#359 農民議員が激怒!!農家のせいにするな!コメ不足の原因は官僚と政治家だ! 岡本重明⽒×深⽥萌絵
(深田)
皆さん、こんにちは。政経プラットフォームITビジネスアナリストの深田萌絵です。
今回は、農家であり田原市市議会議員でもある岡本重明さんにお越しいただきました。本日はどうぞよろしくお願いいたします。
(岡本)
よろしくお願いします。
(深田)
実は、こちらの本『日本の食料安全保障とはなにか?』の執筆にあたり、岡本さんにはさまざまな質問をさせていただき、その内容を多く反映させていただきました。さて、今回の米不足問題でよく議論されるのは、日本の農家は諸外国に比べて割高であるという指摘です。
その理由として、作付け面積が小さく、農家が非効率だからだとされ、「小規模農家非効率論」がしばしば持ち出されます。果たして、こうした見方は正しいのでしょうか。規模を大きくすれば良いのか、「小さい農家は潰してしまえ」というような言説も耳にしますが、そのあたりを伺いたいと思います。
(岡本)
これは半分正しく、半分は違うと言えるでしょう。「大きければ安い」というのは、数字上はそうかもしれませんが、それは実際に農業をやったことのない人の意見です。たとえ規模を大きくしても、水が引けない、電気が通っていないなどの問題がありますし、何より管理が非常に大変になります。
遺伝子組み換えの穀物を作れば大規模化は可能ですが、日本のように普通の作物を作る場合には、管理に適した面積というものがあります。また、日本の国土は狭く、加えて田んぼは重力に対して水平でなければならないという制約があります。
(深田)
単に土地が狭いからというだけではなく、水平である必要もあるのですね。
(岡本)
そのとおりです。また、日本はどこにいても電気が通り、冷蔵庫が使えるという社会インフラがありますが、これは戦後の復興期に官僚たちが国土の再建のために整備したものです。水を引き、どこでも耕作ができる環境を作り上げたのです。そのインフラを活用できなかった政策こそが問題であり、日本の農地自体が悪いというのは全くの誤りです。
「規模を大きくすれば良い」などという意見には、「それなら自分でやってみろ」と言いたいところです。
(深田)
なるほど。しかし、農地を大きくすればコストが下がるのだから、小さい農家を統合して大規模化すればもっと利益が出るのではないか、という意見もあります。
(岡本)
私自身、過去にフィリピンから長粒種の米を持ち込んだことがあります。これは日本の米とは異なる品種で、一反あたり12俵収穫できます。一方、日本米では私のところのような面積で7俵取れれば上出来です。新潟では10俵取れると言われますが、これは温度などの条件にもよります。平均すれば一反あたり7〜8俵が精一杯です。もちろん品種によっては多く収穫できるものもありますが、日本の和食に合う米はやはり日本の品種です。肥料を多く使い、稲が倒れないように薬を散布すれば収穫量は増やせますが、味は落ちます。
米の価格が高い、安いと言いますが、では何を基準に高いのか、ということです。人が1年間に食べる米の量はおよそ1俵です。最低賃金は今、時給1100円程度です。これまで米価は暴騰したと言われますが、それでも60kgあたり1万2千円でした。それで生産者のコストは合うのでしょうか。
(深田)
確かにそうですね。小規模農家では1ヘクタール(約10反)あたりの作付けコストが2万〜2万2千円と言われており、これまでは赤字でした。それがようやく、60 kgあたり2万円を超えて3万円に近づき、黒字化の見込みが立つ状況です。ところが一般社会では、そのことが「米価が高くなった」と騒がれてしまう。しかし、これまではずっと赤字だったということですよね。
(岡本)
そうです。日本という国は、その大部分が地方です。地方に住む人が減れば、地方の自治が成り立たなくなります。たとえば、道路の草刈りをすべて行政が担うのかと言えば、実際には不可能です。川のごみさらいや水路の掃除、神社の維持も同様で、それを誰が担うのかという問題が生じます。
地方に人が住み、採算が取れることは重要です。もちろん「儲かっていないから金をくれ」というのは論外ですが、努力をしながら採算を取れる基準としては、生産者手取りで60キログラムあたり2万円が目安です。その中で経営が成り立つかどうかは、経営者の手腕によるところです。
消費者が支払う単価が物流費込みで3万円になったとしても、それで年間1人分の米が賄えるのか、日本の最低時給や生活保護の支給額と比べれば、その米価が本当に高いのか、そうした議論こそが必要です。
(深田)
私も著書『日本の食料安全保障とはなにか?』の中で少し触れましたが、以前は正直なところ「米農家の方々はただ米を作っているだけなのだろう」と思っていました。しかし、実際には水路や道の管理といった地域のインフラ整備にも携わっておられることを知り、そうしたコストを農家の方々が担っているのだと認識を改めました。もし農家の皆さんがいなくなれば、今度はそのインフラ維持のコストを国土交通省などが負担せざるを得なくなるわけです。そう考えると、米の価格にはそうした地域社会を支えるためのコストも含まれているのだと理解できるようになりました。
(岡本)
その通りです。地方で営まれている産業としての農業、特に米づくりを考えたとき、それを担う人がいるからこそ日本の郷土は守られているのです。そうした視点が欠けているように思います。経済的な判断だけで物事を捉えると、大きな誤りを犯してしまいます。
(深田)
また、「国際価格で見ると米は高い」といった議論もありますが、たとえばタイ米などの長粒種とは味がまったく異なります。それらと同列に比較すること自体、果たして正当なのだろうかと疑問に思います。
(岡本)
おっしゃる通りです。日本の和食に合うのはやはり日本の米です。一方で、パスタなどには長粒種の方が適しています。このように、米にはそれぞれの文化に適した「文化の米」という側面があります。日本の米は日本の和食に合っており、そのため現在も海外に輸出されています。今後、日本の若者が海外へ渡り、和食を通じて世界から収益を得てくるような施策を進めるべきです。そのためにも、日本国内で米をしっかり生産し、海外どこでも日本の米が買えるような販売網を整備すべきです。そうすることで、初めて日本の米農家が安定した単価で生産を続けられるようになります。
なお、海外からの米の輸入は、止めようとしても止められません。輸入ルートは既に無数に存在しています。
(深田)
すでに海外の米が日本へ流れ込んでくる状況にあるのですね。
(岡本)
そうです。たとえば、玄米として輸入し日本で精米する米に対しては関税が高く設定されていますが、白米に大豆や小豆などを混ぜて「雑穀」として輸入すれば、関税はゼロになります。日本国内には、そうした混合物を自動的に選別できる色彩選別機が既に存在しており、大豆や小豆と米を簡単に分けることができるのです。
(深田)
つまり、実質的に米の関税はゼロに等しいということですね。
(岡本)
まさにその通りです。抜け道を見つけるのは、泥棒の常套手段のようなものです。そうやって外国の米は日本に入ってきてしまいます。日本の農家はこれに反対していますが、現実的には止めることはできません。一方で、安価な米を求める日本の消費者は、添加物を加えれば不味い米でも一瞬で美味しくなると思い込まされてしまいます。その結果、日本の米農家は「支援してください」という姿勢で、涙ながらに商品を売るようなスタイルを取らざるを得なくなります。私はそうしたやり方が嫌なのです。だからこそ、日本の米はどんどん海外に輸出すべきだと考えています。
国内の消費者には、良質な日本の米を求めるのであればそれ相応の価格で、安価な米を望むのであればそれに応じた価格で、という明確な区分を設けるべきです。
(深田)
確かに、日本の米のブランディングはもっと強化されるべきですね。たとえば、フランスのワインにおけるシャトー制度のように、「この農家のお米は高価で当然」といった認識が根付くようにしていきたいです。
(岡本)
私がもし農林水産大臣になったらと想像することがあるのですが、真っ先にキッコーマンに土下座をしに行きます。「どうか日本を助けてほしい」と。キッコーマンの持つ世界規模の販売網を活用して、日本の農家から適正な価格で米を買い上げ、世界に向けて販売してほしいとお願いに行くつもりです。
(深田)
確かに、キッコーマンの醤油は世界中のスーパーで見かけますね。
(岡本)
もし私が農水大臣や総理大臣になったら、今日にでも土下座して「日本を守ってくれ、助けてくれ」と頼みに行きます。キッコーマンが「いいですよ」と言ってくれれば、それだけで道は開けます。本来はこうした役割を全農が担うべきだったのです。
(深田)
けれども、それは難しいでしょうね。
(岡本)
全農にはその能力がありません。偉そうにしているだけで、何もできていないのです。
(深田)
石破さんには頑張ってもらいたいですね。
(岡本)
無理ですよ、あの人では。
(深田)
でも石破さんは、お米の輸出について「頑張る」と言っておられますよね。
(岡本)
中身のない発言にしか聞こえません。
今の彼は、人気がないのを自覚しているから、あえて反対のことばかりを言っているのです。
(深田)
評論家の中には「小規模農家は非効率である」と述べる方も多くいらっしゃいます。そして中には、「日本のお米を外国で作れば、もっと安くできるのではないか」と主張する人もいます。
(岡本)
それはまったくの見当違いです。私は実際にそれをやったことがあります。
(深田)
実際に経験されたのですね。
(岡本)
「コシヒカリ」「ひとめぼれ」「あきたこまち」といった品種をタイやインドネシアに持ち込み、現地で栽培・収穫できるようにしたのです。しかし、気温が異なるため、まず「食味」——つまり食べたときの味が、日本でのものとまったく同じにはなりませんでした。
(深田)
味が変わってしまうのですね。
(岡本)
はい。それに、たとえ現地の人件費や資材費が安いとしても、農作業がすべて分業化されているため、全体のコストがかさむのです。日本の農家は、田植えから収穫、乾燥、玄米化まで一貫して自分たちで行いますが、現地では稲が実るまでが農家の仕事です。収穫後は業者に委託し、生の状態のまま問屋に売却します。そこからさらに乾燥業者が乾燥し、精米業者が調整し、別の業者が販売するというように、すべての工程が分離されています。結果として、効率は悪く、コストも上がってしまいます。
(深田)
分業化している分、生産コストが高くなってしまうのですね。
(岡本)
そうです。現地で米を作っても、60kgあたり1万2000円〜1万3000円程度のコストがかかってしまいます。
(深田)
つまり、日本国内で作る場合と変わらないということですね。
(岡本)
そうです。さらに物流費もかかります。現地では、水の使用料や農地管理費など、あらかじめコストとして提示されない費用もあります。農家に仕事を委託すると、その都度「作業するには金をよこせ」と要求されるため、結局は安くならないのです。
(深田)
現実的には、どの程度の費用だったのでしょうか?
(岡本)
私たちが行ったときで、60kgあたり1万2000円程度かかりました。
(深田)
それはいつ頃のことですか?
(岡本)
10年ほど前のことです。
(深田)
当時の日本国内の生産コストとほとんど変わらなかったということですね。
(岡本)
まったく同じでした。当時は円高で、1ドルあたり70円〜80円程度でしたが、現在は150円近くまで円安が進んでいます。為替レートを考えれば、今はさらにコストが高くなっていると言えます。
(深田)
つまり現在では、日本の農家のコストと同等か、むしろ外国で生産する方が高くなる可能性もあるわけですね。日本のお米を海外で生産しようとすると、水の確保に始まり、分業によるコストが発生するため、結果的に日本で生産した方が安価になるということですか?
(岡本)
そのとおりです。実際、三菱商事系の大手企業も海外で日本米の生産に取り組んでいますが、あちらで作っているのは「なんちゃってジャポニカ米」です。日本から持ち込んだ品種を現地で交配して作ったもので、「あきたこまち」と名乗ってはいますが、もはや別物です。
もともとは日本の品種かもしれませんが、何度も交配を重ねており、もはや親品種も分からなくなっているような米です。
(深田)
それでは、もはや「別物」と言えるでしょう。
(岡本)
それでも、それらは「日本米」として流通しています。
(深田)
海外を訪れると、さまざまな国で米料理が出てきますが、実際に「美味しい」と感じられる米に出会うことは少ないです。
(岡本)
私がタイに行ったとき、現地の料理——たとえばチャーハンなどにはタイ米が非常によく合っていました。
(深田)
つまり、その土地の料理にはその土地のお米が適しているけれど、日本の料理には合わないということですね。
(岡本)
その通りです。現地で日本の和食を食べても「まずいな」と感じることが多いのはそのためです。
だからこそ、日本から本物の日本米を持ち込めるようになれば、世界中で和食がもっと受け入れられるようになるはずです。
(深田)
たしかに、今の為替状況や輸送コストを踏まえると、日本で生産して輸出した方がむしろ合理的ですね。それならば、日本国内で増産し、「キッコーマンさん、販売ルートを貸してください」とお願いして展開していけば、すべてがうまく回るということですね。
(岡本)
だから私は、農水大臣になったら、キッコーマンに土下座しに行くと常々言っているのです。
(深田)
よく分かりました。
今回は、農家の岡本重明さんに「小規模農家は非効率である」とする論調に対して、実体験に基づく反論をお話しいただきました。本日はどうもありがとうございました。