#29 ー 深田萌絵×森永康平 『日本経済を成長させる方法』

(深田)

政治と経済の話を分かりやすく、政経プラットフォーム、ITビジネスアナリスト深田萌絵がお送りします。今回は経済アナリストの森永康平先生にお越しいただきました。先生よろしくお願いします。

前回は緊縮財政、まさにザイム真理教が日本の経済成長を苦しめているということを詳しくお話しいただいたのですけれども、今回は、ではどうすれば日本経済は成長できるのかの処方箋を教えていただきたいのです。

(森永)

はい、わかりました。これは前回の動画でも言った通りで、これだけをやれば良いということはもちろんないと思っています。ただ民間の企業のレベルは、世界的に見ても日本企業のレベルがそれほど低いと思うことはほとんどないです。日本人個人を見ても、私自身も海外で働いていたこともありますし、外資の会社でも働いたことがありますが、別に何か日本人のレベルが低いと思ったことは一度もないです。

まず、日本人が働く外部環境というものに変化が訪れれば、おのずと成長できると思っているのです。

(深田)

外部環境とは何ですか?

(森永)

これは前回の動画にも繋がるところがあるのですが、マクロ環境が良くないと、いくら民間や個人のミクロが頑張っても限界があるのです。

日本企業がすごくダメになっていったかのような報じられ方をする時があるのですが、僕はそうは思ってないです。むしろ、すごくタフな環境を作られて、その中でもなんとか頑張ってきたというのが、この30年間の実態だったと思っているのです。なので、外部環境を直さないといけない。

外部環境とは何かと言えば、完全にマクロの話ですから、マクロ経済なのです。では、マクロ経済をどうやって改善するのかというと、マクロ経済政策を変えてあげればいいだけです。

よく「日本がダメだ」というような表現をする時に使われる資料を持ってきました。

これは何かと言えば、よく財務省の人たちが出しているものなのですが、日本は債務残高が国際比較をしてもGDP比で2倍以上ある。そして、なんとあのギリシャよりもひどいのだという話をしているのです。つまり、G7とばかり比較しているけれども、G7だけでなく、いわゆる新興諸国と比べてもこれだけ財務状態が悪い。

外部環境はもうこれ以上、マクロ政策側では何もしてあげられないので、民間で頑張ってくださいという話なのです。

でもこれは結構ずるい話をしているのです。

前回お見せした通りなのですが、日本は経済政策をミスしたせいで、この30年間成長してないのです。このデータは債務残高をGDPと比較している比率なので、普通に経済活動をしていくと債務残高は増えていくに決まっています。別に日本に限らず、どこも増えているわけです。

でも他の国は、債務残高を増やしながらGDPも増えていくから、分母のGDPも増えていくので、結果的に比率が横ばいになっているのです。日本の場合は、分母のGDPは伸びないのに分子の債務残高だけは伸びているから、ちょっと歪なのです。

(深田)

なるほど。経済成長さえしていれば、債務残高が増えても分母が大きくなっていくので、実はその比率は変わらない。そういうことができたはずなのに、やっていなかったということですね。

(森永)

日本は債務残高が伸びているのに、なぜ日本だけが経済成長をしていないのかと言うと、日本の財政の支出先が、社会保障とかばかりに行っている。

(深田)

成長分野に投資されてない。

(森永さん)

おっしゃる通りです。例えば、東大の鈴木教授なども指摘されていますけれども、食料分野に関しては全然財政を出していないですし、科学技術予算もずっと4兆円ぐらいで横ばいなのです。これもおかしな話です。

別にずっと出せとは僕は言っていなくて、出すべき時は出せばいいし、出さなくていいなら出さなくていいのです。となると、状況を見ながら出し入れをするわけですから、本来予算とはドカンと増える年もあれば、大きく減る年もあるべきであって、波を打っていて普通だと思うのです。

でも予算を見てみると、ずっと4兆円ぐらいでキャップが引いてあるのです。これは何も考えていない証拠ではないでしょうか。常に同じ予算しか出ていないのはどういうことでしょう。

「財政に余裕がないのだから仕方がないだろう」と皆が言うのですが、例えば太陽光発電に出ている予算は、この10年ぐらいずっと右肩上がりに増えているのです。おかしいです。財政に余裕がないと言うのだったら、太陽光発電に対する予算も横ばいであるべきではないですか。

出すべきだと本人たちが思っているところには、毎年ガンガン出ているのです。でも、どうでもいいやと思っているところは、ずっと横ばいなのです。恣意的にどこに出すかが決められてしまっている。

つまり、高齢者はたくさんいるから、選挙の世界で言うと数取りゲームなので、高齢者にいい顔をしたいというのが、政治家からすれば本音としてあるわけです。だからそこの予算は絶対に削ることはできないので、そこにたくさん出します。すると、まず政治家として勝てます。

今度は利権系のところにバンと財政を出してあげると、何かいいことが、それはあるでしょう。

(深田)

製薬会社系ですよね。

(森永)

何でもやりたいところには出せているわけです。だから彼らは本当に誠実ではない。本当に国の財政がまずいから、これ以上出せないと言うのだったら、本来であれば全項目に対して出せていないはずなのです。なぜ出したいところには出せているのに、自分の票にならなそうなところには出していないのか、そこの説明がつかなくなってしまう。

(深田)

本当にその通りです。だって、ワクチンの予備費は何兆円もパッと決めてワクチンを購入して、そして古くなって捨てている。「何兆円捨てるのですか」ということを平気でやっています。

(森永)

おっしゃる通りです。

例えば、今回能登で地震がありましたけれども、先日たまたま金沢の方に行く機会があって、実際に能登の状況なども現地に住む方から聞いてきました。あれは元旦にあったわけですから、もう4ヶ月以上経っているわけなのですけれども、未だに瓦礫などは普通に残っているし、潰れてしまった家屋などもそのまま残っていたりする部分もあるわけです。

あそこに対してろくに補正予算も組まないわけです。今までの動きを見ると、結局、あそこはそれほど人の住んでいない過疎地域だから、復興しなくていいやと思っているのではないのか、ということじゃないですか。

だって、出したいところにはいくらでも出しているのに、そういうところに出さないということは、言い方を変えれば「別に能登を救ったところで票にならない」とか思っているだけでしょう。

「財政が厳しいからやっていないのです」と言うのだったら、他のところにも予算が出ていないですよね。

(深田)

そうですよね。外資のTSMCには1兆2000億円をポーンと出しているのに、「能登はどうするのですか」と言うと、「財源が…」といきなり財源論になるのです。国民を救う時には財源論で、外資にお金をあげる時は議論ゼロです。

(森永)

まさしく。最近、コロナやパンデミック、震災もそうですけれども、いろんなことが起きていて、矛盾がかなり出てきたと思います。昔であれば、いわゆるメディアというのは新聞か地上波しかなかったわけですから、そこさえコントロールしておけば、「変だな」と思う国民がいたとしても、その人が「変だな」と思うだけで終わっていたのです。

今はこのようなネットの言論空間もありますし、こういう動画を見た人たちがSNSとかで「こういうことを言っていたよ」とシェアできてしまう。そうすると、もうコントロールできなくなってくる。なので、財政の話をしていても「おかしいのではないか」となんとなく思っていた人たちがだんだん繋がってきて、「おかしいだろ」という大きな声が出始めている。

(深田)

確かにそうですね。先日、パンデミック条約反対の集会があった時に、デモ行進に2万人近い方が集まられたのです。

(森永)

でもあれは報じられてないですよね。

(深田)

全然報じられていないです。

(森永)

デモじゃなくてもいいですが、2万人とかが都内で集まっていたら、普通は何事だと報道されるじゃないですか。別にパンデミックと関係なく、シンプルに2万人が誰かのライブでもないのに集まっていたら、何事だとなると思うのです。でも、とりあえず無かったことになっている。

でも、それすらもネットで「なんで取り上げないのだ」という声になる。そういう動きに財務省側も、最近ビビリ始めているなと個人的に思っています。彼らがそろそろ苦しくなってきているなという資料を用意しています。

財務省が4月に財政制度分科会で出した資料なのですが、これは財務省の資料をそのまま出しています。私は一切手を入れていないです。

これが何かと言えば、左側の赤い折れ線グラフが日本の名目GDPで、どんどん積まれていっている青い棒グラフが国及び地方の長期債務残高です。

この左のグラフで財務省が何を言いたいかというと、「債務残高がずっと増えています。でも、赤い線は横這いです。債務残高が増えても経済成長をしていないじゃないですか」ということです。

つまり、「積極財政派の人たちが言っている『国が積極財政をすれば経済成長する』というのは嘘なのです。それを我が国が証明していますよね」というのが、まず左側の図でおそらく言いたいことなのです。

僕からすると、「あなた方は国の機関だろう。成長していないことを誇らしげに言うな」という話です。多分自分たちの正当性をなんとか伝えたいから、苦し紛れに「僕たちはこんなに成長していません」と呆れるような自白をしている。

さらにその論拠ですが、日本国内だけのデータで見ると、それは日本が特別なのだろうと言われてしまう可能性があるので、世界比較をしてみましたと。そこで右側のグラフなのですが、タイトルをまず読んでみます。

『OECD各国の政府債務残高と実質GDP成長率』と書いてあります。

縦軸が「実質GDP成長率」ですので、上に行けば行くほど経済成長しています。青い点は他のOECDに加盟しているそれぞれの国で、赤い点が日本です。まず上下だけで見てみると、日本は下の方に位置しているので、全然成長していないことが分かります。

グラフのタイトルは『OECD各国の政府債務残高と実質GDP成長率』と書いてあるわけですから、縦軸が「実質GDP成長率」なのだったら、横軸は「各国の政府債務残高」であるべきですよね。グラフにそう書いてあるわけですから。

もし、横軸が「政府債務残高」なのだとすると、このグラフから言えるのは、「政府債務残高が小さければ小さいほど国は成長していって、政府債務残高が増えれば増えるほど成長していない。だから、左斜めに上がっていく相関関係にある」ということです。

でもこれをよく見ると、横軸が「政府債務残高」なのかと思ったら、「政府債務残高対GDP比」になっているのです。

グラフのタイトルに『政府債務残高と実質GDP成長率』と自分で書いているのに、グラフを見てみると横軸は「政府債務残高」になっていないのです。

(深田)

これは本当にひどいです。横軸が「政府債務残高」だけだったら違う結果になっていたかもしれないけれども、「GDP比」と入れることによって、「日本は政府債務残高がGDP比で高いにも関わらず成長できてない。だから、積極財政派は間違っている」ということを、目の錯覚で表現しているということですね。

(森永)

そもそも「政府債務残高」を横軸にしないとグラフが嘘になる。グラフタイトルが嘘をついている。でも、ここまで分かりやすい嘘の図を使ってしまうのは、逆に言うと相当旗色が悪くなっているのだろうなと思います。

やはり、正当性が彼らの主張にあるのならば、別にこのようなズルをしなくても淡々と「自分たちはこうだ。だから積極財政は間違っている」と言えばいいだけです。その主張が正しいのであれば、別に日本人はバカではないですから「それはそうだね」となるのですが、よりによってあれほど分かりやすい嘘を作ってしまう辺りが、結構追い込まれてきているのではないかなという1つの証しだと思います。

(深田)

やはりここ1年ぐらい、日本政府側の出してくる資料に嘘やペテンが結構多いなと思うようになってきたのですが、先ほどのグラフも酷いですよね。

(森永)

深田さんもよく体験すると思うのですけれど、政府が出している資料を、今みたいに突っ込んだりするじゃないですか。「いやこれは嘘だろう」「ずるいだろう」と言うと、「それは陰謀論だ」と言われるのです。

もし僕が大学などで教えていて、生徒がこんなグラフを作ってきたら、陰謀論とかでなくてシンプルに「お前、ダメだろ。嘘ついたら」という話です。そこには陰謀も何もなくて、ただ間違っているだけです。

「政府批判をしたいから、あいつは言っている」とかよく言われるのですけれど、別に政府批判ではなくて、「プレゼン資料を作る際に嘘はダメでしょう」というだけです。

最近本当に、こういうのがすごく多い。

例えば前回の動画で、少し金融政策の話に触れましたけれども、植田総裁が元々は黒田路線を引き継いだわけなのですが、少し経ってからすぐにイールドカーブコントロールの修正を2回もして、最終的にはこの間、もう「異次元緩和」の「異次元」の部分は全部やめたのです。

僕はイールドカーブコントロールの修正をした段階から、「植田さんは引き締め路線だ」とずっと言っていました。でも、それを批判する評論家たちも多くて、「いや、植田さんは緩和的だ。引き締めなどやっていない。お前はおかしい」と言っている人がいた。

植田さんをどう評価するのかは各個人の自由ですから、そこに対しては「あなたはそう思うのですね」でいいと思うのです。

ただ一方で、日本の国債の利回りを短いものから長いものまで見てみると、いわゆるイールドカーブという利回り曲線が徐々に上ってきているのです。これは事実なのです。植田さんが引きしめ派かどうかという評価は各個人の自由だと思いますから、そこに意見を言うつもりはないですが、金利は事実として上がり続けています。

(深田)

マーケットの判断としては、植田さんは金利を上げるのだろうことを織り込んでいるということですね。

(森永)

そうです。経済とか政治のいろんな評論家がいるのですけれども、いろんな意見があることは正しいと思います。1つの意見しかないというのは逆に気持ち悪いですから、いろんな意見があってもいいけれど、データはデータなのだから、そこは切り分けてほしい。つまり、植田さんがいわゆるタカ派なのかハト派なのか、そこの評価は自由にしてくれて構わないけれど、「事実として、彼が就任して以降、金利は上がり続けていますよね」という質問には「イエス」と言ってくれないと議論にならない。

先ほどのグラフもそうで、あのグラフの使い方はダメでしょう。緊縮派だろうが積極財政派だろうが、それは関係ないのです。

「なんとか派とか、そういう話ではないでしょう」という議論を僕らは多分していかなくてはいけないのに、最近、いわゆる緊縮派の人たちはこういう技を使って、なんとか「積極財政派が言っていることはおかしい」ということをやりたがってしまう。そういう人たちを有識者会議などに入れている間は厳しいです。

逆に言うと、こういうおかしいことを言っていることを、段々とみんなが気づいてくれて、政策決定をする場にまともなデータが見られる人が入ってくれて、マクロ政策の考え方が変わっていけば、自然と日本経済は良くなると思うのです。

僕は本当に、日本人とか日本企業がダメだとは全く思わないです。これはホームカントリーバイアスと言って、僕が日本人だからそう思ってしまうのかもしれないけれど、相対的に見たらどちらかというと上位の方にいるのかなと思っているし、信じています。

(深田)

日本人は頭もいいですし、勤勉な人も多い。それが成長できないのは、やはり政策ミスでしょう。

(森永)

そう僕は思っているので、外部環境、つまり政策さえまともになってくれれば、自然と上に行くと思う。逆に言うと、これ以上日本人や日本企業に頑張れと言わなくてもいいと思う。むしろ、これだけ酷いマクロ環境で散々頑張ってきました。

(深田)

「政府、お前が頑張れ」という話ですよね。頑張るのは政府だと思います。

(森永)

よく政策批判とか政府批判をしていると、「努力もしないで政府批判をするのはおかしい」と僕も結構SNSとかで言われるのですけれど、批判はしますよ。

(深田)

私たちの努力をむしり取っているのが政府の政策なので。

(森永)

だから僕は、外部環境、マクロ環境が変わるだけで、相当に日本の国としての存在感は大きく変わると思うからこそ、逆にこのマクロ政策を作っている人たちに関しては厳しい言葉を投げかけている。「自分が努力していないことを政府のせいにするな」という批判は、少し筋が違うかなと思います。

(深田)

本当におっしゃる通りだと思います。

今回は森永康平先生に、どうすれば日本経済を成長させることができるのかで、しっかりと政府の嘘を暴いて、いい政策でマクロ環境を変えていただければ、私たちはもっと成長できるのではないのだろうか、ということをお話いただきました。

先生どうもありがとうございました。

ここから深田萌絵講演会のお知らせです。

6月15日、土曜日14時から東京の星陵会館にて『弁護士が解説する危険な自民党憲法改正案』こちらの講演は条文を読みながらの解説です。参加費は2000円です。

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政経プラットフォームでは毎回様々なゲストをお招きし、大手メディアではなかなか得られない情報を皆様にお届けします。日本を変えるため行動できる視聴者を生み出すというコンセプトで作られたこの番組では、皆様のご意見をお待ちしております。また番組支援は説明欄のリンクからお願い申し上げます。

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