体験を追体験するじゃないですか。そうすると「親がやってきたのはこういう事なのだな」と分かるから、本当の意味で感謝できるんです。
(深田)
でも普段は(比喩的に)「僕は母子家庭で育ったのです」と(笑)。
(森永)
僕、お母さんには感謝しています。
(深田)
いや、お父さんにも感謝してあげて(笑)。
(森永)
親父は全然家に帰って来なくて。全ての家事をお母さんになすり付けていたので。
(深田)
お母様は専業主婦ですか?
(森永)
もともとはJTで働いていましたけど、結婚を機に辞めて専業主婦でした。(外の)仕事をしていなかったから、うちのお母さんは僕の妻よりは家事がしやすかった。だから「まともな経済に戻さないと、子供は絶対増えない」と本当に思っています。うちの場合、僕は親父みたいに放置はしないで育児・家事に参加していますけど、それでもどうしても妻に負担が片寄るのです。良くないなと思いながらも、どうしても片寄ってしまう。そうするとやはり仕事にも負担が出てしまう。だからまともな経済にして、片方さえ働いていればなんとかなる「ちゃんとした社会」にしていかないと、本当にきついと思いますね。
(深田)
そうですよね。康平先生に出演依頼を出すといつも「何曜日と何曜日はお子さんのお迎え」とか「この日はお誕生日でケーキを買いに行く係」とかお返事があって、かなり手伝っていらっしゃるなと。
(森永)
萌絵さんにはご迷惑をおかけしています。
(深田)
とんでもないです、どうぞお子様第一で。
(森永)
やはり子供がいる以上、僕は育児もやった方がいいのじゃないかと思うのです。育児とか参加しないなら、別に子供いる意味ないし、と思うので。
(深田)
最近、意識高い系の間では「イクメン(育児男子)がやはりカッコイイ」がコンセンサスなんです。
(森永)
僕からすると「俺、イクメンなのですよね」とアピールしている奴、ダサいなと思いますけどね。だって(夫婦)2人の子供なのだから、どっちが世話するのも普通だし。それをいちいちアピールするのは、ちょっとダサくないですか。
(深田)
(逆に考えると)私たち昭和生れは、お父さんをほとんど見たことがない世代ですよね。
(森永)
我が家が、それの一番ひどいバージョンだったわけで(笑)。
(深田)
お父様と一緒に食事されたこと、何回くらいありますか、記憶にある範囲で。
(森永)
年に数回かな。
(深田)
私も年に数回くらいですね。
(森永)
うちの親父はなんか本当にひどくて、1990年頃を予測する経済シミュレーションをしていたら「バブルが来る」というモデルが成り立ったので、それを周りに言ったけど全然信じてもらえなかったらしく「信じないなら証明してやるよ!」と言って、入社ほんの数年みたいな全然金のなかった時期にマイホームを買ったのですよ、埼玉に。
(深田)
それは1980年代ですか。
(森永)
そう、でその後本当にバブルが来て(結果的には)儲かるわけなのですけど、金がないのに住宅を買ったせいで、本当に金が無くなっちゃったのです。僕はいつも、ひじきとちょっとのご飯しか食べられなかった。でも親父の会社、当時のJTは夜中10時過ぎまで働いていると夜食がタダになるらしく、毎晩カツ丼とか食っていたらしい親父はブクブク太っていました。僕はガリガリだったのに。その影響が出て、いま背が低いのですけど(笑)。
そんな親父に「母子家庭」かつ貧困状態をずっと経験させられて育ってきた現在の自分から俯瞰すると、さっきイクメンアピールはダサいと言ったけど、いいお父さんだなと思いますよ(笑)。
(深田)
親から学びますよね「こうなっちゃいけないのだ」みたいな事も。
(森永)
代々そうだったらしいのです、我が家の家系は。僕のお爺ちゃん、つまり親父のお父さんも九州男児で本当に凄かったらしい。「俺は何もしない。靴下履かせるのも脱がせるのも妻がやれ」みたいなね。多分親父はそれを見て育っちゃったから、うちのお母さんに対しても家事丸投げして、自分は仕事、好きな事しかやらない。
(深田)
うちの父もそうですよ。
(森永)
僕はそれを見て育っているから、正直僕にもそのDNAがあるのですよ。
(深田)
「自分の好きなこと(だけ)やりたい」みたいなDNA。
(森永)
自分の好きな事しかやらないし、家事とか育児なんて絶対やらない、そんなのは男のやる仕事じゃないと思っていたんです。でも、妻がそうじゃないから……かなりバチバチやり合って、結局僕が降伏して「イクメン」に成り下がった(笑)。
やはり日本は何かおかしいのですよ、平等主義とか色々な事が行き過ぎている。女性と話していても思うのですが、確かに1980年代は、女性だから就業できない、就職しても「女はお茶くみ、コピーやっていろ」みたいな社会環境はあったと思うんです。でも今はそういう時代じゃなくなったわけで、SNS全盛のご時世に就活の面接とかで「君、女だからうちは雇わない」などと言った日には会社が潰れるでしょう。
(深田)
炎上しますよね。
(森永)
そう、勘違いしている人がまだ結構いるけど、今のご時世「女性だから働けない」みたいな社会環境は無くなったのです。でも色々聞いてみると「働かなくていいのだったら、働きたくないですよ」という女性、いっぱいいるのです。
(深田)
そうですよ、私だってそう思いましたよ。
(森永)
そう考えると、やはり旦那さん側にちゃんとした給料が払える世の中になれば、むしろ「逆の戻り」が出てくる。「わたし、働かなくていいのだ!」という女性が増えて、結婚して、(自分の)時間もできる。
(深田)
だって、専業主婦こそ今や勝ち組ですよ。
(森永)
つまりもう世の中が変わってきている訳ですよ。確かに昔は、働きたいのに「女だからダメ」な時代もあったでしょうけど、今は違うじゃないですか。
(深田)
私の世代でも働きたい女子はあまり居なかったです。いつも「なんでそんなに頑張って働くの?」と聞かれる方でした。
(森永)
そこら辺を時代錯誤している人達が、未だにルールメイカーでいる弊害をすごく感じますね。そういうちょっとズレたオッサン達は、何故か逆に意識高くなって「専業主婦なんて女性を馬鹿にしている」とか言うけど、そこがもう違う。
周りの同世代の女の子の話とか聞けば、深田さんがおっしゃる通り、専業主婦の方が全然勝ち組なのです。朝から晩まで働いてもう女らしさも捨ててしまった女性と、「朝は普通に家事して、昼はちょっとピラティス行って」みたいな専業主婦を見比べて、「あっちの方がよほど勝ち組だ。私、何やっているのだろう」と思っている会社員の女の子の友達が大勢いますから。
(深田)
しかも共働きで子育てしている女子は、大体ガリガリになっていくのです。化粧水を塗る暇がないので、肌もだんだん乾燥してくる。
(森永)
パキパキになってきますよね。
(深田)
本当に大変です。
(森永)
やはりこの日本の経済は、おかしい。
(深田)
あと、働き方もおかしいですよ、朝は早いし、夜は遅い。こういう働き方をずっと続けていたら当然、子育てするのも大変なわけです。
(森永)
コロナ禍の時に、リモートワークが流行りましたよね。日本経済にとってコロナ禍は確かにダメージだったかもしれないけど、子育てしている世帯にとっては結構ありがたい部分もあったんです。「リモートでいい」となってくれると、別にサボるわけじゃなくて、家に居られれば子供が発熱とかしても看病しながら仕事が出来たのです。
それが今、妻の会社も他の職場も「リモートワークはやはり嫌だ」という方向にどんどん逆シフトして、集合出勤とかに戻っているんです。そうすると、今度は子育てが本当に大変になるのですよ。リモートでも別に困らない職業だってたくさんあるわけだから、無理に出社させなきゃいいのにと思うのです。
「出社義務を強く主張している人たち」と話をしていると、単にあなた方の人事評価レベルが低すぎるだけでしょうと思ってしまいます。成果でちゃんと評価できる人たちなら、別にリモートでいいわけです。「出社しないと」とか言っている人は人事評価するスキルがないから、出社させて「俺が『呑みに行くぞ』と言ったらついてくる部下は仕事ができる」レベルの、どうしようもない好き嫌い人事をやっている。そういう奴ほど出社しろと言うわけですよ、そのレベルでしか評価してこなかったから。(行政や企業は)こういったダメな人たち、時代錯誤の人たちも一掃していただいて、ちゃんと子育てに専念できる社会作りをしてほしいなと思いますね。
(深田)
それでも育児については、やはり男女が共同ですべきだと。
(森永)
そう、僕ももう少しやらないと。この対談を妻に見られたら、多分説教されます。
(深田)
奥さんに怒られちゃいますか。
(森永)
妻からは「まだ足りない、全然足りない」「スケジュールを共有しろ」とかですね、だんだん会社の上下関係みたいな……(笑)
(深田)
もう社員じゃないですか(笑)
(森永)
悲しいのですけど(笑)
(深田)
それくらいが、家庭円満の秘訣なのかもしれません。
(森永)
昔は男尊女卑だったのかもしれないけど、最近逆ですよ、本当に。「男の方が虐げられているのじゃないの?」と思う瞬間、多々あります(苦笑)。
(深田)
男性が辛い時代になりそうですけれども、頑張ってください。
(森永)
まあ、時代は振り子のように揺れ動きますから、いずれは男性覇権を取り戻す時代が来るのじゃないかと……僕が死んだ後かもしれないですけど(笑)。
(深田)
ぜひとも男性に覇権を取り戻していただいて、専業主婦が増えるといいなと思います。
本日は経済アナリストの森永康平先生にお越しいただきました。
先生、どうもありがとうございました。