#292 米不足の犯人は日米政府? 農業侵略で日本の農家は滅ぶ? 食料安全保障の重大な岐路 東大特任教授 鈴木宣弘氏×深田萌絵


(深田)
皆さん、こんにちは。政経プラットフォーム、ITビジネスアナリストの深田萌絵です。今回は東京大学の鈴木宣弘名誉教授にお越しいただきました。先生、よろしくお願いします。
最近、トランプ大統領が「日本って本当にひどい国だ。米に700%もの関税をかけて、なんで日本は農家を守っているのだ」と仰っていたのですが、これは本当なのですか?
(鈴木)
それは完全に間違いですね。
(深田)
間違いなのですか?
(鈴木)
はい。まず、700%というのは誤解です。そもそも米の関税はパーセンテージではなく「従量税」と言いまして、1kgあたり341円の関税がかけられています。
確かに高いとは言えますが、国際価格や輸入価格がいくらかによって、その上に341円が加算される形なのです。たとえば、700%という数字が出るためには、国際価格がkgあたり40円台など、極端に安くないとそうならないのです。
今のジャポニカ米の国際価格は、kgあたり100円を超えるような水準ですから、700%という計算はあり得ない。仮に100円の輸入米があったとしても、341円を足せば関税率は約340%程度です。
それでも高いことは確かですが、「700%だから大変だ」と誇張しているのは事実誤認で、意図的に日本の米を攻撃しようとしている。アメリカとしては市場をもっと開けさせようという狙いが明らかにあります。
(深田)
確かに、去年の夏ごろから「米不足だ、米不足だ」と言われていて、私が好きだった古代米の煎餅なども、最近ではアメリカ産の米が混じっているようになり、いろんなところで、国産とアメリカ産のブレンド米が増えてきたなって感じます。
(鈴木)
そうですよね。341円/kgの関税というのは、以前は禁止的関税とされていて、それを払ってまで輸入されることはほとんどないと思われていました。
今は日本の米の価格が上がって、5kgで4000円とかになっていますよね。そう考えると、輸入米が341円の関税を払っても、国内米より安いという状況になってきたわけです。
これはビジネスチャンスになりますから、企業が動き始めて、輸入米が使われるようになってきている。そうなると、アメリカ側としては「日本に言うことを聞かせるチャンスだ」と捉えているのは間違いないです。
ここには歴史があるのです。前回のトランプ政権の時にも、日本は自動車関税で脅されました。アメリカは「自動車に25%の関税をかけるぞ」と言ってきて、他の国は「国家戦略があるからそんな要求は受け入れられない」と突っぱねました。
日本だけが「他の国はやってもいいから、うちだけは許してくれ」と。その代わりに何でも差し出す。つまり“生贄”を差し出すのです。
(深田)
え、生贄…。
(鈴木)
当時の担当大臣も、記者会見で「自動車を守るために、日本側として農産物で譲れる余地がある」と、リストの存在を認めてしまっています。つまり、日本は自動車産業を守るために、農産物を犠牲にしてきたわけです。今も、その構造は変わってないです。
前回の第一次トランプ政権では、牛肉の関税を大幅に引き下げ、豚肉の関税はほぼゼロにされました。なんとか落とし所を見つけて、酪農までには行かなかった。牛肉と豚肉までです。
そして今リストに残っている本丸は「米」と「酪農」なのです。
(深田)
やっぱり狙われていると思っていました。酪農家がすごく虐められていますよね。脱脂粉乳を処分するのに金を出せとか政府に言われて。いま資材が高騰して酪農家が苦しんでいる中で、さらにお金まで負担させられている。
(鈴木)
北海道だけで酪農家が、350億円も脱脂粉乳の在庫処理のために負担させられたわけです。そんな状況の中で、さらに同じようなパターンになっています。今、国内の米価格が上がって、輸入米の方がいいじゃないかという、世論も後押しするような形で、アメリカの要求をのまざるを得ない形に利用されている。そして、全部差し出す方向に持っていかれている。盗人に追い銭ですよ。
(深田)
本当にその通りですよね。
(鈴木)
外交戦略も気概も何もなくて、ただアメリカの言いなりになってきた。
農産物に関しては、本当に最後の大事な部分まで差し出してしまえば、「もう何も残っていないじゃないか」となって、今度は「やっぱり自動車もダメだね」と言われて、結局すべて取られて終わりなのですね。

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