#513 勝負はあと五年!国産品全滅で日本を滅ぼす最悪の政策とは!? 鈴木宣弘氏
(深田)
みなさん、こんにちは。政経プラットフォームプロデューサーの深田萌絵です。今回は東京大学特任教授の鈴木宣弘先生にお越しいただきました。先生、よろしくお願いします。
(鈴木)
よろしくお願いします。
(深田)
先生、本日発売の新刊『もう米は食えなくなるのか』と重いタイトルですが、今の日本の政策を見ていると、その日が来るのかと思います。

2025年11月 講談社+α新書
(鈴木)
そうですね。また減反(政策)の話になってしまいました。需要が減っているからといって減反政策を続けていると、国内の米生産はますます縮小します。農家さんも「せっかく作れると思ったのに、また減らされるのか、作れなくなるのか」となれば、収入も得られなくなり「自分の代でやめよう」という人が加速度的に増加し、次の世代が育たなくなります。アメリカから米がどんどん入り、ますます追い込まれていきます。
そのため、今の政策を変えないと、日本のお米が食べられなくなる事態になりかねないので、本書を執筆しました。2〜3週間ほど前には文春新書から『令和の米騒動』を刊行しています。

2025年10月 文春新書
(深田)
旬のテーマですね。
(鈴木)
こちらの本では、戦後アメリカの要請を受け入れて「胃袋からの属国化」という政策を取り上げています。「日本人は米を食うな。アメリカの農産物で生きていきなさい」というものです。優秀な日本人に食料で自立されると、アメリカに刃向かいかねないので、胃袋からの属国化で支配を続けるという占領政策が続いてきました。
その結果、米の消費が減り、生産調整をせざるを得なくなり、それをやり過ぎで今の米騒動になりました。これは、ある意味で食料分野における完全な敗戦で「食料敗戦」とも言っています。
当初、アメリカは日本人に米を食べさせないようにして、アメリカから小麦などを買わせていたのですが、ついに「米もアメリカから買え」と言い始めました。最後の砦を日本は明け渡す状況になっているのです。
こうした流れがある中で、現状をどう改善するのかを『令和の米騒動』で整理し、さらに『もう米は食えなくなるのか』で、内容をより深め補完する構成にしました。似た内容と思われるかもしれませんが、この2冊をセットで読んで、理解を深めていただきたいと思います。
(深田)
『もう米は食えなくなるのか』ということで、米だけではなく国産品全体が食べられなくなるのではないかという危機感を抱いています。日本は減反政策で、アメリカから輸入する。それに加えて、高市さんは今回の日米首脳会談で、トランプ氏に「日本は毎年1兆2000億円の農産物をアメリカから購入する」と表明しました。そうなると、国産品はどうなってしまうのかと危惧しています。
(鈴木)
そうですね。大豆やトウモロコシも、すでに年間1000万トン規模でアメリカから輸入しているのに、さらに買えと言われています。米だけではなく小麦やトウモロコシも国産を増やすために奨励金を出して取り組んできたところに、アメリカから無理やり交わされたら、国産農業は全滅しかねません。
これは米に限らず酪農も同様です。生産調整で「搾るな、搾るな」と振り回されて、借金だけが残り、止める人が増えています。野菜や果物も、小売の力が強く買い叩かれることがあり、東京の大田市場の関係者からも「出荷量が減って価格が上がっている」と悲鳴が上がっています。これは猛暑や冷夏だけが原因と言われますが、実は違うのです。
(深田)
どのようなものなのでしょうか?
(鈴木)
構造的に農家さんが苦しくなり、作れなくなってきていることが原因です。出荷量が減れば価格が上がり、輸入品に押され、さらに作れなくなるという悪循環に陥っています。農家の所得が上がらず苦しくなり、出荷が減って、そこにまた輸入が一層増えていく構造で、国産がさらに追い込まれています。これは米も同様です。
今は異常気象などで「輸入すれば安く手に入る」時代ではなくなっています。輸入が止まれば、日本人は飢えかねない状況にあります。米だけでなく、他の農産物も含めて、今後5年が勝負です。私も全国を回っていますが「あと5年でこの地域では米作りができなくなる」「ここに人が住めなくなるのではないか」という声が各地で続出しています。
(深田)
そうですよね。農家さんが生産されているのはお米だけではなく、道路や水路といったインフラも同時に維持しています。したがって、農家さんが減れば土地そのものが廃れてしまいます。
(鈴木)
おっしゃる通りです。ここも非常に重要な点で「小さな農家はなくなっても、大規模だけでやればいいじゃないか」という意見がありますが、大規模にまとめる農地は少ないです。
地域に多様な人がいるので、水路やあぜ道の管理などは地域コミュニティが維持できて、農業が継続されてきました。それらが失われ、大規模な農家だけが残ったとしても、大規模農家自身が成り立たなくなります。さらに地域から人口が減れば、コミュニティを維持する意義もなくなってしまいます。
(深田)
そこに安価な外国人労働者を受け入れ、大企業が雇用して大規模農業を行うと考えているのでしょうが、果たしてそれで良いのでしょうか?
(鈴木)
確かに、一部の地域では外国人労働者を大量に受け入れ、日本ではないような姿で維持されるかもしれませんが、多くの地域は原野に戻ってしまいます。
東京・大阪を中心としたごく限られた拠点都市だけに人が住めば良いという議論になるわけですよね。それがまことしやかに言われていることが本当に問題だと感じています。「農業も集約すれば良い」「日本全体を集約すれば良い」と影響力を持った大阪の人が暴論を述べています。
先日、その人と同じ講演会に出席しました。彼は「人口統計を見れば日本の人口は将来的に8000万人、5000万人になる。統計が示しているので、それが正しいのだ。地方に人が住む必要はない、不要である。大阪や東京といった拠点都市に集住すれば良い」というのです。本当に暴論です。
(深田)
そうなんですよ。安全保障の観点からいうと、最初に狙われるのは過疎地であり、また敵国の船を最初に見つけてくれるのは漁船です。そうした視点に立つと、農業や漁業をないがしろにすることが安全保障上正しいのか、大いに疑問です。
(鈴木)
その点も重要です。漁業でも「沿岸で小規模に頑張っている漁業者は非効率で邪魔だ」といった議論が出ており、漁業権を大企業へ付けるようにして売買可能にする方向性が示されています。さらに漁船ごとに漁獲量を割り当て、それも売買可能にすることで、巨大企業に漁業権や漁獲権が集中する可能性があります。
形式上は日本企業であっても、背後に外国とつながっているケースも多い。結果として沿岸部にたくさんの人がいて国土や国境をも持ってくれていたのに、外国に制海権を取られることになりかねません。
こうした状況を踏まえると、日本の国土を守る観点からも問題は深刻です。農林水産業が成立しなくなり、地域に住めなくなり、人口が拠点都市に過度に集中する。そして国産の農産物や水産物がほとんど手に入らない状態になり、輸入に依存した生活を続けている中で輸入を止められたら、日本は簡単に終わります。
(深田)
そうですよね。日本の食料自給率は38〜39%程度で、あっという間に飢えてしまいます。
(鈴木)
そのうえ、人口が減って住む人のいなくなった地域が外国勢の管理下に置かれれば、実質的に植民地化の状態になります。
「人口が減るのだから集約すれば良い」という意見が出ていますが、そもそも「人口が減る」という前提の理解が間違っています。将来推計は高位、中位、低位の三分類に整理されていますが、これは出生率など瞬間風速の数値を基に予測したものにすぎません。
つまり「今の間違った政策と取り組みを放置すれば、このような結果になります」と示しているだけです。
(深田)
そうですよね。女性も本来は早く結婚し子どもを産みたいと考えているのに、現実がそれを許さないため、仕方なく働いているという状況があります。
(鈴木)
それが出生率などの統計に反映されているだけであり、それを引き延ばして予測しているだけなのです。そうならないように、今を変える政策と取り組みを行えば流れは変えられます。
(深田)
私もそう思うのです。
(鈴木)
そうした議論を行わずに「将来は人口減少社会になる」「農村は人がいなくなる」「だからその前提で考えよう」と言ってしまうことが問題です。今から取り組みを変えれば、私たちの力で未来は明るくしていけるということを、この二冊の本に具体的な事例も含めて書いています。
(深田)
私も今年から農業を始めようと思い、今年は二反の田んぼに投資しました。次はロシアのダーチャのように、少し離れた場所に畑を買い、小さな中古の家が付いているような安価な物件を探しています。
そうした土地をセカンドハウスとして確保し、万が一に備えたいと考えています。それに加え、遠隔で水まきができるシステムを構築し、遠隔で見ながら管理できる仕組みを作りたいと思っています。
(鈴木)
素晴らしい取り組みです。東京近郊でも週末だけ通える場所に古民家を借り、前に田んぼや畑が付いている物件が100万円程度で購入できるところがあります。ぜひ検討してみてください。
また、先日共著で刊行した食料安全保障に関する本ですが、深田さんの今のお話のような思いと実践が反映された素晴らしい内容になったと思います。地域の農家の思いを聞いて、実践を通じて深めていくことで、日本全体の食料安全保障を地域から変えていく流れを生み出せる。
その姿勢が後半の章と後書きに表れており、大変素晴らしいと感じました。
(深田)
ありがとうございます。
(鈴木)
思いや実践、そして文章力を含めて、さすがだなと、私は感激しました。
(深田)
ありがとうございます。私は調べて頭で考えるだけでなく、実践しないと納得できません。実際に取り組むと、論評だけでは見えなかった現場の苦悩が生々しく見えてきます。体験することで、より良い解決策が考えられると感じています。
(鈴木)
素晴らしい姿勢です。本を世に出す時も、自ら実践することで言葉に深みが生まれます。そうでなければ、人に伝えることは難しい。その姿勢こそ本物だと感じました。
(深田)
ありがとうございます。
(鈴木)
各分野でそのように取り組んでくださっていることに大変期待しています。今後も連携しながら進めていければと思います。よろしくお願いします。
(深田)
ありがとうございます。大変褒めていただいて恥ずかしいのですが、この番組づくりも含め、私は「目の前の課題をどう解決するか」を重視したいと思っています。
「政府はなぜやらないのか」と不満を言うだけではなく、自分たちに何ができるのかを考え、鈴木先生の著作を通じて、現状認識を擦り合わせていきたいと思います。今回は東京大学特任教授の鈴木宣弘先生にお越しいただきました。ありがとうございました。
(鈴木)
ありがとうございました。





