#663【話題の編集長登壇!】ナフサ供給危機政府見解はウソ?ホント?現場で起こっている本当の危機とは 赤澤裕介氏(2026.4.20)
(深田)
皆さん、こんにちは。政経プラットフォーム、プロデューサーの深田萌絵です。今回は、LOGISTICS TODAYの編集長でいらっしゃる赤澤裕介さんにお越しいただきました。赤澤先生、よろしくお願いします。
(赤澤)
よろしくお願いします。赤澤でございます。
(深田)
よろしくお願いします。最近、赤澤さんはメディアに引っ張りだこで、私もTBSの「報道特集」で赤沢さんをを拝見しました。その後、政府が「ナフサは十分足りているのに誤った報道が流れているので、きちんと訂正させてほしい」という趣旨の発信がX上で出ていたのですけれども、実際のところはどうなのでしょうか?政府の「ナフサは足りています」という話は、本当なのでしょうか?
(赤澤)
どちらも部分的には正しく、部分的にはミスリードを引き起こしているという印象です。
(深田)
実際はどうなっているのですか?
(赤澤)
例えば、ナフサは、もともと平時から2か月分を備蓄するという状況で運用されてきたものですから、今回、原油が入ってこなくなった結果として2か月分に短くなったという話ではないのです。
(深田)
もともと2か月分で、いわば賞味期限のようなものがあるのですね。
(赤澤)
そうです。その意味では政府が言っている「平常時と同じですよ。慌てる必要はありませんよ」という説明は正しいのです。では、足元で値上げや受注停止になっているのは、どう説明がつくのかいうと、全く別の軸の話を混同していることから起こる誤解です。
(深田)
それは、どのように話が混同されているのですか?
(赤澤)
例えば、企業の側と政府の側では、それぞれ国民に対して説明する時の動機が異なります。政府には、過去のオイルショックの苦い経験があります。あの時に起こったのは、やはりパニック買いでした。このパニック買いを引き起こしたくないので、あのような言い方になるのです。
「平常時と同じです」というのは事実です。では足元で起こっていることをどう説明するのかというと、説明がつかなくなってくるのです。
(深田)
政府はパニック買いを抑えたいので、国民に落ち着くように言っているわけですね。パニック買いといえば、オイルショックの時になぜかトイレットペーパーを買うために行列したという伝説が残っていますものね。
(赤澤)
今から振り返れば、それは直接的な因果関係はないことを日本人は知っています。一方で、日本の周辺国には、実際にトイレットペーパーがなくなっている国もあります。
(深田)
本当ですか (苦笑) ?
(赤澤)
やはり消費者心理があって、それは必ずしもエビデンスに基づいた行動になるとは限らないということです。
(深田)
ただ、その一方で、すでにシンナーや塗料といったものが手に入りにくくなってきています。塗装業者の友人によると、塗料は1.7倍の価格になり、シンナーに至っては10倍になっていると言うのですが、この辺りはどうなのでしょうか?
(赤澤)
おっしゃる通りです。例えば、先ほどは政府側の論理をお話ししましたが、企業側の論理で行くとどうなのかという話です。
一番川上にあるのは石油化学メーカーですが、この石油化学メーカーの立場からすると、確かに今は在庫があります。我々が取材しても「あります。ないわけではありません」と言うのです。ただし、それが一定期間後にどうなるのかについては、見通しが立っていないというのも事実です。その場合、彼らが最も避けたいのは設備が止まってしまうことなのです。
(深田)
設備が止まってしまうと、やはり不具合が起こるのですか?
(赤澤)
不具合というより、再稼働をさせるのに非常に長い期間がかかるのです。1、2か月かかってしまいます。
(深田)
そうなんですか?
(赤澤)
ですから、止めることは、彼らにとって最悪の判断なのです。止めないでおこうとすれば、今ある量が以前と同じであっても、先行きが見えないので、少しずつ使うことになるわけです。
(深田)
確かに、そうなりますよね。
(赤澤)
だから、総量はある。これは正しいのです。しかし、今使える量はどうかとなった時、メーカーの心理的ことを考えると、全量を以前と同じように湯水のように使うという判断にはならないということなのですね。
(深田)
そうなりますよね。立ち上げには、そんなに時間がかかるのですね。
(赤澤)
そうなんです。やはり、石油化学だけではなく、製鉄メーカーなども同じようなことを言いますけれども、供給が元に戻ったからといって、直ちに生産が戻るということには全くならないのですね。
機械設備だけではなく、原油が日本に届くまでの日数も、今はアフリカの喜望峰回りで来ていますから、50日ほどかかるのです。以前は25日ですから、2倍かかるわけですよね。時間もコストも倍になります。先ほど深田さんがおっしゃったように、1.7倍というのは、現在の感覚としても、大体それくらいだと私の認識とも合っています。
(深田)
そうなんですね。今朝もアメリカに油を買いに行く船で、メキシコ湾に行列ができていると日経のニュースが出ていたのですが、あれはどうなのでしょうか?
(赤澤)
あれもあり得る話です。アメリカが世界最大の産出能力を持っているのは、事実だと思います。ただ、いくつか注意しておかなければならない点があります。
実は、油には種類があり、アメリカ産は軽質油といって、世界的に見てもかなり高品質です。一方で、中東の油は中くらいの品質で、より重く精製が難しいものが中南米産などです。このように、さまざまな種類があるのです。
ただ、一般的に品質がよいからといって、必ずしも中東の原油で生産できていたものが、すべて同じように精製できるわけではないという点が一つあります。
(深田)
つまり、入ってくる油の種類が異なるので、日本の製油所に合うかどうかということですね。
(赤澤)
おっしゃる通りです。あともう一つは物流の課題で、中東から日本に来るものは、アメリカから来るものに比べると、船のサイズが違うのです。パナマ運河を通らなければなりませんよね。メキシコ湾から入ってくる場合には、太平洋に来る時にパナマ運河を通るわけですが、半分のサイズの船しか通れないのです。
(深田)
小さなサイズの船しか通れないのですね。
(赤澤)
そうです。したがって、船の数だけで判断する話でもないのです。半分になれば、当然、値段は倍になりますから。
(深田)
そうですよね。そうすると、一隻あたりの単価が割高になるわけですね。
(赤澤)
そうです。もともと割高になっていくところに、船が半分のサイズですから、さらに割高になります。
(深田)
しかも、航行日数が倍、25日が50日ですから、やはり船代も高くなりますね。
(赤澤)
おっしゃる通りです。
(深田)
ということは、2月28日から戦争が始まっているので、最初にアメリカを出た船がそろそろ着く頃ですね。
(赤澤)
そうですね。この間、一隻入ってきたのですかね。この後、政府の方からは「続々と行列を作って入ってきます」という説明なのですが、それは言い方の問題で、確かに行列なのかもしれません。
(深田)
行列をなして入っては来るけれども、量は半分だということですね。
(赤澤)
そうです。必要量をすべて賄えるとは言っていないということです。
(深田)
そうですよね。政府もうまい言い方をすると思うのですが「当面の目途はついています」とか「ナフサ2か月、エチレン2か月、全部で4か月」といった説明をしています。しかし、違う種類のものを足して4か月と言っているだけで、本当は2か月と2か月なのではないのでしょうか?
(赤澤)
4か月という言い方も、実に微妙です。民間の在庫と備蓄を合算して4か月というが、それを本当に4か月と言ってよいのか、専門家の立場からすると、少々コメントに困るところではないでしょうか。
(深田)
そうですよね。最近の政府発表を見ていると、何かなぞなぞのようだと感じるます。
(赤澤)
そのため、皆さんが政府の発表と足元で起こっていることの違いを理解するためには、それぞれが何のためにそのような発表をしているのかという点に注意する必要があります。
(深田)
そうですよね。メーカーの皆さんは、当初は「全然足りていません」「受注を受け付けられません」と言われていたじゃないですか。
(赤澤)
そうです。その事実はその通りで、あまり状況が改善しているわけではありません。まさに昨日、4月17日に一番川上にいる石油化学メーカーの方に、お話を伺うことができました。まだ記事にはしていないのですが、その方は毎日のように某行政府に呼び出されているとおっしゃっていました。
政府の焦りが、そうした形で民間企業に反映されているのですし、実際に政府も足元の状況を把握しようと努めているのは事実だと思います。ただ、それが国民向けの発表や声明との間に、やはり温度差やずれが出ているのだと思います。政府には、立場上言わなければならないことを使い分けているのでしょう。
(深田)
しかし、そのあたりは少し透けて見えてきているようにも思うのです。やはり政府の発表を見ていると「大丈夫です。問題ありません」と言いながら「物流に問題が生じるかもしれないので、皆さん今のうちから備蓄をしておきましょう」と政府広報を流しています。
石油は足りているし、ナフサも全然問題ないと言いながら「末端の業者さんが困っているようだから、政府に電話するか、あるいは銀行からお金を借りられるようにお願いしておきました」というような発表を見ていると、本当は今、大変なことになっていると分かっているのではないですか?
(赤澤)
そうでしょうね。ただ、それを正面から示すことによって、パニック買いが誘発されることを、おそらく過剰に恐れているのだと思いますが、このあたりは、どうなのでしょうか。
以前のオイルショックの時と比べて、今はSNSが非常に発達しています。必ずしも政府が少しぼかした言い方をしなくても、事実に基づかないパニック的な動きについて、そこまで強く心配する必要があるのかどうか、私にも判断が難しいところです。そのあたりは、私も心理としては分かりません。
(深田)
スーパーの棚などを見ても、全く普段と変わらないように感じます。ただ、塗装業者さんや建材業者さんの話を聞いていると、今、向かいの建設業者がトイレを大量にまとめ買いしているのを見たが、あれは買い占めているのではないか、といったことを話している人もいます。
(赤澤)
いろいろとあるのですが、やはり物によっては品薄になっているものもあります。ただし、それは必ずしも本当に必要な対象物が足りないということではなく、実は今、一番大きいのは、本当に欲しい物を包んでいるもの、容器の問題なのです。
(深田)
そうですよね。例えば物を運ぶときに梱包するラップのようなものがありますよね。あれが一番足りないのですね。
(赤澤)
そうです。あれが一番足りていません。
(深田)
よく聞きますよね。ああいうものは、完成品を輸入すると非常に高い価格になってしまうので、あまりやってこなかったのですよね。
(赤澤)
そうですね。平常時であれば、それはナンセンスだと判断される面もあると思います。
(深田)
ああいうものは、隣の国、例えば韓国や中国からは買ってこられないのですか?
(赤澤)
今、世界中でさまざまなものの奪い合いが起きています。日本だけで消費するものというのは、あまりないのです。どこの国でも、足りないものは皆足りないという状況です。
例えば以前であれば、マレーシアやベトナムなどから入れることができていたものもあるのですが、日本は何と言っても、諸外国に比べると備蓄量が最も多かったわけです。254日分以上でしたでしょうか。他の国は日本より少なかったわけです。そうした中で、では買う競争をしましょうとなった時に、日本は少し遠慮しなければならないという面があります。
(深田)
一般庶民の生活が困窮してしまう国の方に、譲らなければいけないのですね。
(赤澤)
そうです。そこには理屈もあって、日本が譲るべきところをきちんと譲らなければ、日本のサプライチェーンが止まってしまう面もあるのです。
(深田)
ナフサは、どうなのでしょうか?4割くらいが中東、2割は日本で、残りの4割はどこから来ているのですか?
(赤澤)
いえ、そうではありません。4割が中東で、残りの6割分のうち4割が国産なのです。そして、残りの2割がそれ以外からの輸入です。
(深田)
それ以外の国に「もっとナフサをください」と求めることはできないのでしょうか?
(赤澤)
本来であれば、できるはずでした。しかし、その場合に日本がかなり輸入していた先がお隣の韓国だったのですが、韓国は早々に輸出禁止、輸出停止とし、自国で使用する分を確保しなければならないという状況になってしまいました。そのため、非中東からのナフサ輸入については、皆が困っているので、日本も入れられなくなったという状況が一方で生まれています。
(深田)
では、ナフサ全体の60%が今、消えてしまったような状態ということですか?
(赤澤)
確かに、そのような言い方はできますね。もちろん、それ以外のところから調達しようという努力は今も行われています。
(深田)
世界中でみんながナフサ不足に直面していて、どうしようという状況になっているので、それもなかなか難しいわけですね。
(赤澤)
そうです。ここで、先ほど国産が4割と申し上げましたね。しかし、国産4割と言っても、日本でナフサが生まれてくるわけではありません。もともとは原油から作るのです。そして、そのナフサに使う原油の9割以上は中東から来ています。そのため、実質的には、4割とされる国産分のうちも90%以上は中東由来なのです。
(深田)
では、本当に非中東は4%くらいしかないということですか?
(赤澤)
なかなか厳しいのです。ですから、非中東から取っていかなければならないということになります。
(深田)
どうなのでしょうか。アメリカ産のオイルと中東産のオイルでは、ナフサの取れる比率は同じなのですか?
(赤澤)
いいえ、決して同じではありません。油の種類によって大きく異なりますし、アメリカ産であっても、メキシコ湾岸のものとアラスカ産のものとでは、やはり品質が違います。
今、必死にかき集めているという話は聞いていますので、そこに期待したいところではありますが、同じ状況が各国で続いているという点もあります。加えて、米国などでは、原油以外にガスから作るエタンがあり、そのエタンからエチレンを製造することができます。
ただ、日本の場合は、エタンを受け入れるための設備が十分に整っていませんので、その方法を取りにくいのです。やはり時間がかかってしまいます。
(深田)
では、エチレンのまま輸入していたということなのですか?
(赤澤)
北米の場合は、エタンで受け入れる設備があるのです。日本の場合は、そのようなことをしなくても原油から取れており、原油からナフサ、そしてエチレンになるわけです。一方で、シェールガスからエタンを経由しても、最終的にはエチレンになります。
(深田)
シェールガスをもらっても、日本ではエチレンを作れないということですね。
(赤澤)
そう簡単には、すぐには作れません。これは技術的な問題というよりも、時間の問題があります。
(深田)
そもそも設備がなければ作れないですものね。そうすると、ナフサの問題はなかなか解決しそうにないですね。
(赤澤)
そう簡単にはいきません。ただ、さまざまな課題がありますので、一度ですべてをお伝えするのは難しいのです。概観的に言えば、今はそのような状況です。
(深田)
この続きについては、また次回お伺いしたいと思いますので、よろしくお願いします。今回はLOGISTICS TODAYの編集長、赤澤裕介さんに、今のナフサの状況についてお話を伺いました。赤澤さん、ありがとうございました。
(赤澤)
ありがとうございました。





