#636【気づいた時は手遅れ】イラン戦争で日本人が飢える?実質自給率は〇%という受け入れ難い現実とは 鈴木宣弘氏(2026.3.23)
(深田)
皆さん、こんにちは。政経プラットフォーム プロデューサーの深田萌絵です。今回は東京大学特任教授の鈴木宣弘先生にお越しいただきました。鈴木先生、よろしくお願いします。
(鈴木)
よろしくお願いします。
(深田)
イラン戦争が始まりホルムズ海峡が封鎖されたことで、日本のエネルギー事情が非常に厳しくなっています。その中で先生だけは「ホルムズ海峡封鎖で日本の食の安全が危ない」と指摘されていますが、これはどういう意味なのでしょうか?
(鈴木)
まずガソリン価格の高騰で大変になっていますが、それだけでは済まないのです。日本の農業がどれほど輸入エネルギーに依存しているかを考える必要があります。日本のエネルギー自給率は約11%に過ぎません。
もしエネルギー供給が止まる、あるいは価格が高騰すれば、日本経済全体が大変なだけでなく、農業への影響も極めて深刻です。例えば米作りでもトラクターやコンバインは重油を使いますし、施設園芸(※ビニルハウス栽培など)ではボイラーの燃料として灯油や軽油が必要で、これらはコストの約3割を占めています。
(深田)
費用の3割が燃料費というのは大きいですね。
(鈴木)
そうなんです。つまり日本の農業は中東のエネルギーに強く依存しているのです。そうなると、現在すでにコスト上昇と価格転嫁に苦しんでいる農家は、潰れそうになっています。このまま放っておいたら潰れてしまいます。
(深田)
確かに、その通りですね。
(鈴木)
私はこれまで実質的な食料自給率を計算し、警告してきました。公式にはカロリーベースで38%となっていましたが、肥料のほとんどを輸入しているわけです。それがなくなり収穫量が半減するとなれば、自給率は2割程度にまで落ちます。さらに野菜の種の約9割を輸入に依存していることも踏まえると、実質的な自給率は約9.2%にまで低下すると見ています。
(深田)
実質で9.2%にまで落ちるのですか?
(鈴木)
しかしこの試算には大きな欠落がありました。それはエネルギー自給率の低さを織り込んでいなかったのです。
(深田)
ということは、さらに落ちるということですか?
(鈴木)
そうです。さらにエネルギー自給率11%を加味すれば、日本の食料自給率は数%程度にまで落ち込む可能性があります。これまでホルムズ海峡封鎖のような事態は衝撃的で想定外としていましたが、現在はそれを無視できない状況になりつつあります。農業への影響は計り知れません。エネルギーだけでなく肥料も大きな問題です。窒素肥料は天然ガスから作られますが、中東が世界シェアの約4割を占めているので、影響が出ていています。
(深田)
もう影響が出ているのですね。
(鈴木)
はい。日本政府はマレーシアなど、アジアにシフトしているので大丈夫だと能天気なことを言っていますが、中東から買っていた国が一斉にアジアへシフトすれば、価格は当然上昇します。既に先月と比べてアジアの窒素肥料価格は約5割上がっています。
(深田)
えっ、1.5倍ですか!?ウクライナ紛争の時にロシアの天然ガスが入らなくなり、ドイツの化学会社が窒素肥料を作れなくなったと騒がれていましたよね。
(鈴木)
そういうことです。ウクライナ紛争の際から肥料価格は上昇しました。ロシアは日本が敵国として供給が減り、当時は肥料価格がほぼ2倍まで上がりました。その後いったん落ち着きましたが、現在再び上昇局面に入っています。さらに農業で使う段ボールやビニールなども石油由来です。ホルムズ海峡の封鎖によって輸送コストが上昇し、海上輸送するあらゆる物資の価格が上がります。
(深田)
そうですよね。ガソリン価格もすでに200円を超える地域が出てきています。
(鈴木)
すべての資材に影響が及んでいます。その結果、日本の農業生産コストは大幅に上昇しており、このままでは今苦しんでいる農家の皆さん、特に稲作や施設園芸の分野で、加速して潰れていく恐れがあります。今問われているのは、この状況にどれだけ強い危機感を持って対応できるかという点です。
(深田)
確かにそうです。
(鈴木)
しかし、日本政府がこの問題にどう向き合っているのかが見えてきません。具体的な対策は示されておらず、肥料についても影響がないと言っているだけです。
(深田)
日本政府が事実を認めようとしない点は不思議ですね。
(鈴木)
その背景には財政当局の農政への方針があります。ここ1年ほどで示されているのは「農業予算はまだ多すぎる」という考え方です。農業が価格低迷とコスト高で苦しみ、その結果として米騒動のような問題が起きているにもかかわらず、予算削減の対象とされてきました。一方で、アメリカからの武器購入などには多額の費用が必要なので、その穴埋めとして農業予算が削られてきた経緯があります。
(深田)
さらにアメリカからのコメを輸入させられていますよね。
(鈴木)
これまでアメリカは日本に「米を食うな、小麦を買え」と小麦の輸入を要求してきましたが、今度トランプ氏は「コメもアメリカ産を食え」と言い輸入拡大を求めています。そして25%の関税で自動車産業を脅してきたので、日本は「自動車を守らなきゃいけない」と差し出し続けて生贄のリストに残っていたものが米ぐらいになり、コメもだすという不平等交渉をしてしまったのです。結果として、日本はなんと年間61万トンものコメをアメリカから輸入することになりました。
(深田)
61万トンというと、日本の生産量の約1割に相当しますね。
(鈴木)
その通りです。例えば最大の米作地の新潟県の生産量が約59万トンですから、それを上回る量を毎年輸入することになります。切ってはならない切り札のカードを最初から差し出してしまうとすべて剥ぎ取られてしまいます。
(深田)
今後さらに「倍の量を買え」となる可能性もありますね。
(鈴木)
交渉として日本は非常に不利な状況です。自動車関税の問題も同様で、実際には初めにゼロであったものが25%と脅されて15%になっただけで、報道が間違っています。25%の関税ちらつかせれば「次も100兆円ぐらい出すのではないか、何でもやってくれるんではないか」と足元を見られていますよね。
そうした状況の中で、日本の農業はコスト高に直面していますが、財政当局は「それに耐えられる経営にすればよい」と支援しません。構造改革によって対応すべきだという立場です。本来であればこのような状況こそ、食料備蓄を強化すべき局面なのです。石油も2百何日かの備蓄がありますよね。
(深田)
確かに、米はないですよね。45日でしたか?
(鈴木)
もっと少なく、米の備蓄はわずか15日分程度です。
(深田)
それでは台湾有事の際には到底足りませんね。
(鈴木)
仮に100万トンあっても1.5か月分ですが、放出が進んだ結果、約30万トン、すなわち15日分程度にまで減少しています。中国は有事に備えて1年半分の穀物備蓄を進めていますが、日本は極めて脆弱な状態です。
そのような中で、価格下落を理由に更なる減反政策が議論されている現状は、極めて問題であると言わざるを得ません。需要に応じた生産という名目で、再び生産を絞り込めという方針が示されています。
(深田)
それにもかかわらず輸入米を増やすのは、明らかに矛盾していますね。
(鈴木)
その通りです。国内生産を抑えながら輸入を増やし、さらに価格を高く維持すれば、関税を支払ってでも輸入米が流入します。現在、5キロ4000円前後の価格水準であれば、カリフォルニア産のカルローズ米は3000円から3500円程度で販売可能であり、結果として関税を払った輸入量は前年の95倍にまで増加しました。
つまり国内には生産抑制を求めながら、実態としては輸入に置き換えている構造になっています。本来であれば国内での増産と備蓄強化に動くべき局面であり、今回のホルムズ海峡封鎖はその必要性を強く示しているはずです。
(深田)
火を見るよりも明らかですよね。
(鈴木)
しかし実際には「生産を抑制し、備蓄はコストがかかるから民間に任せる」という方向に進んでいます。さらに輸入米を活用する方針のもと、食糧法の見直しまで進められています。結局のところ、「食料自給率向上にお金をかけるのはもったいない、輸入を増やせばよい」という発想です。今世界で何が起きているのか、改めて直視する必要があります。
(深田)
海峡封鎖という厳しい現実があるわけですからね。
(鈴木)
さらなる危機が現実味を帯びているにもかかわらず、十分な対策が取られていない現状で、本当に国民の命を守れるのかという問題があります。確かにコスト上昇分を価格に転嫁すれば、消費者の負担は増えます。
日本ではこの30年で所得中央値が約140万円減少しており、多くの国民が厳しい生活を強いられています。そのため、食料価格の上昇が問題視されるのも理解できますが、一方で農家はコスト高と低価格で、離農が急速に進んでいます。このままでは、もう5年もたてば米を生産する人がいなくなりかねません。
こうした状況を踏まえると、消費者と生産者の双方を守る仕組みが必要です。消費者が負担できる価格と、生産者が持続可能な価格との差を政府が補填すればよいだけです。例えば、消費者にとって米の値段は5キロ2500円程度が望ましく、生産者には3500円程度が必要だとすれば、その差額を支援することで、増産と備蓄、そして所得確保を同時に実現できます。
(深田)
確かに現実的な方法に思えます。
(鈴木)
しかし現状では「金がもったいない」という理由でこうした施策は進んでいません。いわゆる財政制約の考え方、「ザイム真理教だ」と亡くなられた森永卓郎さんが指摘していたような考え方に縛られ、必要な支出が抑制されている状況です。
農産物は価格転嫁が難しいため、負担は農家に集中し、このままでは5年以内に多くの生産者がいなくなる可能性があります。さらに今回のようなエネルギー供給不安が重なれば、輸入依存が崩れ、国民が食料不足・飢餓に直面するリスクが一層高まります。
(深田)
非常に深刻な状況ですね。高市総理は「積極財政を推進する」と言いながら、積極的に外国には投資をして日本国内のことは、全く見ていないですよね。
(鈴木)
まさにその通りです。どこに積極財政が向けられているのかが問われるべきです。これまでの流れでも、財源確保のために農業予算が削減されてきましたが、本来最も重要なのは国民の命を支える食料と、それを生産する農業です。これを軽視すれば、仮に安全保障面、防衛予算で備えを強化したとしても、物流が遮断された時点で戦わずして国家として成り立たなくなります。
(深田)
海上封鎖が起きれば、途端に国家全滅の事態になりかねませんね。
(鈴木)
その通りです。日本周辺の海上輸送が止まれば、数か月どころか短期間で深刻な食料不足に陥る可能性があります。いまこの現実に向き合わなければ、国土も国民も守れませんよ。
(深田)
本当に重要な指摘だと思います。
(鈴木)
さらに懸念されるのは、従来の農業支援には消極的である一方で、別の分野への投資が進められている点です。例えば植物工場や昆虫食(コオロギなど)、培養肉といった代替的な食料供給手段です。しかしこれらはエネルギー依存度が高く、現時点で大規模な代替となる見通しは立っていません。にもかかわらず、スマート農業を推進しています。その引き換えに、既存の農業基盤が弱体化すれば、地域社会や国土保全機能も失われることになります。
(深田)
安全性や持続性の面でも不安が残りますね。
(鈴木)
その通りです。農業は単なる食料生産にとどまらず、地域コミュニティの維持や防災機能など、多面的な役割を担っています。将来それらを失い、都市部に人口が集中し、代替食品に依存する社会が果たして望ましいのかどうかが問われています。今こそ現状を正しく認識し、政策を見直す必要があります。
(深田)
わかりました。視聴者の皆さん、この状況をどうやって打破すればいいのか、政策の在り方について、ぜひ動画のコメント欄に意見をお聞かせください。一緒に考えていただきたいと思います。
本日は東京大学特任教授の鈴木宣弘先生に、ホルムズ海峡封鎖がもたらす日本の食料危機について、非常に衝撃的なお話をいただきました。ありがとうございました。
(鈴木)
ありがとうございました。





