#138-山本隆三 × 深田萌絵 半導体も関係ある!AIデータセンター誘致で日本は電力不足に!
(深田)
自由な言論から学び、行動できる人を生み出す政経プラットホーム、ITビジネスアナリストの深田萌絵がお送りします。今回は常葉(とこは)大学名誉教授の山本隆三先生にお越しいただきました。
前回は「実は日本の電力が危ない」というお話をしていただきました。今回のお話は、「いま流行りの生成AIに必要なデータセンターが出来ると、もっと電力が足りなくなるかも知れない」との事ですが。
(山本)
そうですね、間違いなく足りなくなると思います。まず前提として日本の電力需給は、この10年間ぐらい実は少しずつ減っているのです。
(深田)
減っているのですか?
(山本)
はい。電力広域的運営推進機関(OCCTO)のデータを元に、2016年以降の年間発電量を見てみると、約9000億kWhだった発電量が毎年波打ちながらも減少し、直近5年の平均では8700億kWhくらいになっています。これは産業があまり調子良くないためなのです。日本の電気は約3割が家庭で使われ、残り7割は工場やオフィスビルが使っていますので、節電努力の効果もあるでしょうが、やはり工場稼動の不調が電力需要の減少につながっています。
ところが最大需要電力(ピーク時電力)は昨年ガタンと減った以外、おおむね1億6500万kW(瞬間値)であまり変わっていません。これはエアコンの保有台数や世帯ごとの保有比率が徐々に上ってきた影響があるでしょう。総務省統計局の情報サイト「e-Stat」には様々な統計データが公開されていますが、2人以上の世帯について耐久消費財の保有状況を調査した各年データから、エアコンの項目を抽出してみると、エアコンを保有している世帯の比率が2011年の89%から今年は92%まで上りました。また保有数量は各世帯あたり約2.6台から2.9台に増えています。しかしいずれにせよ、発電量の減少は産業の不調に負う所が大きいのです。
(深田)
なるほど。
(山本)
さらに経産省のデータで見てみましょう。年間総発電量が2010年には1兆1500億kWhだったのが2022年には1兆と100億kWhになり、約1400億kWh減りました。内訳も原子力と石油等による発電が大きく減り、太陽光と地熱発電の占める割合が大きくなっています。そして現政府のエネルギー基本計画によると、2030年にはさらに800億kWh分の電力需要が「減る予定」になっているのです。
(深田)
まだまだ減らすぞ、という事なのですね。
(山本)
そういう事なのです。ところがね、「もうこれは多分実現しないな」といま言われているのです。
(深田)
そうですよね。
(山本)
その理由は、さっき深田さんがおっしゃったAIの電力需要、これがやはり大変な事になるのではないかと考えられているためです。
(深田)
私も仕事の関係で、データセンターを運用されている方のお話をよく伺うのですが、生成AIが普及しAIデータセンターの建設がすすむと、結構電力が足りなくなると聞いています。
(山本)
そうなのですよ、Google検索1回で使う電力の約10倍を、AIの使用1回で使ってしまいます。
(深田)
え、1回のGoogle検索分の10倍ですか!
(山本)
はい、ほぼ10倍なのです。
(深田)
それだけの電力を、1回の生成AI利用で使ってしまう……すごいですね。
(山本)
だから今後、みんながAIを使うようになったら大変な事になりますよ。
(深田)
停電しますよね。
(山本)
そうなのです。でもAIをやるにはまず、データセンターの建設が必要なのです。でもデータセンターを造ったら24時間稼動させますから、電力が安定的に供給されないと困りますよね。
(深田)
はい、困ります。データセンターを造る時はその横に、万が一に備えて自家発電のバックアップ電源も置いておかないといけません。
(山本)
そうです、よくご存知ですね。データセンターは基本的に2系統、違う発電所から電力を引き入れ、さらにバックアップ電源も用意するのが普通なのです。
(深田)
2系統プラス、バックアップですか。
(山本)
ええ、そこまで備えるのが望ましいのです。それぐらい電力はデータセンターにとって重要です、電気が来なくなったら大変な問題ですから。
(深田)
いきなり停電したら、データが壊れます。
(山本)
そうですね。では、日本でデータセンターを造る時に(安定した)電力供給はあるのかと考えると、ちょっと不安です。将来的なデータは種々あるのですが、まだ日本ではハッキリした見通しが立っていません。電力供給にそんな不安があろうとも、とにかく先にデータセンターを造っていかざるを得ない、というのが常識的な趨勢なのです。
では米国ではどうか。米国電力研究所(EPRI)がまさにデータセンターと電力との需給展望を分析した白書を今年の5月に出していますので見てみましょう。
【編注:下記参考リンク頁の右側、「No Charge」とある欄のボタンをクリックすると、英文ですが白書のPDFファイルが無料でダウンロードできます】
アメリカは今、データセンターの年間消費電力が2023年の全米実績で約1500億kWhです。この消費量が毎年15%ずつ増加すると仮定した最も高成長のシナリオでは、2030年に約4000億kWh、現状の2.6~2.7倍まで増えると予想されています。比較として日本の総電力は、さきほどの経産省データで一昨年がおよそ1兆kWhでした。米国はその半分近くの巨大な電力を、データセンターだけで使うような規模になってしまうわけです。
(深田)
それはすごいですね。ちなみに今、バージニアでも電力が足りないのです。
(山本)
データセンターはどこに造られるかというと、まずは需要地の近くなのです。なぜバージニアかと言えばワシントンDCの隣にあって、その需要を支えているからです。先ほどのEPRI白書によれば、データセンターの電力消費量も確かにバージニア州が全米一です。同様にニューヨーク州やカリフォルニア州にもセンターが多く集まっていますが、不思議なのは人口の少ない中西部、ネブラスカ、ノースダコタ、また北西部ワシントンの各州にデータセンターが多数あることです。これは何故かと言うと、第一に土地代の安さです。前回の太陽光パネルの事情と似ていますね。そして第二には電気代の安さです。さらにカナダ国境沿いのノースダコタ、ワシントン、オレゴン各州は冬季に結構寒いので、発熱しやすいデータ用機材の冷却費用がいくらか助かります。たしかデータセンターの電力需要の3割くらいが冷却費だったと思います。だから北部のノースダコタという、全米50州でもかなり……
(深田)
アメリカでもいちばん田舎の……
(山本)
そう、いちばん田舎です。ノースダコタはシェール(石油・ガス)革命までは全米50州で唯一、人口が減っている州でしたから。そんな場所にデータセンターがたくさん集まっているのは、電気代が安いからです。
(深田)
どうして電気代が安いのでしょうか。
(山本)
ノースダコタはね、実は州内で掘れる石炭で発電しているのです。
(深田)
あ、そうなのですね。やはり石炭なのですね。
(山本)
ええ。テキサス州もデータセンターが多いのですけれど、電気代がキロワット時あたり5.72セント、割高なカリフォルニア州18.96セントの1/3以下でやはり格段に安いのです。これは州内でとれる褐炭(品質の悪い石炭)と全米一の風力発電、それに加え石油もガスも取れるという恵まれたエネルギー資源のおかげです。それを考えると今後の日本でも、電気代が安く、土地代が安く、安定的に電力が供給される場所にデータセンターが作られるのではないかと思います。
(深田)
たとえば北海道は、涼しくて冷却電力はあまり使わないけれど、すでに発電容量が需要ぎりぎりですね。
(山本)
北海道はまだ泊(とまり)原子力発電所が再開になっていないので、電気代と供給という点で日本の中では厳しいです。
(深田)
厳しいのですね。ということは、東北がいま……
(山本)
東北は狙い目でしょうね。これから女川(おながわ)原発が動きますし、新潟には柏崎刈羽(かしわざきかりわ)原発がありますし、そのあたりの原子力発電所が動き始めると、安く安定的に電気が来る。となるとデータセンターを造るにはいい場所という事になりますね。ただ、データセンターにはもう一つ問題がありまして、今アメリカで困っているのは、データセンターを造ろうとした時に「人がいない」。
(深田)
人がいない……メンテナンス要員ですか。
(山本)
「つくる人」がいない。
(深田)
え! データセンターそのものをつくる人が……
(山本)
居ないのです。データセンターを造ろうとすると、電気の人と機械の人が必要なわけですね。ところが地方で造ろうとしたら、地方に電気技師とか機械の専門家が居るのか、という問題が出てくるのです。アメリカのマッキンゼーというところが最近レポートを出していますが、40万人くらい労働者が不足するのではないか、データセンターの建設は無理なのではないか、だからデータセンターの建設計画そのものに問題があるのではないかと指摘しています。それは日本でも同じでしょう、いま少子化が進んでいますし、建設業で働く人も減っていますから。
(深田)
外国の方が増えていますものね。でもその方々に電気技師とか複雑で高度な技術はまだ難しいですよね。
(山本)
はい、電気工事ができる人が日本で増えているかというと、多分増えていないと思います、電力需要自体が減っていますから。となると、これから日本でデータセンターを造る時の問題は、実際に工事に携われる、電気や機械の技術をもった人が地方で集められるのかという事になります。
(深田)
送電網の強化なども必要なのではないでしょうか。
(山本)
必要なのです。ただアメリカでも送電網の工事をやれる人が足りるか懸念されていて、いくら送電網の強化が必要とはいえ、そもそも物理的に可能なのかと話題になっています。
(深田)
なるほど、いろいろ問題が山積みですね。
(山本)
はい。でも日本にとって、人口が減って国内市場は小さくなっていきますが、AIデータセンターの市場は間違いなく成長産業なのです。
(深田)
そうですね。生成AIが人気ですし、国をあげてAIデータセンターを推進するなどとも発表されています。でも私はそんなニュースを見るたびに「ちょっと待て、電気はどうするのか」と疑問に思ってしまいます。
(山本)
そう、そしてAIデータセンターを作り始めると必要になるのが半導体です。つまり……
(深田)
半導体の製造工場も……
(山本)
造らなければいけない。これも電気を食う!
(深田)
そう、半導体製造も電力消費量がすごいのです。こんどラピダスの半導体工場が北海道に建設されますが、60万kWもの電力が欲しいと言っています。
(山本)
すごいですよね(苦笑)。データセンターも半導体工場も莫大な電気が必要なのに、どうするのだろうと思います。
(深田)
はい、北海道は絶対無理だと思います。
(山本)
泊原発がはやく再開してくれないと、電力供給が厳しいです。
(深田)
電力供給、もう全然足りませんね。
(山本)
まあ再生可能エネルギーでCO2が出ない電気を使いましょう、というのがいわゆるGAFAなどの望むところなのですが、実はここに非常に大きな問題があります。再生可能エネルギー、太陽光は前回もお話ししたように夜は発電できませんよね。でもデータセンターは夜も稼動しますけれど、どうするのかと。
(深田)
そうですよね、風も夜はあまり吹かないのでは。
(山本)
風は逆にね、夜のほうが吹くのです。
(深田)
夜のほうが吹くのですか。では風力と太陽光とで電力を賄わないといけませんね。
(山本)
でもいくら組み合わせても、両方とも使えない時が絶対ありますよね。台風がきたらアウトです(笑)
(深田)
そうですね(笑)
(山本)
だからアメリカのマイクロソフトは最近、原子力発電を使うために一度閉鎖されたスリーマイル島の原発を再開し、その電力を20年間買う契約をしたと発表しました。結局、安定的で安い電気となるとそういう事になってくるのです。
(深田)
そうなりますよね、ほんとに。
(山本)
CO2を出さず安定的に安価な電気となると、結局はGAFAも原子力発電所に頼っていく事になるのかな、という気もします。
(深田)
今後、日本も早く電力供給問題に取り組まないと、国を挙げて半導体を作りましょうとか、AIデータセンターをやりましょうなどと言う構想は「絵に描いた餅」で終わるかも知れませんね。
(山本)
そうですね。
(深田)
ということで、今回も常葉大学名誉教授の山本隆三先生に「これからはAIデータセンターの需要が伸びるからビジネスチャンスだ、ただし電気が足りないかも知れませんよ」という事についてお話しいただきました。先生、ありがとうございました。