高市首相の新政策『給付付き税額控除』は、マイナンバー監視システムとセットだった!? 三木義一氏 #486
【目次】
00:00 1.オープニング
01:10 2.高市総理が「給付つき税額控除」政策を言い出した
03:04 3.そもそも「控除」とは
04:15 4.所得控除は金持ちの方が恩恵が大きい
07:58 5.税額控除は低収入の人に恩恵が大きい
12:35 6.カナダ型給付つき税額控除とは
14:33 7.アメリカ型給付つき税額控除とは
(深田)
皆さん、こんにちは。政経プラットフォーム、プロデューサーの深田萌絵です。
今回は、税法専門の弁護士で、元青山学院大学学長の三木義一先生にお越しいただきました。三木先生、よろしくお願いいたします。
(三木)
よろしくお願いします。この番組は結構見られていますね。僕は滋賀の山奥に住んでいるのですが、近所の方から「見ましたよ」と言われました。僕はひっそりと表に出ないように生きていこうと思っていたのですが、弁護士であることがバレてしまいました(笑)。
(深田)
ついにバレてしまいましたか(笑)。さて、最近ニュースでも話題となっている自民党の高市(早苗)総裁の新しい政策『給付付き税額控除』について、これはどのような制度なのでしょうか?
(三木)
びっくりしました。何よりも、高市さんがこれを言い出したことにびっくりました。
(深田)
高市さんが、言われたことにびっくりですか?
(三木)
そうです。あれはもともと旧民主党の政策だったのですよ。自公政権は基本的にこの政策を嫌います。だから導入しなかったのです。ところが急に、高市さんから『給付付き税額控除』と言い出したことにすごく驚きました。さらには日本維新の会も発言をしている。これは何なのでしょうか?
(深田)
維新は基本的に節操がないですからね。高市さんも最近の動きを見ていると、反対陣営を取り込むために、擦り寄るところがありますよね。
(三木)
そうですね。要するに総理大臣になりたいだけの政策かもしれない。「首相になれるなら何でもやります」という感じがして、どこまで本気なのかは分かりません。
民主党が野党として『給付付き税額控除』を主張していた時は、マスコミはほとんど取り上げなかったのですが、最近はいろいろな人が関心を持ち始めて、徐々に紹介されるようになってきました。
今日は、視聴者の皆さんにも、この『給付付き税額控除』とは何か、その基本を理解していただきたいと思います。
(深田)
ぜひお願いします。
(三木)
そもそも『控除』という言葉です。昔、マスコミの人に「先生、『控除』とは何ですか?」と聞かれたことがあります。
(深田)
損金計上できる金額ですか?
(三木)
控除とは差し引くという意味です。私たちは当たり前のように使いますが、一般の方には馴染みのない言葉なのですね。
(深田)
税法上の『損金』という言葉が一般には使われないということですか?
(三木)
あなたのおっしゃる損金というのは、所得税法でいう必要経費です。この控除には大きく分けて2種類あります。1つは所得を減らす『所得控除』と、もう1つは税額を減らす『税額控除』です。
(深田)
『所得控除』と『税額控除』ですね。
(三木)
所得控除は、日本では昭和40年(1965年)ごろから伝統的に使われている方法です。
ここで質問です。仮に「200万円の所得控除制度」を導入するとします。このとき、大金持ちの深田さんと普通の私では、どちら有利でしょうか?たとえば、深田さんの年間所得が3000万円、私が200万円しかない貧乏弁護士としましょう。そのうえで、政府が200万円の所得控除を導入した場合、どちらが有利でしょうか?
(深田)
300万円の所得の人は200万円控除されたら、残り100万円ですから、ほとんど税金はかからないですよね。
(三木)
3000万円の人が2800万になって、いくら税金が安くなりますか?高所得者の所得税率が40〜45%と思いますが、仮に所得税が約半分(50%)すると約100万円も安くなります。
(深田)
そんなに安くなるのですか?全然わかっていないです。
(三木)
一方で、年収300万円の人は200万差し引かれるので、残り100万円に税金がかかり、この部分の税率は5〜10%なので、安くなってもせいぜい20万円ぐらいです。おかしいでしょう。お金持ちにはたくさん税金を払ってもらい、普通の庶民の税金は少なくする必要があります。
所得控除の仕組みでは所得の低い人の負担は相対的に少なくなりますが、高所得者の方が税額は減ってしまうわけです。所得を減らすという仕組みが今の日本の所得税法の基本です。
(深田)
つまり、所得の低い人の方が恩恵を受けられる額が小さく、所得の大きい人の方が結果として得をしているということですね。結果的に『金持ち優遇政策』になってしまうということですね。
(三木)
なぜ、日本はこんな制度を入れているのでしょうね。実は、昭和40年に大蔵省(現財務省)の担当者が「所得控除のほうが良い」と書いているのです。
(深田)
なぜですか?
(三木)
それは、所得が200万円しかない人の場合、200万円を控除すれば所得はゼロになります。その後、税額計算をしなくてもよくなって、処理が簡単になるからです。
(深田)
そうか、楽なのですね。
(三木)
なんとなく楽ですね。しかし、そんなものは手計算の時代の発想です。そのため、高額所得者はすごく有利なっているわけです。今のように簡単に計算できるものがある時代に、所得控除にこだわって富裕層を優遇する必要はありません。むしろ「税額控除にした方がいいのではないか」と昔から学者の間でも言われていました。
私も深田さんも共に、税額が50万円ずつ引けるとすると、私は年収300万円で所得税30万円を納めないといけないのですが、50万円控除されるので所得税はゼロになりますよね。一方、深田さんのように高所得者の場合は、50万円を引かれても大したことはないのです。
したがって、同じ50万円の控除でも、その効果は貧しい者ほど大きいわけです。このような仕組みを『税額控除』と言います。したがって、所得自体を引くよりも、税額を減らしていく仕組みの方がいいのではないか、というのが最近の議論なのです。
実は民主党政権時代にも、その方向性が検討されていました。ただし、この仕組みには一つ問題があります。例えば、50万円の税額控除があり、私の所得税が30万円の場合、控除によって税額はゼロになりますが、残りの20万円分は消えてしまうのです。自分の税額分しか引けないわけなので「あまり得をしないよね」と感じますよね。しかし、差額の20万円を戻してくれるとなったら、うれしいでしょう。
(深田)
そうですよね。それなら所得の低い人にも明確なメリットがありますよね。
(三木)
その通りです。本来控除できる税額よりも納税額が少ない場合、税務署を通じて差額を戻すというものを『給付付き税額控除』と言います。これをやれば、貧しい人たちもみんな喜んで税額を申告するようになるでしょう。
(深田)
確かに、そうですね。
(三木)
所得が少なくても申告すれば、その人の税額が仮にゼロであっても、控除額分がそのまま給付される。控除額が50万円とすると、マイナスになった50万円が申告者に返ってくる仕組みです。
(深田)
それはいい制度のように聞こえますね。
(三木)
とてもいいと思います。だから、旧民主党もさかんに訴えていたのです。他方で、これを本当にやろうとすると、その人の所得の正確な把握、そしてすぐに還付できる仕組み、すなわち、銀行口座との紐づけなどが必要になります。
(深田)
マイナンバー制度ですね。
(三木)
民主党政権がマイナンバー制度を導入した背景には、将来的に、こうした制度を入れたいというという発想があったのです。ところが、それは「国民の所得を把握して、国が監視することだ」と、とりわけ左派の人はそのように受け止めるのですが、そうではなくて、良い政府であれば、すぐに国民に給付することに役立つわけです。
(深田)
今の日本政府は悪い政府ですからね(笑)。
(三木)
…(笑)
(深田)
残念ながら、悪い政治家しかいないので、いい政治になるはずがありませんけれど、理想はそこにあると思います。
(三木)
まともな人たちが政治家になってくれたら、こうした仕組みが可能になるのです。
(深田)
まともな人が政治家になれる仕組みがないから、こういう風になるのでしょうね。
(三木)
現在、所得控除、税額控除の考え方があり、今度は『給付してくれる税額控除制度』が注目されるようになりました。この制度にはいろいろなバリエーションがあります。大きく分けると「カナダ型方式」と「アメリカ型方式」です。カナダ型は消費税額控除のような仕組みで、アメリカ型は『もっと働け控除制度」です。
カナダは付加価値税(消費税)を導入しており、低所得者であっても必ず払わなければいけないのです。そこで、健康で文化的な最低限度の生活をしていても消費税を負担しないといけないので、条件によりますが「その部分はきちんと戻してあげよう」という考え方なのです。
(深田)
それは良い考え方ですね。
(三木)
いいのですよ。カナダ型は基本的に定額です。たとえば、1人あたり10万円ならば、5人家族なら50万円というように、1人10万円を限度として一定額を還付する仕組みです。
(深田)
日本で言えば、消費税率が10%ですから、年間100万円分の生活費を使えば10万円の消費税を払うことになります。その10万円を戻すというイメージですね。
(三木)
そのようなイメージの仕組みです。カナダ国民は所得税の申告をすれば、その一定額が戻ってくる。たとえば、その額が10万円とすると、所得税額が30万円の人は20万円に、20万円の人は10万円に、10万円の人はゼロに。そして、所得税がゼロの人には逆に10万円が給付される。非常にシンプルで、いい制度です。ただし、定額制のため、10万円以上の恩恵を受けることはできません。
これに比べて、アメリカの制度はもっと面白く、トランプ大統領でも否定できないほど、いい制度なのです。アメリカには付加価値税(消費税)がありません。その代わり、労働した給与所得に対して「給付付き税額控除」が認められます。働いて、所得が増えるほど、給付金が増える仕組みです。
(深田)
えっ、もう1回お願いします。
(三木)
たとえば、私が毎月20万円、年間240万円稼ぐと、仮に国から20万円の給付が受けられるとします。さらに努力して年収300万円に増やすと、給付額は35万円に増える…そのような制度です。
(深田)
なるほど!働けば働くほど、もっとお金がもらえるのですか?
(三木)
もちろん上限はあります。年収500万円程で給付額が頭打ちとなり、その後は徐々に減少します。高額所得の人は必要ありませんからね。
(深田)
「お金をやるから、もっと働け」とは、アメリカ人は面白いことを考えますね。
(三木)
そうです。いい発想なのですよ。この制度自体は誰も否定できない。だからアメリカ人は一生懸命に申告するのですよ。
(深田)
確かにそうですね(笑)。
(三木)
日本人はあまり申告しないですよね。それは申告しても楽しい(恩恵を受ける)ことがありませんからね。しんどい思いをして申告をして、さらにお金を払わないといけない。誰もこんなことはやりたくないでしょう。だけど、一生懸命申告をして、お金が戻ってきて、所得が増えればさらに戻る金額が増えていく。すると、みんな頑張って働くのですね。
(深田)
そうですよね。働いて申告します。
(三木)
そういう制度です。アメリカ型の「働くことを促す制度にしていく」ということは日本も導入すれば面白いと思いますよね。
(深田)
本当に、いい税額控除制度ですよね。
(三木)
この『給付付き税額控除』を、旧民主党はずっと主張していたのです。しかし、みんな無視していたのです。
(深田)
では、今の高市さんが提案している「給付付き税額控除」というのは…
(三木)
具体的によくわからないですが、将来皆さんが申告すれば、国から戻しますよという趣旨だと思われます。
(深田)
本当にその通りです。日本政府のみなさん、早くお金を返してください。今回は税法専門の弁護士の三木義一先生に、ご登壇いただきました。先生、ありがとうございました。
(三木)
ありがとうございました。





