#509【緊縮財政の闇】鈴木農水大臣「俺が責任を取る」は本当か?日本のコメ政策が迷走する理由 鈴木宣弘氏

(深田)
皆さんこんにちは。政経プラットフォーム、プロデューサーの深田萌絵です。今回は東京大学特任教授の鈴木宜弘先生にお越しいただきました。先生、よろしくお願いします。

(鈴木)
よろしくお願いします。

(深田)
前回は高市総理の農業政策について論評していただいたのですが、今回は高市さんが指名された鈴木憲和農林水産大臣の米政策について、これはいかがなものなのでしょうか?

(鈴木)
そうですね。石破政権の時に、米騒動が起きて何とかなしなければならない事態になりました。これは米が足りなかったということを認めて、これからは増産していこうという方針が出ました。

(深田)
「ついに増産に舵を切った!」という感動のニュースでしたね。

(鈴木)
そうです。ところが、その数ヶ月後、新たに就任した鈴木大臣は、また「減反する」というのです。

(深田)
ガクッとなりましたね。

(鈴木)
なぜ急に変わったのかと問題になるわけですが、考えるべきは、なぜ米騒動が起きたのかということで、やはり減反をやりすぎたのですね。需要が減っているから、ギリギリに生産をそれに合わせようとしました。需要が10万トン減っているから、生産も10万トン減らすことを続けてきたのですね。

それで、猛暑の影響もあり「10万トン減らせ」というとそれ以上に減ってしまい、米が徐々に足りなくなってきていたのですよね。少し前からそういう状態が続いていたところに、2023、24年に猛暑の影響が大きくなって、大きな騒動になりました。

それは、既に減反政策がある意味で限界に来ていたということです。そもそも自然相手の農業に「生産量を増やせ、減らせ」と調整しようとしても、天候次第でもあるので、調整できないのです。

それを無理に生産で調整しようとした。需要の方で何とか出口を作っていくという前向きの方向ではなく、今まで「出口が減っているから、とにかく生産を絞り込むしかない」という発想でやってきました。そこに無理があったというのが米騒動の、大きな反省の一つですよね。

(深田)
そうですよね。元農水大臣の山田正彦先生も「農水省のデータを見ると、3年前から米が足りてないというのはすでに分かっていた」と、おっしゃっていましたよね。

(鈴木)
そう、そうなんです。少し前のデータを見ると、既に単年で生産が需要に追いついていない状態になっていたわけですね。減反がうまくいっておらず、生産で調整しようとして、米が足りなくなってきていたのです。

米不足のもう一つ原因は、米価が30年前の半分以下になり、農家さんが「もうこれ以上やっていられない」と米作りを止めて、生産量の減少が起きてきていたということです。その二つの要因が重なって、大きな米騒動に繋がったわけです。

農水省は、最初は米不足を認めていなかったのですよね。「米は余っている、足りている」と言い続けて「自分たちの政策は間違っていない」と言いたかったのでしょうね。生産調整が間違っていたとか、農家の疲弊を放置したということにしたくないから「米は余っていて足りているので、流通業界や農協が悪い」とそちらに責任転していたわけです。

でも「米は足りていなかった」とついに認めて、やはり増産しなければならなくなった。生産で無理に調整するのは限界だということに、やっと気づいたはずでした。

ところが「また減反に戻る」というのはなぜなのかということですよね。

(深田)
増産に切り替えるというニュースを聞いたのは、多分8月の終わりか9月ぐらいですよ。それが、高市政権誕生から2~3日で「はい、今日から減反です」と言われた時は「えー!?どういうこと?」となりました。

(鈴木)
2025年の生産が想定より1割ぐらいは増えるということがわかったのですね。生産量が十分足りてきて、需給が緩んできました。すると、需要はそんなに増えるわけがなく、増産すると米が余るので、抑制するしかないということになるのです。旧来の生産調整の考え方に完全に戻ってしまったのですよね。

でも、それをやると、猛暑の影響や米作農家さんの減少で、想定以上に米の生産が減ってしまうかもしれない。今年は少し増産になったけれども、米作をやめる勢いが農家さんの方も強いわけですよ。

そう考えると、安易に「また減反だ」と言って絞り込んだら、減りすぎてしまいます。そうすると、今度は米が足りないという理由で、価格が大きく上昇するなどの米騒動がまた起こるわけですよ。

そうならないようにどうするのか議論をしたはずなのに、また減産の方向で動いてしまったのが、今回の問題になっているわけですよね。

(深田)
備蓄米を放出しているわけですから、余った分はまた備蓄したらいいわけですよね?

(鈴木)
そうですよね。備蓄を運用することで、調整できる部分もあるのですよね。それで、おかしいのは、鈴木大臣は「価格にはコミットしない」と言っているのです。「価格には関与しない。市場には関与しない」と言いながら、生産量を抑えると、価格上がるではないですか。

(深田)
そうですよね。

(鈴木)
価格に関与しているわけですよ。そこに論理矛盾があることを分かっているのか疑問がありますよね。今言われた備蓄もそうですよ。備蓄についても価格を上げ下げするとか、備蓄を市場の関与に使わずに、不足している時だけに出すと言うのですよ。でも不足している時に出すと、市場価格を下げる効果がありますよね。そういう意味で、同じなのですよ。

では、なぜもう一度、生産量で調整しようとする旧来の手法に戻るのかというと「財政出動ができないということに関わってくるのではないか」と思うのですよ。

(深田)
また緊縮財政ですか?

(鈴木)
緊縮財政の延長ですよ。本来であれば、できるだけ農家の皆さんに増産で自由に作ってもらって、需給にゆとりを持たせればいいわけです。価格が下がって農家さんが苦しくなるようであれば、その時に財政出動による直接支払いなどで農家さんが困った分を埋めてあげるのです。それは消費者も助けているわけではないですか。

増産して需給にゆとりが出れば消費者にとっては、価格が下がり歓迎される。そこに直接支払いをして、生産者の所得を支えれば、生産も続けられますよね。そこの部分の差額を財政負担する。「市場に関与しない」とはまさにこれですよ。

価格は市場に任せて、生産者には一生懸命米を作ってもらう。それによって、需給にゆとりができて、価格が下がれば価格が消費者は助かり、直接支払いで生産者も助かる。直接支払いは、生産者を助けるだけではなく、消費者が安く買えるようになるから、みんながウィン・ウィンです。

増産した場合、財政出動をやれるかどうかということが、次の議論になります。残念ながら、石破政権の時は「輸出で何とかすればよいという」考えに行ってしまいました。例えば40万トンを増産して、40万トンをすぐに輸出といっても、そんなことできる訳がないのですから。

したがって、そういうものではなく、緊縮財政を取り払って「積極財政でしっかりと支える稲作ビジョンを作ろうじゃないか」ということが求められていました。

そこに、高市政権で積極財政だという流れができました。増産の方向が出たら、増産をして、積極財政でその部分を消費者と生産者が、ウィン・ウィンになるような政策をセットにすれば、よい流れができるはずだったのに、積極財政に向かわないのです。つまりお金が出ないということですよね。

(深田)
だから、ガソリン税の暫定税率廃止で減税をするので、新しい財源で増税するという話が、今出ているのですよね。結局、積極財政とは言っているものの、またいつもの自民党で「減税と増税はセットだよ」とい政策のままではないのかなと思っています。

(鈴木)
そういうことになっています。『ザイム真理教』と亡くなられた森永卓郎さんが名付けられましたが、みんながマインドコントロールされて、怯えているかのように「とにかく金は出せない」みたいな議論になっていて、その壁を乗り越える必要があります。

例えば米5kgは、消費者の皆さんが払える価格は2500円で、生産者の皆さんは少なくとも3500円ぐらい必要です。その差額を財政出動で拠出すると少なくとも6000億円ぐらいはかかるわけですよ。

ところが「そんなものは出せるわけがないだろう」という議論がまだ続いているのです。農水省が財務省の圧力を受けて、生え抜きの農水大臣も、頭がそういう方向性で固まっています。

結局、生産で調整するしかないということになったけれども、それで価格が下がらなかったらどうするのかということが、消費者目線からすれば問題になるのです。そこで、出てきたのがお米券です。「お米券を配ればいい」と言うのです。しかし、お米券は付け焼き刃で、一時的にごまかしてしまったようなものではないですか。

(深田)
お米券を配って、さらに「アメリカのお米を今までの75%増しで輸入します」と、訳の分からないことをしていませんか?

(鈴木)
そうなのですよ。生産抑制をしておいて、お米券を配り、輸入を増やすわけですよね。今まで、アメリカには「必ず35万トン買う」と内緒で言っていたことを、トランプさんに内緒の約束をばらされました。これを75%増しにすると、約61万トンで、消費量の1割ぐらいですよ。

(深田)
「去年は増産したから今年はお米が余りました。お米が余ると農家が大変だからお米は減産しましょう。減反しましょう」と発表しているのに、その一方で「物価高対策でお米券を配りましょう」「トランプ大統領のご機嫌を取るためにアメリカのお米を倍買いましょう」というのは、滅茶苦茶ですよね。

(鈴木)
輸入はどんどん増やすわけですよね。

(深田)
整合性が取れていないにも程があります。

(鈴木)
そうですね。無茶苦茶ですよね。お米券で部分的に助けると言うけれども、お米券を出すには手数料など相当な費用かかるわけですよ。

(深田)
印刷代金とか配布する郵送費用とか、いろいろかかるわけでしょう。

(鈴木)
そう考えると、お米券は効率的な取り組みとは言えない。どう考えても、生産を潤沢にして需給を安定させて、消費者も生産者も続けられるような『市場の安定化と価格の安定化のための政策』とは全く違います。

生産を抑制して価格を上げて、付け焼き刃のお米券を配り、しかも輸入は増えるという、とても整合性の取れない愚かな政策ですよね。

こういうところが残念なのですが、鈴木大臣は農水省の職員の皆さんへの訓示で「財政の壁を破ろうじゃないか」「全責任は私が取る。皆さん頑張ってくれ」という趣旨のことを最後に宣言されているのですよ。

そこまで、はっきり言われているのであれば、私はその言葉に一縷の望みをかけて「ぜひ実行してください」と、期待を込めて私は申し上げたい。

(深田)
私は期待していません。いつもの自民党のマインドから行くと、助成金を増やしたら中小零細企業は潰して、大企業か外国資本にそのお金を全力で流して、キックバックをもらう。積極財政の意味はこれではないかなと思います。いかがですか?(笑)

(鈴木)
まあ、そのようになりそうなのですが、高市総理や鈴木大臣には結構期待している方もいます。「自給率100%、積極財政、財政の壁をぶち破る。俺が責任を取る」という言葉に率直に期待している方も多いわけなので、期待を萎ませることを言うのではなく、一縷の望みはあるのではないかと思います。

(深田)
そうですよね。

(鈴木)
鈴木大臣は「生産者にもコストがかかっているから、消費者の皆さんもそこを理解してほしい」とも言っています。それもその通りですよ。農家の皆さんにすれば、そういうことを言ってくださることが重要なのですよね。ただ、消費者の皆さんにも理解してもらいたいけれども、消費者も苦しいのです。

(深田)
そうですよ。政府が一番理解しないといけないですよ!

(鈴木)
政府がそこを埋めればいいのですよ。消費者も苦しい、生産者も苦しいのであれば、そこに政策を打つのが政府の役割でではないですか。

(深田)
今の自民党は、消費者と農家を苦しめる政策だけを打ってきたから「もう農業政策を出すのをやめてくれ」と(笑)。

(鈴木)
そうです。どちらも苦しくなっていますよね。それを「理解し合って、頑張れ」と言われても、無茶苦茶じゃないですか。

(深田)
そもそも、お米が足りないというデータを一番持っているのは、農林水産省なのに「足りている」と、ずっと嘘をついてきたでしょう。

(鈴木)
どう考えてもそうですよね。

(深田)
でも、言ったからにはやってもらおうじゃないですか。

(鈴木)
そうですね。そのように期待をしております。

(深田)
「期待を裏切ったら怖いよ、鈴木大臣」
今回は、東京大学任教授の鈴木信先生にお越しいただきました。先生、どうもありがとうございました。

(鈴木)
ありがとうございました。

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