#546 【内部告発の衝撃】農協解体は「奴隷労働」への道か?アフリカと同じ末路を辿る日本の食卓の危機 久保田治己氏

(深田)
皆さん、こんにちは。政経プラットフォーム・プロデューサーの深田萌絵です。今回は、食料安全保障推進財団の久保田治己専務理事にお越しいただきました。久保田さん、よろしくお願いいたします。

(久保田)
よろしくお願いいたします。

(深田)
今回は、郵政民営化によって郵政が解体されたことに強い憤りを覚えている稲村公望先生からのご推薦を受け、久保田さんにご登壇いただきました。現在は防衛大臣の小泉進次郎さんが、農林水産大臣だった時に農協解体へ向けて動き始めたことを見て、農協が解体され、これも外資に取り込まれてしまうのではないかという懸念を抱きました。

しかし一方で「農協解体だ」と言うと「悪玉農協だ」「農協は悪いのだから解体したほうがよい」と同調する世論もあります。そう言われると、農協については良い話と悪い話のどちらも聞きます。そもそも農協とは何であったのか、私たちはよく知らないのです。まずはそのあたりから、お話をいただけますでしょうか。

(久保田)
小泉大臣の話ですね。実は10年ほど前から動きがありました。進次郎さんが自民党の農林部会で農林部会長を務めていた時期から、ずっと農協改革を進めてきたのです。そして、その第2ラウンドが、ここ最近の動きということになります。

(深田)
そうですよね。

(久保田)
農協については、簡単に資料でご説明いたします。まずこの資料は、世界の協同組合について、取扱高か売上高かを単純なグラフにしたものです。これを見ると、協同組合の半分以上はヨーロッパにあります。25%はアメリカにあり、その他もカナダ、南米、オーストラリアといった白人諸国にあります。意外なことに、日本が1割あるのです。残りのアジアはごくわずかです。こうして見ると、共同組合は白人世界ものだということがよく分かります。日本は例外的に協同組合が発達してきたのですが、ここで特に注目していただきたいのは、アフリカに協同組合ないという点です。

(深田)
本当ですね。アフリカは全くないですね。

(久保田)
つまり、植民地では協同組合を作れないのです。

(深田)
えっ!?

(久保田)
協同組合は自主自立が大原則であり、支配されないものなのです。自分たちで決めることが原則ですから、植民地にそのようなものがあれば、宗主国は収奪できないでしょう。

(深田)
つまり、今の日本は「けしからん」ということですか。

(久保田)
その通りです。収奪されない国だから「けしからん」ということです。つまり、協同組合がない地域の農業は、すべてプランテーションになってしまうのです。

(深田)
プランテーションという言葉はよく聞きますが、その中身はどのようなものなのでしょうか?

(久保田)
例えば、バナナだけを作る巨大農場やパイナップル、コーヒーだけを作る巨大農場といった単一作物の大規模農場です。

(深田)
それは輸出するためのもので、地元の人たちは食べられないのですか。

(久保田)
彼らは、ただ奴隷労働をさせられているだけです。それらはすべて先進国へ輸出されますし、農場を作っているのは資本家ですから、収益はすべて資本家のものになります。地元の人たちは農業をしているのではなく、作業をしているだけであり、自分たちで何一つ決められません。

そのため、アフリカで黒人の方々が協同組合を通じて自分たちで田植えをするようになれば、宗主国であるヨーロッパ側にとっては都合が悪くなります。日本は協同組合が世界でも有数に発展している国ですが、これがなくなれば、行き着く先はアフリカのようになる、という戦略なのでしょう。

戦後、GHQは農業協同組合法(1947年)を作りましたが、非常にハードルの高い法律を作ったのです。

(深田)
どのような法律なのですか?

(久保田)
一般に生協や農協というと、米や野菜・果物を売る、あるいは肥料や袋などの物を売買する、そうした機能を想像されがちです。しかし、日本の農協はそれだけにとどまらず、ハードルをワンランク上げ、銀行のような信用事業、さらに生保・損保のような共済事業まで兼営できる仕組みにされました。

これは経営上の難度が非常に高いのです。日本人にはできないだろうと、理想像として作られたのだそうです。ところが、その仕組みを作った人が10年か15年ほど後に日本へ来たところ、日本人が思いのほかうまく運営していることに感心したらしいのです。そこで「しばらくこのままにしておこう」となり、結果として日本の農協組織はうまく機能してきました。ところが、今度はうまくいき過ぎて「このままではまずい」という認識が途中から生まれたのです。

(深田)
つまり、戦勝国が日本の農業利権を一気食いしようとしていたところ、農協が抵抗勢力として成長し始めたのですね。今や150兆円ものお金がたまっていますからね。

(久保田)
確かに圧力が強まった背景として、1985年のプラザ合意による急速な円高があります。その頃から農畜産物の輸入自由化が進み、農協や農業に対する圧力も強まりました。しかし、実はそれだけではなく、日本の株式会社に対しても圧力は強まっていきました。

高度成長期までの日本の株式会社には優れた経営者がいて、ほとんど協同組合と同じよう社長も作業服を着て社員食堂で一緒にご飯を食べていました。終身雇用と年功序列が基本で、株式の持ち合いによって買収されることもありませんでした。当時は、協同組合と株式会社の区別は、ほとんどなかったのではないかと思います。

(深田)
確かに、日本の会社は見た目だけの株式会社でしたよね。

(久保田)
そうなんです。だから、まず株式会社の解体から始めたのです。「終身雇用は古くさい、年功序列なんて駄目だ、株式持ち合いは禁止」といって、その結果、外部の人がどんどん株を買えるようになってしまいました。

ですから、今「農協が悪い」と言っている人たちは、その前には「株式会社が悪い」と言っていたはずです。日本型経営、日本型株式会社は時代遅れだと。しかし、全くそうではなく世界最先端の株式会社運営をしていたのではないかと思っています。

(深田)
共同体の思想でやっていましたよね。ただ、農協については、農家さんから悪い話もちらほら聞きます。例えば沖縄では、サトウキビ農家が農協にいじめられ、首をくくった人を何人も見てきたという農家もいるのです。このあたりは、どうなのでしょうか?

(久保田)
そのようなお話は何かいっぱいありますが、もう少し具体的に聞いてみないとわからないところがあります。

株式会社は、どちらかといえば「今だけ・金だけ・自分だけ」ですが、農協は「長期的、多面的、利他的」に考えて行動するのですね。株式会社は、他人を蹴落としてでも自分が一番になろうと、究極は世界シェア100%を目指します。

しかし協同組合はそうではなく、皆で力を合わせて負け組を作らずに、ドロップアウトする人を抑えようとします。例えば、子どもが歌手になりたいと言ったとき、普通の親が「そんな無謀なことはやめて、勉強して学校へ行きなさい」と言うようなものですね。

農家が農協とみんなで一緒にやると「自分だけ一生懸命努力しているのに、結局は皆と同じになってしまうではないか。しかし、自分はこういうことをやりたい」という方も多くいらっしゃいます。それで成功される方は何の問題もありませんが、中にはうまくいかない方も出てきます。そうなると「農協が俺たちの邪魔をした、仲間に入れてくれなかった」ということも実態としてない訳ではありません。

ただ、一定の確率でドロップアウトする人が出ることは、もともと想定されています。個人で投資して工場を建てようとすれば莫大な費用がかかります。相場が良ければ回収できるかもしれないが、なかなかそううまくはいかないことがあります。だから、一定の料金はいただくが、皆が施設を共同利用できるようにするのですね。そうした中で失敗した人たちは、気持ちの持っていき場が分からず、矛先が農協に向かってしまうことがあるのです。

(深田)
サトウキビは、そんなに儲からないのですか。なぜ他の作物を作らないのでしょうか?

(久保田)
南西諸島、つまり鹿児島から沖縄までの島で作られる農産物は、実際のところサトウキビくらいしかないのです。

(深田)
パイナップルやマンゴーなどのトロピカルフルーツは、儲かりそうではないですか。千疋屋さんでも、かなり高い値段がついていますよね。あのような作物に切り替えることはできないのでしょうか?

(久保田)
サトウキビは、あまり豊かではない土地でもできます。潮風が当たっても塩害が少ないため、誰でも植えられるわけですね。一方、パイナップルやマンゴーの場合は、ある程度の投資が必要になります。

(深田)
どのような投資が必要なのですか?

(久保田)
例えばマンゴーであれば、ハウスを建てなければなりません。ハウスは1棟で3,000万円程度かかることもあり、かなりの費用になります。もちろん、うまくいけば高く売れます。ただ、離れ小島の場合、出荷するには、まず沖縄本島の那覇まで運び、そこから飛行機に載せる必要があります。

(深田)
さらに高くなってしまうのですね。

(久保田)
そうですね。物流の時間もかかります。沖縄本島ではマンゴーを作っている人も多く、パイナップルを作っている方もいますが、肥料をいれないといけない。肥料や資材は重いので、離れ小島まで運ぶには費用が非常に高くなってしまいます。

(深田)
そういうことなのですね。

(久保田)
ですから、島の農業は、非常に大きなハンディキャップがあるのです。

(深田)
なるほど。逆に、パイナップルでケーキを作る、ジャムにするなど、付加価値製品にして輸出するということはできないのでしょうか?

(久保田)
その点は、一生懸命取り組んでいます。ただ、パイナップルは生ものですから、熟してくるとすぐ腐ってしまいます。そのため、生でおいしく食べられるものは出荷しますが、たくさんできると、ジュースにするか缶詰にするか、加工しなければなりません。その加工工場を、昔は農協が一生懸命投資して作ったのです。

(深田)
やればできるではないですか。

(久保田)
もちろんです。ただ、そうなると抵抗があって、嫌がらせも起きます。「あの工場は俺たちに売れ」「農協がそんなことをやっていたら、俺たちが儲からないじゃないか」と言ってくるのです。

これは私の本でも触れていますが、沖縄には「キャラウェイ旋風(※1)」という出来事がありました。まだ沖縄がアメリカから独立する前、つまり日本に返還される前に、高等弁務官のキャラウェイ氏が統治していた時期がありました。その頃、農協が懸命に取り組み、加工工場を次々に作った結果、農協は農家のためになり、農家も喜んでくれました。

ところが、それを横で見ていた人たちが「あいつらはおかしい。俺たちにもやらせろ」と言い出したのです。それで、トラブルになり、結局農協を民間に払い下げろと圧力が加わったのです。
※1)ポール・W・キャラウェイ:元米軍人。1961年~1964年に沖縄で、高等弁務官として議員選挙や金融界など多くの分野に介入して直接統治を行った。その強権ぶりが「キャラウェイ旋風」と呼ばれている。

(深田)
えーっ!いじめられているじゃないですか。

(久保田)
もちろんその通りです。そのような歴史は何十年も前から繰り返されていますが、当時の沖縄は日本に本土復帰する前で、適用されていたのはアメリカの法律でした。

(深田)
そうですよね。1972年でしたでしょうか。

(久保田)
アメリカの法律下でいじめられていたわけですね。それと同じようなことが、10年ほど前に日本でも起きたのです。進次郎さんが農林部会長の時に「全農(全国農業協同組合連合会)を株式会社にしろ。肥料の取扱いはやめろ」と言い始めたのです。つまり、昔アメリカ統治の一部だった沖縄でやっていたことと同じことが、今の日本でも行われているということです。当時の沖縄が日本的だったのではなく、今は日本がアメリカ的なのです。

(深田)
なるほど。

(久保田)
そうした問題意識から『農協が日本人の“食と命”を守り続ける!』を執筆しました。

久保田治己著 2024年8月出版 ビジネス社

(深田)
こちらの本は稲村先生も大絶賛されていますが、農協は狙われていますよね。郵政もボロボロになりましたが、農協もなくなってしまったら、どうなってしまうのでしょうか?

(久保田)
このJAグループの組織図は、丸い部分が日本の農協組織のイメージで、真ん中に組合員が1,000万人くらいいます。左側の緑色はJA全農で、ここが私の出身母体です。私はそこで41年間サラリーマンとして働いていました。全農は、米や野菜、肥料農薬などいろいろなものの物流、販売に関わっています。その下の紫色のJA共済連は、生保・損保にあたる共済事業を行っています。

(深田)
これが50兆円ある、ということですね。

(久保田)
そうです。右下のオレンジ色は農林中金で、銀行業、いわゆる信用事業を担っています。

(深田)
JAバンクで100兆円ですね。

(久保田)
そうすると、全農と共済連と農林中金を合わせたものが、かつての郵政だったわけですね。つまり、全く同じことをやっているのですね。全農、共済連、農林中金は全国段階なので別組織になっていますが、市町村では、一つの農協がこれらをすべて全部やっているわけです。という意味では郵便局と同じなのです。

農協は100%民間組織ですから、そう簡単にシャッフルすることはできません。やるには口実が必要になります。

(深田)
民営化と言っても、そもそも民間のものなのですね。

(久保田)
その通りです。ですから、農協を「民営化」というのは正確ではなく、株式会社化、あるいは分割解体、という表現が正しいです。

(深田)
昔の株式会社と同じようなものだとしたら、それをなぜ株式会社にするのかということですね。

(久保田)
そこが、一般の方には分かりにくいところなのです。

(深田)
株式会社にすると、買収ができるからですね。

(久保田)
まさにその通りです。協同組合も株式会社も、基本的には定款に書き込めば、同じようなことはほぼできます。多少の濃淡があるだけです。絶対的な違いが何かといえば、買収できるかできないか。それだけです。

(深田)
協同組合である農協は、1人1票ですよね。

(久保田)
そうです。

(深田)
株主は、株の持っている比率によって決まりますよね。

(久保田)
そうです。100%持っていれば、全部自分で決められてしまいます。

(深田)
独裁ができるということですね。

(久保田)
株式会社を歴史的に見ると、最も有名な例は東インド会社です。

(深田)
東インド会社ですね。植民地支配の企業です。

(久保田)
その通りです。

(深田)
私はバークレーズという金融機関にいたのですが、東インド会社がインドへ進出する時に、悪の枢軸国が植民地支配を運営するために現地へ出ていた最初の金融機関です。

(久保田)
すばらしい。歴史をよくご存知ですね。植民地を経営するには収奪が必要になりますから、その仕組みには株式会社が適しているのです。一方、協同組合は収奪を目的にしません。皆で助け合い、農家が自主自立できるように、農家自身が作ったものが協同組合です。したがって、農家をいじめるといったことは、理論上ないのです。

(深田)
確かに、本当に農家をいじめていたら、これほど大きくはなれないですよね。基本的には便利ですよね。銀行があり、物流があり、保険もあり、そこに乗ると全部便利になるのですよね。皆で作ったAmazonのような感じです。倉庫もあって冷蔵庫もあり、自分で投資しようとすれば大変ですが、共同で持てるというわけです。

私もAmazonを使っていて、手数料が高い、意外と不便な点がある、売りたい商品を取り扱ってくれなかった、といった不満を感じることはあります。それでも総じて言えば、使いやすいということなんですよね。

(久保田)
そうですね。あまり知られていないかもしれませんが、農協組織は病院経営も行っています。日本中に、総合病院や大学病院クラスで、ベッド数が400も500あるような病院が100か所あります。そうすると、農家のお子さんは農協の病院で生まれるのですよ。

それに農協はお葬式も引き受けてくれます。まさに、ゆりかごから墓場まで、電話一本で「はい、わかりました」と対応できるのです。お葬式についても、昔は葬儀社に頼むとAコース、Bコースと、どんどん高額なプランが提示されることもありましたが、農協は定価制です。町の有力者であっても一農家であっても同じで、コースは定価で10万円、30万円といった具合に、地域で決まっています。差がつかないようにしているのです。

そうすると、日本の葬儀屋さんから見れば、農協は嫌な奴なのです。価格破壊をしてしまいましたから。

(深田)
確かに、共済なども結構安いですよね。

(久保田)
そうですね。郵便局では特殊な会社のがん保険しか売っていませんが、農協に行けば、がん共済を幅広く扱っています。外資系を利用したくない方は、農協に来ていただければ、がん保険に相当する商品がいろいろあります。

(深田)
がん保険、ちょっと入ろうかな。

(久保田)
農協の場合は「がん共済」と呼びます。

(深田)
本日は、農協とはどのような組織なのかと思ったら、悪い話がある一方で、良い話がたくさんありました。悪い話で言うと、農業に取り組む岡本重明議員(愛知県田原市)が「農協はなぜ最終製品まで作らないのか」とおっしゃっていたのですが、実はその権利をアメリカに潰されていた、という話を聞きました。これは驚きです。

(久保田)
どのような権利のことですか?

(深田)
権利というか、例えば缶詰工場を作って、最終製品まで作ろうと思えば、本当はできていたのですね。

(久保田)
株式会社と協同組合の違いとして、協同組合は力を合わせて負け組を作らないということですね。そして絶対的な相違点は、株式会社は狙えば買収できるが、協同組合は絶対に買収できない。これが協同組合の絶対的な価値なのです。つまり、国民や民族が守りたいものは協同組合として守れば、外資に買収されないのです。

(深田)
本当にその通りです。株式会社でも、株価が高い会社は買収できないように見えます。しかし今は、民間諜報機関としてスパイ活動を行う民間企業があります。例えばシンガポールなどには、元新聞記者、元検察、元警察、元法務省の役人といった人たちが集まり、クライアントから「この会社の株価を下げて」と依頼があると、皆で悪評を立て、それをメディアで拡散していくのです。

(久保田)
ああ、風評被害係がいるわけですね。

(深田)
はい。例えば「あそこの会社のCEOが若い女性とパパ活をしていた」といったニュースが出ることがありますが、私たちには関係のない話なのに、なぜ報じられるのかと感じることがあります。そうした情報で叩きに叩き、株価を下げさせるのです。

(久保田)
日本のバブルが崩壊した後、株価が一気に下がりましたよね。私が全農にいた頃、総合商社とはほとんど取引がありましたが、その商社株も大きく下がりました。その時、商社の方々が全農に来て、皆同じことを言うのです。「全農さんは株価がなくていいですね」と。株価がないというのは、本当に良かったと思います。

(深田)
株価がなくて良かった。そして、絶対に買収できない最強の組織は、実は協同組合なのだということでした。本日は、一般財団法人食料安全保障推進財団の久保田治己理事にお越しいただきました。どうもありがとうございました。

(久保田)
ありがとうございました。

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