#82-小松成美×深田萌絵「元首相暗殺から二年…私たちは目覚めた?」

(深田)
自由な言論から学び行動できる人を生み出す政経プラットフォーム。ITビジネスアナリストの深田萌絵がお送りします。今回はノンフィクション作家の小松成美さんにお越しいただきました。よろしくお願いします。

(小松)
よろしくお願いします。

(深田)
これまで色々な方を題材にしたノンフィクションをお書きになられてきた小松さんに、今回は『暗殺』をご解説いただくという特集を考えているのですが、その前に、これまでどんな方を取材されてきたのですか?

(小松)

はい。元々『ナンバー』というスポーツ誌でデビューしました。ライターデビューをして、そこから「時の人」、本当にその時々に世の中を沸かせ、注目を集めた日本のアスリートたちを書きました。例えば、中田英寿さんや、イチローさん、五郎丸歩さん、横綱白鵬などです。

(深田)
本当に有名な方々ですね。

(小松)
それと同時に、ジャンルを超えて自分の大好きな人物を書きたいと思い、中村勘三郎さんや、知的障害者雇用を昭和の時代から推進した日本理科学工業を追いかけた『虹色のチョーク』という本も書きました。

(深田)
今までで一番ヒットした作品はどんなものですか?

(小松)

そうですね、この『暗殺』を出版した幻冬社で書かせていただいた、中田英寿さんの『鼓動と誇り』という本です。文庫も合わせて50万部くらいです。

(深田)
すごいですね。

(小松)

中田さんが19歳から引退するまでの10年間を追いかけて書いた本です。

(深田)

そのように一人の人を追って深く人物像を描いていくことを本業にされている小松さんが、今回『暗殺』という全く違うスタイルである物語であるのに、素晴らしい書評を朝日新聞の欄に投稿されていたので、ご紹介がてら読ませていただきます。

「あまりにも面白く、恐ろしく、体が震えました。赤報隊による朝日新聞阪神支局襲撃事件、実は禁忌であった令和という元号。その幕開けとともに影でうごめく人々。天皇、東京オリンピック、トランプ政権との真の関係。総理が急に辞任した理由、そして訪れる運命の日。なぜ大和西大寺駅の北口ロータリーが応援演説地に選ばれたのか。脳天に杭をさされたような衝撃のままページをめくっていました。ラストシーンを読み終えた時には誰もいない部屋で叫び、柴田さんは続編を書くに違いないと感じていました。柴田さんの『下山事件 最後の証言』もすごい本でした。この本は、メディアが言うより何万倍も危うい場所に日本と日本人がいることを教えてくれました。ノンフィクション作家小松成美。」

(小松)
実は、私はただの読者で、本が出てから普通に本屋さんで買って、読んで、あまりにも衝撃を受けたので、見城社長にLINEで送った文章だったのです。

(深田)

普通のメッセージがこんなにかっこいいのですか?

(小松)

いえいえ。それでハワイでバカンス中だった見城社長からご連絡いただいて「お前、これ新聞書評に使っていいか?」って言っていただき、「光栄です」という感じで。

(深田)

私もいつかこんなかっこいい文章を書きたいです。

(小松)

いいえ、とんでもありません。でも本当に、近年読んだ本では、時間を忘れてページをめくったので、熱い思いをそのまま。新聞書評に使われるとは思いませんでした。

(深田)

私もこの本を夢中になって読みましたが、小松さんにとって、特にどの部分が一番惹かれましたか?

(小松)
そうですね、私はノンフィクションを書くとき、事実と事実の間を埋めるために想像することがあります。ノンフィクションでもそういった作業が必要です。それは時には小説的な考え方とすごく近いこともあります。ですから小説を読む時に、その「事実である」というような気持ちも、強く持っていました。けれどもとてもセンシティブな話題を扱っているので、どんな物語になっているのかなと思いながらページをめくっていくと、まず衝撃を受けたのがあの事件の真相、その原因が、冒頭で明らかになっていました。例えば高村薫さんの「レディ・ジョーカー」も大好きで読んでいくのですが、どうしてこんな事件が起きるのか、犯人は誰なのか、その登場人物と出来事を重ねていかないとわからないのです。その中で、実はこの『暗殺』は、全てを明らかにしてから物語が展開されるので、すごく興味深かったです。

(深田)

そうですよね。最初に出てくるのに、それを読んでいる時は、事件のかなり中心にあるということが繋がらないのです。

(小松)

そうですよね。安倍元総理が暗殺された理由、その事実が冒頭で克明に書かれていたので、「こんな種明かしを最初にして大丈夫なのか」と思いました。ところがそこから様々な人たちが工作していくのです。「これが事実だったら、この国はどうなってしまうのだろう」という、恐れを感じると同時に、エンターテイメントとしてもすごくワクワクして「柴田さんすごいものを書かれたな」という作家としての憧れ、憧憬もあって、その両方でしたので、本当にえっと最後の方 ちょっと立って読んだりしました。ページをめくるのがもどかしいような気持ちは久しぶりでした。

(深田)

分かります。何だか読んだ瞬間に、あっという間に物語に引きずりこまれて没入していくという、これがすごいですよね。

(小松)

はい。宅急便を2回ぐらい、スルーしました。

(深田)

あとはやはり、自分も言論活動をしているので、政界の闇というか右翼の闇というか、色々な魑魅魍魎的な世界を垣間見ることがあるのですが、それを超えて「こんな国に住んでいて大丈夫なの?」という、まさにこの書評の中でおっしゃっていた感覚になりました。

(小松)
はい。正義と悪のようなものを私たちはいつも二元的に考えているわけですけど、生き方において得た真理、誠実さとか、正義の形、それはある人によってはそのポジとネガで全く真逆のことになっていくわけです。犯罪にもなるような行為が実は、その人自身にとっては正義であると。本当に瞬時に変わる、人によって変わっていく、その考え方みたいなものは、神経を研ぎ澄まさなければ読めなかったし、同時に、本当に赤報隊の事件とか、私には生々しいのです。おそらく深田さんは、歴史と言いますか、過去の事実として知ったことと思いますが。

(深田)

いや、私は赤報隊という事件が全然わからなかったです。初めて聞いた単語でした。

(小松)
昭和30年代生まれの者にとっては同時代、こういうことが、言論を封じるような行為をする人がいるのだと、とにかく当時の日本を揺るがした事件だったのです。

(深田)

赤報隊事件というのは、当時どういう風に見られていたのですか?

(小松)
右翼の極端な思想を持った人が言論を封じるために、朝日新聞という朝日ジャーナルや週刊朝日を持っている新聞社の記者を襲う、まさに「人の命を奪ってその筆ペンを断つ」という、国民の誰もが怒りを抑えられないような衝撃の事件でした。赤報隊というネーミングなど、当時は極右の盲導主義の人の犯行だろうということで報じられたのですが、当時はその記者の方たちのプライベート、例えば若いお父さんでまだ子供がとても小さかったとか、どんな記者でどんな風に愛されていたとか、そういったことがニュースや情報番組で繰り返し報道されていました。

そして、こういうことを許してはならない、許す国家ではならないと、国が1つになるぐらいの、本当に大きな事件だったのです。その記者の方たちの命日には関係のない私たちも手を合わせるような、誰もがこの事件が解決してほしいと願うようなものでした。それで私も全く知識なくこの本を読んでいたので、その冒頭に赤報隊が出てくると、驚いてしまって、「なぜ?何?何なの?」と言う間もなく、こんなことがあったのだという、線が結ばれていく。

柴田さんがどうやってこれを取材し、このモティーフを冒頭に持ってきたのか、もう知り合いになって聞きたいと思うぐらいでした。赤報隊という、日本人に本当に大きな衝撃をもたらしたテロリスト事件が、実は全く違う側面で、もしかしたら私たちが信じてきた報道で聞いてきたことは偽りだったのかもしれないと思ったのです。

(深田)
本当に、この国の主要メディアはかなりコントロールされているのだなという、残念な思い、読みながら「やっぱりこの国は真実を報道で知ることができないのだ」という、自分がちょっと違う世界、作られた世界を見せられていて、「本当はこっちじゃないの?こういう恐ろしい世界に住んでいるのではないの?」という、恐怖を抱きました。

(小松)

そうですね。私はこの本を読むまで、この柴田さんの原稿に触れるまで、今までの報道を全く信じていましたから。

(深田)

そうなのですか。

(小松)

全員そうですよね。

(深田)

ほとんどの人は信じているのですよね。

(小松)

はい。ある書簡が投じられ、それがある新興宗教との関わりを示唆しているというもので、全く知らないです。もちろん表立って報じられたことはなかったでしょう。もしかしたらそれを影で追いかけて来た方がいたのかなと思います。それを世に発表できないまま霊感商法のようなものが巷に蔓延ってたくさんの犠牲者が出ました。まず「脳天杭」はそこでした。

(深田)
元首相が暗殺された時にいろんな噂がネットに飛び交ったのです。「元々は大和西大寺駅前で演説する予定ではなかったはずなのに」とか「これは本当っぽいな」という話から、「さすがにそこまではないのでは?」というものまで、色々なネタが出ていたのです。結構信憑性の高い話もネットにはいくつもツイッターなどに転がっていたのですが、全く報じられないので「これはこのまま安倍さんの事件は闇に葬られていくのだろうか」と思っていた矢先だったので、こうして1冊の本にまとめられるというのはすごいなと思いました。

(小松)
深田さんは、世の中でいう陰謀、もしくはケネディ暗殺事件のように単独犯ではなく、もしかしたら他に共犯者がいてというようなことを最初から思ってらっしゃったのですか?

(深田)
私は、まず弾が、容疑者は下の方から撃ちに来ているのに、明らかに上からですよね。

(小松)

うん、角度がね、違いますね。

(深田)

そうなのです。おかしすぎるだろうと。じゃあ上から撃てるとしたらこの建物しかないけれども、捜査されている様子が全くないというのが不気味で、しかも私は、あの大和西大寺駅の、西大幼稚園に行っていたのです。あそこから安倍さんをわざわざとても遠いところに搬送するとか、もっと近い病院があるのにどうしてだろうとか、なんだかものすごく気持ち悪い感じがしていました。

(小松)

色々な物語や様々なストーリーの中で、陰謀が暴かれてきたことが過去にあるわけですよね。あのケネディだって今になって本当にCIAの一部の犯行を裏付ける資料が出てきたりしています。ただ、現実の事件で、安倍さんが命を落とされた時に、暗殺とか陰謀といっても、そんなものは隠しておけないだろうと思ったのです。色々な人が関わっていたので、警察なのか、お医者さんなのか、地元の方たちなのか、自民党の方なのか、あの場所に設定した人なのか、奈良の自民党の方たちがいろいろな準備をしたということも書いてありました。でも、もし陰謀だったら「もう私、耐えられない」って誰か言ってしまう人がいるではないかなと思っていたのです。

(深田)
そうですよね。

(小松)
ところが、この柴田さんの本では、そんなに軽々しいものではなく、何年もの昔年の思いをあの日に集約したのだということを、小説にしているわけです。ここからはエンターテイメントになりますが、つまり秘密を守る人だけが共有し、そうした人たちだけが配置されて、あの事件が起こったのだということが分かって、今は陰謀というのはあるのかなと思っています。

(深田)

私は、陰謀は結構あるのではないかと思っています。この大きな全体像を知っているのはごく少人数で、そこから命令が出ていきますよね。演説の予定を、ちょっとこの日は都合が悪くなったから、安倍さんはこっちに来てもらうことにして欲しいとか、いろいろこう采配してくと思うのですけど、多分、言われている方は、基本的に上からの命令に従うので「え、そうなのですか」って言って「じゃあそうします」というふうに、多分現場の人はそこまで違和感を抱いていないと思うのです。

(小松)
あれでしたよね。深田さんが、元総理が暗殺された次の日の新聞の見出しを全部並べて、写真を撮ってらっしゃいましたけど、あれは本当に怖いですね。何故あんなことが起きるのですかね。

(深田)

あの5紙だけではないのです。主要5紙だけではなくて地方紙も含めたら何十紙も、全く同じ見出しでした。これはもう、この国の中枢の力が関わっていなければ、絶対にこんなことはありえないと。

(小松)

思っていらしたのですね。片や私のように、そんなことは無理だよと思いながらこの本を読んだ時に、この本を読む前と読んだ後とでは、景色が違って見えるぐらいに新たな情報がありました。例えば、今こうして生きている令和というこの時代、この元号についてです。そして私たちが晴れやかな気持ちで新天皇をお迎えした5月1日という日付が、もうほんとこの本のおかげで全く違うものに見えてしまいました。けれども、さっき言ったように、そんなことなんて物語の世界だよなと思っていた、その私の心の内側をえぐられたというか、「目を開けて覚醒して物を見よ」と本当に言われた気がしました。だから立ち上がってしまったのですよね。

(深田)

なるほど、やはり「目が覚める一冊」と言いますか、精神的にも目が覚める一冊ですよね。やっぱり自分たちは報道を信じて生きてきたけれども、それだけではダメなのですね。いろんな人の話を聞いて、そのピースを集めて自分で組み立てていく力も必要なのだという、そういうことを教えてもらえる本ですね。

(小松)
私は普通の本屋さんで買って、もう帰り道に読みたかったから、この本を電車で読むのは物騒だと思って、それでカバーをしてもらったのですけれど、このシンプルなタイトルは、総理がいなくなった日とか、なぜなんとかだったのかみたいな、説明をしないですよね。そこにむしろ強いメッセージがあると思いました。

下山事件を柴田さんは取材し、本を書いています。私は松本清張の下山事件の本を読んでいるのですが、深田さんは読んでないですよね。私たちの世代は必ずあの書に、何か国家的な陰謀があったのではないかと。あの売れっ子作家がもう人生を投じて新聞記者と共に追いかけるのです。そして書いた『下山事件』で、そこにはやっぱりその共産主義との闘いというものが本当にあって、当時の下山さんは国鉄の総裁でした。国鉄というのは組合運動が大きくあって、共産主義の温床になるのではないかと、アメリカや日本の右翼はものすごく恐れを抱いていたわけです。
それが繋がってくるのではないですか。

つまり、ある新興宗教が共産主義を敵対するものとして見るということで、日本の保守の政治家は、その背景やその彼の内面に触れぬまま、一気にシンパシーを抱いてしまうわけです。そんなスタートだったのっていう、つまり、戦前・戦中・戦後にまで実は根が深かったのだということを感じたのです。だから、あの後に松本清張の『下山事件』を読んじゃったりしたのですよ。そう、繋がって。多分、今の若い人たちはもう過去の歴史だと思うのでしょうが、昭和・平成・令和と、そうした系譜が本当にくすぶり続けていて、そのことはまだ終わってないのだということも、この『暗殺』は教えてくれました。

(深田)
ということで、今回はこの本を読んだことで、小松さん自身は全く陰謀論とか興味がなかったという方ですら、さすがにですね。

(小松)
そうですね、エンターテインメントとしてはすごく興味があったのですが、本当には無理だろうと思っていたのが、やっぱり「目を開けよ」と言われたと、今は思っています。

(深田)
はい。今回は、目覚めの1冊なので、皆さんにも、ぜひとも一度読んでいただければと思います。

(小松)
そうですね。何だか、柴田さんには「あそこはどうだったのですか?」とか、仲良くなったら聞いてみたいところもたくさんあるのですけれど。

(深田)

私はもう、読みながら、名前がちょっと偽名になっているところを全部ネットで調べてここに答え書いて、

(小松)

そうですよね。なんか電子書籍で変換できるのがあったらいいなと思いました。あと、銃のことがたくさん出てくるので、銃が好きな男の子は面白かっただろうなと思って。

(深田)

はい、そうだと思います。

(小松)

私もこの本で銃について少し詳しくなりました。

(深田)
はい、ということでですね、今回は小松成美さんに『暗殺』についてご解説いただきました。小松さん、ありがとうございました。

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