#461 高市総裁誕生で「解散総選挙」へ!? 自民議員が恐れる最悪のシナリオとは？ 宇山卓栄氏
（深田）
皆さん、こんにちは。政経プラットフォーム、プロデューサーの深田萌絵です。
今回は著作家の宇山卓栄先生にお越しいただきました。先生、よろしくお願いします。
（宇山）
よろしくお願いします。
（深田）
前回は総裁選と今後の見通しについてお話を伺いました。現在、おそらくトップを走っているのは小泉進次郎氏だと思います。ただ、小泉氏が総理になった場合、農政がどうなるのか心配です。JAを解体して利権化したいという意図が露骨に見えています。
（宇山）
郵政民営化の二の舞ならぬ“二の米”になるのではないか、という方向に進む可能性があります。実際、地方票、いわゆる農村部の党員票は、必ずしも進次郎氏には向かわないのではないかと言われています。前回の解説でも、同氏が独走体制になるとは限らないと申し上げましたが、その第二の理由が農村票です。進次郎氏は農水大臣として、米の増産や減反政策の廃止などでは、農家にネガティブな発言をしています。その点、前回の総裁選で農村票を固めたのは石破茂氏でした。
（深田）
確かに、そうですね。
（宇山）
その『石破票』が今回はどこへ流れるのかが読みにくいのです。
（深田）
そうですね。当番組にもよく出演されている鈴木宣弘先生は石破氏とお付き合いがあり、鈴木先生は長らく「農家を守ろう」を提言されてきたので、石破氏が首相になれば、農政は良くなるのではないかという期待をしていました。ところが、江藤拓（前農水大臣）氏の「米を買ったことがありません」という失言で、小泉氏が後任になってからは、状況が一変しました。本来、石破氏が考える農政と小泉氏の進める方向は、全く逆です。にもかかわらず、なぜそんな人を要職に据えたのかという不信感が残っています。
（宇山）
おっしゃるとおりです。小泉氏が行ってきたことは、農家には受け入れがたいものであり、そのイメージは今後も強く残るでしょう。ここで、石破氏が地方票をまとめた背景に関する逸話を紹介します。地方の人々は、農政をはじめとするさまざまな課題で「アウェー感」すなわち中央からの孤立を強く感じていることが多いのです。
私は大阪出身ですが、安倍政権時代に大阪で都構想が進められようとした時に、自民党保守系は「大阪市を解体することは許されない」と反対しました。私は当時、自民党から大阪府議会議員選挙に出馬したことがありますが、その折、石破氏が何度も大阪府連に足を運び「あなたたちは大変ですね」と声をかけてくれました。「安倍（晋三）さんや菅（義偉）さん氏が無茶なことをして、維新と手を組み、橋下（徹）さんや松井（一郎）さんとともに都構想を進めようとしている。皆さんのご苦労はよくわかります」と言って、石破氏が入り込んできたのです。
（深田）
その一言で、多くの人が心を掴まれたのですね。
（宇山）
そうです。私自身も「石破さんは私たちの気持ちをよく理解してくれている」と感謝しました。ただ、繰り返しますが、石破氏は『安倍憎し』でやっているだけなのです。「安倍と菅はけしからん奴だよね」と “傷の舐め合い”をしたことで、中央政権から相手にされていなかった大阪自民党と、無役で同じ境遇にいた石破氏の間で、強い連帯感を生みました。相手にされない者同士が傷の舐め合いをすると、最も絆が強くなります。
（深田）
なるほど。(笑)
（宇山）
これは人間関係の鉄則です。傷の舐め合いは絆を格段に強くします。
（深田）
私にはそうした経験が少ないから、友人が少ないのかもしれませんね。(笑)
（宇山）
もし体験すれば、一生の友人ができますよ。
（深田）
どの“傷”を舐めたらいいのでしょうか？
（宇山）
“傷”であれば何でもよいのです。石破氏は、こうした心理をよく理解しています。
（深田）
石破氏の魅力は、まさにその点にあるのですね！
（宇山）
そのとおりです。「そうだよね、悔しいよね」と恨めしそうに言うと、みんなが泣けてくるのです。「俺たちも恨めしいんだ」という相乗効果によって、地方で『石破フィーバー』が一気に広がりました。
（深田）
見捨てられたと者同士が「どうしようか」と寄り添うわけですね。
（宇山）
そうです。これで、大阪に限らず、農村部など各地方、中央から見捨てられた地域で、石破氏は深く入り込んで支持を広げていきました。
（深田）
自民党の大阪の見捨て方は、ひどいものでした。結果として自民党は大阪から姿を消しましたよね。
（宇山）
本当に消えました。実質的に、もう存在していません。
（深田）
安倍氏と菅氏が結託して大阪自民を潰しましたよね。大阪に行くと、自民党の府連の人たちは口をそろえて「中央が全然助けてくれないから俺たちは勝てないんだ。維新にばかり塩を送っている」と不満を訴えていました。
（宇山）
そのとおりです。大阪は19ある衆院選挙区はすべて敗北し、全議席を維新に奪われました。衆議院で一人も議員を出せていないのが大阪自民の実態です。こうした中で、石破氏は地方を着実に固めました。前回の総裁選では、党員・党友票で石破氏は100票、高市氏も100票、小泉氏はおそらく60票程度だったと記憶しています。党員・党友票では、石破氏はかなり健闘していたわけです。今回、その石破氏の票はどこへ流れるのか、ここがポイントです。
まず高市氏には流れないでしょう。リベラルが好きな石破支持層は、安倍路線の継承者と見なされる高市氏を嫌悪しているからです。では小泉氏かといえば、先ほど述べたとおり、農林水産大臣として農村を敵に回すような政策を進めているので、そこにも向かない。そうなると、林芳正氏に流れる可能性が高い、このような目算が立ちます。したがって、林氏を侮ることはできません。
（深田）
私も同じ見方です。林氏は意外に強いと思います。
（宇山）
現状は三つ巴の様相で、林氏、小泉氏、高市氏の三者が拮抗しているというのが今回の総裁選の実態だと考えます。
（深田）
確かに進次郎氏も高市氏も人気があり、自民党の外部にも支持が広がっている一方で、ネットでは見えにくい「水面下の地方票の動き」があります。そこが読みにくいですね。
（宇山）
おっしゃる通りで、そこをどう読むかが難しいところです。
次の論点として『連携』があります。自民党は今後、どこと連携するのか。自民・公明のままでは法案が通らない少数与党なので、連携相手の模索が不可欠です。最有力とされるのが維新との連携です。
（深田）
維新の内部からは「今さら自民党と連立は組みたくない」として逃げ出した人もいましたね。
（宇山）
維新に最も強いパイプを持つのは菅氏です。安倍・菅体制の時に維新は大きく成長しました。むしろ、当時の菅官房長官の「別働隊」と言っても過言ではないほどでした。その菅氏が後見役として推す小泉氏が総理総裁となれば、維新との連立は進むと目算が立ちます。しかし、物事は簡単には進まないと見ています。
（深田）
それはなぜですか？
（宇山）
維新にとってリスクが大きいからです。政治の力学として「大が小を飲み込む」ことは避けられません。これまでも小政党が自民党と組めば、最終的には吸収されて消滅しました。この力学を維新は理解しています。あえて、劣化した自民党の延命に手を貸すことになれば、世論の批判は免れないでしょう。維新が自民党と組む必然性は、どこにもないと思います。
（深田）
しかし、維新は自民党と組みたがっているのではないでしょうか？
（宇山）
仮に組みたがっている理由があるとすれば『副首都構想』です。
（深田）
なるほど。ただ、住民投票では『都』にはなれません。そこは中央政府の決定事項です。にもかかわらず『都構想』というのは、単なるペテンではないでしょうか。
（宇山）
おっしゃるとおりです。だからこそ、真の『都構想』すなわち大阪の地位向上としての『副首都』を中央から得られるのであれば、維新は火中の栗を拾えます。
（深田）
確かに、ここ数か月で急に『副首都構想』や『都構想の再挑戦』といった話題が持ち上がっています。「なぜ今なのか」と思っていましたが、連立で中央に入れば、その実現に近づきますよね。
（宇山）
これを交渉材料にする可能性はあります。『副首都構想』の中身ははっきり示されていませんし、そんなに簡単に制度や権限を変えられるものではありません。
（深田）
前回の『都構想』を検討していた際にも感じましたが『都』にはならない一方で、西成区と中央区を合併し、西成区の名称を「中央区」に改めるという案がありました。そうなると、西成区の土地を大量に取得している、いわゆる反社会的勢力や中国人が大きな利益を得る構図が見えてきます。いわば“地名ロンダリング”で金儲けを狙っているように思えました。
（宇山）
おっしゃるとおりで、実態は何もなく “地名ロンダリング”で詐欺師が儲かる程度の話です。副首都機能をどう担保するのか。たとえば省庁の一部を大阪へ移転するのか、皇居を大阪へ移すのか。いずれも具体像が示されていません。青写真すら見えていないのです。これでは法案が成立するはずがありません。
結局、前進させるには副首都構想の具体論を詰めて「どこまでが可能で、どこからが不可能か」を明確にし、交渉のテーブルに載せられる水準まで固める必要があります。そうなれば交渉材料になり得ますが、現時点ではその段階にありません。にもかかわらず、維新との連携があたかも既定路線のように報じられている点については、慎重に見極めるべきだと思います。
（深田）
それに、大阪・関西万博の未払い問題もあります。被害を訴える事業者はおよそ38社に上っています。これを大阪府は逃げ回り、尻拭いをしているのは経済産業省です。
（宇山）
そうです。実際に大阪府は執行行政能力が全くありません。維新になって行政機能は低下しています。人員削減や財源縮減により、スリムになって構造改革が進んだのは評価できますが、従来の水準を維持できていない点が多々あります。維新との連携は『絵に描いた餅』ですが、その餅が今度の総裁選においてでは政治的効果を生むと思うのです。なぜなら、いま自民党議員は解散を恐れているのです。現在の劣勢下で解散総選挙になれば、勝ち上がれる議員は多くありません。臨時国会で野党が内閣不信任決議案を提出すれば、内閣は総辞職か解散の二択を迫られます。新総裁が選出されれば、解散に踏み切る公算が高い。そうなれば最も困るのは自民党の議員です。したがって、いまは「解散を避けられる」指導者を求める心理が働いています。
（深田）
やはり解散はしたくないというわけですね。
（宇山）
そこで名前が挙がるのが小泉進次郎氏です。彼ならば、維新との連携を進められるかもしれな。実現可能性は別として、そうした期待感があるのは事実です。
（深田）
進次郎氏を支えるのは菅氏であり、維新にも菅氏の影響力があります。ということは、維新から数名が離脱した動きを見るとその可能性も高まっているということでしょうね。
（宇山）
そうです。その見立てが議員票を小泉氏へと向かわせる追い風になっています。一方、高市氏は、解散に踏み切る可能性が高いと見られます。高市氏は自分の手勢がいないので、その基盤づくりのために一か八かの解散を選ぶ動機があるからです。
（深田）
確かに、高市氏は小池百合子氏と同じく、永田町の“肉食女子”で、名前を売った人です。みんなが嫌がることを思い切って実行する度胸があると感じます。
（宇山）
高市氏は周囲の顔色をうかがって逡巡する人ではありません。「自分に必要だ」と判断すれば、ためらわずに決断するでしょう。
（深田）
「このゲームを自分に有利に運ぶ」ためであれば、高市氏は解散を選ぶでしょうね。
（宇山）
その見通しが、今の議員心理を冷え込ませているのです。
（深田）
なるほど。(笑)
（宇山）
「高市氏が総裁になれば大変だ。解散を打たれてしまう。そうなれば自分たちは議員でなくなるかもしれない」と多くの議員が尻込みしているのです。
（深田）
そうですね。参政党は高市氏を推しています。神谷宗幣氏も「自民党と組むのはあり得る。最終的には党員が決めることだが」と発言しています。何か水面下で話が進んでいるのではないか、と感じます。
（宇山）
高市氏に対する「解散への期待感」が、その背景にあるのだと思います。高市氏が本気で総裁選に勝ちたいのであれば『早期解散論』を明確に否定しない限り、議員票は獲得できません。彼女のイメージに、その懸念が常につきまとっているのです。
一方、林氏にはその懸念がありません。彼は自分の人気のなさをよく理解しており、解散で勝てるとは考えていません。もし選挙で敗れれば、石破氏のように辞任して責任を取らざるを得ない。せっかく首相になっても、責任論で攻撃されるのは避けたいでしょう。したがって「林氏は解散しないだろう」という安心感から、票が林氏に流れる可能性はあります。
（深田）
なるほど。
（宇山）
「高市氏は国民民主と組むのではないか、あるいは参政党と組むのではないか」という見方があります。しかし、仮に高市氏が総裁になっても、国民民主が組むことはないと考えます。
（深田）
玉木雄一郎氏とは、そもそも相性が良くない印象です。
（宇山）
相性だけでなく、政策も合いません。確かに、積極財政や減税路線では両者に一致点があります。しかし、国家観は水と油です。高市氏は選択的夫婦別姓に反対、玉木氏はやりたいのです。
（深田）
選択的夫婦別姓については、そもそも意図が分かりにくいです。
（宇山）
そういう意味不明なリベラル政策をしたいのが玉木氏です。女性天皇を容認しているのも玉木氏です。女性天皇を容認すれば、次に女系天皇へ議論が進むのは明々白々です。それを承知で「女性天皇は容認するが、女系は不可」とするのは矛盾があります。
（深田）
皇室の在り方をここまで国民が議論するのは、本来おかしいのではないでしょうか。たとえば、宇山先生が誰と結婚するかは先生の自由であり、家のことは家で決めるべきです。同様に、私たち一般国民が天皇陛下に向かって「女性だ、男性だ」と求めること自体不敬ではないかと感じます。
（宇山）
この点は回を改めて丁寧に議論したいのですが、それでも男系の皇統を守るという観点から、天皇や皇族の皆様が何でも自由に決められるわけではありません。「男系は不要だから、明日から自分の意向で後継者を決める」といった事態になれば「少し待ってください」となるしょう。
（深田）
確かに、それは問題です。
（宇山）
極端な例ですが、天皇陛下が「皇室は廃止する。自分は天皇をやめる」と言い出したら、やはり「お待ちください」と申し上げるしかありません。
（深田）
たとえば、突然どこかの外国の方と結婚されるとなれば…。
（宇山）
その場合も「少し待ってください」と申し上げるでしょう。どの国の方であっても、同様に議論が必要になります。
（深田）
そうですね。「ちょっと待ってください」となると思います。
（宇山）
立憲君主制の下では、一定の範囲で国民が介入し、制度の根幹を守る権限を持つことは正当です。この点は改めて説明します。
話を戻すと、国民民主党はそのような立場ですから、保守派の高市氏とは水と油で、連携はあり得ません。したがって、高市氏がどこかと組んで多数派工作を行い、内閣不信任案を否決に持ち込むことはできないのです。参政党とも組めないでしょう。参政党が今の泥船自民党と組めば、党として終わりです。私は、参政党がそのような選択をするとは考えられません。周りが許さないでしょう。今の自民党体制を否定して、どのように変革していくのかとして新たな政党が発足したわけですから。
（深田）
ただ、参政党には最近、「このハゲ！」発言の豊田真由子氏も加わりました。非常に優秀な方ではありますが。
（宇山）
なぜそのような人選になったのか、私にも判断がつきません。さらに、宮城県知事選で和田政宗氏に一本化するという話も報じられましたが、これも意図が見えにくい。戦略的には、自民党と一線を画し続ける方が参政党の利益になると考えます。いずれにせよ、自民党の総裁が誰であっても参政党が連立することはないでしょう。この点からも、高市氏は多数派工作が難しく、議員票では不利になっていくと思います。
最後に、内閣の首班指名選挙について、「多数を握っている野党が連携し、自公体制を否定する可能性はあるのか」という点についてです。
（深田）
それは気になりますよね。総裁選で高市さんが選ばれても、総理にならないのではないか、という見方もありますね。
（宇山）
いいえ、自民党の総裁が内閣総理大臣になるのです。衆議院規則では、1回目の投票で過半数に届かなければ再投票を行い、2回目は過半数に達しなくても相対多数の候補が指名されます。したがって、野党が分立して自公体制が続く限り、自民党総裁が首班に選ばれるのは確実です。
ただし、野党側が本気で統一候補を出すことができれば、自公体制を一気に終わらせることができます。現在、水面下で協議が進んでいます。
（深田）
本日9月19日（金）時点で、協議中とのことですが、誰が浮上ししますか？
（宇山）
国民民主は「玉木雄一郎」で方針を固め、立憲の陣営も「野田佳彦」でまとまりつつあります。問題は、立憲民主党が「玉木」と書けるのかという点ですが、書けません。両党はもともと無能な民主党から派生したもので、似たようなものだと私は見ていますが、互いに「自分たちは相手とは違う」と強く思っているのです。積極財政などの政策以外に大差はありませんが、アイデンティティの対立が根強いのです。
（深田）
原発政策では、国民民主が推進、立憲民主が反対という違いもありますね。
（宇山）
そこもありますが、大枠の国家観は変わらず、所詮は左翼の集まりです。支援する労働組合では、国民民主は電機や自動車などのエリート労組が中心で、立憲民主は鉄道系や自治労など非エリートで、より左翼的です。いわば連合内部で“股裂き”の状態が続いており、再結集はあり得ません。
（深田）
想像以上に亀裂が深いのですね。
（宇山）
さらに、立憲と国民民主で選挙区調整の問題があります。「候補を取り下げてくれ」と頼んだのに、結局立ててきた。そのせいで落選したという不満が双方にあり、ものすごく対立しています。したがって、両党が固まらない限り、首班指名で統一候補に一本化することはできません。他にも維新や共産が他党候補名を書くこともあり得ません。だから、自民党の新総裁が首班に選ばれる展開は避けがたいのです。
そしてしばしば取り沙汰される『自民・立憲の大連立』ですが、私はあり得ないと考えます。全国規模での選挙区調整がつきません。自民と立憲は互いに批判し、各地で激しく競合しており「この選挙区は自民、あちらは立憲」というのは無理です。
（深田）
そうですね。候補者側が反発しますよね。
（宇山）
そのとおりです。大政党同士の選挙区の調整はできません。維新のように一部の地域で強い政党は調整が容易ですが、立憲は全国に候補を擁立しています。したがって、世間で言われる「増税大連立」はできるはずがないのです。
（深田）
なるほど。安心しました。「増税大連立」だけは避けたいところです。
本日は、自民党総裁選とその後の展望について、宇山卓栄先生にお話をうかがいました。ありがとうございました。
（宇山）
ありがとうございました。
