#524 闇が深すぎる!?技能実習制度という名の人身売買利権3000億円の正体とは? 出井康博
(深田)
皆さん、こんにちは。政経プラットフォームプロデューサーの深田萌絵です。
今回はジャーナリストの出井康博さんにお越しいただきました。出井さん、よろしくお願いします。
(出井)
よろしくお願いします。
(深田)
私は出井さんの著書『移民クライシス』を読ませていただきました。これまで日本では「来ている外国人が悪いことをしている」という思い込みが広くあったと思うのですが、その逆で、悪いのは政治や企業側だというという衝撃の事実が書かれています。そこでお聞きしたいのですが、日本は国家として人身売買に加担しているような状態にあるのでしょうか?

『移民クライシス 偽装留学生、奴隷労働の最前線』出井康博著 2019年4月角川新書
(出井)
どの国の出身であれ犯罪に走る人もいれば、真面目に働いている人もいるいます。私がこのテーマで取材を始めたのは2007年で、当時の日本は外国人労働者の受け入れに対してすごく消極的で慎重でした。しかし人手不足を理由に、いつの間にか180度変わり、外国人労働者の受け入れを急速に広げる方向へ進みました。
取材を続けて感じたのは、嘘とでたらめのオンパレードです。そして政府と利権が複雑に絡み合っているという実態で「騙されないでください」と申し上げたいです。今日はそのお話しさせていただきたいと思います。
(深田)
まず、今の日本の便利で安価な暮らしの裏側に、外国人労働者があたかも奴隷労働のように働かされている現状があるということですが、その実態はどうなのですか?
(出井)
2025年6月の時点で、日本に住んでいる外国人は396万人で、ほぼ400万人です。2015年は254万人ほどだったので、この10年間でおよそ150万人増えたことになります。どこの国からどういう資格で入ってきたのかということですが、中国出身者は約90万人で増加は10万人強(10年前は77万人)で、それほど大きくはありません。急増しているのは ベトナム(66万人:10年前13万人)、ネパール(27万人:10年前5万人)など、東南アジアや南アジアの国からの労働者です。
それで、どのような資格で入ったのかと言うと『技能実習』です。2025年現在は46万人で、10年前の18万人から約3倍近くに増えています。ここでの技能は、実態としては弁当工場などの単純労働が中心で、制度が掲げる「高度技術の移転」「国際貢献」「人材育成」の趣旨とはまったく異なる運用になっています。
(深田)
どのような問題が指摘されているのでしょうか?
(出井)
メディアは「人権侵害だ」と言いますね。残業代の未払い、職場での暴行などのケースがあります。
この問題を「人身売買だ」と最初に指摘したのはアメリカでした。毎年、米国務省が発表する『世界の人身取引報告書(Human Trafficking Report)』の中に各国の状況が記載され、 日本のページには「技能実習制度は人身売買の温床になっている」と批判しています。それを日本のメディアが鬼の首を取ったように「アメリカ様の国務省がおっしゃっているから、何とかしろ」と言うのですよ。
それがあるのか、技能実習制度は2027年に廃止されて、新制度に切り替わります。新しい制度名は「育成就労」と言いますが、結局名前が変わるだけで実態はあまり変わりません。
技能実習制度は、本当はすごくいい制度なのです。技術を覚えて持ち帰り、農業でも工業でも母国で生かしてもらえるのなら国際貢献になる。でも、そういう運用になっていないからおかしいのではないか、ということです。ただ、他国と比べてみると、例えば実習生の失踪は韓国や台湾の方が多いというデータがあります。
本当の問題は制度とは別のところにあると私は考えています。
(深田)
どこにあるのでしょうか?
(出井)
それは借金です。ベトナムの場合、技能実習制度に応募して日本へ来るためには、現地の『送り出し機関』と呼ばれる業者を通さなければ申し込めない仕組みになっています。送り出し機関というと正式なイメージですが、実はただの仲介ブローカーです。さらに日本側にも『監理団体』が入ります。これも真面目そうな名前ですが、ただのブローカーです。出国、入国の両方で、仲介ピンハネをされて、一番ひどいのがベトナムです。ベトナムでは手数料を100万、下手をすると150万円取られます。
(深田)
その金額は彼らの年収ぐらいですか?
(出井)
年収の2年分ですよね。それでも「日本に行きたい」と思わせて、その借金を国ぐるみが関わっているのです。ベトナムは中国と同じく共産党独裁の国で、政府の関係者や政治家がブローカーをして、この人たちがすごく儲けているわけですよ。
これは「借金漬けの強制労働」という国際連合の『Palermo Protocol』で定義される人身売買の条件に合致しているのです。一番改善すべきは実習生の失踪で、2024年は少し減りましたが、それでも6000人にも上ります。そして、その60%ほどがベトナム出身です。ベトナム人の犯罪がよく報道されますが、これは借金のプレッシャーが影響しているのですよね。
(深田)
借金漬けなので、犯罪に手を染めて借金を返さないと、帰国も自由も手にできないのですね。
(出井)
はい。一方でフィリピンは、国が出稼ぎで支えてられています。そのため、海外へ行く自国民の権利を保護して、出稼ぎに行く人たちから手数料をたくさん取ることを禁止し、多額の借金をさせない制度になっています。その結果、日本で失踪するケースはほとんどありません。
ベトナム出身者の失踪や犯罪は、やはり借金が理由です。そうであれば、日本政府がまず『借金をさせずに来日できる制度」を、ベトナムに強く求める必要があるのです。
(深田)
なるほど、日本政府がベトナムに言って、禁止しないといけないですよね。
(出井)
そうです。私はベトナムからの受け入れを一度止めるべきだと思っています。しかし実際には止まらない。それは、低賃金で重労働を支えてくれる外国人の数を、どうしても確保したいという考えに他なりません。
(深田)
農業や建設、介護など厳しい現場で、実習生を確保したいのですね。
(出井)
いいことを言っていただきました。皆さんも誤解されていると思うのですが、実習生と言うと、農家や建設現場、介護で、働いているイメージですが、これは新聞やテレビが枕言葉に使うからなのです。しかし、細かいデータをよく見てみると、一番多いのは製造業なのですよ
(深田)
あ、製造業なのですか?
(出井)
食品工場です。弁当工場なのですよ。コンビニやスーパーの弁当、おしゃれなカフェチェーンで販売されるケーキやスイーツを製造する工場が、最も多い受け入れ先になっているのです。しかし、その現場で働いたところで、母国で活かせる専門技術など身につかないですよ。そこが全くインチキなのです。
高市政権になって、外国人問題をより厳格に扱おうと、永住権や、経営管理ビザの審査を厳しくする動きがあります。しかし、外国人労働者については人手不足を理由に、5〜6年前につくった「特定技能」という新たな在留資格を活用して受け入れを拡大しようとしています。
本来であれば、「人手不足の正体とは何か」を突き詰めないといけないのに、その議論をされていないのです。
(深田)
私は、人手不足の正体はインバウンドではないかと考えています。20年前は年間約500万人だった訪日客が、今年は約4000万人と8倍に増えています。そうなれば、建設、宿泊、現場で働くスタッフなどで、人手が足りなくなるのは当然です。農家の生産量が急に増えるわけでもありませんし、配達やデリバリーにしても、Amazonなどの通販利用の拡大によって配送センターの人員需要ではないでしょうか。
(出井)
そうですね。先ほど引用していただいた私の著書の「安くて便利な生活」という言葉にも関連しますが、私たちの暮らしはすでに限界に近づいています。それを支えるために、安い労働力として外国人を受け入れています。さらに、インバウンドが増えれば、ホテルの清掃などの仕事も増えます。「みんな追い返せ」とは言いませんが、それを外国人労働者で支えてよいのかは、よく考える必要があります。
(深田)
私は以前から「日本は人身売買国家ではないのか」と疑う部分があります。
28歳のときにシンガポールで1か月ホームステイした際、そこのメイドがなんと月25ドルで働かされていたのです。本来、月800〜1000ドルで雇われる契約でした。彼女は貧しい家庭の出身で、一族から借金してメイド斡旋のブローカーに登録し、到着後は飛行機代などの名目で毎月給与を差し引かれていました。
「帰国した方がいい」と言うと「パスポートをブローカーに取り上げられている」と言うのです。大使館に相談するよう促すと「大使館とブローカーはマフィアのように癒着している」と答えるのでした。私は驚きましたが、そのときはどうすることもできませんでした。
アメリカに行くと、アメリカでは「奴隷労働・人身売買を受けていませんか?」という張り紙が公共施設のトイレの扉に貼ってありました。「最低賃金をもらっていますか」「借金して来ていませんか」「パスポートを持っていますか」「身の安全は守られていますか」とすごく配慮があり、相談窓口の電話番号まで書かれていました。
一方で日本には、全くそういうものがないのです。
(出井)
そうですね。今のお話にもありましたが、シンガポールは厳しい面がありますが、正しく制度を運用しています。たとえば、外国人労働者は子を作ってはならず、もし子どもができれば強制送還となります。厳格ではありますが、制度に正直であるわけです。
しかし日本の場合、表向きは良い制度のように見せながら、裏側でひどさがあると感じています。たとえば技能実習生については、ほとんどの人が偽造履歴書を使って来日していることを、多くの方は知らないでしょう。履歴は嘘なのです。技能実習制度には「母国と同じ仕事を日本で行う」という前職要件があり、日本で3〜5年働いた後、母国で復職するというルールがあります。しかし、これを守っている人はほとんどいません。
(深田)
日本で5年間タクシー運転手として働いて、母国に戻ってまたタクシーの運転手をするようなことですか?
(出井)
タクシーは技能実習にはないですが、先ほど挙げた弁当工場の例では「ベトナムで弁当工場に勤務していたなら、日本でも同じ業務に従事し、帰国後も弁当工場へ復職すること」という決まりがあります。実際には、このルールを守っている人はほとんどいません。つまり、この要件に合わせるために、履歴書を捏造せざるを得ない状況にあるのです。
恐ろしいのは、履歴書の捏造ができるので、犯罪歴でさえ隠すことが可能になり、日本側はそれを認めているのです。そうすると、外国人は「日本とはこういう国なのだ」と思ってしまいますよね。さらに、留学生についても同じ問題があり、実態はめちゃくちゃですよ。
(深田)
技能実習生の時給はいくらぐらいなのでしょうか?ブラックな部分を知りたいです。
(出井)
日本では最低賃金を守ることになっていて、それは守られています。残業代の未払いなどがありましたが、基本的には最低賃金ですよ。やはり技能実習生は安い労働力なのですよ。
(深田)
先日、高市総理が「最低賃金1500円を目指さない」と明確に打ち出したのは、外国人労働者のことを意識しているのではないでしょうか?
(出井)
そういう面もあるのかもしれません。というのも、実習生を受け入れている企業の多くは中小企業であり、大企業の下請けなのです。大企業がダメージを受ける構造にはなっていません。ややこしいところは下請・孫請に押し付けて、上位企業が利益を取っているのです。先ほどのスーパー、コンビニの弁当工場、カフェチェーンなども、実習生を直接雇用しているわけではありませんが、利益を得ているのは大手企業側です。
(深田)
大企業は生産性が高いと言っても、所詮、下請を圧迫して利益を確保しているだけの話ですよね。
(出井)
その通りです。結果として下請にしわ寄せが行っています。中小企業は日本人を雇えるなら、そうしますが、雇えないので、外国人労働者に頼るわけです。
さらに、これからAIが普及していく中で、無制限に受け入れを続けることは妥当なのか疑問が残ります。今後、外国人労働者を技能実習生としてだけでなく、移民として受け入れていこうという流れがありますが、果たして彼らが40代、50代、60代へと年齢を重ねたとき、日本は本当に面倒を見れるのかということですよね。
(深田)
そうですよね。将来、本当に面倒を見ることができるのでしょうか。働けなくなった後も支えるのでしょうか?日本人の年金でさえ危うい状況なのに。
(出井)
ある経営者は「今は人手不足だが、将来的には人が余る時代が来るかもしれない」と話していました。景気が悪化した場合、単純労働者が他の仕事に就けず、失業したらどうするのかという問題があります。
(深田)
そこまで責任を負う覚悟を持って、現在のような受け入れを進めているとは思えません。きちんと帰国まで含めた仕組みを整備しなければ、移民問題は解決できないでしょう。
(出井)
そうですね。この10年、20年で、日本は出稼ぎ先としての魅力を失っています。先ほどのベトナムでは一人当たりGDPがこの10年間で約2倍になったのに対し、日本はドル換算ではほとんど変わっていません。その間に円安も進み、日本は「稼げる国」ではなくなりました。
それでも日本は外国人労働者の人数を確保したいがため、一度受け入れた人を囲い込むような動きを見せています。そういう理由だけで受け入れハードルを下げ、数を維持しようとしているのです。しかし、今後はさまざまな問題が出てきますよ。
(深田)
ベトナムのブローカーと日本のブローカーが、実習生からピンハネをしているのですよね。
(出井)
ベトナムでは約100万円の借金を負わせ、日本に来てからは管理団体が月3万〜5万円の手数料を取るわけですよ。現在、技能実習生は約46万人、50万人弱です。仮に50万人が毎月5万円を支払うと、年間60万円、総額で年間3000億円です。
技能実習生のあっせん仲介は監理団体にしか認められていませんが、裏では人材派遣会社がたくさんあり、その数は約3800社で、3000億、4000億を分け合っているのです。設備投資がほとんど不要で、人を仲介するだけで、1団体あたり1億円程度の収益を得ている計算です。極めて巨大です。
(深田)
人身売買利権が3000億円規模とは、本当に大きいですね。だから政治を動かせるのですね。
(出井)
極めて大きな利権です。技能実習制度を2027年に名称変更する時に『特定技能』と一本化する案がありました。特定技能であれば一般の人材派遣会社も参入できます。しかし、監理団体が強く反対し『育成就労』という新たな名称に変えて、自分たちの利権を守ったのですよ。
(深田)
監理団体は結構、政治家の家族や一族がやっていると聞きます。
(出井)
その通りです。選挙に落ちた人や議員を引退した人が運営しているケースが多いのですよね。
(深田)
だから、立憲民主党・自民党・公明党など、与野党で外国人移民政策が推進されているのですね。
(出井)
そうです。この問題は非常に根が深いです。
技能実習制度が始まったのは1990年代初頭で、その時に利権を分けあったのですね。当時は中国からの受け入れが多く、中国枠は社会党(当時)が握り、インドネシアなど東南アジア枠は自民党が押さえるという形で分配されました。その利権が現在まで引き継がれているので、与野党関係ないです。
入国管理は裁量行政であり、明確な基準がないため、政治家が一本電話を入れるだけで不許可が許可に変わるとされています。本当か嘘か知りませんよ。だけれども、そういう政治家に頼る人たちがたくさんいるということですよ。
(深田)
予想以上に深い闇がここに潜んでいるのですね。本日は、『移民クライシス』の著者であるジャーナリストの出井康博先生に「日本は人身売買国家ではないか」という疑惑の闇についてお話をうかがいました。先生、ありがとうございました。
(出井)
ありがとうございました。





