#7ー 東大教授 鈴木宣弘 『世界で最初に飢えるのは日本』

(深田)

政治と経済の話を分かりやすく、政経プラットフォーム、ITビジネスアナリスト深田萌絵がお送りします。

今回は東京大学大学院特任教授鈴木宣弘先生にお越しいただきました。先生よろしくお願いいたします。

今回は先生に『世界で最初に飢えるのは日本』のテーマで色々と教えていただきたいのですけれども、今の日本の食料自給率はカロリーベースで約4割弱なので、今もし日本に有事か何かが起これば、一番最初に飢えるのは日本だろうという先生のご意見に対して、反論ではないのですが、実は日本は世界5位の農業大国だと主張をされている人もいらっしゃるのですが、こういった議論に対して、先生はどのようにお考えでしょうか?

(鈴木)

農業生産額ベースで測れば、食料自給率は7割ぐらいあるのです。それで日本は比較的農業生産額が大きいのです。世界的にも今は10位ぐらいになっていますが、それでも大変高い順位にあるわけです。

何で見るかによって違ってくるわけです。38%という自給率はカロリーベースで、どちらで見ればいいのかですけれども、どちらも大事だと思うのです。農業生産額が多いことは、それだけイチゴとかサクランボとかの、とても付加価値のあるものをみんな頑張って生産している。だからそういう経営ベースで日本は頑張っていることを示す指標としては生産額、それからそれを元にした自給率が重要だと思います。

ただですね、いざ海外から物が入って来なくなったりした時に、国内の農産物でどうやって命をつなぐかというとカロリーを生むもの、やはり体のエネルギーをしっかり摂れるかどうかだから、重要になってくるのが穀物などのカロリーを生むものですよね、それで日本はカロリーベースで、国内で体のエネルギーをどれだけ賄えるかを指標にした自給率を計算しているわけです。

(深田)

日本は穀物の生産量が比較的低いということなのですか?

(鈴木)

米は随分作っているじゃないかと言われますけども、小麦は9割ぐらいが輸入ですよね、大豆も94%が輸入で、トウモロコシはほぼ100%輸入なわけです。だからそういうものが極端に低いので、日本は穀物自給率で見ても28%でさらに低くなるのですね。

(深田)

穀物ベースだと28%しか出来ていないのですか。

(鈴木)

それだけなのです。世界の国々はカロリー計算をしてカロリーベース自給率を出すのが面倒くさいので、有事、不測の事態になればカロリーを生む穀物がどれだけ国内で手に入るかで、穀物自給率を代替指標にしているのです。

それで行くと日本はさらに28%という極端に低い数字になる。だから私達は不測の事態になって物が入らなくなった時に、もちろんイチゴやサクランボも大事ですけど、私達はサクランボだけ食べて生きていくわけにはいかないので、お腹にたまるというか、体のエネルギーを生むものを、どれだけ国内で手に入れられるかが大事になってくる。

(深田)

実はそれが28%しかないのですね。

(鈴木)

そう、穀物で言うと極端に低いわけです。

(深田)

有事があった際に、海外から穀物の輸入が止まってしまうと、日本は実は危ないのですね。

(鈴木)

そういうことですね。この点はアメリカのラトガース大学が最近学会誌に論文を書いたのですけれども、局地的な核戦争が起きただけでも、被爆による死者よりも、国際物流が止まることによる餓死者が非常に問題になる。それで3億人ぐらいの人が世界で餓死するが、それは日本に集中する。世界の餓死者の3割が日本人で、日本人口の6割、7200万人がこれで餓死してしまうという数字を出したのですね。

(深田)

それはセンセーショナルな数字ですね。

(鈴木)

そうなのですよ。非常にこれはショッキングな数字で。だからそれが穀物自給率、カロリーベース自給率が非常に低いということの反映ですよね。

でもね、もう一つ大問題があって、この38%と言っている自給率は、本当にもうちょっときちんと計算すると、さらに低いことが分かってきます。いま世界的に食料危機というか、物がなかなか入りにくくなっているじゃないですか。それで問題になっているのは化学肥料ですね。

(深田)

確かに、ロシアのウクライナ侵攻の後から、肥料の輸入がかなり滞っているという話を伺います。

(鈴木)

はい、滞っている。それが大きな問題になりましてね、日本は実は化学肥料の原料のほぼ100%輸入に頼っているわけですよ。

中国に一番頼っていたのだけど、中国も自国の需要が増えたから、もう売ってあげませんよと言い始めた。それからロシアとベラルーシは、日本は敵国だから、まさに「カリウムの鉱石は売りません」と言い始めた。それで、それが本当に止まったらどうなるかと考えると、38%の自給率は実質22%まで下がる。化学肥料がなかったら収量が半分になると大体想定できます。さらに問題は種なのですよ。

野菜の自給率は8割ある、随分作っていると思うじゃないですか。でもその種は9割が海外から運んできているわけですよ。

(深田)

それは外国製の種だけではなく、国産の種に切り替えていくことは難しいのですか。

(鈴木)

そうですよね、国内で種取りすればいいわけですよね。今はもう国内で、広い面積もないし雨も多いからというので、海外の大きな畑で種取りしたものを日本に持ってきた方がいいだろうとなってしまい、9割を海外から入れることになった。それが止まったら野菜の自給率も8割が本当は8%になってしまいます。

深田さんが仰るように、なぜ日本で種取りが出来ないのか。出来るはずなのですけども、もうそれが輸入を前提にした流通構造というか、そういう取引の構造ができてしまっているものですから、今すぐそのようにしようという動きはなかなか十分にないのです。

むしろ野菜だけじゃなくて、米などの種は日本で今全部種取りしているのですが、そういう米の種も、海外も含めたグローバル種子農薬企業とかに差し出してしまうような流れを強める、種の法律の廃止改定も行われたので、これから益々種を海外に依存する傾向が強まる可能性があるのです。

(深田)

種苗法の改正が数年前にあり、あの後から種の研究ですとか開発に対する予算が大幅に削られたという話は伺ったことあるのですが、そういったところはどうなのでしょうか。

(鈴木)

まさにそこが問題になってくるわけですよ。米・麦・大豆の種は、国がお金を出して県の試験場で良い種を作り、安く農家に供給するのを、まず「やめろ」と種子法を廃止し、さらに「いい種は企業に渡しなさい」という法律、譲渡する法律まで作ってしまった。

(深田)

それは今まで日本国内で研究開発された、私達の、日本人の農家さんたち、そして研究者さんたちが汗水流して作った研究成果を、無償で移転しろということなのですか?!

(鈴木)

無償とは限りませんが、譲渡しろと言われたら何がしかの、もちろんお金は発生するかもしれませんが、とにかく渡さないといけない、譲渡しないといけない。これは農業競争力強化支援法8条の4項と言われるところで、そういう事が決ったものです。例えば福岡県では「あまおう」という美味しい苺があるじゃないですか。あの種を、苗を、知権をその法律に基づいて企業に渡しなさいという要求が来たわけです。

それで福岡県議会で喧々諤々、なんとかしようとしたのだけど、法律で決まっていると言うので、もう「あまおう」の知権をどこかの企業に、それは海外かどうか分かりませんけど、渡さざる得なくなった事が実際に起こっているわけです。

(深田)

それは大問題ですよね。これまで日本の農家さんが努力をして、研究改良をして、「あまおう」という素晴らしいブランドを作ったにもかかわらず、その知権・ノウハウ、あるいは特許のない中身などを「必ず譲渡しなければならない」のがその強化法ですか?

(鈴木)

ええ、農業競争力強化支援法という。

(深田)

農業競争力強化支援法は、実は農業競争力「弱体化法」だったということですか?!

(鈴木)

その通りです。私もそう呼んでいます(笑)

(深田)

(笑)驚きですね!

(鈴木)

更にさっき言われた種苗法ね、種苗法の改定によって自家採取を制限することになったわけです。だから企業はそれで種を手に入れる。しかし農家さんが自分で種取りして植えることができると、次の年から種が売れなくなるので、だから自家採取、自分で種取りするのはもう制限してくれ、ということで、種苗法も改定したわけですね、自家採取をなかなかし難いようにしたわけです。

(深田)

この自家採取というのは、ビジネスではなくて、自分たちで食べる分は許されているわけですか?

(鈴木)

まあ、そういうことですね。

(深田)

自分たちで食べる分は許されているのだけれども、自分たちで育てた苗から種を取って、それを再々利用して、次の作物を作るのに使ってはいけないと法律が変わった。

(鈴木)

そうです、登録されている品種については。在来種とかはいいのですけども、登録されていない皆がずっと使ってきたものはいいのですけれども。でも、いずれにしても今言われた通り、種はもう長い歴史をかけて、みんなの沢山のコストをかけて、ここまで作り上げてきた、ある意味特別な、特許と言ってもよい。他のものとは違う、いわゆる公共的な面があるじゃないですか、みんなで作り上げた、そこに莫大な費用がかかっているわけですよね。

(深田)

いわゆる公共財のようなものですよね。

(鈴木)

そうです。そういうものを企業が手に入れたからといっても、公共性が高いから独占できない、農家には自家採取の権利がやはり認められるべきというのが国際ルールなのです。他にはイスラエルもそうらしいですが、非常に例外的にそこに制限をかけたのが日本の今回の種苗法の改定であると言われています。

(深田)

それって国際協定に反して、農家の権利を奪ったという形になるということですか。

(鈴木)

端的に言えば、そういう風に言われています。

(深田)

それは非常に問題ですけれども、それは農林水産省がそういったルールを推進しているのでしょうか。

(鈴木)

表向きの実行部隊は農水省ですけども、「君らがきちんと説明して、国会でも通すように頑張れ」という天の声というか、グローバル種子農薬企業とかが、アメリカ政府を通じて日本の官邸に「こういうことを進めてほしい」と要請があれば、規制改革推進会議に降りてくる。

いま与党の農林族とか、あるいはJA全中さんとか、農水省が以前はかなり農業政策に主導権を持っていたが、今はそれが崩れています。もう農水省も、上から降りてきた政策・法律の廃止や改定をやる実行部隊にさせられている。

本当はやりたくない、自分たちが守ってきた種子法とか種苗法を、なんでこんな形で泣く泣く変えなければいけないのだ。でも次の日は自分が国会で説明をしなければいけない。シドロモドロの説明をさせられて、そして怒られている。それが実態だと私は思っています。

(深田)

それはやはり2014年に改定された公務員制度ですね、あの公務員制度の改革によって、官邸主導の公務員人事に変わり、官僚ももうすでに課長補佐クラスまで官邸に人事権を握られているので、以前のように国を守るために政治家に意見を言う力を発揮できなくなった。こういった背景がやはり関係あるのでしょうか。

(鈴木)

大きいですね。この種の関係とは少し違う畜産の関係でしたが、ある局長は「これだけはやめてほしい」と、「生産者も消費者も困るから」と官邸に進言したのですよ。そうしたら「ああ、お前は偉いな、よう言ったぞ」ということでクビだと。事務次官候補だったのですけど。

(深田)

クビですか。

(鈴木)

一年別のポストについて、その後退職という形になった。実質の首切りですね。

(深田)

官僚の首を切れるのですか。

(鈴木)

実態的にはそういうことですね。事務次官になるはずの人が、横滑りで別の局長になって「もうそれで終わりでしょう」みたいな話になった。その時に若い課長も一緒に説明について行ったのです。そうしたら「君もまあ若いのによう来たよね」みたいな感じで「それじゃあ君もね、見せしめじゃないけど、どっか行ってもらおうかね」みたいな形で、その若い課長までどっかに行ってしまった。そういう界隈では有名な話がありました。

(深田)

見せしめ人事ですね。

(鈴木)

そうです。だから仰るように、そこらの見せしめというか、逆らうとどうなるかが、もう皆を震え上がらせているわけですよ。ただね、農水省はやはり、なんとか農家を守りたい気持もあるから、法律を変えられても、省令とかのレベルで、うまいこと抜け道を作ろうとして、やろうとするわけですよ。

その辞めた局長の次の局長は、なんとか農家の皆さんには省令のレベルで守れるようにするから、俺は頑張るから大丈夫だよと最初は言ってくれていたのです。実際に頑張っていたのだけど、上から目をつけられて「なんか小細工しているのじゃないかな」みたいな話で「分かっているよね、君も」と言われて、そこまでで思い止まらざるを得なくなった。

そこで思い止まったから、彼は順調に行ってトップの事務次官までやれたわけですよ。だからその様な人事がなっていますのでね、なかなか思いはあっても拭えないという仰る通りの構造が、非常に強まっているのは間違いないです。

(深田)

やはり2014年の公務員制度改革が、国の未来を考えている官僚の、発言から行動まで変えてしまった。

そして農業ですよね、食料自給率問題を解決していかないと、日本は「実は国民の命が危ないのだよ」のところにまで来ている。そこも上に立つ政治家が全く関心を示さないのは非常に恐ろしいことですよね。

(鈴木)

そうですよね。種の問題をとっても、そんな風にただ色んなグローバル企業などの要請が、色んな形で来てやらざるを得ないと言って、今のような一連の事をやってしまえば、本当に種が、野菜だけじゃなくて、米なども、海外の企業に9割依存するようなことになる可能性が出てくるわけですよね。そうすると種がないのだから、私の計算では最悪の場合、自給率は実質9.2%になります。 

種を止められたらね。もし不測の事態になったら、日本人は1割未満の人しか生き延びられない。だからラトガース大学の、日本人の6割が餓死するという計算よりも、実質はもっともっと大変なことになりつつある。そのことについての判断、国家観というものが、大局的見地というものが消えてしまっていることが恐るべきことです。

(深田)

本当に恐ろしい事だと思います。視聴者の皆さんも、今回の先生の問題提起、こちらの『世界で最初に飢えるのは日本』という書籍の方で詳しく解説されているので、是非ともご一読いただければと思います。

今回は東京大学大学院特任教授・鈴木宣弘先生に日本の食料危機について、ご解説いただきました。先生ありがとうございました。

政経プラットフォームでは毎回様々なゲストをお招きし、大手メディアではなかなか得られない情報を皆様にお届けします。

日本を変えるため「行動できる視聴者を生み出す」コンセプトで作られたこの番組では、皆様のご意見をお待ちしております。

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