日本の不動産価格が急激に変化する理由とは?〇〇区が危ない? 深田萌絵×牧野知弘
(深田)
ITビジネスアナリストの深田萌絵です。今回はオラガ総研(株)の牧野知弘先生にお越しいただきました。金利上昇で不動産市場が危ないということを仰っておりますが、これは不動産価格が危ないという意味でしょうか?
(牧野)
不動産の価格に大きな影響が出ると考えています。
(深田)
しかし、現在の都内のタワーマンションは2億円を超えています。昨年よりも急激に価格が上昇し、不動産市場は強気に見えますが、それでも今後は厳しくなると予測していますか?
(牧野)
その要因は金利です。昨年、日銀はマイナス金利政策を取りやめ、昨年7月に政策金利を引き上げました。今年1月にも追加で引き上げ、現在は政策金利が約0.5%程度です。これがひとつの不動産マーケットとしては、ターニングポイントになってくると見ています。日銀は年内にさらに1〜2回の利上げを行う可能性があると言うアナリストもいますし、2026年度までには政策金利が1.5%、つまり現在よりも1%上がると予測する今多くのアナリストも出ています。金利が上がっていくということは、不動産にとっては大変なアゲインストです。
(深田)
借入して不動産を買う方が多いので、金利が上がると利回りが下がるという関係にあるのでしょうか?
(牧野)
その通りです。一つには今、マンションを買われている人は約8割が変動金利型の住宅ローンを組んでいます。
(深田)
私がマンションを買うとしたら、ゼロ金利時代のうちは固定にしたいと思いますけど。
(牧野)
そう思いますよね。2~3年前に固定金利で買っていた人が、一番今後のリスクは全然ありませんし、金利が上がっても全然関係ありませんというふうにできます。しかし、ここ数年で住宅ローンを借りる人の多くは変動金利を選択しています。
(深田)
なぜ皆さん変動金利を選ぶのでしょうか?
(牧野)
目先の金利負担が無いからです。
(深田)
金融機関の罠に引っ掛かっているのでしょう。
(牧野)
金融機関と不動産屋が甘言を弄し、金利が低いと高い値段でも何とか手が届くと説明しているのでしょう。固定金利だと金利がお高いので、とにかく今変動金利だったら色々特典をつけると0.5%ぐらいですと、大体こういう甘言で皆さんは変動金利を選択しています。
(深田)
金融機関に勤めていた経験から言うと、罠かもしれませんので、金融機関のアドバイスは慎重に聞くべきですね。
(牧野)
私も金融機関と不動産会社の両方の出身でもありますので、よく分かります。大体ろくなこと言いません。金利が上がると、今住宅ローンを借りている人、変動金利で借りている人は心配です。政策金利が上がると短期プライムレートも上昇し、通常の住宅ローンの変動金利型の商品というのは、短期プライムレートに連動します。既に変動金利型の住宅ローン、去年の利上げで利上げしたところが随分出始めています。さらに今年1月の追加利上げにより、4月頃からさらに金利が上がる可能性があります。そのため、多くの住宅ローン利用者が不安を感じているのが現状です。
もう一つ言われるのは、これからマンションを購入しようとしている人にとって、変動金利のレートが上がってくる可能性があることです。幸いなことに、まだネット銀行を含め、住宅ローンを積極的に取りたい金融機関が多いです。とりわけこの2月から4月ぐらいはマンションが最も売れる時期なので、金利競争が激しいです。そのため、金融機関は「まだ金利を上げません」と言っているが、実際には変動金利で借りさせて後で上げるつもりです。
(深田)
皆さん、ニュースをしっかりと確認しましょう。どのニュースを見ても、どう考えてもしばらくは利上げしかないです。
(牧野)
不動産マーケット全体に影響が出るのは、マンションだけではなく、オフィスやその他の不動産がありますが、投資マネーというものがあります。これは金利に非常に敏感です。
(深田)
不動産ファンド系のお金のことですか?
(牧野)
私は金融機関と不動産会社の両方に勤めた経験があると言いましたが、もう一つ経験があります。不動産投資ファンドJ-REIT、REITの社長を務めていました。そのため、投資家たちの行動や考え方についてもよく理解しています。そういった意味で金利の上昇というのは、彼らにとって非常に嫌なシグナルとなります。よく「0.25%しか政策金利上げないから大丈夫」と言う人がいますが、そんな単純な話ではありません。
(深田)
レバレッジをかけていますよね?
(牧野)
さらに、日本銀行の植田総裁が「まだ金利を上げる」とアナウンスしています。この状況を見れば、もし私が投資ファンドやREITの社長であれば、非常に嫌だなと思います。なぜかというと、金利が上がると、不動産の価格が下がるからです。
ピンとこない人も多いかもしれませんが、簡単な計算式で説明しましょう。例えば、1億円のマンションを購入するとし、3%で運用したいと考えましょう。1億円のマンションを買って貸すわけです。そうすると、年間の賃料は300万円あればいいわけです。このように投資は買い、3%の運用ができると考えます。この3%の運用で正しいと今は思っています。しかし、金利が上昇すると状況が変わります。もし1億円を借り入れていた場合、3%の収入では心もとないと思ってしまうのです。すると、金利が上昇した分をもう少し自分の期待利回りを上げたいと考えます。
するとまず家賃の値上げを検討します。例えば、金利が1%上がってしまったので、期待利回り3%から4%に上げようとみんな考えます。昨今の報道でも、新入学や就職のシーズンに伴い、新築ワンルームマンションの家賃が上昇していることが取り上げられています。これは、日本銀行の利上げが影響しているのです。もちろん諸物価を含めてインフレになっていることは、管理コストや設備代が上昇しているという側面もあります。いろんな理屈をつけていますけれども、その背景にはあるのは金利の上昇です。
(深田)
つまり、今危険シグナルが出始めているということでしょうか?
(牧野)
そうなってくると、300万円だった賃料を400万円に上げれば何の問題もありません。金利が上がった分だけ、賃料を上げることで吸収できると考えるわけです。しかし、実際にはそう簡単にはいきません。例えば、賃借人が深田さんだとして、私は貸主の立場で、「来月から賃料を400万円に上げてください」とお願いしたらどうなりますか?
(深田)
いやいや、そんなの払えません。
(牧野)
しかし、例えば香港のような場所ではそのようなことができます。先日、香港で不動産会社を経営している友人が私の事務所に来て、「牧野さん、大変なことになった」と言うのです。理由を尋ねると、「昨夜、大家が突然ドアをノックしてきて、来月から賃料を3割アップ、嫌なら出て行けと言われた」とのことです。香港ではそれが普通だが、日本では借り手が強いのです。
(深田)
日本では借主が圧倒的に有利です。
(牧野)
最終的に裁判になっても、ほとんどのケースで大家が負けます。よほどの理由がない限り、借家人が強いというのが日本の法律です。そうすると、賃料を上げられないまま金利だけが上がってしまうということになります。2025年以降、こうした現象が始まってくるでしょう。
(深田)
日本では賃料を上げられないから、金利が3%で回せると考えていた投資家が、金利上昇によって赤字に近づいていくということですね。
(牧野)
通常の投資の考え方というのは、今3%の利回りでOKだという状態がどういうことを意味しているかと言うと、3%を2つに分けて、リスクフリーレートとリスクプレミアムを足し算したものが、利回りになります。例えば、リスクフリーレート(リスクがほとんどないレート)とは、何がありますか?
(深田)
国債ですか?
(牧野)
例えば、国債が少し前1%ぐらいでした。1%の運用で良いという人は国債を買うわけです。しかし、東京のマンションを買う場合、1%では厳しいと感じる投資家は、3%ほしいと考えるわけです。
そこで国債の1%のリスクフリーレートに加えて、2%分のリスクプレミアムもつけているわけです。2%をつければ東京の不動産だから大丈夫と思って買っているわけです。
ところが今国債がどんどん上がっていて、1.4%くらいです。リスクフリー分が上がると、リスクプレミアムを2%のまま維持するのではなく、さらに上乗せする必要が出てきます。
すると、投資家は3.4%では足りない、日銀も金利を引き上げると言っているから、もう少しリスクプレミアムを上げよう」と考えます。そして3.5%、いや、4%はないとこの先厳しいと考えるのが投資家です。
そうなると、4%の利回りで東京の不動産を買おうとすると、賃料が上がっていない場合、家賃が上がっていなくて賃料が300万円のままだと、1億円で買うのは無理だと判断します。そこで、9000万円ならどうか、いや、8000万円なら買うかもしれないと考えるわけです。
去年は1億円で売りに出されていた物件でも、現在の利回りでは無理だと判断するでしょう。今年からこうした現象が本格化すると考えています。
(深田)
現在、電気代やお米の値段が上がっています。給料は上がったといえども少しだけです。
(牧野)
賃上げが全部吸収されています。
(深田)
これだけの賃上げは吸収されているので、家賃までは上げられないです。
(牧野)
今借りて住んでいる人も、なかなか賃料の引き上げには応じにくいです。このタワマンブームと言ってもいいぐらいにタワマンを売買されています。しかし、タワマンを持つということを多くの人はキャピタルゲインがでるのだから、インカムゲインとあまり関係ないと。
(深田)
中国人投資家的な発想になってきていますね。
(牧野)
これをキャピタルゲインの罠と呼んでいます。先ほどの3%理論に戻ると、キャピタルゲインが出るというのは、こういうことです。3%で買ったマンションを、深田さんという投資家が期待利回り2.5%でいいと言うとすると、その瞬間売り手は1億円が1億2千万円で300万円ついているからと言って深田さんに売るわけです。2千万円キャピタルアゲイン採れたという構造です。金利が上がっているのに、おかしくありませんか?
(深田)
薄くなっているのに、値段が上がっていると?
(牧野)
つまり投資リテラシーのない人々が市場に存在する限り、この構造は続くわけです。金利が上昇しているにもかかわらず、2.5%や2%でも購入したいという人がいる限り、売却益を得ることができるわけです。キャピタルゲインを期待している人々は、未熟な買い手の存在がまだまだいると、あるいは中国の投資家が購入してくれる可能性があると思うわけです。中国の上海や北京の人は疑っても、もっと内陸に行けば全然知らない金持ちが買いにきてくれるかもしれないと期待しているとしか思えないのです。
(深田)
中国の経済状況も不安視されています。
(牧野)
すでにデフレに突入し、30年物国債では中国と日本の金利が逆転しました。10年物国債がほぼニアリーイコールになってきました。あんなに景気の良かった中国経済が、今完全にデフレに入っています。
(深田)
デフレ、金融緩和で景気を刺激しようとしていると。
(牧野)
金利がすごく面白いのは、こうやって今の国の状態というのがものすごく透けて見えるのです。確かに一部の中国の富裕層や中国で暮らすことを諦めた在留中国人は、ものすごく増えています。
(深田)
なぜでしょう?
(牧野)
彼らと直接話しましたが、皆揃って日本に永住したいと言っています。その理由の一つは、日本の生活コストが相対的に安いことです。さらに、中国でプロパティを持っていても取り上げられてしますからです。日本の場合、不動産を全く自由に取得できるのです。これは、世界的に見ても珍しいことです。例えば、東南アジアの国々では、コンドミニアムを購入しても所有権が完全には認められないことがあります。あるいは、現地の資本と共同で購入しなければならないケースもあるのです。
(深田)
アメリカではどうなのでしょうか?最近、SNS上で「カリフォルニアの不動産に投資すれば減価償却によって運用でき税金が安くなる」といった広告を多く見かけます。
(牧野)
アメリカでは減価償却の年限とかが、アメリカは非常に有利というか、投資家にとっては減価償却で稼げます。そういった意味では投資の魅力ではあるものの、これだけの円安状態の中で表面利回りは高いですが、一種のギャンブルと思っています。税務上のメリットがある反面、キャピタルロスを被るリスクもあります。アメリカだけでなく、どの国でも不動産価格と利回りの関係は一定の法則で成り立っています。
(深田)
金利上昇による不動産価格の暴落も懸念されますが、今私たちは慌てて不動産を買わなくていいということでしょうか?
(牧野)
不動産を購入する人は2種類あり、実需マーケット、つまり家が欲しい人たちにとって買える限界はどの辺にあるかというと、中古マンションマーケットを見ているとよくわかります。
(深田)
どのくらいの価格なのでしょうか?
(牧野)
中古マンションマーケットでは、東京都内全域(23区だけでなく多摩地区も含む)の場合は5千万円の壁というものがあります。新築マンションは23区では1億円を超えていますが、中古市場もそれに引っ張られて価格が高騰しています。投資家は新築だけを買うわけではなく、中古も買います。高騰しているから買えないと言っているが、実際には投資マネーが邪魔をしているからです。
例えば、東京、神奈川、千葉、埼玉では4千万円の壁があり、新築価格が上昇しても中古市場ではその壁を超えにくいのです。つまり、投資マネーではなく、実需層ということです。現在の日本人の実力は、神奈川県、埼玉県、千葉県で4千万円です。何とか背伸びして東京都内の5千万円です。関西圏ではさらに低く、3千万円の壁が存在します。今の日本人の平均年収から世帯構成を考慮すると、大体メイクセンスしませんか?
(深田)
1世帯あたり世帯年収800万円とか1000万円と、意外と多いです。
(牧野)
4千万円、5千万円、年収の5倍あるいは6倍とこの辺で買ったら住宅ローンを組んでも安全です。そんなに背伸びをしないから今インフレでどんどん生活物価が上がっていく中で、このぐらいの住宅ローンを固定金利で借り、楽しく住むという一番身の丈に合っていて、安全なそんなに負担感がきつくない、こういう住宅が欲しいというのが、実需のレベルです。
これを多いに乱しているのが、外国人も含めて投資マネーです。さらに日本の場合は、いわゆる高齢者が増えることにより相続対策をしたいという人がたくさんいらっしゃいます。
(深田)
相続対策でのタワーマンションですね。
(牧野)
タワーマンションには高齢の住民が多いという記事もあるが、これは相続対策です。
(深田)
投資マネーは、金利が上がると最初に逃げ出すかもしれないですよね。
(牧野)
相続対策のために購入している人は逃げませんが、高齢者が亡くなることで相続対策の効果が発揮されるため、この層にはあまり影響がありません。一方で、投資目的の購入者は、賃料が上がり続ける状況、あるいは上げられる状況であれば投資を継続する可能性があります。
しかし、今賃借人がいる場合はキックアウトして新しい賃料で入れられる、しかもその新しい賃料というのが社会全体のインフレに伴ってどんどん上昇していきます。しかし、例えば年間賃料が300万円から400万円に上がるとして、それに応じるテナントがいるでしょうか?
(深田)
すみません、さようならとなります。
(牧野)
月額25万円だった賃料が30万円や40万円に上がったとき、日本の社会でそれを支払える人がどれほど増えるかというと、そこまで多くはないでしょう。給与が上がったとはいえ、生活物価の上昇や税金、社会保障費の増加により、全部消えています。
(深田)
税金を取るために経団連に賃上げを促したのではないかと疑う声もあります。
(牧野)
税収を上げるために、政策的にやっているとしか思えません。生活物価が上がると消費税も増えるので、仕組まれているように感じます。
(深田)
そうなると、都心で家賃を上げるのは難しいです。
(牧野)
キャピタルゲインを狙って投資する人もいますが、本当に投資の理論、理屈で考える一番リテラシーのある投資家からみると、不動産価格は下がると予想されています。しかし、マーケットには楽観的な投資家も多く、もうしばらくは続く可能性もあります。
(深田)
市場は大体オーバーシュートするものです。
(牧野)
「バブル」という言葉はあまり使いたくありませんが、今の状況はまさにバブルと言えるかもしれません。勢いだけで投資している人がいるのが現状です。まだ金利が上がっているにもかかわらず、投資の期待利回りを下げて物件を購入している人がいますが、これは完全に自殺行為です。
(深田)
一番危険な投資手法です。
(牧野)
まだ購入者がいるから大丈夫だという考え方は、非常に危ういと思っています。
(深田)
現在、都内のオークションで2億円を超える物件も出てきていますが、市場は明らかに過熱しすぎています。タワーマンション投資は慎重に行うべきでしょう。
今回はオラガ総研(株)の牧野知弘先生にお話を伺いました。どうもありがとうございました。