#629【力が支配する世界】西洋の衰退とインド・中国の台頭:地政学で読み解く「歴史の真実」と日本の生き残り策 八幡和郎氏×深田萌絵
(深田)
皆さん、こんにちは。政経プラットフォーム プロデューサーの深田萌絵です。今回は歴史家の八幡和郎先生にお越しいただきました。先生、よろしくお願いします。
(八幡)
よろしくお願いします。
(深田)
先生は最近、ご著書『国家の興亡史からわかる現代地政学』を出版されました。この地政学とは何なのか、最近よく話題に上がっていますが、これはどのような観点なのでしょうか?

八幡和郎『国家の興亡史からわかる現代地政学』2026年2月出版、さくら舎
(八幡)
地政学というのは英語で“ジオポリティクス“と言って、地理政治学ですよ。一言で言えば、国家関係を歴史や地理、就中地理を中心とした視点で分析していこうという考え方です。例えば地形や輸送手段、産業といった要素を重視します。具体例としてインドは難攻不落とされます。
(深田)
インドは難攻不落、それはなぜでしょうか?
(八幡)
北はヒマラヤ山脈、西は砂漠、東はジャングル、南は海に囲まれており、陸路で進入できるのは、かつてアレクサンダー大王が通ったハイバル峠という、パキスタンとアフガニスタン国境の峠ただ一つなのです。そこしか攻められないのです。
(深田)
つまり地形や地理に国が守られているということですね。
(八幡)
はい。その代わりに北には大きな平野があり、南にはデカン高原というでこぼこの低い山が連なっているため、大きな国が成立しにくいのです。
近代になると地政学は二つの系統で発展しました。アメリカではアルフレッド・マハンによる海洋地政学があり、七つの海をどう制覇するか、アメリカは西部開拓で大陸国家から海洋国家へと変わっていく過程で、どこを狙うべきかといいことを研究しました。
一方ドイツではカール・ハウスホーファーらによって独自に発展し、例えばライン川を押さえないとフランスから守れないとか、ロシア封じ込めるためにはどの線を重視するのかなど議論されました。
東洋では万里の長城が中国防衛の要であるとか、日本では朝鮮半島から満州・モンゴル(満蒙)を帝国の生命線とする考え方など、いずれも地政学的な考えに基づくものです。現代では中国の一帯一路構想は大陸の地政学で、それに対して太平洋での九段線も同じ考えです。地政学は有益な学問で、このようなことを考えることによって、いろいろなことが分かってきます。
(深田)
ところで地政学という言葉は日本ではよく使われますが、海外ではあまり使われないという話もあります。これはどういうことなのでしょうか?
(八幡)
それは戦前のドイツで地政学が最も盛んだったのです。第一次世界大戦でドイツは地政学的分析に基づき領土拡張に向かい、ヒトラーもまた国家防衛のためとして地政学を使い、国土拡大路線を進めましたわけです。
(深田)
つまり膨張主義に地政学という言葉を使われてしまったのですね。
(八幡)
ヨーロッパやアメリカでは、地政学(ジオポリティクス) = ナチスだと捉えるのです。
(深田)
なるほど、軍国主義的な考え方を正当化する言葉と受け取られるわけですね。
(八幡)
そうです。だから日本では地政学が表題につく本が多く出ていますが、外国の原著の半分以上はジオポリティクスという言葉が入っていないのですよ。『〇〇の地政学』といった邦題でも、原題にはそのようなことを書いていない場合が多いのです。ただ最近のトランプやプーチンの行動は、地政学的発想で動いています。
(深田)
確かにトランプ大統領の「グリーンランドが欲しい」という発言などですね。
(八幡)
そう、あれがまさに地政学です。最近では日本でも「今は地政学の時代だ」と強調する人が高市さんの支持層を中心に増えています。従来の国際法中心の考え方では通用しないので「国際法など関係ない、クソ食らえだ」という主張の根拠として、地政学という言葉が使われることも多くなっています。
(深田)
トランプ大統領も「国際法など関係ない」と言っていますものね。
(八幡)
「高市総理を応援する会」や「小野田紀美議員を応援する会」などで盛り上がる中、近年よく使われる言葉があります。「世界で起きている出来事は地政学的に理解する必要があり、短絡的な善悪判断は危険だ。オールドメディアの発信は左翼の情緒的反応と同類で、その多くが中国共産党を利する内容なので、背景を深掘りすべきだ」という風に使われるのです。
国際法には限界があり、それだけで考えるのも適切ではありません。なぜなら、国際法は弁護士的な論理なので、裁判で負けないというだけなのです。そこで守られている利益が正しいのかどうかは別問題なのです。
国境についても、国際法上の正当性はあっても、そもそも無理のある線引きではないかという問題が生じることがあります。その場合、地政学的に見て、あまりにも無理な国境はやはり変えないといけないし、妥協することも必要になります。
例えば北方領土問題でも、一部を日本に、一部をロシアに譲ることで長期的な安定を図るといった考え方があります。しかし「国際法はどうでもいい」としてしまえば、1648年のウエストファリア条約以前の無秩序な世界に逆戻りしてしまいます。
(深田)
国際法がどうでもいいとなってしまうと、アメリカが結んでいる条約や協定など国際的な約束も、どうなってしまうのでしょうか?
(八幡)
その通りで、結局はいつでも破れるということになります。実際、先日にはドイツの大統領が「トランプ大統領は国際秩序を破壊しようとしている」と発言しています。
(深田)
それが普通の感覚だと思います。一方で、メキシコの麻薬カルテル問題のようにメキシコ大統領と連携している場合はともかく、外国の国家元首を拉致拘束して自国で裁くとか、暗殺して「国際法は関係ないから」と言ってしまうと、私たちにも返ってきてしまいますよね。
(八幡)
その通りで、日本がどのような約束もアメリカに破られることになります。
(深田)
そうなると、高市首相がトランプ大統領に拘束されたり、天皇陛下に対してミサイルの照準を当てられても「国際法はどうでもよい」と自ら認める以上、それを批判する論拠がなくなってしまいます。
(八幡)
だから、自分なりの国際法の理屈言わないといけない。例えば中国と台湾の関係について、中国側は「内戦である」と主張し、内戦なので統一も正当化されると言います。しかし仮に内戦だとしても、ルールに従わないといけない。
逆にアメリカが台湾を守るのであれば、内戦ではあるけれども、実効支配を確立して民主的運営されている台湾を、無条件で武力による併合というのはやはりおかしいので、平和的な話し合いを求める。このように言って、争いの範囲を小さく収められるのですね。その程度には国際法は意味がある。
また竹島問題では、日本は国際司法裁判所へ持っていきたいと言っているが、韓国は嫌だと言う。これは韓国側が負けるからなのですね。ただし日本は、尖閣諸島については国際司法裁判所へ持っていくことを拒否しています。
(深田)
それはなぜでしょうか?
(八幡)
日本政府は「は国際紛争ではない」と言っているのです。
(深田)
あれは国際紛争ですよね。
(八幡)
国際紛争ではないです。以前、蓮舫さんが「国際紛争だ」と言ったが「あなたは何も分かってない」と言われたことがあります。それはこれまで中国が尖閣諸島を一度も実効支配を確立したことがなく、日本のみが支配してきた地域だからです。もともとどの国にも属していなかった所を、明治時代に日本が誰のものでもないことを確認したうえで領土に編入しました。
(深田)
いわば早いもの勝ちですね。
(八幡)
当時は「万国公法」と言っていましたが、日本は国際法に精通しており、それを根拠に領土編入を進めました。一方で中国はあまり知らなかったので、日本が「ここは俺のものだ」と言ったわけです。
また国際法だけでなく、歴史的経緯も重要です。台湾有事問題についても、私は一部の強硬な主張には慎重であるべきだと考えています。少なくとも歴史的には台湾は中国に属する地域であり、中国という枠組みの中に位置づけられてきました。
(深田)
つまり中華人民共和国か中華民国かは別として、チャイナ、中国という国家の一部であるという認識ですね。
(八幡)
そうです。日本政府の見解は、台湾の人は蓮舫さんもそうですが「中国籍」であり、台湾とも中華民国とも認めていないのです。
(深田)
あっ、そうなんですか。
(八幡)
要するに、いわばその地域を支配しているゲリラのような勢力が持っている証明書を、便宜的に信用しているだけで、国家として台湾のパスポートを認めていないわけです。
(深田)
確かに台湾の大使館や領事館は、ありませんね。
(八幡)
それに相当する代表処はありますが、いずれにしても国籍名としては中国です。重要なのは、沖縄は日本、台湾は中国という枠組みを崩してしまうと、国際法そのものが成り立たなくなるという点です。
台湾の現状維持を望むことは理解できますが「台湾は中国のものではない」と言い出すと、今度は「沖縄は本当に日本のものなのか」という議論を仕掛けられる可能性があるのですね。
(深田)
確かにその通りですね。
(八幡)
その結果、台湾問題に手を出したために沖縄を危ない目に遭わすようなことはすべきではないのです。ところが最近懸念しているのは、高市氏を熱烈に支持する人は、台湾には強いシンパシーを示す一方で、沖縄に対しては「うるさい、つまらないことばかり言っている」と言うのです。
(深田)
確かに、台湾は大事だけど、沖縄が自国の領土であるというのを忘れてしまっているようです。
(八幡)
「沖縄と台湾のどちらが大事か」と聞くと、多くの保守層は「どちらも大事」と答えますが、それは違うでしょう。太平洋戦争であれだけ多くの人が亡くなったのだから、沖縄を巻き添えにして台湾を守るなど、余計なことは考えない方がいいと、私は考えます。
(深田)
明らかに沖縄の方は私たち同じ国の国民なのですからね。
(八幡)
大まかに言えば、アメリカが台湾を支援する場合、日本も同盟国として一定の協力をすることになるでしょう。しかし、それ以上に深く台湾問題へ踏み込むことについては、私は賛成できません。
(深田)
最後に、ご著書『国家の興亡史から分かる現代地政学~西欧の衰退~』のサブタイトルから伺います。なぜ現代地政学の観点から、西洋の衰退が予測されるのでしょうか?
(八幡)
もはや物資の移動が海を通じてものが全部動く時代ではないのです。通信や内陸交通の発展により、世界の構造自体が変わっています。歴史的に見れば、長い期間にわたり世界一の経済大国はインドであり、中国がそれに続いていました。
例外的に中国が明の時代に強かったことや、18世紀にイギリスの支配によってインドが収奪された時期はありますが、それ以前は基本的にインドが第一位でした。また中国がその地位から落ちたのも20世紀初頭に過ぎません。つまり現在、中国やインドが強くなっているのは、通常状態に戻りつつあるとも言えます。
(深田)
なるほど、そうですよね。
(八幡)
しかも両国ともIT分野に強く、アメリカの大学でも中国人やインド人の存在感は大きいです。こうした状況の中で、これからは欧米中心ではなく、いわゆるグローバルサウス、すなわちインドや中国に加え、資源を持つ中東やロシアが大きな影響力を持つ時代へと移行しています。
我々はその変化の中にいるのです。したがって彼らを欧米型の民主主義や価値観に近づけていく努力は必要で、敵対的な姿勢でそれをやることではないのです。将来的には国際秩序も、欧米ではなくインド人や中国人が中心になっていく可能性が高いと考えています。
(深田)
では先生、BRICSの台頭をどのように考えらえますか?
(八幡)
不可避でしょう。例えば日本と中国の関係で見ると、1990年には日本のGDPは中国の約8倍でしたが、小泉政権の頃には約2倍に縮まり、2010年の野田政権時代には逆転されました。現在では中国は日本の約5倍の規模となっています。また台湾との比較でも、かつては中国の約2.5分の1だったものが、現在では約20分の1にまで差が広がっています。
こうした現実の中で「日中両大国」という表現は成り立たず、かつて政治は中国、経済は日本だったものが、今では横綱と関脇になっています。したがって日本は中規模国家の一つとして、どのように生きていくかを考える必要があります。
先日来日したカナダの首相も「日本は大国ではない」と言って、共に行動しようと提案していましたが、高市首相は十分に理解されていなかったようです。日本は中規模国家と行動して、その中で知恵を働かせていくことが重要です。
(深田)
わかりました。
本日は歴史家の八幡和郎先生に『国家の興亡史から分かる現代地政学』についてお話をお聞きしました。
(八幡)
あと、イランや中東に関する内容も盛り込んでいます。
(深田)
イランや中東ですね。ロシア、中東、中国、インド、現代の火薬庫とも言える地域を地政学的に読み解いた一冊となっています。ぜひご一読いただければと思います。本日は歴史家の八幡和郎先生にお越しいただきました。先生、ありがとうございました。
(八幡)
ありがとうございました。





