賃金上昇の好循環はウソ!日本人が貧乏になる! 輸出主導経済の正体とは? 田村秀男氏 #432

【目次】
00:00 1.オープニング
00:38 2.日本の経済状況の実態
04:26 3.経済音痴の政府・官僚・メディア
07:59 4.日本の賃金が上がらない理由
17:00 5.新刊『亡国のザイム原理主義』と『米中経済消耗戦争』紹介
(深田)
皆さん、こんにちは。政経プラットフォーム、プロデューサーの深田萌絵です。今回は産経新聞特別編集委員の田村秀男先生にお越しいただきました。先生、よろしくお願いします。
(田村)
よろしくお願いします。
(深田)
最近インフレが悪化して、国内経済がかなり停滞していますが、そのあたりをお話しいただけますでしょうか。
(田村)
そうですよね。7月29日に、内閣府が経済財政白書を発表して『明らかにデフレの状況にはなく…』などと、いかにも『これからは賃金と物価の好循環に入ります』と楽観論を述べたのですが、まずグラフを見ましょう。

(深田)
はい、グラフを見ます。うわあ、すごいなあ!
ここからどうやって好循環を見出すのでしょう?悪循環にしか見えません。赤いのが消費者物価数ですね。
(田村)
日経新聞などが、これをそのまま鵜呑みにして「好循環だ、デフレではない状態だ」とそのまま大本営(日本政府)報道をやっているわけです。
(深田)
日経新聞がそんなことをやっているのですか?
(田村)
経済財政白書に書いてあることをそのままプレイアップ(強調)して報道しているわけですね。残念ながら、これが日本のメディアのお粗末な実態なのです。真っ赤な嘘を言う政府も政府だけれども、それを真に受ける報道機関も報道機関なのです。
(深田)
実質賃金は下がり続け、消費者物価指数は上がり続けている。これはデフレ脱却ではなく、スタグフレーションに突入のようなものですよね。
(田村)
そういうことですよ。「賃金と物価の好循環が始まっている」など、何を根拠にそのようなことが言えるのかということです。
(深田)
悪循環にしか見えません。
(田村)
もう一つの経済の視点は、特に日本は『失われた30年』というように中長期的なトレンドの話で、このトレンドから脱しているかどうかが問題なのです。それが、全くと言っていいほど脱していません。
2025年は春闘で5%以上の賃上げがありました。だから「良かったですね。物価も上がっていますが、賃金はそれ以上に上がっています」と言っているのですが、一方、厚生労働省の最新の統計では、6月までの実質賃金はマイナスで、下がっているのです。
(深田)
マイナスですか⁉
(田村)
中小零細企業を全部合わせると、実際は物価に追いついていないのです。春闘と言っても経団連企業ベースで大企業が中心です。こちらは5%の賃上げかもしれないが、日本の雇用の大半を引き受けているのは中小零細企業です。こちらは5%以上の賃上げなど、とてもできない状況なのです。
(深田)
そうですよね。
(田村)
物価に追いつかないから実質賃金が下がるわけです。このトレンドが過去30年間ずっと続いているのです。
(深田)
負のスパイラル、負の循環が続いているのですね。
(田村)
経済は一瞬の状況だけで判断してはいけないのです。きちんとトレンドを頭に入れた上で報道機関は報じないといけないのに、こともあろうに経済メディアがその様(ざま)なので、政府の大本営発表にそのまま乗せられてしまっているのです。
ところが、若い人中心に日本国民は、この嘘は見抜いているわけですよ。
(深田)
中国政府並みに信用されていないですよね。
(田村)
信用されていない。こういう嘘はもう完全に見抜かれています。だから自由民主党は参議院選挙でも惨敗して、与党は参議院でも少数与党になった。それでも石破茂という人は「いやいや、我々は依然として比較第一党でございますから」と言うのです。
(深田)
『比較第一党』という新しい言葉が誕生しましたよね。
(田村)
「だから責任があるので、政権を続けなければなりません」ということを平気で曰(のたま)い、退陣拒否、続投をする。「トランプ政権との関税合意もありました」と言うが、とんでもない。トランプ関税は日本が一方的にむしり取られるというて話です。
この人は何をもって成果と考えてるのか。日本は政治もメディアも霞が関官僚も、みんな堕落の極みで、頭脳崩壊ではないかと思います。
(深田)
そうですよね。私もそう思います。
ただ、国民のための政治をしていない状態は、石破政権から始まったわけではなくて、自民党は何十年も棄民政策を取ってきたと思います。
(田村)
脱デフレという試みはやったのだけれど、結局は財政を引き締める緊縮財政と増税しかやらなかったのですね。
(深田)
安倍政権時代もそうですね。
(田村)
そうです。金融と円安だけで勝負したのです。
(深田)
本来であれば、産業政策でイノベーションを推進して成長させなければならなかったところを、金融政策だけでやってしまったというのがミスだったと思います。
(田村)
金融政策で何が効くかというと、為替レートですよ。円安に持っていけばいいという安直な考え方で、結局やったのは輸出主導型経済です。今、日本の国内総生産(GDP)に占める輸出の割合は実に23%を超えています。1970年代の高度成長期やプラザ合意(1985年)の頃は、小学校や中学校の教科書で『輸出立国』ということを教えられたかもしれない。あの頃、輸出立国と言われた日本経済における輸出のGDP比率はどのくらいだと思いますか?
(深田)
分からないです。
(田村)
10%です。今は23%ですよ。
(深田)
ああ、しかもその23%は円安に頼っているだけですよね。
(田村)
つまり、輸出を除く内需が縮小しているので、GDPにおける輸出の比率だけが大きくなっています。では、輸出全体で儲かっているのでしょうか。トヨタなど一部の輸出企業は、円安になれば収益が上がります。ところが、この収益は、ほとんどがアメリカや中国などが、そのまま留め置いているわけですよ。したがって、連結決算をするとトヨタは「輸出や円安あるいは現地生産で、収益が史上最高益です」となるのです。しかし、そのお金は日本に還流しないのです。
したがって、日本は国内投資がされず、需要が掘り起こされないので、日本の国内経済は成長しない。それで、賃金が上がらないので、日本国民が貧乏になっている。これが輸出主導型円安経済なのです。
(深田)
しかも、社会保険料も税金も上がっています。手取り額が減ってきているので、使えるお金がなくなり、内需がシュリンク(縮小)しているということですよね。
(田村)
そういうことです。全体としては輸出が伸びてもいいが、内需は輸出並み、あるいはそれ以上に伸びないといけない。内需を伸ばすためには、賃金を上げて、国内投資を増やすことなのです。
ところがその投資をするお金は全部海外に留め置いたままです。円安なので、ドル建てで資産を海外に置いておいた方が儲かるわけです。このようなことばかりをしてきたので、アベノミクスも失敗したのです。
未だに、これらのビジネスモデルをやろうとしています。今回のトランプ関税合意というのも、結局はこのビジネスモデルをさらに加速させようというものです。つまり、政府マネーでアメリカに80兆円を投資をして、日本には投資をしないのです。
しかも、自動車の関税が25%から15%に下がるので、もっと輸出を増やそうということです。しかし、この15%の関税は対米輸出で値下げすることになるので、それを誰が負担するかと言うと、日本の自動車産業の広大な裾野産業である中小零細企業になります。ということは、日本国民が貧しくなるということで、めちゃくちゃです。
(深田)
そうですよね。めちゃくちゃな話ですよね。それでも、自民党はこのまま石破政権でもう1回衆院選をやって、議席を減らして新しいステージに入った方がいいのではないですか。
(田村)
石破政権は早く退陣すべきですよ。
(深田)
おそらくこれは、石破さんがいいとか、誰がいいという話ではないと思います。自民党は右派、左派、誰が首相になっても、いつもの自民党に戻ります。
(田村)
そこですよね。石橋政権というよりも自民党政権がやってきた経済政策の、何がまずかったのか。日本は30年間もゼロ成長を続け、今後もっとひどくなりそうです。
衆議院選挙、参議院選挙でボロ負けしているということは、有権者はとうに目が覚めているわけで、目が覚めていないのは政治の方です。
(深田)
いいえ、分かっているのですよ。確信犯です。目が覚めていないはずがないですよ。
(田村)
非常に困ったものですが、石破政権が潰れても次がいないではないかとも言います。
(深田)
小泉進次郎首相誕生という話もありますが、私たちはどうなるのでしょうか?
(田村)
いろいろな議論がありますが、次の時代はいくら何でも、かなり反省するのではないですか。これまでの政策モデルではだめなので、何をすればいいのかぐらいの議論は出てくるでしょう。しかし、石破さんが居座っていてる以上は何も動かないのです。
(深田)
ですから、自民党が強い限りだめなのですよ。次の衆院選で自民党がさらに議席を減らすと、野党が頑張り始めるので、そこからもう1回考えてもいいのではないかと思いますよね。逆説的ですが。
(田村)
参政党や国民民主党伸びているが、どのような政治形態になるのか、新聞社で言えば政治部の政局報道に任せるとして、私のような経済の専門記者としては、やはり何が経済政策モデルとして間違えていたのかを議論する必要があると思っています。
日本はなぜ30年もこうなったのか、抜本的に見直して、日本再生のための牽引者になる政権をどうやって作るのかを考えないといけないのに、その一番障害になっているの石破政権です。それが、このまま居座ろうとして政治が混乱して、野党もみんな乱立で、まとまりがないです。
(深田)
いや、それがいいのですよ。これが民主主義ですよ。
(田村)
まとまりがないのがいいのか?
(深田)
カレーにはいろいろスパイスが入っている方が美味しいじゃないですか。
(田村)
それも大雑把な話で(笑)、困ったものだ。
(深田)
今までは自民党が出した法案や政策しかなかったわけですよ。どれが“マシ”なのか選択肢がないのです。
(田村)
萌絵ピー(深田さん)は政党を作るつもりですか?
(深田)
萌絵ピーは政党なしで無所属です。
(田村)
出るつもりなの?
(深田)
準備はしています。増税帝国の悪の帝王を打ち倒しに行かないといけないので。
(田村)
すごいね。やはり、若い人が頑張くれるのがいいです。
私は50年以上経済記者をしていますが、これほど無能で無策な政権はありません。みんな、それぞれ問題はあって、私は消費税増税には反対でボロクソに叩いてきたけれど、一応「こうしないといけない」と、政治家なりの決意がありました。
(深田)
ああ、それは国民受けのポーズですよ。やっていることは国民を苦しめているだけなのです。ただ、こういう過渡期が必要なのではないかと思います。
(田村)
過渡期を何年やっているのかということですよ。
(深田)
30年ぐらいですけど、自民党一強だったので、何の議論も起きなかったわけです。
(田村)
この失われた30年間、消費税がなぜ悪いのかということを、私は言い続けてきたわけです。それで『やっと有権者がついてきたなあ』という思いですよ。
(深田)
先生にも、財務省解体の先陣を切ってほしいです。
(田村)
いやいや、以前から財務省の問題を指摘してきたので、今更、年老いたジャーナリストが言っても嫌がられるでしょう。
(深田)
いえいえ、今ならザイム原理主義の教祖になりますよ。ここに新刊『亡国のザイム原理主義』(かや書房)があります。
(田村)
ザイム原理主義ね、森永卓郎さんが『ザイム真理理教』でベストセラーを出されましたた。亡くなられた森永さんは、私と生前に懇意にしていただいたのですが、その森永さんがよく参考にしてくれたのは、私の記事だったわけです。
実は、森永さん以前から『財務省「オオカミ少年」論』(2012年刊行)とか、財務省の消費税増税がいかにまずいのか、散々書いてきました。そういうこともあって、森永さんは亡くなったけれど、私は私なりに、まとめてみようと書いたのが、この『亡国のザイム原理主義』という新刊で、7月30日発売です。
(深田)
おめでとうございます。
(田村)
同時に、『米中経済消耗戦争』(ワニ・プラス)という本も書くことになりました。これもほぼ同時に本屋さんに並ぶと思います。
(深田)
『亡国のザイム原理主義』は国内のことで、『米中経済消耗戦争』は米中問題ですね。
(田村)
『米中経済消耗戦争』はトランプ関税問題と中国及び日本経済ですね。この2冊は、日本はどのようにすればよいのかという点ではかなり共通します。
特にザイム原理主義というのは、消費税増税を中心とする財政の均衡主義がどれほど日本国民を苦しめてきたかということで、早く撤回すべきなのです。こういうバカの壁を早く壊さないといけないというのが、この『亡国のザイム原理主義』という本です。中身はデータに基づいていますので、客観的に「これはこういうことだ」と、しっかりまとめ上げたつもりです。
(深田)
皆さんには是非ともこちらの新刊をAmazonあるいはお近くの書店で注文いただければと思います。
今回は、産経新聞特別編集委員の田村秀男先生にお越しいただきました。先生、ありがとうございました。