#505 高市農政「自給率100%」は実現不可能?現場が絶望する植物工場推しの問題点とは? 鈴木宣弘氏

(深田)

皆さん、こんにちは。政経プラットフォーム、プロデューサーの深田萌絵です。今回は東京大学特任教授鈴木宣弘先生にお越しいただきました。先生よろしくお願いします。

(鈴木)

よろしくお願いします。

(深田)

先生、高市(早苗)政権が誕生し、新しく農業政策が出ていますが、この辺りの評価をお願いします。

(鈴木)

ひとつは、高市総理は前から積極財政派で、そういう意味では(これまでの緊縮財政派では)農業に財源が十分出ていなかったので、予算をしっかりつけてくれるのではないかと期待できる側面がありました。

もうひとつは「食料自給率を100%にする」と、かなり力強い発言もされております。自給率100%は簡単ではないのですが、そういう方向で頑張るという意欲を示されて、自給率100%プラス積極財政をやってくれるという期待は持っていました。

(深田)

確かに、ずっと農家さんが苦労されている中で、そこにどれだけ国が補助できるのか、欧米並みに所得保障ができるのかというところが先生のお考えだったと思います。

(鈴木)

はい。私はずっと主張してきました。そこに切り込んでほしいと思います。特に、今回自民党の中でも積極財政派の積極財政議員連盟(※1)が100人程いるのです。

※1)責任ある積極財政を推進する議員連盟:衆議院議員当選5回以下、参議院当選2回以下(勤続年数13年以下)の自民党議員で構成される議員連盟(令和7.10.21現在、会員70名)

(深田)

そんなにいるのですね。

(鈴木)

はい。そこのリーダーが静岡の城内実先生です。城内先生は、前の石破内閣でも大臣(経済安全保障担当)をされましたが、今回も経済安全保障などの関係の大臣(内閣府特命担当大臣)をされます。「農業にこそ積極財政だ!」と言ってくれていた積極財政議員連盟のリーダーが城内大臣です。高市総理は城内先生をまた大臣に起用されて、そういう意味で農業にこそ積極財政という部分が繋がれば、これは期待できるかなという思いがあります。

ただ、現状は積極財政という面が全然見えてきていない。特に、自給率を100%にするということに対して、どのようにするのか質問があると必ず出てくるのが 植物工場だというのです。

(深田)

植物工場とはどういうものなのでしょうか?

(鈴木)

工場のような大きな設備を造って、人工の太陽や水といろいろな肥料を人工的に与えることで、基本的に水があれば、土や太陽がなくても工場の中で農業生産を行うものです。

(深田)

一時、流行っていましたよね。お店なんかでも水耕栽培の葉っぱが一杯でした。

(鈴木)

そうです。それの大型版のようなものです。その考え方は、気候変動でものが作れなくなってきたとか、砂漠のようなところでは、そういう(人工的な)ものが必要になるわけです。けれども、日本の状況について、私もかなりの関係者にいろいろ聞いたのですが、うまくいっている例は非常に少ないのです。

(深田)

そうなんですか?

(鈴木)

なぜなら、まず初期投資が相当かかります。それからランニングコストとして、エネルギーや他の費用が上がっています。いろいろな費用が上がっていますので、採算ベースに乗るのはせいぜいベビーリーフ(いろいろな野菜の小さい葉の部分)ぐらいで、今の状態ではみんな苦労しているのです。

(深田)

やはり普通に畑に種を蒔いて、葉っぱを育てる方がエネルギーコストを考えると、太陽は無料なので、よく考えたら勝てないですよね。

(鈴木)

そうですね。土もあるわけです。土には微量のいろいろな栄養素や土壌細菌がいて、農作物に栄養素が吸収されるわけです。そのようなものが、植物工場には無いわけですから、自然に水と土と太陽が十分あるところでは、それを活用するのが一番効率的です。栄養面でも、フィトケミカル(ファイトケミカル)という言い方をするようですが、植物が持っている、人体に役立つ微量な栄養素は、土壌が良くて、土壌細菌の力で生み出されるもので、それが植物に蓄積されてくる。植物工場ではそういうものができない。

(深田)

そうですよね。人工の工場では、そこに菌も何もないわけですから、栄養素も全然生まれてこないということですよね。

(鈴木)

そう考えたら、日本は水も土も太陽もあり、耕作放棄地も出てきているから、そちらをもっと活用することで自給率を回復させるというのが、まず考えられることかなと思うのですが、いきなり夢のような植物工場の方にいってしまっています。

確かに、植物工場はなんとなく夢があるイメージですが、実際にはそう簡単にできない。採算ベースに乗らないということもありますし、食料自給率をもう少し上げていくという時に、植物工場だけでできるのか、その発想自体が現場のことをよく見ているのか疑問です。

(深田)

確かにそうですよね。現場の感覚からは乖離していますよね。

(鈴木)

そうなのですよ。何故、そちらにいってしまうのか?

(深田)

今、既に農家さんがいらっしゃるのに「どうしてそちらには向かないのだろう?」となりますよね。

(鈴木)

そうですよね。既存の農家は確かに所得が上がらなくて苦労している。お米もそうなって、他の農産物も価格を抑えられ、コストが上がって苦労している。そうであれば、そこにテコ入れをして、頑張っている農家の皆さんが継続できるようにするべきなのです。

耕作放棄地も出てきて、担い手が減って高齢化しているという現象はあります。農家の皆さん高齢化して、どんどん辞めて若い人が継がず、人がいないので、例えば植物工場で生産するしかない発想かもしれないのですが、私は間違いだと思うのです。

今の農家さんたちが続けられなくなっているのは、そこで利益が充分得られないからであり、小売さんや流通業者さんなど買う側もそこの部分をもう少し考えて、農家さんがやってけるような価格で買うように努力する。

今だけ、金だけ、自分だけで買い叩いてきた状況で、当面は、安く仕入れて儲けられるかもしれないけれど、それが続いて農家さんがどんどん疲弊していなくなってきているわけです。それを「仕方がない」といって、買い叩いてきた市場全体の仕組み構造に問題があるのです。

(深田)

特に今回、日米首脳会談で高市首相がトランプ大統領に「アメリカから1兆2千億円の農産物を輸入します」と約束をされて、それは日本の農業にとってはマイナスではないかなと思います。

(鈴木)

そうなのですよ。これも大変なことで、特に大豆やトウモロコシを大量に買うことになりました。それは中国とアメリカとの関係が悪化して、中国がアメリカの穀物を買わないと言ってきているので、その尻拭いを日本に要求しているのです。中国が買わなくなった分、日本が買えということです。

(深田)

中国が穴開けた分を日本が補填するとは、まるで日本が中国(米国?)を助けてあげてるみたいですよね。

(鈴木)

そういうことですよね。これは同じ構想が前回のトランプ政権(第一次)の時にもありました。当時、中国がアメリカから買うと約束した300万トンのトウモロコシを買わないと言ってきたので、トランプさんが安倍総理に日本が買うように求めてきたのですが、日本は嫌と言えなかった。言い方は悪いけれど、親分が粗相したので後始末をするのは日本だということです。

日本はすでにアメリカから1000万トンのトウモロコシを買っているわけです。さらに300万トン、必要もないのに買わなければいけない。(中国の)尻拭いとは言えないので、何か理由を探せということになりました。そこで、蛾の幼虫が発生してトウモロコシに被害が出ているといって、買うことにしました。しかし、それは大嘘だったのです。

(深田)

大嘘だったのですか!?

(鈴木)

トウモロコシに蛾の幼虫が出てきていたのは確かだけれども、被害は出ていないので、農水省の職員は、記者に「被害は出ていません」と言いました。それが大騒ぎになって後で取り消しました。本当はそんな被害も出ていないのに、蛾の幼虫に濡れ衣を着せたのです。

しかもアメリカから買うトウモロコシは、もう実になった粒を買うわけですよね。しかし、トウモロコシに被害が出ているというトウモロコシは青狩りと言って若いうちに刈ってサイレージ(植物を発行させて作る動物用飼料)にして、草と同じような形で牛に与えるトウモロコシなので、仮に被害が出ていても、全く別物だったのです。

(深田)

飼料用のトウモロコシに蛾の幼虫がいたということですか?

(鈴木)

そうです。いわゆる草として与える粗飼料の方です。アメリカから買っているトウモロコシは、実になった粒で濃厚飼料という飼料で、別物です。それを粗飼料の方に被害が出ていないのに「出ている」と噓をついて、かつ濃厚飼料とは別物という二重の意味で嘘をついて「買わなければいけない」と無理矢理買ったわけです。

それと同じ構造で、今回はもう露骨です。最初から理由をつけることもなく、とにかく「更に買いますよ」と尻拭いは日本がやりますと約束させられたわけです。アメリカの穀物の値段が高くブラジルの方が安いので、日本は、ブラジルにシフトしてきていたのです。そうすると今度は中国がブラジルから買うわけです。日本は、中国がアメリカから買わなくなった分をしっかり尻拭いで、値段もアメリカから買う分高くなる。

(深田)

高くなりますよね。

(鈴木)

そういう意味で、様々な問題が生じるのですけれども、そういうことを前回以上にあからさまに約束させられたということなのです。

(深田)

今回は本当に酷いですよね。

(鈴木)

高市総理は、トランプさんと食事をする時に、アメリカの牛肉とアメリカのお米でおもてなしをされたのです。

(深田)

そうだったのですか!?

(鈴木)

それもちょっと驚きです。

(深田)

愛国者じゃなかったのですか。メイド・イン・ジャパンを勧めていただきたかったですね。

(鈴木)

そうですよね。普通、自分の国に来られたら、自分の国の一番良い和牛と美味しいお米で、おもてなしをするものですよ。それをわざわざアメリカから来た人にアメリカ産を出すのはおもてなしではないです。属国みたいなことをしてはいけない。

食料自給率を100%まで上げるというのであれば、まさに日本の和牛や日本のお米がいかに美味しいかを味わっていただいて、アメリカ産を売りたくても、そう簡単に日本の市場には入れないと、トランプさんが思うかどうかは別としても、そういう姿勢が必要ではないですか?これも残念なところです。

(深田)

安倍さんの時は、居酒屋というか、高級小料理屋に連れていって、日本の野菜を出されてましたよね。

(鈴木)

そうでした。お寿司屋さんなども。

(深田)

お寿司屋さんもそうです。オバマ大統領の時はすきやばし次郎に行ってお寿司を食べた。トランプ大統領の時は六本木にある小料理屋で大きな杓文字みたいなものでお料理を出す。一度行ったことがあるのですが、野菜が美味しいお店に行っていたのです。

(鈴木)

すきやばし次郎で、オバマさんと握ったのですよ。まさに、お寿司屋さんで。

(深田)

握ったのですか?

(鈴木)

約束をしたのです。TPP(環太平洋パートナーシップ)について、日本がどれだけの譲歩をするのか。牛肉の関税をどこまで下げるかとか、そういう約束をすきやばし次郎で行われたので、私が親父ギャグで、お寿司屋さんでふたりが握った(合意を得た)という話をよくしていたのです。それでも和食ではないですか。今回は「そこまでするのか!」というぐらい相手に寄りすぎている気がします。

(深田)

貢ぎ物外交みたいですよね。

(鈴木)

そうですね。その点からも「積極財政で自給率を100%に上げていく」と言われたのですけれども、いろいろな意味で大丈夫か?という感じです。

(深田)

スローガンに対して、中身があまり伴っていない印象のスタートを今回切ったということですよね。

(鈴木)

そうです。それが繋がってくるのが鈴木(憲和)農水大臣です。高市さんが指名した鈴木農水大臣が農農業政策について朝令暮改と言ったら失礼だけれども、元の木阿弥にしたわけです。

米騒動で米が足りなくなって、石破政権の時には増産に舵を切ろうというところまでは行ったわけです。そのために増産した時に価格が下がったらどうするのかという議論は充分行われていなかった。ただ輸出すればいいとか、スマート農業で頑張ってコスト下げればいいとかいう話になってしまって、稲作ビジョンがなかった。それは確かに問題だったけれども、そこを増産に舵を切ったのを何故また減反なのか。

(深田)

そうなのですよ。その辺りを次回詳しくお伺いしたいです。

(鈴木)

そうです。そこが繋がっていきますね。

(深田)

はい。今回は東京大学特任教授の鈴木宜弘先生に高市農業政策についてお話をいただきました。次回は、農林水産大臣の鈴木大臣の政策について、一歩踏み込んでいただきたいとし思います。先生どうもありがとうございました。

(鈴木)

ありがとうございました。

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