日鉄のUSスチール買収の行方。日米鉄鋼戦争が始まる? 加藤康子氏元内閣官房参与

【目次】
00:00 1. オープニング
00:39 2. 日鉄は終始一貫完全買収
04:20 3. バイデンは個人的理由で反対
08:28 4. トランプはアメリカのシンボルだから反対
12:09 5. 経産省の脱炭素一色が問題
(概要)
日鉄のUSスチール買収の行方。日米鉄鋼戦争が始まる?日鉄がUSスチールを買えるのかどうかという問題。終始一貫買収が前提。トランプ大統領にとってみたら、GoogleよりもAmazonよりも価値がある、アメリカにとってのシンボルのスチール。もうこれ、決裂ですよね。いちばん困るのはUSスチールでしょうね。これが政治によって潰されるっていうのも我慢できない。
(深田)
皆さん、こんにちは。政経プラットフォームITビジネスアナリストの深田萌絵です。
今回は元内閣官房参与の加藤康子先生にお越しいただきました。先生、よろしくお願いします。
先生。先日、石破首相がトランプ大統領と会いに行き、日鉄がUSスチールを買えるのかどうかの問題。どうも完全買収ではなくて、一部の投資だけで済むなら投資してもいいよという話に着地しそうなのですけれども、これはどうなのですか?
(加藤)
いやいや、日鉄はですね、最初からスキームを変えてなく、ずっと終始一貫。条件を変えていないですよ。要は、どういうことかと言うと、買収が前提。もう完全買収が前提なのです。要するにですね、だいたい2兆円前後、いや、2兆円超えぐらいの買収金額を提示しているわけじゃないですか。
(深田)
USスチール側は、労働組合なども「そちらがいい」と言っているわけですか。
(加藤)
労働組合もそうですし、それからもちろん、USスチールの地元は、ピッツバーグの郊外なのですけれど、モンバレーと言う、モノンガヒラ川沿いに昔、たくさん工場があった。フィラデルフィアもそうですが、カーネギーや、あの有名なゲールとか、メロンとか、J・P・モルガンとか、アメリカの富が皆そこから生まれていったという意味では、ある種の聖地でもあるのですよ。
私はちょうどアメリカに留学していた時に、いろんな企業城下町を回ったのですけれど、モンバレーに行った時に、どんどん高炉が無くなって行く。実際にゴーストタウンになっていくのを見たのですよ。でも、実はそのモンバレーに、まだまだ4000人ぐらいの雇用を抱えているわけですよ、USスチールは。
(深田)
そんなにいるのですね。
(加藤)
ええ。だから、ピッツバーグは「鉄の町」というのが本拠地なわけですよね。もしも買収が成功したら、そのピッツバーグ郊外のモンバレーの所に圧延の設備を整備する計画があって、それこそ1553億円ぐらいの設備投資をしようと。
それから、インディアナにあるゲーリー製鉄所のところには、新しい高炉を作る予定で、これも450億円くらいをプラスアルファーで投資を計画している。
(深田)
プラスアルファーで、ということですか?
(加藤)
そう。でも、どういうわけだか、日米会談では話がいきなりひっくり返っちゃった。
(深田)
買収じゃなくて、単なる投資だったらいいよ、みたいな。
(加藤)
そうそう、そういう形で、結局丸め込まれた形になったじゃないですか、トランプに。で、これは日鉄にとってみたら、ものすごくハードルを上げることになるのです。
石破総理にとっても、こういうやり方は決して良くなくて。まぁ、担いだと言ったらおかしいけれど、会談を成功させるために、その場の雰囲気で言ってしまったのかもしれないし、それから戦略的に言ったのかもしれないけれど、でも、それによって結局、嘘をついたことになるわけです。
日鉄は最初から終始一貫して買収の準備をしていて、USスチールとも一緒に進めてきたわけですよね。USスチールの人たちも日鉄に視察に来て、設備などを見て、非常に安心したと言って帰っていったのですよ。高炉の技術も非常に優れているし。
日鉄の中にはね、普通、例えばテクノロジーのエンジニアリング会社なんかがR&Dをやっているような仕組みになっているけど、日鉄の場合は全部社内にノウハウがあって、高級鋼のさまざまな技術ももう世界一なわけですよ。
そういうものを見て、実際に「これなら一緒にできる」と感じたのは幹部だけじゃなくて、従業員の人も、組合の人も、地元の人も、みんな期待しているわけですよ。そこに、何て言うのですかね、英語で言うとフォルス・エクスペクテーション(False Expectation)という、偽りの期待を持たせるようなことを石破さんが投げかけたわけだから。
トランプさんはそれをパクッと取って、それこそディールにかけては天才的な嗅覚を持つ方だから、バーッとこう取ったわけじゃないですか。でも、それによって結局、本当の意味での信頼関係というのは築けないわけですよ。最初から嘘を言っているようなものですものね。
(深田)
石破さんの「USスチールの買収じゃなくて投資でいいよ」という発言を、日鉄の人はもともとそれに同意していたのですか?
(加藤)
いえ、投資と言うのは買収が前提なのは終始一貫変わっていないのですよ。要するに買収だけど投資もあるよという話だったのに、買収の部分がポコッと抜け落ちちゃった。これはものすごく大きなことで、
日鉄と買収で競り合って負けたクリーブランド・クリフスという会社があるわけです。その会長とバイデンは非常に親しかった。だから、バイデン前大統領はUSスチールを日鉄が買うことに反対していた、という経緯があるのです。
(深田)
だからバイデン大統領はUSスチールを日鉄が買うことに反対した。
(加藤)
そうなのです。
(深田)
トランプ大統領はどういう文脈で反対されているのですか?
(加藤)
トランプ大統領は「MAGA(Make America Great Again)」の文脈ですよね。彼にとってみたら、GoogleやAmazonよりも価値がある、アメリカにとってのシンボルがUSスチールです。
(深田)
ウィルバー・ロスが2000年代の頭にUSスチールの再生をやりましたよね。そのこともあって、自分たちで再生できるのではないのというのが頭にあるのかも知れない。
(加藤)
ただね、感性だけでは再生できない。技術がないと再生できない。やはりものづくりの原点ですね。鉄というのは。スチール鋼板に高級な技術があるからこそ、いい自動車も作れるわけですよ。
(深田)
そうですね。
(加藤)
例えば、戦後を振り返ってみると、日本はスチール鋼板の技術があったからこそ、戦後の復興を成し遂げることができたわけです。
だから、そういう点では、日本の製造業の大黒柱として、中核に常に鉄があったのですよ。例えば、日本は戦後の賠償としてポスコ(POSCO)や宝山鋼鉄(Baoshan Iron & Steel)を支援しましたよね。でも、それを支援してきたのは日鉄なのです。
だから、日本が一番大切にしなければいけない製造業の自動車産業や鉄鋼産業、そういった分野に負荷をかけるような政策は、一切してはいけないんですよ。
(深田)
本当にその通りですね。
(加藤)
そして、それがアメリカに進出するとなった時に、また足枷をかけるような政治的な発言を、その場を乗り切るためにするというのは、決して日本の未来にとってプラスにはならない。
それから、石破総理にとってもね。例えば、トランプ大統領との「ハート・トゥ・ハート(Heart to Heart)」の信頼関係。「日本は信頼できる相手だ」と、安倍さんの時には築かれていた信頼関係があった。でも、それが最初の段階で違ったことを言ってしまったら、「なんだ、俺を欺いたのか?」となってしまう。そうなると、信頼関係を構築することはできないわけです。
(深田)
そうですよね。
(加藤)
それは、それまで築いてきた信頼の貯金も崩すことになりますし、非常に残念に思います。
(深田)
今回、もし仮にアメリカ側が「過半を取らない投資であれば資金を入れてもいい」と言ったとしたら、日鉄はどうするのでしょうね?
(加藤)
日鉄は変わらないですよ。買収が前提です。結局、買収なくして技術は持っていけないです。
(深田)
そうですね。ということは、もうこれは決裂ですよね。
(加藤)
一番困るのはUSスチールでしょうね。
(深田)
そうですよね。
(加藤)
USスチールは、例えば今、鉄鉱労連と組んでいたり、クリーブランド・クリフスなんかが組んだり、あるいは電炉メーカーのニューコア(Nucor)なども一緒になって、「もう一度やろう」と言っていますよね。でも、もし実際に彼らが投資をしたとしても、フィラデルフィアやインディアナにある高炉に関わる技術は持っていない。そうなると、成功しないですよね。投資してもUSスチールを再生させることはできない。どっちみち、フィラデルフィアにいるUSスチールを支えている人々、例えば、祖父の代からずっとUSスチールで働いてきたような人たちがたくさんいるのですよ。
過去に、高炉が閉鎖されたとき、自殺者が出たり、街が荒廃したりと、大変な状況になったことを経験している人たちがいるわけです。彼らにとっては、本当に願ってもないチャンスだったのに、これが政治によって潰されるというのは、我慢できないことだと思います。
ところがですね、民主党のシャピロ知事という人が、次の大統領選を狙っていて。彼は、バイデンを支える立場だったので、本来なら自分の州の労働者を守らなければいけないのに、声を上げなかったのですね。
そして、止めることもしなかった。今になって何を言っているかというと、「日鉄と同じ条件を持ってこなければ受け入れない」とか、そういう曖昧な対応をしているのです。
実際に、おそらく民主党よりも共和党のほうが、日鉄にとっては親和性高いと思いますよね。
トランプのほうが、まあディールの天才なので手強いけれど、でも彼がやりたいことは、海外から資源を集めて、ラストベルトの製造業を復活させて、アメリカの黄金時代を作りたい。だから、いろんな企業、例えばトヨタや他の工場もアメリカに来てほしいと言っているわけですよね。
もちろん、日鉄にも来てほしいわけですよ。ただ、USスチールはシンボリックな存在だから、買収されることは困る、と思っているのです。
だけど、実際はもう投資は受け入れる形なわけですね。だけど、だからと言って、日鉄が会社のコントロールをできないまま、技術だけ持っていかれてしまうのは、日鉄にとっても損失ですし、それどころか国益に反することになりますよね。
(深田)
そうですよね。それだったら、べつに日鉄がそのままフィラデルフィアのピッツバーグあたりで工場を建てて、人材を募集した方が簡単なのじゃないかなと思います。
(加藤)
それには時間がかかりますよ。で、今、非常にいろんな面で問題がある。例えば、関税を鉄鋼やアルミに25%の関税をかけていくわけじゃないですか。自動車もそうですしね。関税がかかってくるということは、逆に言えば、アメリカのインナー(内需)になっていかないといけないという。日本にとって、北米マーケットはものすごく重要なのですね。
やはり北米とASEANは、日本の製造業にとって、将来性が期待できる大きな市場なのですよ。だから、そこを取っていかないといけない。その中で、関税をかけられるということは、日本企業もアメリカ市場の内側に入っていかないと厳しくなる。それだけじゃなくて、日本国内でも問題があります。今、日本の経済産業省は、環境問題一色になっていて、「グリーン」ということばかりを考えている。
(深田)
もう炭素を出されなかったら作れない。無理ですよね。
(加藤)
それはそうです。例えば、1トンの鉄を作ると2トンのCO2が排出されるとか、いろいろと言われていますよね。
そういう中で、CO2削減を進めるとなると、ある程度「キャップ(生産上限)」をかけられるわけですよ。「日本ではここまでしか生産できませんよ」と。でも、そんな国、世界中どこにもないですよね?
(深田)
そうですよね。だったら、「別の国で作ればいい」という話になるわけですよ。ちょうどアメリカの関税が上がるから、アメリカで製造して、アメリカで売るほうがいいだろうと。ゼロから新しい工場を作るよりは、既存の企業を買収したほうがいい。
(加藤)
EUの鉄鋼業なども、今ガクッと落ちていますからね。
(深田)
落ちた原因と言うのは
(加藤)
それもあるわけですよ。様々な要因はあるかも知れないけれど、環境政策でキャップをかけることが、本当に成長につながるのかと言えば、成長に資するとは言えない場合が多いわけですよ。それでも、この脱炭素政策をやり切るのか、というのは大きな疑問ですね。
(深田)
これもう、今回の日鉄のUSスチール買収問題も、行き着くところは、「日本の脱炭素政策が狂気の沙汰」という点に尽きるわけです。
(加藤)
確実に負荷がかかっていくと思います。
(深田)
ということで、今回は元内閣官房参与の加藤康子先生に、日鉄とUSスチールの買収問題、それもすべては日本の脱炭素政策に原因があったということをお話いただきました。先生、本日はどうもありがとうございました。