#89ー加藤康子 × 深田萌絵 トヨタ不正問題の裏側

(深田)

自由な言論から学び、行動できる人を生み出す政経プラットフォーム、ITビジネスアナリストの深田萌絵がお送りします。今回は元内閣官房参与であり、私の大好きな加藤康子さんにお越しいただきました。

今回は「トヨタの認証不正問題」についてです。報道ではずっと「不正だ、不正だ」と言われていますが、私が見る限り、本当に不正と言えるほどのものなのかと疑問に思っていました。そのあたり、詳細な部分を教えていただけますでしょうか。

(加藤)

詳細な部分は技術的な議論になるので、技術のスペシャリストではない私からは少々申し上げにくいのですが、まずは経緯から。7月5日にトヨタから(型式指定申請において)7車種の不正が報告されました。その後の国交省のプレスリリースによれば、立ち入り検査などで追加の不正認定をされたものが7車種あり、全部で14車種の不正があったとされています。

この検査規則は国交省と自動車メーカーが参画して一定の基準を設けているわけですが、その運用の仕方や、どこまでを「不正」と呼べるのかという点で国交省の判断には疑問があります。

例えば「不正」と言っても悪意のあるものばかりではなく、ヒューマンエラーによるものもあります。人間ですから、20万件に数件のミスはどうしても生まれてしまいます。

トヨタさんの場合は自己申告から始まったとしても、そのようなヒューマンエラーまでをも「不正」という言葉に当てはめられるのか、というのがまず大きな疑問です。また後から追加された7車種には、海外ですでに認証された6車種が入っています。それら6車種は海外の認証機関にミスを報告しても「この程度なら問題なし」と許されるようなものだったのです。

(深田)

つまり軽微なミスだったから、海外の認証機関だとトヨタの申告は不正というほどの問題ではなかったと。

(加藤)

そうです。アメリカは別ですが欧州と日本はほぼ同じ基準で認証をしています。海外で認証を受けた車種は海外の認証機関にミスを報告するわけですが、軽微なものは問題にされません。

それから日本では「虚偽記載があった」と書かれた事例、これもその内容を読んでみると、虚偽と呼べるのか大いに疑問なのです。例えば衝突実験で、11±0.3km/hで行うべきところをトヨタさんは11.32km/hで行い、報告では四捨五入して11.30と記載したのですが、もしも11.3と桁数を落していれば虚偽記載にはならなかったのです。ところが11.30と書いてしまったら「虚偽記載」になってしまうわけです。

(深田)

なるほど! 少数点以下2桁目を切っておけばセーフだったのに、わざわざ書いてしまったから虚偽となってしまったと。

(加藤)

そうそう、11.32だったのを11.30と書いてしまったからアウトになったのです。基準に満たないデータを粉飾する悪質さとは関係ない、こんな小さな誤差に「虚偽」という言葉を使われると、会社のイメージに大きなダメージを与えてやろうという悪意を疑ってしまいます。実際には工場もどんどん再稼働し、生産にも問題がないという形でやっていますけれども、国民の方々は細かい内容を見ないので「不正」とか「虚偽記載」という報道の言葉だけに集約してしまい、非常に企業イメージを壊します。

(深田)

そうですよね。(追突された場合の燃料漏れをテストする)「後面衝突実験」の項目で、国は1100kgの重量で実施せよとしていた基準を、トヨタは(米国での販売も想定して)もっと厳しく1800kgで衝突実験した事まで「虚偽」と言われている、という報道もありました。

(加藤)

例えば衝突速度の少数点第2位を切り捨てた事を咎めるとか、いわば上げ足取りに近いような当局の対応は、そこまで厳しく運用して罰するべきなのかと疑問です。もう少し裁量が効いてもいいのではないかと思います。

(深田)

虚偽とは言えないような誤差ですよね。

(加藤)

そういうところは国交省が「切り捨ててください」と書いておけば問題ないと思うのです。むしろ今回一番問題だったのは、メディアがトヨタと国交省の対立を非常に煽った事だと思います。国交省の自動車局というのは技官が殆んどで事務方はあまり多くありません。本当に車を、内燃機関を愛している人達ばかりで「車のことがやりたい!」という志で在職しているのです。だから本来なら「いい車を作りたい」という思いは国もトヨタも同じわけで、まして日本で自動車産業は基幹産業ですから、ある意味官民一体で「いい車を造ろう!」という形で盛り上げていく、プラスの方向にベクトルが働くのが一番ベターなのです。

(深田)

そうですよね、本当にそう思います。

(加藤)

それが、なんだかメディアのトヨタ叩きの「具」となってしまっている、と言うか、そういう風潮に乗せられてしまっているところが非常に残念だと思います。国交省の自動車局にも官僚のプライドみたいな気質があって「淡々と技術者としての使命を全うしたい」と思っているのに、メディアがすごく煽ってきます。「トヨタを叩け!」というアンチ・トヨタのメディアは日経をはじめとしてすごく多いし、勢力も強い。霞ヶ関、永田町にもアンチ・トヨタが結構います。

日本は、トヨタがなかったら経済など回っていかないし、トヨタがなかったら、岸田さんはそれこそG7にも行けないのです。自動車産業は製造業としてGDPの2割、ある面では研究開発の3割、設備投資規模が国内の26%、それからなんと言っても輸出の17.6%が自動車です。自動車無くして日本経済はあり得ないのです。だからその自動車工場を止めるなどという事態は極力回避していかなければいけないわけです。

間違いに関しても、立場はどうあれ官民お互いに話し合い「今後はお互い気をつけましょう」で済むレベルだった話を、「虚偽」「不正」といったレッテル貼りで工場を停める騒ぎにしてしまうのは大変問題だと思います。幸い今回は工場を停めずに生産再開してはいますが、印象的にはものすごいダメージを受けているわけです。株主総会で「トヨタは不正の責任をとれ」などと言われかねません。もっとスマートなやり方があったのではないかと大変残念です。

(深田)

私もニュースを見ていて思うのですが、なんだか普段からトヨタ叩きがメディアは大好きですよね。

(加藤)

大好きなのですよ。安倍さんが存命中は「アベガー」と言って、安倍さんを叩いていればメディアの露出が増える評論家が沢山居ましたが、今はその標的がトヨタさんになってしまい、ものすごく気の毒だと思いますね。日本メディアの性と言うのか、そういうものに翻弄されていると思います。

(深田)

そうですよね。今回色々な記事を見ていて、新聞はほぼトヨタを叩いていましたが、もう少し深く自動車産業の事を分かっている人達から取材した週刊誌などの記事だと「これは本当に不正とか虚偽とか言えるレベルなのだろうか?」という論調もあるのです。ただ、大手の新聞メディア報道の方が日々目に入ってくるので「トヨタってなにか不正があったのかな」という印象になってしまいますよね。

(加藤)

「トヨタを叩いてやれ」という機運が全体になぜ根付いてしまったのか、私はすごく不思議に思います。それこそ自動車産業が日本から出て行った時は、まさに日本経済が終る時なのです。まして国産比率がトヨタはおよそ35%くらいあるのです。他業種はいま地産地消で海外に工場を作っているではないですか。トヨタグループをはじめ、スバルやマツダ、ダイハツなどのメーカーが一番国産比率が高いのです。マツダの国産比率は6割、スバルも6割、トヨタが大体35%、ダイハツは50%くらいです。もしこれがなくなったら、日本の部品メーカーはみんな飛んで(潰れて)しまいます。日産やホンダは国産比率が非常に低くて17%くらいなのです、中国とアメリカにシフトしてしまっていて。そういう中で、日本の経済を本当に守ってくれているトヨタをイジメ抜いたら、日本国にとってどういうインパクトがあるのか、政府も、政治家も、メディアも、しっかり考えていかないと。だって世界中どの国でも、自国の産業を守るというのが政治家の使命なのですよ。それが日本の場合には、基幹産業を叩く、徹底的にイジメ抜く風潮。これはよくないと思います。

(深田)

おかしいですよ、そんな風潮は日本ぐらいですね。(政治的な混乱の多い)アメリカでも政治家は産業を守る、労働組合は労働者の権利を守る、という事はちゃんとやっています。日本では、労働組合が労働者をいじめ、政治家が自国のGDPを支えている産業を叩くという現状で、これはちょっとおかしいと前から思っています。

(加藤)

そう、日本を背負ってくれているわけだから。日の丸を、日本の経済を背負ってくれているわけですよ。だから政治家は誰を見て政策を立てるのか、霞ヶ関の官僚は誰を見て仕事をするのか、という事をいつも思うのです。例えば経産省のEV購入補助金などは媚中そのものなわけですよ。

(深田)

外資にも出していますよね。

(加藤)

外資にも出していますよ、テスラにも。中古車販売大手の方とお話したら、テスラは大体3年でバッテリーの寿命もくるので売りに出すのですね。でも2023年の後半になってガクッと、急に販売台数が落ちてしまった。テスラはアフターサービスに相当するものもなく、板金補修もうまく行かないのです。ところが補助金の仕様をみると、表向きは「6年間連続使用が条件」となってはいるけれど、3年で手放してもまた新たにテスラを買えば、再び問題なく補助金交付が受けられる、という非常にうまい仕組になっています。ともかく補助金、イコール国民の税金で次々とEV車を買えるうまい仕組み、これは如何なものかと思いませんか。

(深田)

ほんとにそうです。

(加藤)

国の補助金、都の補助金が新車価格で85万+85万が最大だから、両方で170万くらいもらえてしまうわけです。ベンツやテスラを買うような身分の人にそんな補助金は必要ないですよ。

(深田)

いらないですよ、あんな高い車。しかも何年か経ったらバッテリーが使えなくなって、バッテリーの買い替えすら、いま100万円……

(加藤)

いや100万では終らないですよ、250~300万くらい。

(深田)

そんなに!

(加藤)

車体も一箇所傷がつくと、まるっと全部替えなければいけない一体型なので300万くらいかかります。テスラはメンテナンスのサポート整備がないのですが、では国交省の自動車局で面倒みるかというと、彼等はやはり内燃機関を中心で見てきていますから中々そこまで手が回らないのです。それからご存知ですか、テスラは運転モニターのタッチパネルに保護シールを貼ってはいけないのです。

(深田)

え、そうなのですか?!

(加藤)

そう。どうしてだか分かりますか。保護シールを貼ってしまうと、車を使っていなくてもバッテリーをどんどん消費してしまう。タッチパネルがシールに反応してしまうらしいのです。だからシールを貼らないでとアナウンスしていますが、知らない人も多いですね。

また先日は韓国のマンションでベンツのEVが40台燃えていましたが、そういう事故を日本のニュースは全くやらないではないですか。自動車運搬船だって年間13隻がEVの自然発火で燃えているわけで、それもベンツとかポルシェとか、そういう高級車でさえも燃えるわけです。勿論中国のBYDなどの火災も沢山あるわけで、メキシコでもBYDは沢山売られていますが故障が多くて苦労しています。

でもそういう報道は一切、ポリコレ規制のもとでやらない。この間もアウディが千葉で8台燃えていましたけど、EVですよね。これ燃えた案件どうなっていますか?調査していますか? と私も国交省に聞きましたけれど、なかなか進まない。

本来なら国交省の役人と言うのは技官が多いから、車を愛している人、内燃機関を愛している人が多いのです。それはメーカーも同じで、例えばトヨタにしろ日本の経済を牽引していい車を造るために、みんな社員は全力で頑張ってきているわけではないですか。国交省だって同じように車を愛し、いい車を造っていくためのファンクション(機関)です。自動車メーカーがなかったら国交省の自動車局も無いわけですから、お互いに持ちつ持たれつ、もう少し上手くお互いに協力し合わないと……車両検査における広い裁量も含めて、甘くしろとは言わないけれど、理不尽な、お互いに禍根が残るようなコミュニケーションの仕方ではない方法で、うまく協力してやっていけたらいいのではないでしょうか。

(深田)

本当にその通りだと思います。逆にメディアが煽り過ぎという部分もあるのですが、自動車メーカーと国交省はそれに惑わされずにうまくやっていくのが一番いい形だと思います。その為にも、加藤先生が両者のブリッジ役としてご活躍くださる事をこれからも応援していきたいと思います。

という事で今回は、元内閣官房参与の加藤康子先生にトヨタの不正問題についてご解説いただきました。加藤先生、ありがとうございました。

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