日産・ホンダの統合破談。自動車業界の闇、日産社内で起きている深刻な問題。

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【目次】
00:00 1. オープニング
00:39 2. ホンダの手のひら返しで破綻
03:44 3. トヨタは押し付けない日本流
07:27 4. 日産は役員と開発の間に溝がある
11:33 5. 集団指導体制は破綻する
14:48 6. 統合決裂で日産がダメ報道は間違い
18:02 7. 開発の責任者が経営陣に入るべき

(深田)
皆さん、こんにちは。政経プラットフォーム、ITビジネスアナリストの深田萌絵です。
今回はモータージャーナリストの岡崎五郎先生にお越しいただきました。
岡崎先生、よろしくお願いします。

日産、そしてホンダの統合です。ずっと協議がありましたけれども、昨日ついに決算発表があって、それぞれ正式に破談になりました。ということで、私は結構「日産ふざけるな」と思っています。やはり世間的には日産というのはすごく不遜な会社だというふうに思われているようですが、どうでしょう。

(岡崎)
確かに両方に悪いところがあります。日産にも悪いところがたくさんある。ただ、昨日の三部社長と内田社長の会見を見ていて、私はどちらかというと少し腹が立ちましたが、それは三部社長の発言に対してでした。というのも、12月23日に持ち株会社にして、そこをぶら下げる形で事業会社にしましょうというような話し合いをスタートしますという会見をしています。あれがわずか50日前ですけれども、昨日の会見では、あまりにも日産の改革に向けたスピード感がなさ過ぎるから、完全子会社化という提案をしたと言っていますが、こんなに大きな会社がたったの50日間でまとめきれるわけがないではありませんか。
そう考えると、私はやはりもっと時間をかけてちゃんとやるべきだったし、あるいは子会社化というものにするのであれば、TOBをかけるぐらいの覚悟を持ってやるべきだと思うのですが、TOBをかけることもない。つまりかなり最初の段階でも日産社長はホンダから出します、役員の過半数もホンダから出しますと言って、これで日産は相当涙をのんで、それを呑んだ。ところが、さらにわずか50日後に、いや、お前ら全部いらないと言われてしまったら、これは予期できないし、あまりにも唐突すぎるし、言うことが極端すぎると思いました。

(深田)
そのような手のひら返しはひどいではないかという。

(岡崎)
そうです。会社と会社というのは人と人ですから、人同士がやはりお互いに心を通わせて一緒にやりましょうという姿勢でやっていかないとうまくいきません。それがホンダ側には感じられない。私たちはあなたたちを救済するほうなのだから、すべて言うことを聞きなさい、というようなかなり上から目線で言ってきた。日産にとってこれは逆に破談になってよかったと私は思います。

(深田)
私は実はこれは両者にとってよかったと思っています。私はもともと投資銀行にいたのですが、日本的なM&Aというのはあまり統合はうまくいかない。というのも、ヘッドを残すというのは、絶対一つの会社になれない要因だと思っているからです。ホンダの言い分も多少わかるといいますか、この会社をダメにした部門のトップとかいろいろな役員がいたら進まない。そういう人たちにさよならをして、統合して一つの会社としてスピード感をもって運営していくという考えに基づけば、それはそれであり得る考え方かと思ったりします。

(岡崎)
そうですね。確かに日産の中にも極めて大きな問題点が多くあって、これを改善しなければ日産の再建というのもないということもすごくわかります。では、どういうふうにすればいいのか。私はモータージャーナリストなので、だいたい年間150台ぐらい車に乗ります。

(深田)
150台ですか。2日に1回ですね。

(岡崎)
今日も3台、今乗ってきました。1車種3〜4台、エンジン違いとかで乗りますけれども、車に乗るだけではなくて、作った開発の最前線にいる現場の人と実際に会って話をします。これがやはり私たちモータージャーナリストが他の人たちと違う視点を持っている一番の理由だろうと思います。
そういう私たちの視点からすると、やはり日産という会社は現場は非常に優秀です。現場は優秀ですが、上の方に全く車に興味がない、金儲けにしか興味がない。ところが責任だけは取りたくないという人たちが大勢いる。それで、その人たちに相当スポイルされているという現状があるので、ここはやはり誰かの力を借りてでも一掃しなければいけないということは、もうまさにおっしゃる通りだとは思います。

(深田)
ホンダがそういうのをバサッと切って掃除してくれたら、それは日産にとってもいいのではないのかとは思っていました。

(岡崎)
私も多少そう思っていました。しかし、今回の冷酷さを見ると、いや、これはうまくいかなかっただろうと思いました。例えば、日本にはトヨタグループというのがあって、トヨタが中心になって、ダイハツは100%子会社だし、日野も持っているし、ただ、それだけではなくて、マツダとかスバルとか緩いアライアンスを組んでいます。トヨタのやり方は押し付けない。お互いに押し付け合いはしなくて、スバルはスバルらしさというのをちゃんと突き詰めなさいと。マツダもマツダらしさというのをやっていきましょうと。これは実際、トヨタの持っているエンジンとかを押し売りするようなことをしていない。やはりそこら辺は、仲間づくりというのはどういうものかというと、決して支配するわけでも押し付けるわけでもなく、自主性に任せながら、でもちゃんと大事なところは握っておく。これが多分日本流のうまくいく方法だろうと思います。
ただ今回のホンダのやり方を見ていると禍根しか残さないような、そういう冷たい、冷酷な、上から目線のやり方だった。万が一、これを日産がもし飲んだとしたらうまくいかなかったし、だからこれを機に内田社長は、昨日すごく誠実に答えたし、目にはメラメラと炎が見えた。今まで散々決められない人とか言われていましたが、ここまで言われて、よしって思ったのだとしたら、これを機に日産の社内をお掃除するのは誰か別の人ではなくて自分だと思ってやっていただきたいです。

(深田)
昔、私も通信機材を結構作っていて日産にも行っていました。自動運転の遠隔通信の実験でずっと現場の人とお話をさせていただいていて、実験なども一緒にしていたのですが、やはり、日産がEVにおもむろに舵を切り、そしてソフトウェアとか自動運転というところに力を入れ始めたあたりから、エンジンに触るのが好き、クルマが大好きで入った会社が、何かコンピューターの会社みたいになってしまってつまらなくなって、結構転職していった人もいます。

(岡崎)
日産というのはすごく面白い会社で、自動車メーカーだけれども、自動車の開発責任者というのをやると、その次のポストはもうあの人別会社だろうなっていう感じになります。

(深田)
どういうことですか?例えば出世ではないのですか?

(岡崎)
そうです。例えばトヨタは、今の佐藤社長はレクサスのLCというスポーツカーを開発責任者として、副社長の中島氏も開発責任者、前の副会長だった内山田氏はプリウスの開発責任者をやっています。そういう人達が上に行きます。日産は車両の開発責任者をやると、例えばスカイラインとかZとかの開発責任者をやると言うと、あの人は次、子会社のNISMOだなというような感じなのです。

(深田)
どういうことですか。

(岡崎)
つまり、経営のトップという人たち、取締役がいっぱいいるというレイヤーが一つ日産の中にあって、その下に車を作ったり生産したり、売ったりする人たちがいて、ここのレイヤーというのが全く分かれている。上の人達は、自分たちは金勘定して儲ければいい、株価を上げればいい、車はあいつらに作らせておけばいいのだ、という感じなのです。

(深田)
何か日産が好きではない理由がそこにあるのかもしれません。

(岡崎)
それで、ごくたまにGTRとか、Zのような、車好きがすごいなと思えるような車を出すのですが、そうでないケースはものすごく多い。

(深田)
今やどうでもいい車を作っていますよね。

(岡崎)
どうでもいいとは言えない。しかし、例えばGTRなどはゴーン氏が日産のブランドのために作れと言ったし、Zはやはり日産のすごく長い歴史の名車だから、これはブランドのために残しておいたらいいだろうという話がギリギリ通りました。私はその開発の人に、Zはよくモデルチェンジできましたねと言ったら、やはり社長に相談しに行ったらしいです。社長は「俺は応援するよ、でも他の役員を説得するのはお前の役目だぞ」と言われたそうです。要は内田氏のことをみんな悪く言いますが、そうではなくて内田氏は社長ですが権限を与えられていないのです。その集団指導体制というのは、ゴーン氏の独裁体制がまずかったという反省の上に、取締役会の権限がすごく分散されて、社長にも権力がほんの少ししかないから、スピード感がなくなる。

(深田)
何か危険な兆候が見えていますね。

(岡崎)
ですから、集団指導体制ではうまくいかないということがもうわかったので、ここからはやはりリーダーシップを強く握れる人にある程度権限を集中させて、一つの方向に会社をまとめあげていくようなガバナンスというものが必要になりますが、ではそれを果たして誰がやるのかと言えば、これはもう内田氏しかないと私は思っています。

(深田)
やはり腹をくくってやらないとダメですよね。政治を見ていても、自民党の派閥など、清和会というのは安倍氏の次は誰かとなった時に、5人衆、7人衆という感じでトップがいなかった。そして院政だけが敷かれて、森喜朗氏の言うことだけを聞かないといけないような感じで、持ち回りでやっていてそのまま空中分解してしまったように見えました。やはり誰かがリーダーシップを発揮しないと、組織というのはまとまらないというか、方向性が定まりません。

(岡崎)
そうです。そういう組織で何が起こるかというと、上しか見ない、責任をどう回避するかということしか考えない。それで実際日産の役員たちを見ると、あそこであのようなしくじりをしたのに、あの人はまだ役員でいる、というのがものすごく多い。

(深田)
ということは、よろしくない人たちがみんなで話し合って、よろしくない提案をして、その中から選ぶので、良くない方向にしか進まない、そういうことなのですね。

(岡崎)
そうです。ですから、これはゴーン氏が全部100%悪だったとは言わないし、私はすごくいいこともしたと思います。しかし、結構きわどいというか、あくどいこともしたわけでしょう。そういうことを防ぐためには、権力を分散しないといけない。分散したはいいけど、今度は誰も責任を取らなくなった。これは反動がものすごく逆側に振れてしまって、うまくいかなくなった典型です。

(深田)
そもそも責任を取りたくない人達の集まりの会社だったから、ゴーン氏が来たのではないですか、逆に。

(岡崎)
そういうことだと思います。それで、もうとにかく中央集権で俺がやるって言ったらやるのだと言うゴーン氏がいなくなったために、元に戻ってしまったという言い方が当たっているかもしれません。

(深田)
私は外資で仕事をしていたので、いろんな話を聞くのですが、外資のコンサルタントがなぜ雇われるかというと、首切りをするときに自分が悪者になりたくないからだそうです。外資のコンサルチームを呼んでその人たちに首切りをやらせる。そうすると自分は悪者ではございません、あの外資の人たちが悪いと言うことができるから外人を呼ぶんだと言っているのを聞いたことがあります。

(岡崎)
そうですね。ですから、どうやってその集団指導体制から強力なリーダーシップを戻すのかというのは、内田氏に私はやって欲しいのですが、もし内田氏がそれをできない、つまり社長指名委員会というのがあって、違う人にやらせると言うのであれば、またもうそれこそ強力なゴーン氏のような人を連れてきて一回やるしかない。でもそうするとまたゴーン時代のようになってしまうといけないので、何かそこら辺はうまくやってくれないかなと思っています。しかし、とにかく現場の力があるので、それをいかに引き出すのかというところが、今後の日産を占う上ですごく重要です。今回出したターンアラウンドという再建計画もすごく私は腑に落ちる、腹落ちする、ちゃんとした計画だと思っています。昨日その進捗状況について報告がありましたけれども、一番問題だった北米での人気車種の不在というのがカバーされつつあります。あとは9,000億円のリストラのようなものも進みつつあります。あとはどうバリューを上げていくのかというところがうまくいけば、各メディア、どこもなぜかどこかの助けがなければ日産は潰れてしまうというような言い方、書き方をしますが、全然自主再建は可能です。

(深田)
そうですよね。池田先生から1兆4,000億円ぐらいのコミットメントラインが銀行からあるという話を聞いて、全然できるのではないかと思いました。
最初は悲観的でした。今のキャッシュポジションだと日産は厳しいかなと思いましたが、銀行がちゃんと支援するのであれば十分再建の余地があるので、身売りする必要はありません。だから日産自体が強気で、別にホンダの救済は要らないと言って断るのもわかるし、ホンダが日産は要りませんと言うのは、多分あれはお断り価格条件だと思っています。

(岡崎)
だからそもそも12月23日の会見を受けてのメディア報道が間違っていた。メディアはホンダと一緒にならないと日産が潰れてしまうから、ホンダが救済するのだと報じたのですが、あの会見はそうではなくて、日産が自主再建をした暁には、ホンダと一緒になってより強くなるのですという会見だった。その時点でそもそもメディアの報道が間違っていた。

(深田)
確かに私もそういう印象で受け止めました。

(岡崎)
ですから、私はもう前々から、EV騒動の時から思っていますが、大手のメディアをそのまま信じると、やはり何か違う方向に引っ張られてしまいます。

(深田)
全くです。この『EV推進の罠』という本を加藤先生と池田先生とご一緒に出版されて、読ませていただいて私も惚れ込みました。

(岡崎)
散々世間と違う方を言うと割とバッシングを受けやすいのですが、ただ自分たちが信じている正しいと思う方向をやはりぶれずに言い続けていくということは、言論人にとっては重要だと思います。

(深田)
私はメーカーと付き合いがあったので、現場で開発している人たちと話をするのですが、自動運転などはまだまだ先で、自動運転に国がお金を出すのであれば、タクシーチケットを補助金で出して田舎の人を雇ってあげる方がいいと言います。自動運転を作っている人はそのように言います。そもそもEVなどは売れないからやりたくない、こんなものを作っても誰も買わないでしょうと。作っている人たちが言っています。でも上層部がやるからしょうがなくやっているのだそうです。そういうことをするのは絶対ダメなのです。面白くない会社になってしまうし、面白くない会社になると優秀な人が辞めてしまいます。1日の3分の1,8時間仕事で、それが面白くないとなると人生地獄です。

(岡崎)
本当にそうですね。だから何のために生きているのか、といったことになっていってしまいます。ただ、昨日の三部氏の記者会見ではやはり規模が必要だと、今後はSDV(ソフトウェア・デファインド・ビークル)が車の中心になるから規模が必要なのだということをおっしゃっていました。私は深田さんとまた改めてこのSDVに関してお話をしたいと思っております。

(深田)
是非ともSDVのお話もお聞かせください。私は日産再建に一番必要なのは、現場の「この車を作りました」という開発部長が経営陣に入ることが一番だと思います。
そういうことで、モータージャーナリストの岡崎五郎先生から、悪いのは日産だけではない、ホンダも悪い、ということについて教えていただきました。
先生、どうもありがとうございました。

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