#31― 深田萌絵×安藤裕 『インボイス制度の実態は課税事業者への増税だ!?』

(深田)

政治と経済の話を分かりやすく、政経プラットフォーム、ITビジネスアナリストの深田萌絵がお送りします。今回のゲストは前衆議院議員で税理士の安藤裕先生にお越しいただきました。先生よろしくお願いします。

先生、前回は消費税の正体について、消費税がいかに中小事業者をいじめる第二法人税なのかをご解説いただいたのですけれども、今回は、これまで免税事業者だった方に対して、インボイス制度で税金を徴収していくのがいかに残酷な事なのかについて、ご解説いただきたいと思います。

(安藤)

インボイス制度は去年の10月から入り、これからダメージの部分はかなりジワジワと効いてくると思うのです。「まだ経過措置があるので、そこまで大きな金額にはならないだろう」という話もありますが、これから6年間かけて経過措置が無くなっていきますので、ジワッと日本の中小企業が淘汰されていくと思われます。今日はその辺りの話をじっくりしたいと思います。

最初にまず結論を言います。インボイス制度の本質は「課税事業者で原則課税の事業者に対する単なる増税」です。皆さんは「免税事業者に対する増税」であると勘違いされていますが、「課税事業者で原則課税の人に対する増税」なのです。

(深田)

え!私も勘違いをしていました。「今まで税金を納めていなかった免税事業者さんに税金を納めなさい」という、ある意味フェアに聞こえるような制度に見えたのですが、実際は、免税事業者ではなくて課税事業者に対する増税だったのですか。

(安藤)

そうです。これからは、課税事業者、つまり今まで原則課税だった人たちが潰れていきます。そこに対する増税なのですよ。ところがこれがほとんど理解されていない。

(深田)

私もそこの理解を誤っていましたので、是非ご解説いただきたいです。

(安藤)

まずは、前回のおさらいです。多くの国民が消費税に対して「全ての取引は適正な経費原価に適正な利潤・利益が乗せられて適正な売価が設定されて、そこにさらに10%消費税が上乗せされて、適正な販売価格が設定されている」という幻想を抱いています。皆さん、このファンタジー、幻想のもとで消費税を理解しています。だからインボイス制度について、「免税事業者がこれまで収めてこなかった消費税を払うだけではないか」「益税を得ていた免税事業者はずるい」「適正な納税がされるだけで消費者には影響がない」とよく言われますが、これらは全部間違いです。是非、今日の話で、このファンタジーがいかに悪であるのか考え直していただきたいのです。

もう一つ復習です。前回も説明した消費税の納税額を計算方法です。まず、課税売上の中に含まれる消費税を計算します。

課税売上×10/110

それから、課税仕入れにかかる消費税額を計算します。

課税仕入れ×10/110

これを差し引きして納税額を出します。この計算式はどちらも10/110をかけているからカッコで括れます。

(課税売上-課税仕入れ)×10/110

この計算式でも同じ答えになります。課税売上から課税仕入れを引くと、グラフをご覧の通り、利益と非課税仕入れが残ります。なので、消費税というのは(利益+非課税仕入れ)に税率をかけても同じ答えが出ます。要するに利益と非課税仕入れという付加価値に課税されている税金なのです。

(深田)

会社を経営した事がない人には、おそらく分からないと思うので補足しますと、課税仕入れの部分は、消費税が乗っている部分のことであり、消費税分は差し引くということです。

(安藤)

ざっくり言うと、法人税は利益だけに課税されるのに対して、消費税は利益に加えて、インボイスのない経費、主に人件費とか免税事業者に対する支出に対して課される税金です。この消費税の法律により、売上が赤字でも課税されることを前回お話ししました。

ではインボイスの本質は何か、これからお話しします。インボイスが導入される前までは、取引の内容に応じて課税仕入れと非課税仕入れで区分されていたのです。相手が課税事業者であろうが、免税事業者であろうが、関係ありません。消費税のかかる取引と判定されるものは全部、課税仕入れになっていたのです。なので「利益+非課税仕入れ」の部分がちょっと小さめになっていたかもしれません。インボイスが導入されると、インボイスのない経費は全部、消費税の課税対象に変わってしまうので「課税事業者が増税される」のです。

(深田)

この仕組み、私は完全に理解していませんでした。見落としていました。私もやはり中小企業を経営しているので、インボイスに登録していない小さなお取引先さんが沢山います。つまり、私が支払う消費税が増えるという事でしょうか。

(安藤)

そうなります。だから、インボイス登録がない仕入れ分は経費として認められなくなるので、課税事業者の原則課税の人が増税されるのです。

(深田)

よく考えたら、私が増税されます。

(安藤)

インボイス制度は課税事業者に対する増税なのです。

(深田)

もう十分税金を払っているのに、もっと税金払う事になる恐ろしい制度です。

(安藤)

結構皆さん、インボイス制度が免税事業者に対する増税ではなく課税事業者に対する増税であることを理解されていません。

(深田)

はい、考えを改めました。

(安藤)

是非お願いします。それでは、増税される課税事業者はどう対応するのかという事になります。3つ対応策があります。一つ、増税される分、売り値を上げて、取引先や消費者などのお客様に負担を押し付ける。二つ、仕方がないから、自らが負担する。三つ、免税事業者に負担させる。つまり、「あんたのところ、登録しなかったら値引きするよ」「お前、インボイス登録して課税事業者になれよ」と言って、免税事業者に押し付ける。

(深田)

税負担のババ抜きですよね。

(安藤)

要するに税金負担の押し付け合いなのです。

(深田)

しかもこれ、大企業は痛くも痒くもないのですね。

(安藤)

これは力関係なので、弱い者が負担せざるを得ないのです。では弱い者は誰なのでしょうか。大企業は大体、力が強いので自分で負担する必要がないので、弱い者に押し付けたり、売値を上げて消費者に押しつけたりすることができます。

(深田)

つまり、フリーランスや個人事業主が確実に負担が大きくなり、中小企業も課税範囲が広げられ増税の対象となってくる一方で、大企業は今までと同様に、自分達は輸出の戻り税で潤うということです。インボイスで苦しむのは中小零細のみで大企業関係ない話なのですね。

(安藤)

まさに前回も言いましたが、弱い者に負担させるという「強きを助け、弱きをくじく」

(深田)

「タケちゃんマン税」ですね。

(安藤)

これをさらに強化するのがインボイス制度です。

(深田)

もう本当にひどすぎますね。

(安藤)

インボイス制度に関わる、とある絵本出版社の有名な事例があり、色々な新聞社取材に入りました。この出版社はまさに課税事業者で原則課税の会社であり、取引先の作家やイラストレーター、デザイナーは免税事業者です。ここの社長は「免税事業者だから別の作家に頼むことはできない。この人の絵、この人の文章が欲しい、だからこそこの人に頼む。しかし、この人の状況を見ると、とてもではないが課税事業者になれとは頼めないので、自分で被るしかない。経過措置がある最初の3年間は年間400万円の負担で済むけれども、経過措置が切れたら年間2000万円も負担しなければいけない」と言っており、かなり追い込まれているという事例です。

(深田)

自分も執筆していますけれども、今後、出版の過程でフリーランスのカメラマンさんやデザイナーさんなど、色々な人達に頼んでいくと、ものすごく税金が増えていくのですが、その人達自体はそれほどたくさん稼いでいるのではないため、インボイスに登録してくれと言うのもちょっと不憫です。

(安藤)

「暮らしていけなくなるのじゃない?この人」と思えば、気の毒であるし、お願いしにくいのです。

(深田)

1000万円、2000万円稼いでいるフリーランスの方ならば、まだ分かるのですが、ほとんどの人は500万円程度なので、売上に対して全部税金を収めるインボイスに登録すれば、収入が一割減になります。普通に考えて、サラリーマンの給料が一割減るぐらい残酷なものですし、中小企業もその課税・増税対象なので、中小企業とフリーランス潰しです。

(安藤)

だから今、政府の方でスタートアップ支援とか偉そうに言っていますが、スタートアップ支援ならばインボイスなんか入れるべきではありません。

(深田)

本当、おっしゃる通りです。

(安藤)

これから原稿を売り込もうという新人に、最初から消費税分上乗せして原稿料を請求しろという話だけど、出版社はそんな海のものか山のものか判らない人に、消費税分なんか払えません。最初は「お前いくらでもええからやるだろ」「3000円でこの原稿を書いてくれないか、嫌だったら他所に頼むから」と言われるところを「いやいや、3000円でやらせて下さい」と受け入れて、実績を積み上げて信頼を得て、値上げをして一人前になっていくのです。

(深田)

その通りです。私も、デビューしたての時はタダでいいから原稿を使ってほしいという姿勢で持ち込みして、だんだん名前が売れて、ちょっとずつ原稿料が上がっていく過程を踏みました。

(安藤)

だから最初は、利益なんかは考えないのですが、このインボイス制度が入ると、まず「あなた、インボイス登録をしていますか」と聞かれるようになります。最初から赤字で払うのは無理なので、これから、日本ではスタートアップもできなくなります。

(深田)

スタートアップ潰しです。

(安藤)

今、岸田内閣でスタートアップ支援が看板政策とか言われていますが、「スタートアップ潰しをしてるやんか」という話なのです。

(深田)

スタートアップ企業に「適正な価格」を提示なんか出来ません。

(安藤)

適正な利益を乗っけるなんて「無理に決ってますやん」ということです。

(深田)

はい、「お試し」からですから。

(安藤)

本当にひどい話です。

この表が、うちで一緒に政治団体もやっている「神田どんぶり勘定事務所」代表の神田知宜(とものり)先生が作ったものです。今は、まだ特例の経過措置があるので、最初は消費税の負担が低いのですが、今の2割特例とかも無くなっていきます。それから仕入れ税額控除の方も、8割控除から5割控除になって経過措置が無くなっていくから、6年かけて徐々に増税されていくのです。その時に、ものすごいダメージが段々と広がっていって、色々な企業が淘汰されます。

(深田)

今はまだ特例期間だからダメージは低いのですが、この後6年後から一気に来ます。これは所謂「茹で蛙」のようなもので、最初はぬるいから気づかないけれど、気がついたら徐々に温度が上がっていき、茹だってしまっている状態です。

(安藤)

先程は絵本の会社の事例でしたが、得に建設業などでかなり顕著に怖い事例が起きています。一人親方の方には免税事業者が多いのですが、一人親方の職人さんは貴重だから、大きい建設会社では免税事業者のままやっていけますが、中堅や小さな建設会社では、自分で消費税負担できないから一人親方にインボイス制度の登録を頼むのですが、そうなると一人親方は「あ、じゃあ俺大手に行くわ」となります。それなので今、建設業界では、大手の会社が一人親方を免税事業者のままで囲い込み、中堅どころ以下の会社は負担できないから人手不足で潰れていく流れにあります。だから、建設会社はこれから激しい淘汰が始まります。

(深田)

先日、土建組合さんの陳情を伺ったのですが、やはり土建組合の中でも、中小零細の皆さんが「このインボイス制度でもう廃業に追い込まれるかもしれない、本当に土建組合にとってこのインボイス制度が非常に深刻なのです」とおっしゃっていました。

(安藤)

まさしくそうです。だから課税事業者の原則課税の建設会社が潰れます。一人親方の中にも、「インボイス登録してくれ」と言われて登録する人もいるでしょうが、先ほどおっしゃったように年収の一割などが「ぶっこ抜かれる」ので、しんどくなります。

(深田)

土建組合さんの事例を聞くと、大企業が人材確保できて、中小は人材確保できず潰れると分かりました。このインボイス制度で誰が一番得をするのか考えたら、これは派遣会社だと思ったのです。フリーランスの方々は、「もう直接お客様とお取引ができなくなるが、かといって課税事業者に登録すると10%の税金を収めないといけなくなり、収入が下がって赤字になるから、フリーランスをやめて派遣になろう」と考えるようになる可能性もあります。これは、お金だけの問題ではなく、労働市場に対するインパクトもかなり大きいですよね。

(安藤)

労働市場が本当に破壊されるほど大きいものになるでしょう。何も良くない制度なのですが、なぜこのインボイス制度が入ったのか、そのとんでもない理由が、財務省にとって、消費税導入当初からの悲願であるからです。「え、こんなしょーもない理由ですか?!」という理由です。

(深田)

この「悲願」とは何でしょうか。(笑)

(安藤)

最初から、財務省は、消費税を平成元年に入れた時に、インボイス制度まで入れたかったのですが、インボイス制度を入れるのは面倒くさいから「日本は帳簿方式でええやんか」ということで、日本独自の帳簿方式を入れました。日本人は真面目でちゃんと帳簿つけるので、うまくいっており、何も問題なかったのです。しかし、消費税導入した時から、先輩から「インボイス制度入れなきゃダメだぞ、インボイス制度入れなきゃダメだぞ、ヨーロッパではみんなやっているだろ、日本もやんなきゃダメだぞ」という文言がずっと引き継がれてきたのです。

(深田)

「布教活動」ですね。

(安藤)

「いやどっかタイミングないかな」という所で、複数税率が入り、「これいいチャンス」と、そこにパクっと食いついて入れることにした。だから、経済状況がどうとか考えてないのです。

(深田)

こんなの今やったら、円安インフレで皆さんフラフラで、輸入企業は連続22ヶ月倒産している中で、インボイスなんか始めたら余計に中小の倒産が増えます。

(安藤)

まだコロナ禍からも立ち直っていない会社もいっぱいあります。ただ、財務省も増税であると分かっています。「なんで、ここで増税すんの?景気良かったらまだ分かるよ。景気悪いやん、どう考えたって!」と言うべきです。

(深田)

受給ギャップも弱い、インフレも起こっている、実質賃金が24ヶ月マイナス、GDPデフレーターもマイナスに等しいような状況で、さらに物価が上がっています。景気が悪い状態で増税をするとは正気なのでしょうか。

(安藤)

正気ではありませんね。

(深田)

国民を苛めて虐めて楽しんでいる財務省の皆さん、もうサディストですね。

(安藤)

この先の目的はやはり消費税率を上げることです。

(深田)

まだ上げるのですか。

(安藤)

準備着々と進めています。それこそ「社会保障の財源が足りない」「日本の財政はもう危機的状況だ」「また円安になってきたので、もっと財政再建しなければいけない」などそんな話が出てきています。今、消費税増税に向けての布石を着々と打っています。

(深田)

今回も、安藤浩先生からインボイス制度についてご解説いただきましたけれど、本当にもう自分自身も全く勘違いしていたことをたくさん教えていただきました。次回は社会保障制度について教えていただきたいので、よろしくお願いします。ありがとうございました。

ここから深田萌絵講演会のお知らせです。

6月15日土曜日14時から、東京の星陵会館にて『弁護士が解説する危険な自民党憲法改正案』。こちらの講演は条文を読みながらの解説です。レジュメがついていますので是非ともご参加下さい。参加費は2000円です。

そして6月23日日曜日14時からは赤坂講演です。経済アナリストの森永康平先生の『積極財政で日本経済は成長できる』という名目でご講演いただきます。後半のほうは森永先生と深田萌絵のパネルディスカッションになっています。参加費は3000円です。

政経プラットフォームでは毎回様々なゲストをお招きし、大手メディアではなかなか得られない情報を皆様にお届けします。日本を変えるため「行動できる視聴者を生み出す」というコンセプトで作られたこの番組では、皆様のご意見をお待ちしております。

また番組支援は説明欄のリンクからお願い申し上げます。

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