No.44 深田萌絵×鈴木宣弘『政府愚策で食の安全保障危機』
【目次】
- 00:00 1. オープニング
- 00:41 2. 種子法の廃止と種苗法の改定
- 04:20 3. TPP反対の全国農業中央会を解体
- 08:40 4. 安倍政権の罪
- 11:27 5. 千件を超える種子の譲渡
- 13:42 6. 種子の自家採取を取り締まる
- 18:41 7. 間もなく食料自給率は9%になる
(深田)
政治と経済の話を分かりやすく。政経プラットフォーム、ITビジネスアナリストの深田萌絵がお送りします。今回は東京大学特任教授の鈴木宣弘先生にお越しいただきました。先生、よろしくお願いします。
「政府愚策で食の安全保障危機」というテーマで、数年前に改正された種苗法のその後のことですが、種子法廃止の影響がどういう風に今の農家に、農業に現れてきているのかというところを教えていただけますでしょうか 。
(鈴木)
はい。まず私たちは、シャインマスカットの苗が中国と韓国に取られちゃったから、それを守るのだということで、種子法の廃止から一連の種苗法の改定まで、いろいろな種の改定をやったわけです。ところが実はそれは日本の大事な種をグローバル種子の予約企業さんを含めて渡してしまうような流れを強化したのではないかということです。
(深田)
それって逆だったのですか?種苗法や種子法を改定することによって、私たちの農家さんの大事な種を、種という知的財産を守るという方向に改正されるのではなくて、逆に上げてしまうという方向になっているのですか?
(鈴木)
実質はそうだったのではないかと。だからみんなはね、日本の種を守るのだと言うからそうだと思ってね。なぜ種苗法の改定に反対するのかと言いましたけども、実態をよく見るとこういうことだったと。まずグローバル種子の予約企業さんは「種を制するものは世界を制する」と言って世界中の種を自分のものにして合併をくり返して、その種を買わないと生産ができないような仕組みを世界中で作ろうとしてきたが、世界中の農家や市民が猛反発して、今はもう、なかなか苦しくなっている。そして苦しくなると、当たり前のように「何でも言うことを聞いてくれる日本で儲けようではないか」みたいな話になって、日本に要求が集中してくるきらいがあるのです。
それでまず言われたのが種子法の廃止です。公共の種をやめてほしいと、国がお金を出して都道府県の試験場で良い米向き大豆の種を作って農家に安く供給すると「こういうことやってもらうと困るのだよね」と。それで種子法廃止です。それから、やめただけではだめだと 日本のいい種は私たちによこしなさいと。農業競争力強化支援法8条の4項で日本の大事な種苗の知権を企業に言われたら譲渡しなさいと。そんな法律までわざわざ自分たちで作ってしまったわけです。
(深田)
それって普通じゃないですよね。それはエレクトロニクス業界であれば、自分たちが研究開発して取った特許ノウハウを、他の企業にあげなさいという話ですよね。
(鈴木)
そうです。法律でそれを決めてしまったわけです。だからシャインマスカットの苗が中国や韓国に使われたから、それを止めなければいけないと言いながら、米・麦・大豆の、日本のいい種を企業に言われたら渡しなさいというのだから全く話が矛盾しているではないですか。
しかもそういう普通では考えられないような法律をわざわざ作って、さらにもう1つ加わったのが種苗法の改定です。企業側からすると、種や知権をもらっても、それを農家さんに売った時に農家が自分で種を取って次の年に植える自家採取ができると、種が売れなくなってくるわけです。だから種苗法を改定して、自家採取の権利を制限しなさいということで種苗法が改定されました。そう考えると話は分かりやすいじゃないですか。 公共の種をやめさせて、種をもらって、その種を買わなければいけないような仕組みにしなさいという一連の流れだと考えれば、 グローバル種子農薬企業含めて日本の大事な種の知権が、主要穀物が、です。種が企業に渡るような流れを一応整備してしまったということですよね。
(深田)
この種苗法改正であるとか種子法の廃止についてよく言われたことが、反対しているのはほんの一部の人たちで農家の人は全然騒いでいないのだから、騒いでいる人はおかしいということなのです。農家さんたちは、今回の改正をどのように捉えてらっしゃったのでしょうか。
(鈴木)
実態が分かりづらかったということがあると思います。大義名分しては「みんなの種を守るのだ」という風に、わあっと政府も宣伝したから、そうなのかなと思ったのですけれど、その実態がどういう風なことで、どんな形で自分たちの種が逆に流出してしまうのかということについては、法律の関係が細かくてなかなか分かりづらい面もあったので、農家の皆さんにアンケートをすると「よくわからない」という声が多かったのです。
(深田)
そうですよね。だからやっぱり私もここ数年の法律の改正案などを読むと政府が言っていることと実際の改正案の法案を読むと、逆なのですよね。そういうことが多くて、ではどうしてそこに従事している業界の人たちは何も言わないのかともよく言われるのですが、まさか政府が嘘をついているとは思わないので、改正案を読まないですよね。
(鈴木)
そうです。なかなか細かいところまで読んでも分かりづらいですからね。そうするとイメージ戦略にのせられてしまうところがあるではないですか。それで、政府もそう言っているし与党もそう言っているとなると、今は与党と農業生産者の組織は前のような緊張関係よりは、やはりTPPに対する大反対運動で農協組織が壊されてしまって、全中とか全国農業中央会は組織そのものがもう社団法人なってしまったという形で、TPPに反対したことに対して、やはり与党側からの罰として、組織を解体していくような方向性が取られたのです。
(深田)
そうだったのですか。そのTPPに反対していた全中というのは何の略ですか?
(鈴木)
全国農協中央会です。
(深田)
全国農協中央会というのは、元々は独法だったのですか?
(鈴木)
独法ではないですけども、特別な法律で作られた権限のある組織として位置付けられていました。
(深田)
そこには予算もついていたのですか?
(鈴木)
予算もそうですね間接的にはつくし、それから政府に対するその発言権というか、政治的な圧力というものを大きく発揮できるような組織として位置付けられていました。そういう法的な裏付けがあったのです。
それでTPPについても反対して、与党に対してもしっかりやれということで一生懸命頑張っていました。それで、途中までは良かったのですけれども、そこで逆襲が起こったのです。そうしたら「組織解体だ」という話になってしまって、そういう風に権限のない組織に変えられてしまったという流れがあるわけです。
(深田)
ああ、なるほど。お上に逆らったらもう絶対許さないぞという、こういうことだったのですね。
(鈴木)
それで、これ以上はもう言えないような雰囲気が強くなってしまって、政府与党が進めている種の関係の改定についても、これはいいことだとみんなが言っているのだからそれに対して農協組織としても、おかしいとはなかなか言いにくいじゃないですか。そうすると全国的にもそういう風な流れが、全国の単協と呼ばれる地域の農協レベルでもそういう風な情報が一般的になって、農家さんも「細かいところが分からないけども、そう言っているのだからそうだよね」みたいな流れが強くなったのです。それで、特に「日本を守るのだ」みたいな議論というのは、やはりみんな「そうだ」という感じになりやすいのではないですか。
(深田)
そうですよね。
(鈴木)
それでやっぱりそのイメージ戦略が大きかったなと思います。だから私のように「ちょっと違うのではないのか」と言うと 非常に激しい批判がSNS等でもありましたし、今でもそれは続いています。
(深田)
この種苗法改正とか種子法廃止を主導した政治家はどなたなのですか?
(鈴木)
政治家では官邸ですね。基本的にはね。
(深田)
これは安倍政権時代ですよね。
(鈴木)
そうです。やはり官邸が、アメリカ政府の後ろにいるグローバル企業の利益になることをきちんとやれという風に要請が来ると、それを規制改革推進会議に下ろしてそこで一部の人たちが中心になって決めてしまうという、そのルートが一番大きいです。
これもTPPに関連するのですが、TPPが決まった時に、アメリカは、トランプ大統領は結局、抜けてしまいました。その時に大問題になったのが、日米のサイドレターという付属の合意文書が決まっていたことです。
「TPPからアメリカが抜けたのだから、この2国間合意も効力を有しないですよね」という国会での質問に、当時の岸田外務大臣は「これは日本が自主的に決めたことですので、我々は自主的に粛々と実行します」と言ったのです。日本の政治家が自主的にと言った時はイコール、アメリカの言う通りにと置き換えると、大体意味が通ります。その合意内容がすごいのです。アメリカの投資家が日本にやってもらいたいことがあるときは、規制改革推進会議を通じてやりますと宣言しているのです。
(深田)
え?そんなサイドレターがあるのですか?
(鈴木)
あるのです。それがなくてもアメリカの言うことはどんどん聞かなければいけないけど、さらに、そういう風な根拠を明確にするような形がその時にできましたので、次々と官邸を通じて規制改革推進会議に降りてくると、アメリカ側の大きな企業の意向が日本で実現されていくような流れが、さらにスムーズになったというか、多分そういう意味で言うと種の関係も同じような形であったということが分かるわけです。
(深田)
本当に怖いことですよね。この種苗法改正、そして種子法が廃止されてから何年経ったのでしょうか?
(鈴木)
そうですね、数年ですね。
(深田)
数年経ちましたよね。どうですか?農家の皆さんは今不便を感じていらっしゃるということは?
(鈴木)
そう、そこなのですよね そこがどうなっているかということが、1つ大きな動きで出たのが、福岡県の「あまおう」という有名なイチゴです。
(深田)
おいしいですよね。
(鈴木)
これを、農業競争力強化支援法8条の4項に基づいて、どこの企業か分かりませんけれども「企業にその知権を渡しなさい、譲渡しなさい」という要請が来て、福岡県とすれば「いやそれは無理だ」と思ったのだけれど、法律で決まってしまっているので結果的にその知見を譲渡せざるを得なくなってしまいました。
そういう風にすでに、主要穀物ではないけれども、日本の国や各県の大事な品種の知権がこの農業教争力強化支援法8条の4項に基づいて、もう相当な数が譲渡されているということが、山田正彦先生が紹介して出された資料で出てきています。それがもう1000超えている、確かもうそのぐらい。
(深田)
では、日本の大事なその、果物ってすごく付加価値が高くて値段も高いじゃないですか。ああいった高付加価値の種子を、その8条4項でどんどん移転させられて、もう1000を超えたということなのですか?
(鈴木)
そうですね。それがまず大きく動いている問題です。だからそこで「いやこれは長年かけて何千年もかけてみんなで育ててきた結集した知財なのだから普通の知財とは違うのだ」と「1億円ぐらい払わなければだめだ」とか言えればいいのですが、そういう話にはどうもなっていないみたいで、結局ただではないとしてもそうやって譲渡される流れがかなり動き始めてしまっているというのです。
それからもう1つは、今、自家採取を制限するという話で、それが「登録品種といわれる登録されている品種だけですよ」ということで、「他の在来種子とか既に登録期間が切れた品種には関係ないですよ」という話で、それが1割ぐらいしかないから大丈夫だと政府は説明したのですが、ところが1割ではなかったのです。登録品種は県にもよりますが米とかでは9割とか、かなりの割合が登録品種だということが後で分かってきました。
政府側としては、その登録品種の種を農家が勝手に自家採取して植えていたらそれを取り締まらなければいけないということになってきています。それで今、何をしているのかというと、農家の皆さんも自分が使っているものが登録品種かどうかよくわからないという場合も多いので、そういうものを調べ上げて、登録品種がどのぐらい使われているのかを全国くまなく調べ上げて、勝手に種取りをして植えて売っている農家を摘発するための組織を、今整備しているところなのです。
(深田)
恐ろしいですね。それは秘密警察みたいな、農業秘密警察ですね。
(鈴木)
ええ、いわゆるモンサントさんが、有名なモンサントポリス、モンサント警察というものを作って、モンサントの種を勝手に使っていないかということで、こういう取り締まりをやりました。それと同じようなある意味似たような組織を、普通それは企業がやるのは、自分の利益のためにそういうものを取り締まって訴えようとするというのはあり得るとしても、日本は企業の代わりに政府が国家としてそういう組織を作って、まさに秘密警察みたいなそれで、企業のためにそうやって調べて訴えられるようにしてあげましょうということで、なぜ国がやるのかということも含めて、非常におかしなことが今進んでいます。まだ実害がそんなに出てきているわけではないですけれども、今そのような整備がされている段階なので、これからそういう摘発が、本格的に起こってきます。
(深田)
はい、いや恐ろしいですよね。昔モンサントという会社が、どこだったか、海外のどこどこかの国で、モンサント社の種を勝手に使っていないかということを調べて訴訟しているというものを見たことがあるのです。けれどその種が風で飛ぶのですよね。
そうやって風で飛ばされた種が隣の畑で勝手に育っただけでも訴訟するというのでかなり揉めていたのを覚えています。
(鈴木)
そうそう、そういうことがありましたよね。そういう風に勝手に飛んできて逆に農家の方はその被害者なわけです。そういうものが勝手に混じってしまったわけですから。遺伝子組換えとかそういう種が。
なのに、それを勝手に使ったと言って損害賠償を逆に農家がさせられるみたいなことが、おっしゃる通り大問題になりました。だからそういうことが日本でも起こりうるわけです。意図的でなくてもそうやって混じってしまっていたみたいなことで、その農家が摘発されることになってしまうのです。しかもそれを日本政府が一生懸命に、企業に代わってそういうことができるような機関を整備してあげましょうというのですから、どこまで誰のためにやっているのかみたいな話になってきています。
これは本当に農家を守るのか誰を守るのか、誰の利益かということを考えなければいけないような動きがあります。あの一連の種の関係の法律の廃止や改定に反対するのは被国民であるかのようなことを色々言われましたけれど、でも本当にもう一度、今、何が起きているのか、それからどういうことをやろうとした流れなのかということを考えて、もう1回これを精査しないと、本当に種を握られたら大変なことになるわけです。
(深田)
そうですよね。今、ただでさえ食料自給率が4割を切っているところで、種の自給率が10パーセントもないのですよね。
(鈴木)
野菜はね。そこなのですよ。だから野菜の自給率が8割といっても、その種子の9割が海外の畑で種取りしてもらっているものを持ってきているわけです。だからそれがコロナショックで止まりそうになって大騒ぎになりました。野菜も8パーセント分しか作れないということです。ですからこれが今まで話したような流れで、米や麦・大豆も同じような形で海外に依存することになったら、仮に主要穀物も種を9割海外に依存するような状況になったとすれば、自給率は9.2パーセントという数字さえ出てくるわけですよ。
それはまず肥料の自給率もほぼゼロだから肥料が止まったら22パーセント、さらに種も主要穀物も含めて1割の自給率になったら9.2パーセントという、1つの仮定を置いた計算ではあるけれど、最悪の場合は、今そういう流れに近づいているということです。
(深田)
そうですよね。ということは、有事が起こり、物流が、世界の物流が止まったら、最初に飢えるのは日本だという・・・
(鈴木)
まさにそういう状況が、今迫ってきているわけです。だから食料だけではなくて生産資材も、これだけ肥料もほとんど頼っていて、種もさらに海外に渡していくようなことをやっていたら、いざという時にどうしようもありません。食料は命の源ですがその源は種ですからね。だからそういう意味でいうと、今回の食料農業農村基本法の改定において、種の自給とか、そういうことについてもきちんとすべきなのに、種をもっと自給しないといけないのではないかというような議論も、当然ながら一切していないわけです。
逆に種は全部渡していくようなことを実際にやってしまっているわけだから「そんなことは書けない」みたいな感じで、逆行することをやってしまっていますのでね。それで今何が起こっているかというと、米農家さんも赤字で苦しんで、どんどん生産が減ってきていたところに今年は不作だということで、これまで「米が余っているから田んぼを潰せ」とか言っていたのに、今は米がなくなってきて大騒ぎになっているのです。
だから何をやっているのかと。こんな風にして頑張っている農家をいじめていたら結局あっという間にこういうことが起こりました。米だってもう今年は食べられなくなるかもしれないのです。
オレンジの自由化でみかん農家を潰して、結局オレンジがブラジルで不作になったらジュースも飲めないみたいなことになっているではないですか。そういうことがもう目の前に来ているのに、まだ国内で頑張っている農家を蔑ろにして、一部の人だけが儲ければいいような議論だけ進めていていいのかということが、本当に厳しく問われていると思います。
(深田)
いやでもこういったことが大手のメディアでは全然報じられることがないということが非常に恐ろしいという風に、私も今回思いました。きっと視聴者の皆さんもこの実態を聞いて驚かれたことだと思います。
ということで今回「政府愚策で食の安全保障危機」に陥っているというこの実態について、東京大学特任教授の鈴木宣弘先生からご案内いただきました。先生ありがとうございました。
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