#442 アフリカホームタウン政策のワナ。『帰化は永住権より簡単』日本が異常な実態とは? 浅川晃広氏
(深田)
みなさん、こんにちは。政経プラットフォーム、プロデューサーの深田萌絵です。
今回は、行政書士の浅川晃弘先生にお越しいただきました。先生、よろしくお願いします。
(浅川)
よろしくお願いします。
(深田)
最近、話題のアフリカ・ホームタウン政策を見て、政府側が「特別ビザ(査証)を出すわけではないから安心してください。移民計画ではありませんよ!」と言って火消しをしています。しかし、私たちのような一般庶民からすると「でも来日して、何年かすると帰化して日本国籍をとってしまうんじゃないの?」と懸念していたところ、先生の著書『知っておきたい入管法』には「帰化は永住権取得よりも簡単」とあり、私は恐怖を抱きました。先生、この辺りはどう考えればよいのでしょうか?
(※1)『知っておきたい入管法 増える外国人と共生できるか』(平凡社、2019.3)

(参考)『イミグレーション・オフィサー 入国審査官物語』(最北出版、 2021.11)

(浅川)
今回のホームタウン構想を私も気になって調べたのですけれども、JICA(独立行政法人国際協力機構、Japan International Cooperation Agency)のスライドぐらいしか出てこなくて、日本の役人がこれを大々的に公表するのであれば、おそらく詳細はかなり決まっていると考えるべきだと思います。
(深田)
そうですよね。
(浅川)
にもかかわらず、詳細が出てこないし、外務省から火消しのプレスリリースが出ましたけれども、詳細は何も書いていません。問題は、どのような人たちがどれぐらいの期間、どのような在留資格でいるのか、例えば90日以内であれば短期滞在になりし、それを超える場合には別の在留資格が必要になります。何かのプログラムや交流が終わった時に帰国の担保はどうするのかなど、詳細がわからないのです。
(深田)
90日までだったら短期滞在ですか?
(浅川)
在留資格的には、短期滞在になります。
(深田)
ビザ免除になるのですか?アフリカの人は必要ですよね。
(浅川)
査証免除国でなければ必要なのですけれども、その場合はいわゆるインバウンドの一員のようなものなのです。短期滞在90日までで、90日以上は他の在留資格が必要です。分かりやすいのは留学で、当然大学や日本語学校にいなければならないというよう要件が出てきます。90日程度の文化交流であれば短期滞在でいいのですが、JICAのスライドには〈地域おこし強力隊〉の受け入れと書いてあり、そうすると短期滞在の領域を遥かに超えてしまいます。
(深田)
政府発表では「日本側は人材が不足している。アフリカ側は若者の失業率の高さが深刻なので、そこのマッチングをする」と人材不足を補うようなことを書いています。ということは、就労も視野に入れているということですか?
(浅川)
そうかもしれないですけれど、詳細が分からないので、誤解を生んでいるのかもしれません。相手国からあのような報道が出たことについて「誤解だ」というのであれば、なぜそのような報道が出たのか、相手方にはどのような説明をしていたのか、普通は協定書のようなものがあると思うので、納得できる情報を公開すべきだと思います。そうでなければこちらとしても判断できません。深田さんがおっしゃったように、政府のいうことを鵜呑みにするべきではないと私も思っているので、エビデンスをきちんと出してくださいということです。
(深田)
そうなのです。「国の言うことを信用すると必ず騙し打ちにあう」のが、我が国の手口なので、私たちは『この国の政府発表を絶対信じてはいけない』という教訓を得てきました。
特に最近ひどいのが条約関連です。「条約反対!」と言うと、外務省が「条約は決まっていません。条約の”名前”だけが決まって”中身”は決まってないので安心してください」と釈明しますが、それ一番怖いのです。なぜ、中身が決まっていないタイトルだけの条約を締結するのか、意味が分かりません。そのように国民を騙してきたので、信じられません。アフリカから来日して、そのまま定住してしまうのではないでしょうか?
(浅川)
そうならないという根拠があるべきなのですけれども、その辺が分からないわけです。その点も含めて情報公開をしないと、国民の疑念は晴れないと思います。短期滞在で来ても行方をくらます可能性は十分にあるのです。例えば、2005年に愛知万博でパビリオンの運営要員として公用ビザを取ってきた人が、消息不明になりました。
(深田)
公用ビザの人が逃亡したのですか?
(浅川)
そうなのです。そのまま残留してしまうのです。オリンピックなどでも同じことが起きるのです。オリンピック選手がそのまま残ってしまう。これは日本だけではなく、アメリカやオーストラリアでも、オリンピックなど国際的なスポーツを開催すると選手がそのまま残ってしまうのです。
(深田)
「オリンピックが終わったので、帰りなさい」と思うのですが、どういうことですか?
(浅川)
そのまま在留できるいい機会だと思ってしまうのですよ。過去に前例は多々あるので、今回の”ホームタウン・プログラム”でも職務が終わった人を、きちんと帰国させるのか確約をとる必要があります。
(深田)
そうですよね。日本に就労に来た人は、ブローカーに騙されていない限り、居心地が良いから定着してしまう人が多いではないですか。
(浅川)
どこの大学とは言いませんが、エチオピアの北隣りにあるエリトリアから留学生で受け入れたら、いつの間にかいなくなり、どこへ行ったのかというと、アメリカのビザを取ってアメリカに行ってしまいました。
(深田)
え⁉抜け道に使われているということですか?
(浅川)
そうです。ステッピングストーン(踏み台)として使われてしまいました。ということで、B1(商用)かB2(観光)か、短期滞在のビザを取得して、アメリカに滞在したらしいです。そのようなことは、入国管理の現場では、現実によく起こります。出国してくれれば良いのかもしれませんが、日本に不法残留として残る可能性も十分あるのです。
(深田)
そうですよね。毎年、来日後行方不明になる外国人が1万人ぐらいいるようです。その人たちを探さないのですか?
(浅川)
探せないですよね。どこにいるのか分からないのです。公的な手続きをする時は、在留カードを持ってないとできないし、偽造の恐れがあるのでICを読み取って真贋判定をします。それは、銀行口座開設など、いろいろな場面で必要なのですが、闇社会や地下経済などに行くと在留カードがなくても過ごせるので、そのようなことが多々起こるのです。
(深田)
そうですよね。日本政府は「アフリカ・ホームタウン政策で、特別ビザを発行しません」と言っているけど、特別ビザがなくても来たら姿を消す人がいるかもしれないということですね。
(浅川)
その可能性は十分あるので、帰国の確証が必ずいると、僕は思うのですよ。そこも説明が不足しています。
(深田)
ところで、先生は著書に「帰化は、永住権取得より簡単だ」と書かれていたのですが、この違いはどうなっているのですか?
(浅川)
簡単という根拠は居住要件で、永住権は原則10年で、帰化は国籍法上、5年経たないと取れないので、10年と5年を比較すると当然5年の方がゆるいわけです。
(深田)
おかしくないですか?アメリカは逆ですよね。
(浅川)
おかしいですよ。何が一番おかしいのかというと、オーストラリアでもアメリカでも、まず期限付きのビザで来ます。就労ビザでも良いです。そして、永住権を取ります。永住権を取ってようやく、帰化の申請資格ができるのです。したがって、ホップ・ステップ・ジャンプが明確なのです。ところが日本の場合は、永住権を取らずに帰化の申請ができてしまい、二重行政のようになっています。
(深田)
永住権の申請はどこにするのですか?
(浅川)
入管庁(法務省出入国在留管理庁)です。
(深田)
帰化の申請は?
(浅川)
法務省民事局ですよね。
(深田)
ここで二手に分かれているからですか?
(浅川)
根拠法が帰化は国籍法で、永住権の場合は入管法(出入国管理及び難民認定法)なのです。したがって、管轄も根拠法も違うのです。
(深田)
ここを一本化しないといけないということですね?
(浅川)
一本化もそうですし、僕の従来からの持論なのですけれど、永住権を取って初めて帰化を申請できるようにしないと本末転倒なのです。当然国籍の方が、権利性は高いです。国民にするわけで、国民になると絶対に強制送還はあり得ないです。国民を強制送還できません。
永住権は、例えば、罪を犯して1年を超える懲役に処せられたりすると退去強制事由に該当するので強制送還されるかもしれない。その余地がまだ残されていますが、国籍を取ると国民になるので、送還はできません。国籍はもの凄く権利性が高いのです。その国籍の要件が5年で永住権の10年よりも短いというのは、かなり矛盾していると、前々から思っていました。
(深田)
驚きました。法律の歴史からいうと、国籍法が先で入管法が後ですか?
(浅川)
入管法が後なのです。国籍法は昭和25年(1950年)に制定されたのですが、母体は明治32年(1899年)にできました。
(深田)
明治の国籍法を使っているのですか?
(浅川)
帰化の規定は、明治の国籍法を引き継いでいます。明治の国籍法の段階から5年だったのです。それが、今の日本国憲法ができた後、明治の国籍法を廃止して今の国籍法ができたのですが、帰化の規定は、ほぼ複製ですね。ただ運用がどうなのかというところがあります。それほど歴史があるのですが、入管法は昭和26年(1951年)にできました。
(深田)
国籍法を突貫工事で作って、その後、入管法を作ったのですか?
(浅川)
そうなのですよね。国籍帰化の制度部分と入管制度部分が、最初から別枠でできたのです。本来であればアメリカなどのように永住権を取らないと国籍を申請できないものですが、誰かが意図的に行ったのではなく、歴史的な経緯で、ずっと修正されずに来てしまったということです。
(深田)
日本は、そのような法律が結構ありますよね。
(浅川)
時代に合致しなくなってしまったのですね。
(深田)
例えば、由緒正しい歴史がある旅館が、代を重ねるたびに増築を繰り返して、消防法に違反した巨大な旅館になったようなもので、そういう法律の運用は、怖いですよね。
(浅川)
ここは、大きな矛盾ですね。
(深田)
日本で外国人が就労する時は、どういう方法があるのですか?ビザですか?
(浅川)
まず、話の全体像を整理しておくと『外国人』とは、入管法の定義では日本国籍を有しない者ということです。無国籍の人も外国人になります。日本の外国人には4つの類型があると思います。
ひとつは、訪日外国人です。90日以下の、いわゆるインバウンドの人たちです。この人たちは、ほぼ帰国するので、観光公害を除いては問題ありません。
次は在留外国人です。留学生や日本人の配偶者、技能実習生や特定技能などの就労ビザで3か月を超えて1年から5年程度の期間在留する人たちです。この人たちは期間限定です。日本人の配偶者の場合でも3年です。3年後も日本人と結婚しているのであれば、もう1回許可申請を出して、審査をするという時間の区切りがあるのです。
三つめの類型が永住外国人です。永住許可というものがあって、在留外国人が居住要件10年とか他の要件を満たせば、永住してもよいと、日本政府から許可をもらえるのです。そうすると無期限に日本にいられます。これが永住外国人です。
最後が不法滞在外国人です。不法在留と不法入国というのがあって、不法在留は在留資格を持っていたが、期限切れでそのまま残ってしまった人です。不法入国では、今はなくなりましたが、昔スネークヘッドという組織が中国から船で密入国をさせていました。
(深田)
最近の不法入国は飛行機ですよね?
(浅川)
不法残留だったり、偽造パスポートを使って入った場合、不法入国になります。在留資格を無くして日本にいる人たちで、埼玉県川口市の仮放免されたクルド人などが該当します。
(深田)
不法残留ですか?
(浅川)
不法残留者です。入管法の観点から外国人を見た場合、この4つの類型があることを頭に入れておかないと、議論が混乱するのです。インバウンドの観光公害は、訪日外国人です。川口のクルド人は、どちらかといえば不法滞在のような問題ですが、難民認定制度に関係しています。この4つの分類を念頭に置いておかないと議論が噛み合いません。
(深田)
そうですね。今後、やって来るアフリカの人たちが、90日以下の訪日外国人であれば就労資格はないですね?
(浅川)
ないです。
(深田)
一定要件を満たした、2番目の在留外国人であれば、どうなりますか?
(浅川)
何の在留資格で申請するかにもよりますが、地域おこし協力隊であれば、技術・人文知識・国際業務あたりだと思います。技術・人文知識・国際業務という在留資格は、いわゆる就労ビザと言われているもののひとつです。
結局、90日以内で訪日外国人の範囲内の就労を伴わないような短期的な文化交流の話なのか、就労ビザを取って、実際に就労してお金をもらう話なのか、このあたりを開示しないと、今回のホームタウンの話は分からないのです。
(深田)
今回のホームタウンは、それらの就労ビザではないですか?
(浅川)
地域おこし協力隊であればそうですね。ただ、これは大学卒という要件があります。それから私が懸念しているのは、日本語能力です。外国人がドロップアウトしてしまう大きな原因は、やはり日本語能力の欠如なのです。今回のホームタウンでくる人たちの日本語のレベルが、どの程度なのか、最低でも”N5”が必要です。
(深田)
N5とは何ですか?
(浅川)
日本語能力試験で、最上級がN1で、最低級がN5です。N5では平仮名・片仮名ぐらいは読めます。技能実習生に関しては、N5に合格する必要があります。就労ベースで来る人たちを含めて、その辺りを詳細に開示すべきです。90日以内であれば、通訳をつければ良いかもしれないし、英語ならば話せる日本人も多いと思うので問題はないかもしれません。地域おこし協力隊ならば、役所の中で働くので、日本語能力がないと支障がでます。
(深田)
特別ビザは出さなくても、就労ビザで5年勤められるのですか?
(浅川)
いきなり5年は出ません。1年が更新され3年になり、基本的によほど問題を起こさなければ更新はされると思います。
(深田)
そうすると、今の枠組みで、特別のビザを出さなくても自動的に就労ビザが更新されて、5年経ったら帰化できる要件を満たすのですか?
(浅川)
申請できる要件を満たしますが、許可されるかどうかは別問題だと思います。
(深田)
先生のお話を伺っていると疑念は深まるばかりで心配です。
(浅川)
詳細が開示されてないので、私も評価がし難いです。私は外国人の実務をやっていたので、仮に短期で来ても所在が分からなくなる例が多くあり、そういうことにならないような枠組みをきちんと付けておかないと危うい気がします。
(深田)
今回は、外国人入国に関して恐ろしい実態を見てこられた行政書士の浅川晃弘先生に「アフリカ・ホームタウン政策は何も決まってないから分からないと言いながら、実は永住よりも帰化が簡単という恐ろしい」という事実を教えていただきました。先生、ありがとうございました。