腐る新市庁舎、崩れる美術館!? クマ被害の裏にある農林水産省の不都合な事実。 建築家森山隆至

【目次】
00:00 1. オープニング
00:38 2. 熊被害の熊は有名建築家の名前
04:34 3. 白木を使いカビが生えて腐った
08:03 4. 腐ったのを気候変動のせいにする
11:36 5. 芸術に文句は言わせない
14:43 6. 非実用的な木の神様降臨
18:26 7. 日本に真の芸術教育が必要
(深田)
今回は建築エコノミストの森山隆至先生にお越しいただきました。先生のX(旧Twitter)を見ていると、建築愛と建築界への批判に満ち溢れていますよね。最近、先生のツイートで「クマ被害、クマ被害」とおっしゃっていたので、私は最初動物のクマちゃんの話かと思いました(笑)
(森山)
最初に「クマ被害」って言い出したのは、僕かどうかは分かりませんが、世の中では今、被害が日本中で起きていると言われていますよね。なんで北海道じゃないところでクマ被害なのかというと、建築家の「隈研吾さん」のことです。
(深田)
隈研吾さんというと、かなり有名な建築家ですよね?
(森山)
世界の隈研吾。
(深田)
その方が、なぜ最近になって急に被害だと言われているのでしょうか?
(森山)
みんなが思っていた以上に、建物の傷み、劣化が激しくて早いのです。それで、みんなびっくりしているのです。「もうこんなに色が変わったの? もうカビ生えちゃったの?」と。
(深田)
でも、そうやって持てはやされる前から、すでに大御所だったわけですよね?
(森山)
大御所になりかけ、みたいな感じですかね。ちょうど隈さんが本当の大御所になったのは、新国立競技場、つまりオリンピックのスタジアムを手掛けたときからです。あの頃から世間の人たちも彼を知るようになりました。それまでは建築業界の中では、彼はいろんな工夫をして、いろんなことにチャレンジしながら、どんどん建物を作る人、という感じでした。
(深田)
その隈研吾さんが、どうして最近になって「被害」なんて言われるようになったのですか?
(森山)
白木をそのまま外部にさらすような作り方をしているけど、建築業界の人はみんな「大丈夫なの?」と思っていました。どうなるのかなと思っていたら、案の定という感じで、ちょうど「隈タイマー」じゃないけど、タイマーが切れちゃって、次々と腐ったり壊れたりし始めています。
(深田)
建築でそもそも白木を使うって、あまり聞かないですよね?
(森山)
日本の古い建築は、日本は高温多湿の国だから、雨がかからないようにしたり湿気が抜けるようにしたり、そういう気候を考慮していろんな工夫をして、神社やお寺を作ってきています。だから白木そのものに問題があるのではなくて、そういった伝統的な建築の知恵を完全に無視しています。つまり、石やガラスや鉄で作るモダン建築のやり方を、そのまま木で作っちゃいました。だからこんな問題が起きているのです。
(深田)
日本家屋も木を使っていたわけですが、一応瓦屋根が付いていたりして、あまり濡れないようになっています。
(森山)
濡れないようになっているし、木がだんだん灰色になっていくけれども、それが古くなることで風格に変わるようなデザインになるというつくりになっています。京都の清水寺だって、何百年も経っているわけです。でも今でもずっと綺麗というか、素晴らしいという印象を与え続けています。
(深田)
荘厳な感じになっていきますよね。
(森山)
古びること自体が悪いわけではなく、古びさせ方がおかしいのです。
(深田)
青カビが生えるとか。
(森山)
なんでこんなことになっちゃうのか?というのが、みんなのクエスチョンなわけです。建築の専門家はやっぱりと思っていますが、隈さんだけが「なぜでしょう?」みたいな感じです。我々は20年間これをやってきたと言っていますが、20年経ったから壊れ始めているという話です。
(深田)
20年間やってきて、この20年間は大丈夫だったけど、20年ちょっと過ぎたら、もうカビが生えたり、ひび割れたり腐ったりと。
(森山)
まだ20年なら、みんなギリギリ我慢するかもしれないのだけれども、5年、6年、2年、3年でそういうことが起き始めています。
(深田)
めちゃ早いですね!
(森山)
早い。だからもう、今「最速で劣化」という新しいキーワードが出てきて、まるで日本最速の
劣化建築みたいになっています。
(深田)
そもそも建物の外壁に割り箸を組んだような造形は、何か意味があるのですか?
(森山)
ちょっとびっくりさせる効果はあったのではないでしょうか。 例えば、南青山にある台湾のパイナップルケーキ屋さんが、最初ミノムシみたいなビルを作ったことがちょっと話題になりました。普通のビルを作った上に、角材をビシッと被せちゃって、みんなをびっくりさせたのが最初でシメシメとなったと思います。もう十数年前にできた建物だったと思います。
でも、それもボロボロになって色も悪くなったから1回やり替えています。
(深田)
パイナップルケーキで稼いだ利益、吹っ飛んでいますよね?
(森山):
話題にもなったし、自然な材料を使っていると。でも内装はそんなに傷みませんでした。だからこのインパクトは維持しようということで、外装を交換したのだと思います。でも本当は、外部に木を使うなら防腐剤を塗ったり保護剤を塗ったり、屋根をかけたり、板金を巻いたりと木を活かすようにしなければなりません。さらに木の太さも問題であり、構造材というのは太いから、表面が多少黒くなっても中がしっかりしてれば大丈夫です。材種も雨に強い、カビに強いヒバとかヒノキとか、成分が虫に強いなどの材料があります。でもそういうのでなく、安い杉材みたいな角材をバーっと使っちゃったので、傷みが早かったです。
(深田)
それって、作っている人たちはわかりますよね?
(森山)
だから大工さんとか工務店の人も、大丈夫なのか?と思っていました。でもその時に新しい新素材の何かを塗ってあるから大丈夫!と言われたらしいですが、新素材がアテにならなかったということでしょう。新素材を塗ったらしいが、これを塗れば、まるで船のように丈夫になる!ということを言っている科学系の建材の研究家の人を信じたということに、隈さんはしているようです。でも、それ大丈夫?と、みんな最初から思っていました。でもデッキ材などに黒とか茶色に塗るじゃないですか。それでも傷みますよね。それすらちゃんと塗ってないから、結局ボロボロになっちゃいましたと。
一番激しく劣化したのが、あの美術館です。カビが生えたとか、腐っているとか、ボロボロになって外壁が剥がれたとか。最近、それが話題になっていました。
(深田)
那須にある馬頭広重美術館ですが、すごい話題になっていましたよね。作るときは比較的安く作れたみたいですよね。
(森山)
だから公共の美術館としては、低予算ですごく素晴らしいものができたと言われていました。
出来立ての時は、白い角材がピシッと並んでいて、めちゃくちゃかっこいいわけです。
(深田)
写真映えしますよね!
(森山)
住宅の工事現場をご覧になったことがあると思いますが、最終的に普通の家になっても骨組みだけの時は綺麗です。木だけでできている新築の骨組みというのは、木の匂いもするので、日本人みんな好きなのです。でもそのまま放置したから、どんどん腐っちゃってボロボロになり、今では外壁が剥がれたり落ちたりして、どうしようとなっているわけです。
(深田)
クラファン(クラウドファンディング)をやっていますよね?
(森山)
そうです。予算がないから、クラファンすることになりました。普通は美術館とか公共の建物とかというのは、20年やそこらで建て替えるものじゃないと思っています。少なくとも50年くらいは使う前提です。
(深田)
さっきクラファンのサイトを見て、その美術館のクラファンの集まり具合をチェックしました。1,000万円の目標で、集まったのが10万円ちょっとくらいでした。
(森山)
それじゃあ何もできないですよね。そもそも、1,000万円では、あの木を全部交換するのは無理だと思います。
(深田)
そうですね。ま美術館側も数億円はかかるみたいなことは書いてありました。
(森山)
木の材料だけ買ってきてはダメで、足場を組んだり、作業員の人の人件費もかかったりするわけだから、絶対に1,000万円じゃ全然足りないと思います。だから、どうなの?と問題を今ちょうど問いかけているところです。隈研吾さんにどうするのですか?と問いかけている状態です
(深田)
隈さんは建築士の免許を持っていますよね?
(森山)
持っていると思います。
(深田)
でも、隈研吾さんが設計した建物で、もう1つ腐っている有名なものがありますよね?40億円かけて作った、群馬県富岡市の市庁舎。
(森山)
まだ6~7年しか経っていないのに、もう屋根の下の板が腐り果てているし黒くなっているし、錆びていると。
(深田)
安くできて早く劣化できると。
(森山)
40億円というと、安くはないです。40億円もかかっているなら、もっと良い建築方法があったはずです。そこでもやっぱり無理やり木を使っています。しかも使っている木材が、ベニヤ板です。
(深田)
ミルフィーユ状態になりますよね?
(森山)
ベニヤ板というのは、濡らしたら厳禁なのです。接着剤が耐水性じゃないものもあるし、木自体が膨らんできちゃうこともあるから、塗装もしなければいけません。しかし、木の肌合いを見せるために、塗装もしていません。出来たときは、凄く良い感じだったと思います。
(深田)
ベニヤ板の生肌を見ても萌えません。
(森山)
遠目に見たら全部白木に見えるけど、実はベニヤ板で傷みも早かったと。
(深田)
それって、材料をケチってませんか?
(森山)
ケチっていると思います。それなら、もっとレッドシダーとか、油分が多くて耐久性もある屋根材として適した木材を使うという、世界中通用するルールを使えばよかったのではないかと。なのに、それを全部無視しちゃったという。
(深田)
レッドシダーって、やっぱり高いのですか?
(森山)
高い。でも結局40億円もかけるなら、材料費よりも工事費の方が大きいのだから、もっといい材料を使っても、全体の予算に対しては大した違いはなかったと思います。
(深田)
今、富岡市庁舎はどうなっちゃっているのですか?
(森山)
最近の気候変動の影響によりこうなったという、隈さんの見解です。
(深田)
新しい視点ですね。
(森山)
すごいなと思って、僕はもう呆れましたよ(笑)。
(深田)
日本は不思議だなと思うのは、芸術教育を怠りすぎていて、とりあえず有名人を起用すればいいみたいな、安易な発想になっていますよね?
(森山)
芸術は分からないというふうにして棚上げにしています。芸術というものは、一般人と関係ないよということにして、特別な存在とし芸術に文句を言うな!みたいになっています。また、論理的に説明しないという、芸術家の側もそういう態度を取ります。本来、芸術というのは非常に論理的に構成されているものです。しかし日本では、おまじないみたいに使っています。
(深田)
日本の芸術教育は、ダメすぎませんか?
(森山)
そこは本当にダメだと思います。一方では、芸術とは工芸だと思い込んでいる節もあります。ものすごく高度なテクニックを修練しないとできないものが、芸術だって思い込ませています。もう一方で、現代美術は奇抜、サーカスで行こうぜみたいになっています。珍しいこと、一発芸をやればいいということになっています。両方違うのだけれども、両極端になっています。それが今建築業界にも押し寄せています。
(深田)
大阪万博は一発芸の集まりですよね?
(森山)
しかも、その一発芸も新しいならまだいいけど、使い古しの技術だったりします。
(深田)
例えば石の休憩所なんかも、石を宙づりにして、それが切れたらどうするのという話ですよね?
(森山)
怖がらせてやろうという中国の現代技術が割とそうなっています。恐ろしいこと、タブーなことをやるのが芸術だと、現代美術がなっているところがあります。そのかたちが顕著に出ているのが、大阪万博の石の休憩所です。
(深田)
私は芸術には技術が大事だと思っています。絵画の歴史をみていると、評価される絵画というのは、新しい画材・新しいモチーフ・新しい技法を開発した人が評価されていると思っています。そういうことが評価のポイントになるということ。なぜその建築や芸術作品を作ったのかというコンセプトを論理的にしっかりと説明するのが、説明責任が芸術家の方にあるという認識がものすごく薄いと感じています。評価のポイントが分からないまま、これがすごい!とこれが日本の芸術だ!と。
(森山)
岡本太郎さんの場合は、既存の芸術界を全部ぶっ壊してやる!という大きなコンセプトはあったと思います。
(深田)
岡本太郎さんは本当に偉大でしたよ。
(森山)
その岡本太郎さんの見よう見まねの人たちが、いっぱい出てきちゃいましたよね。
(深田)
岡本太郎さんは本も書けるし、歴史の研究もすごい。しかも民族学の研究もされていました。だから、コンセプトの練り方が普通の人より深いのです。
(森山)
さらに、自分のキャラクターを作り上げるのも上手かった。でも、みんなキャラクターを作る部分だけを真似するようになりました。それで、権威にさえなればいいという風潮になっています。
(深田)
やっぱり、日本の芸術教育を根本からやり直さないとダメだと思います。だって今、有名建築家を呼べば、入札額が高くても当然でしょ?みたいになっていて、それで大きな予算がつくから、誰か中抜きしているのではないか? と思っています。
(森山)
中抜きかどうかは分からないけれども、日本の林業を助けよう、木を使おうという政策があります。国土交通省と農林水産省が協力して推進しています。日本の木を使おう、地域材を活用すると補助金や助成が受けられる制度があります。でも一方で、公共入札では特定の国の木材を指定しちゃいけないというルールもあります。OECD(経済協力開発機構)だったかな? 原則として、日本の木材だけを使えという入札はダメという決まりがあります。だから、海外の企業も参加できるようにしろという制度があり、それと日本の木を使おうという方針が合体しちゃったのです。つまり、木を使うけど日本企業を経由した外国の木でもいいという、本末転倒なことが起きています。日本の利益を守るための政策じゃないのかと。
ここからは僕の推測ですが、ちゃんとした日本の林業組合から切り出された木材に、林業関係者へお金がちゃんと渡っているのか? それとも、大手商社が絡んで、どこか外国から持ってきた木材なのか? そこまでちゃんと追跡できているのか、疑問ではあります。
(深田)
よく分からないところで、好き勝手やられている感がありますよね。
(森山)
本当に木を使うべき場所なのかということなのか、なんでも良いから木を使えばいいのかという議論があるべきだと思います。そんな中で隈研吾さんは、何でもいいから木を使ってくれるおじさん、なおかつ有名芸術家、木の神様降臨!みたいに扱われているのが現状です。
(深田)
それって、農林水産省的にはアリですか?
(森山)
多分、行政に特定の利権団体が食い込んでいるのではないかと。市長とか自治体の偉い人にこの制度を活用しましょうと提案して、気づいたらプロポーザルで全部「隈研吾案件」になるという流れになっていると思います。
(深田)
建築家を選ぶ基準にセンスがなさすぎませんか?
(森山)
なぜそうなっているかというと、建築家としていい人、芸術家としても優れている人というのは、扱いにくい人が多いからです。人間的にも難しいし、仕事的にも難しい。めちゃくちゃ練り込んでギリギリまで設計するから、関係者はヒヤヒヤするというのが、本来の建築家です。でも、隈研吾さんはその要素が全部ありません。絶対に納期に間に合う、安い、難しいところがない、しかも木を使ってくれるという、行政からしたら最高に都合がいい建築家です。
(深田)
早く腐る以外、何の問題もないということですね。
(森山)
これを「ファストデザイン」と呼んでいますが、ファストフードならぬ、日本の建築界をファスト化しているということで、ファスト大将は隈研吾さんだと言っています。
(深田)
確かに行政から見たら、隈研吾先生というのは、完璧理想的な建築家ですよね。
(森山)
そうです。期限も大丈夫、低予算でできる、難しいこと言わないから工事会社も楽、なおかつ公共事業で偉い先生だから予算はしょうがない。だけど、早く安く作るけれども、早く壊れちゃうのが今問題になっています。
それで今、隈研吾さんは第3段階に突入しています。今度は、木ではなく、アルミに木目を印刷したフェイク木材を使い始めています。
(深田)
進化しましたね(笑)
(森山)
代官山に隈さんがデザインしたマンションあったのですが、マンションに木を貼っちゃうの?!と思ったら、実は木じゃなく、アルミに木目を印刷していました。
まるでニトリの家具みたいな(笑)
これまでの建築家ができなかったことです。従来の建築家は、本物の木を使いたい。
建築における「真善美」という考えがあり、そこに真実があり、技術もあり、本物の材料というのが芸術の根本でした。しかし、偽物の素材でもいいじゃないかということになりつつあります。でも代官山のマンションの前に、新国立競技場でやっていて、下の方は木だけれども、上の方はアルミです。でも今、フェイクもありということになると、恐ろしく感じます。世の中の建築デザインが、またガラっと変わるのではないでしょうか。偉い人がフェイクなので、誰だってフェイクでいいだろうと、技術継承もされなくなるでしょう。
(深田)
本当に、日本は芸術教育を真剣にやらなければならないと思います。
(森山)
芸術にはいろんな要素が全部入っています。
(深田)
数学的にも物理学的にも、裏打ちされたものの世界の中でちゃんと設計する、そしてそこに対して新しい技術で新しい表現に挑むということが、本来の芸術ではないでしょうか。そこの根本をしっかりと伝えていけたらと思います。
今回は建築エコノミスト・森山隆至先生に、クマ被害と芸術についてお話を伺いました。