#517 ガソリン税減税の裏で進む!15兆円を毎年徴収「ステルスGX大増税」の正体とは? 杉山大志氏

(深田)

皆さん、こんにちは。政経プラットフォーム、プロデューサーの深田萌絵です。

今回は、キヤノングローバル戦略研究所、研究主幹の杉山大志先生にお越しいただきました。先生、よろしくお願いします。

(杉山)

よろしくお願いします。

(深田)

今回は、高市政権の減税政策で『秩序ある積極財政』について伺いたいと思います。ガソリン税の暫定税率を廃止するということですが、そろそろ本当に減税の期待ができるのだろうか?ということについて教えてください。

(杉山)

私はエネルギー政策を見ていますが、まずガソリンを減税すると言っています。それから、ガソリンの補助金と電気代の補助金もまた復活しますと言っています。もちろん、みんな安くなれば、嬉しいのですが「では財源はどうするの?」という話になります。別の財源を見つけるか、国債を発行するかですよね。

これは、お金を右から左へ移しているだけでゼロサムです。本質の部分では、国が無駄なことをたくさんのグリーンに使っていると、パイ(利益)が減ってしまう。実は、全体のパイが小さくなって国民が貧乏になる話を、ものすごい規模で進めているのです。それを私は『ステルス大増税』だと言っています。

(深田)

確実にそうなりますよね。グリーンに投資すると言いながら、いつ始まるのか分からない原子力発電、電力を捨てるだけの太陽光パネルにお金が流れている。そこに私たちは『賦課金』という名の税金を払わされて、その電気代を下げるのにまた補助金を出す。しかし「その補助金の財源をちゃんと確保しましょう」と言う。結局「それ、増税やんか!」という話ですよね。

(杉山)

本当に嫌になってしまう話ですが、その規模が腰を抜かすほど大きいのですよ。

(深田)

うわ、ガソリン暫定税率は、年間1兆円にもなっていたのですね。

(杉山)

ガソリン暫定税率は1ℓあたり25円なので、廃止すると、年間でだいたい1兆円になります。しかし、再エネ賦課金は、洋上風力などのために、私たちが電気料金に上乗せして払っているものが、年間3兆円もあるのです。

(深田)

再エネ賦課金をやめたらいいですよね。

(杉山)

「やめろ!」と言いたくなりますよね。

(深田)

これをやめたら、もう一発でOKじゃないですか。

(杉山)

そうです。なんだったら、ガソリンの本則税率までなくせるかもしれない。さらに今GX(グリーントランスフォーメーション)計画と言って、政府が進めているのは、毎年15兆円、10年間で150兆円です。

(深田)

毎年15兆円も注ぎ込むのですか!?

(杉山)

はい。150兆円投資すると言っています。何に投資するのかといえば太陽光パネルなどですが、その原資を払うのは国民しかいません。「アホか」という話です。

(深田)

太陽光パネルに15兆円も投資すれば、再エネ賦課金もさらに増えていきますよね。

(杉山)

タチが悪いのは、いろいろな形に変えて徴収してくるのです。再エネ賦課金もあるし、脱炭素のための関連法律が18本ぐらいあって、それがあちこちで規制したり、あちこちで賦課金や税金をかけたりしている。

(深田)

いやらしいですね。

(杉山)

政府の説明では「規制と支援によってGX投資を促す」という言い方になっています。

(深田)

アメリカ人によれば「トランスフォーメーションはロンダリングという意味だよ」と言っていました。なかなか的を射ていますね。

(杉山)

グリーンロンダリング、まあそうですね。この15兆円のために、今霞が関で法律制度が着々と作られています。日々、経産省が法律を書いているんですよ。

(深田)

ああ、経産省が出てくると、ろくなことが起こらないですね。

(杉山)

これは、昔は環境省が進めていました。経産省はその抵抗勢力だったのですが、菅元首相が「グリーンだ」と言ったら、経産省は「ははぁ〜!」と一斉にグリーン路線に転向して、環境省から仕事を全部奪い取ることに成功しました。今は経産省が一生懸命グリーン政策をやっていて、一方の環境省は仕事がなくなってボーっとしています。(笑)

(深田)

経産省が一番タチ悪いので、引っ込んでほしかったのですね。

(杉山)

今、GX制度化で何をやっているかというと「排出量取引制度」の2026年4月からの導入です。日本の大企業およそ400社には排出枠が決められ、ボイラーを回してはいけない、CO₂を出してはいけない、という決まりになります。どうしても出すなら「国から排出権を買いなさい」という仕組みです。深田さんの会社も大きいので、対象になるかもしれない。

(深田)

いやいや、うちは何も燃やしませんから。炎上していますけれど、煙は出ません(笑)。

(杉山)

CO₂の出ない炎上ですね(笑)。

それで、大企業は排出量取引制度で、中小企業は「化石燃料賦課金」を払わされることになりそうです。これはみんなが払わされることになる。電気代もガス代も石油代にも全部上乗せされると思います。ただ、これはさっき話した毎年15兆円のうちのごく一部です。

(深田)

え!?全く知りませんでした。この化石燃料賦課金は今後、ガソリンにもかかってくるのですか?

(杉山)

そうなると思いますよ。

(深田)

ガソリン暫定税率を廃止して、新たに化石燃料賦課金を掛ける?名前が変わっただけではないですか!それならまた1兆円規模になりますよね。

(杉山)

この排出量取引制度と化石燃料賦課金を合わせて、毎年1兆円ぐらいだと役所は説明しています。

(深田)

ああ、なるほど。ガソリン暫定税率を廃止するために、新たな財源をつくるというのは、これのことですか。

(杉山)

いえ、関係ありません。これは菅・岸田・石破政権とずっと同じ路線で来ていて、その途中でこの排出量取引に関する法律が去年(2024年)5月ごろに通っています。こういう制度が着々と進んでいるわけです。

(深田)

暫定税率廃止は「地方の財源を確保しなければいけない」とも言っていますから、また別のものを作るのでしょうね。

(杉山)

私は細かく知りませんが、理屈というよりも、引っ張り合いの世界なのかよくわからない。この1兆円の財源の話があって、みんな騒いでいますが、再エネ賦課金は現に毎年3兆円払っている。そして「GXを本格的にやる」と言えば15兆円を毎年払うことになる。その制度を今まさに作っている。

まだまだあります。『小売電気事業者への非化石比率60%』という制度もそうです。電気を売っている会社が、どのエネルギーで発電したのかという割合を、原子力と再エネだけで6割にしなければいけない。それを「2040年までに達成しろ」というのです。

(深田)

これは高市総理が環境大臣に指示していた「カーボンニュートラルを2040年に実現」ですよね。

(杉山)

私はその文書をまだ見ていませんが、環境大臣に指示したと言っても、実質的に経産省になるでしょう。自民党は石破政権に至るまでずっと「GX実行すべし」と言っていて、その時に役人が作っていた作文を、今の政府が読み上げているだけです。2040年に電気の6割を原子力と再エネです。「そんなに再エネ買わされるんですか?」と。

(深田)

お金の無駄ですよね。

(杉山)

こんなことをすれば電気代はめちゃくちゃ上がりますよ。毎年15兆円と言っていますが、こんな額では済まないですよ。

(深田)

もう経済低迷の予兆しかありませんね。“脱産業化”への一歩ですよね。

(杉山)

電気代を上げておいて「さあ、誰か投資しませんか?」と言ってもできないです。

(深田)

工場も新規投資なんてできませんよね。

(杉山)

これで半導体企業を誘致するとか、データセンターを誘致するとか、意味がわからないです。

(深田)

意味がわからないですよね。2nm(ナノメートル)半導体工場は、10nmの10倍ぐらい電気を使いますからね。今の北海道は全体で600万kwで電力が足りていません。しかし、ラピダス(2022年8月に設立された日本の半導体メーカー)やAIデータセンターを合わせると60万kwが必要になりますよね。

(杉山)

全部動かすと、もっと必要になりますよね。とりあえず北海道電力・泊原発が全部再開して、さらにガス火力発電所も増設する計画になっているので、順調にいけば足りるかもしれないという話ですが。

「電気の6割を非化石燃料にしろ」と言っていますが、原子力が全部再稼働しても日本全体の2割しか発電できません。あと4割足りない。1割を水力で補うとしても、残り3割を太陽光や風力に頼るとなれば、電気代は一気に跳ね上がります。

(深田)

しかも半導体工場は夜動いていますよね。

(杉山)

ふふ(笑)。そこはね、ごまかすのですよ。実際には火力発電が回っているのです。再エネ証書はいつでも買えますからね。。

(深田)

それはただの詐欺ではないですか。免罪符ですよね。

(杉山)

まあ、そんなことばかり日本はやっているのです。このステルス大増税については、拙著『データが語る 気候変動問題のホントとウソ』(2025年4月/電気書院)の中から、今日はさらっとお話しますが、太陽光や風力は入れれば入れるほど電気代が高くなるのです。

よく「太陽光・風力は今や一番安い」と言う人がいますけれど、コストの一部しか見ていないか、ちゃんとお金を払っていないか、そのどちらかです。太陽光・風力発電の比率が高い国のデンマークやドイツも、家庭の電気料金が高いです。

日本政府は太陽光・風力発電推進だけではなく、火力発電でも「CO₂を出すな」と言っています。天然ガス火力発電所は普通に発電すれば1kw/hが9円ぐらいですが、CCS(Carbon dioxide Capture and Storage )、つまり発電の際に出たCO₂を地中に埋める工程を加えると、発電コストは倍ぐらいに上がります。石炭火力も普通に発電すれば9円ぐらいなのに、CO₂を地中に埋めると21円になります。

石炭にアンモニアを混ぜて発電する方式も政府は一生懸命推進していますが、これも発電コストは倍になる。それでCO₂がゼロになるかといえば、ある程度減るだけです。漏れてしまうのです。天然ガスのCO₂も同じです。石炭火力発電所もCO₂ゼロにはできないし、アンモニア混焼でもゼロにならない。

本気でCO₂をゼロにするなら、発電コストは3倍どころではなくなります。それでも「2050年のCO₂ゼロに向けてこういう技術をやるんだ!」と言って、さっきのGX予算に入れている。こんなことばっかりやって、せっかくの安い火力発電まで高くしているのです。

(深田)

絶対、こんなことをしていたら国際競争力がつくわけがないですよね。日本政府は「日本企業は国際競争力が低い」と言うけれど、低くしているのは日本政府です。政府がいなくなれば、日本企業は国際競争力がつきます。もともと強かったのですから。

(杉山)

余計な規制ばかりするから、こんなに競争力がなくなるのですよね。

アメリカでは、トランプ政権になって「史上最大の規制緩和・1兆ドル」を始めました。バイデン政権が「CO₂をゼロにする」と言って、ありとあらゆる連邦規制を導入していました。電気自動車強制や、火力発電所を潰すような法律を大量に作っていました。いわゆるバイデノミクスやグリーンニューディールという政策で「1兆ドル規模の投資だ」と言っていました。

しかし「そもそも気候危機は嘘。だからそんな法律は根拠がない」というレポートをもとに、トランプ政権は連邦レベルでのCO₂規制を片っ端から潰す方針を明確に掲げています。根拠は、統計的に災害の激甚化は起きていないということです。

アメリカの法律の作りは「CO₂が危険だ」と認定されているから、CO₂規制ができる仕組みになっていました。しかし「CO₂が危険だ」という判断自体を覆せば、その上に積み重なっているCO₂規制は全部失効していく。

こういう戦いをトランプは今、仕掛けているのです。つまり、バイデンが言っていた「グリーンニューディール・1兆ドル」は全てぶっ潰して、それこそが「史上最大の規制緩和・1兆ドル」であるという話です。

(深田)

これは良い案ですね。アメリカ企業は成長力、国際競争力を取り戻しますよね。

(杉山)

そこにさらにAIブームでどんどん投資が集まっている。日本企業よりもアメリカ企業に投資しようか、という状況になっている。アメリカは石炭もガスも使って、新しい産業を育てているのですよ。

そして、1兆ドルと書いてますが、1兆ドルは日本円にすると約150兆円です。だから、日本が「150兆円投資でGX」と言っているのと金額だけは同じです。

(深田)

これは付け替えではないですか?アメリカで1兆ドル稼ごうと思っていたのに1兆ドルもらえなくなったから、日本に持ってきて…みたいな。

(杉山)

いや、そういうわけではないです。バイデンがグリーンニューディールをやる時に「1兆ドルの投資をするんだ」と掲げたのですよね。それを見て日本政府が負けずに「アメリカが1兆ドルだから、計算すると150兆円かな?」「では150兆円のGX投資をやります!」と言い出した。要するに、バイデンの真似をしたわけです。

一方、今のアメリカは「そんなふざけたことをするな」とトランプ政権がそれを全部潰している。日本はどうするのか?150兆円のグリーン投資を本当にやるのか?ということです。私はそんなもの全部ぶっ潰して「史上最大の規制緩和150兆円」をやればいいと思っています。

(深田)

その方が日本は成長できます!

(杉山)

そうすればみんな日本に投資すると思います。

最後に、接書にも書きましたが「そもそもCO₂を減らして、何かいいことがあるんですか?」という話です。150兆円グリーンに投資するのですよね。それで気温は何度下がるのか、計算をしてみました。

(深田)

150兆円+いくらか払っても、たったの0.006℃しか下がらない?!

(杉山)

そうです。そして、雨量はどのくらい減るのかという点についても、ほとんど減らないです。国連のデータでは「人類が過去、CO₂を累積2兆トン排出しました。その結果、気温が1℃上がりました」というものがあります。つまり、2兆トンで1℃上昇です。この国連の計算値を使えば、「1兆トン=0.5℃」という換算ができるので、日本がこれからどれだけCO₂を削減したら気温がどれだけ変わるか計算できるわけです。

さらに雨量については、気温が1℃上がると、大気中の水蒸気量は6%増えるという理論式があるので、気温がどれだけ変われば降水量がどのくらい変わるのかも算出できます。

日本のCO₂排出量はだいたい年間10億トンです。それを2050年までにゼロにするには、三角形の面積と同じ計算式で出せます。

10億トン(高さ)× 25年(底辺)÷ 2 = 125億トン=0.0125兆トン

そして気温がどれだけ下がるのか。

1兆トン=0.5℃なので、0.0125 × 0.5 = 0.006℃

雨量は0.006℃×6%なので0.04%です。例えば日本の記録の中で1日に1000ミリの大雨が降ったことがありますが、それでも0.04%減るとして、雨量は0.4ミリしか減りません。

(深田)

焼け石に水ですか?

(杉山)

焼け石に水どころか、完全に誤差のレベルです。2050年にCO₂ゼロは大変すぎてできるわけがないのに、それに150兆円です。そして150兆円かけても、0.006℃すら行き着かないわけです。一体どれだけお金がかかるのか想像もつかないです。こういう愚かしい効果がないことをやっているんですよね。

(深田)

本当にやめてほしいですよね。150兆円かけて、お金も時間も労力も無駄です。

(杉山)

国会でこの私の数字を引用して質問してくれた議員がいました。

(深田)

どなたですか?

(杉山)

参政党の神谷宗幣さんです。「0.006℃しか下がらないのに本当にやるんですか?」と質問したのですよ。そうしたら、確か石破政権だったか、閣僚も役人も「効果は少なくてもやるんです」と答えた。あんたがやるのは勝手でも、国民にはちゃんと説明するべきですよね。

(深田)

国民にリターンは何もないじゃないですか?

(杉山)

「0.006℃下がって嬉しいよね?」ということになってる。

(深田)

それだけ下がっても、中国がもっと火力を燃やしたら、帳消しですよ。

(杉山)

すぐ吹き飛びますよね。日本は世界のCO₂排出量の3%しか占めていませんから。

(深田)

今回も、キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹の杉山大志先生に「日本政府は皆さんのお金150兆円を無駄にしようとしていますよ」と警鐘を鳴らしていただきました。どうもありがとうございました。

(杉山)

ありがとうございました。

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