#304 日米地位協定の誤解 性被害者は米軍兵士を日本で裁けない 織田邦男氏×深田萌絵
(深田)
皆さん、こんにちは。政経プラットフォーム、プロデューサーの深田萌絵です。今回は麗澤大学特別教授、そして元航空自衛官の織田邦男(おりたくにお)先生にお越しいただきました。先生よろしくお願いします。
今日は日米地位協定の誤解についてお話をいただけますでしょうか。
(織田)
皆さん誤解していて、地位協定が不平等だと言っていますが、ではどこが不平等なのかと聞いても答えられないでしょう。
私は、イラク派遣の航空部隊指揮官を5年間やりまして、イラク上空での輸送任務をしていました。当時、防衛部長だった私は、その部隊を派遣するにあたり、どのように地位協定で守られるのかについて官邸で喧々囂々と議論を交わしました。
航空自衛官がクウェートに240名駐留します。その時に公的な仕事で罪を犯かした場合、私的なことで罪を犯かした場合、それはどう裁かれるかというのが地位協定にあるのです。
当時、韓国人の商社マンがサウジアラビアに派遣されて、酒に酔ってサウジアラビア人の子供を撥ねた事例がありまして、判決はどうなったかと言うと、「韓国人の子供を連れて来い、それを撥ね飛ばす」です。それがイスラム法なのですよ
そのように裁かれるところに我々は行けない。「自衛隊は世界的には軍隊なので、軍として行くのですから、それなりに地位を保全してください」という交渉をしました。結果的には国連の地位協定を準用することになりました。
国連の平和維持活動で様々な所に行きますよね。そこで公的な仕事の際に、誤って現地の人を撃ち殺してしまった場合は、派遣国が裁いてくださいというのが国連なのです。自衛隊は日本の法律、アメリカ軍はアメリカの法律で裁くのです。そして、先ほどの事例のように私的な外出で人を撥ねてしまった場合も同様です。それが国連の地位協定なのですよ。だから守られているのです。
かたや日米の地位協定はというと、例えば公的な仕事の時に日本人を撃ち殺してしまった場合は、アメリカが軍法で裁く。これは一緒なのですね。
しかしながら私的に外出中にレイプした場合、国連の地位協定とは違い、日本の法律で裁きます。
(深田)
思っていたのと全然違いました!
でも、日本でレイプ被害にあった女性にお会いしたことあるのですが、彼女は被害を訴えたけれども日本では裁けないと言われ、アメリカまでその犯人追いかけたそうです。
(織田)
それは、ものすごい昔ですよ。それはもう改善されています。
(深田)
いつからそうなのですか?
(織田)
正確に何年というのは言えませんが、例えばNATOの米軍の地位協定もそうなのです。そしてドイツに駐留するアメリカ軍よりも、日本の方が厳しいのです。
例えばドイツでレイプ事件を起こして、ドイツ警察が基地の外で捕まえたとします。でも、ドイツの場合は起訴になったらドイツの法律で裁けますが、それまではアメリカ軍に返さなければいけないのです。
でも日本は違うのですよ。明らかに犯罪の時は、日本の警察が逮捕して日本で拘留します。
(深田)
よく沖縄でレイプされたという女性の話があって、日米地位協定で被害者が加害者を訴えることができない。完璧に米軍は守られているから、日米地位協定を見直すべき時が来たのだというような記事をよく読むのですが。
(織田)
それは大きな間違いです。昔は、基地の中に逃げ込んで、そのまま軍が本国に送ってしまったということがあったのですが、もうできません。
横田空域のように、広い範囲がアメリカの空域になってしまって羽田の発着に非常に不便だ、ということはありますよ。しかし、それは地位協定の不平等ではなく、アメリカと日本との合同委員会で日本が提案すればいいだけの話です。日米の合意でもって地位協定を変えればいいのですよ。
(深田)
驚きですよね。日米の地位協定は、国連の地位協定ほど厳しくないのですね。
ぜんぜん分かっていませんでした。
(織田)
話を元に戻しますが、イラク派遣にあたり国連の地位協定が準用されることになりました。
では、例えば外で車を運転していて、過失で人を撥ねてしまった時はどうするのかと言ったら、それも当然日本が裁いてくれと言われました。
そこで問題なのが、諸外国と違って日本には軍法がありません。軍法会議もありません。
国連軍の地位協定では軍法がある前提なのですが、日本にはないので、日本の法律で裁いてくださいということです。
(深田)
でもジュネーブ条約上、自衛隊は軍ですよね?
(織田)
そうです。でも軍法がなくて、軍法会議もないのです。ドイツ軍も同様だったのですが、NATOとしてセルビアなどに派遣することになった際に軍法を作ったのです。軍法会議については国民が反対したので、軍法に基づいて今の裁判制度で裁くようになっています。
日本は軍法がないので、日本の「刑法」で裁くとなったのですが、「国外犯」で「過失犯」という想定はないのですよ。いろいろあるのですが、「過失犯」だけがない。
(深田)
外国人が罪を犯かして国外に逃亡するケースは想定されているけれども、国外で自国民が過失で人を傷つけてしまったり、物を壊してしまった場合などは想定されていないから、それを裁く法律がないのですか。
(織田)
ないのです。クウェートの人にしてみれば、こんな地位協定で日本人が駐留するのかと言われても仕方ないですよ。これをどうするのか激しい議論になったのですが、結局は軍法を作っている時間もないし、「要は自衛隊が事故を起こさないことだ」となりました。これを明確に守ったのですよ、5年間。
(深田)
官僚的ですよね。
(織田)
だから自衛隊は、それだけ優秀なのです。私も指揮官だったから、派遣の時に悩みましたよ。
厳しい法律があるよりも緩い法律で自らを律した方が良いわけでしょう。だから、飲酒運転などやるなとか、できるだけ休暇で基地の外に出た時は車を運転するなとか、もう涙ぐましい努力をして5年間無事故でした。
(深田)
凄いですね。
(織田)
凄いけれども、要は海外に派遣するなら、ドイツみたいにきちんと整えろよと。
(深田)
自衛隊法のようなものはないのですか?
(続きは動画をご覧ください)