No.43― 深田萌絵 × 八幡和郎 『脱炭素で右傾化するヨーロッパ』

(深田)政治と経済の話を分かりやすく、政経プラットフォーム、ITビジネスアナリストの深田萌絵がお送りします。今回は歴史家であり、国際政治評論家の八幡和郎先生にお越しいただきました。先生よろしくお願いします。

最近、欧州の政治がバタバタしており、右傾化してきていることについて、先生にご解説頂きたいのです。

(八幡)

留学先と勤務先が両方ともフランスでして、フランス国立行政学院に留学しておりました。前大統領のフランソワ・オランドさんの3年後輩、今の大統領のマクロンさんの22年先輩です。メルケルさんや、マクロンさんの奥さんとほぼ同世代でして、マクロンさんの奥さんの方が、マクロンさんより26歳上なのです。

(深田)

いや本当に羨ましいです。

(八幡)

全世界のアラフィフ以上の女性にとって、希望の星ですね。

(深田)

あのような方が現れると、女性として投票したくなりますよ。

(八幡)しかも、今のフランスのアタル首相は、公然とLGBTQ、要するにホモセクシュアルを名乗っています。

欧州連合(EU)の欧州議会選挙では、各国から比例代表に近い形で選ばれるのですが、ヨーロッパの政治の大きな流れを掴むためにとても大事な選挙です。2024年欧州議会選挙は極右の勝利と言われており、実際その通りで、極右政党が、フランスでは第一党、ドイツでも第二党、イタリアも第一党となったのです。一方で、環境派がかつてないほどボロ負けに負けたのです。

(深田)

やはり、ロシアのウクライナ侵攻後、石油とガスの高騰で、電気代も上がったからですね。

(八幡)

まずは今回の選挙前と後での議席の推移を、グラフ(日本時間6月10日時点)によって極めて単純化して見ていきましょう。下のグラフが選挙前です。真ん中のオレンジ色の部分は、EU統合を進めようとしている主流派でして、中道左派の「S&D」、中道リベラルの「RE」、中道右派の「EPP」の3党で構成されています。それぞれ、「S&D」はドイツのショルツさんのような社民党、「RE」はフランスのマクロンさんのような中道リベラル、「EPP」はドイツのキリスト教民主党など、いわゆる保守派です。

このグラフから、中道会派は前回に引き続き過半数を占めていますが、「S&D」と「RE」は極右の伸長に押され気味になっております。

(深田)

この赤色の極右勢力が、選挙前よりも選挙後でかなり伸びました。

(八幡)選挙が終わってから、どこの会派に属するか決まるので、少々ある「その他」が分かりにくくなっていますが、要するに、極右は伸びました。極右と言えば、フランスではマリーヌ・ル・ペンさんの政党名が「国民戦線」など、頻繁に変わっているので、「極右」や「マリーヌ・ル・ペンさんのところ」などと呼んでいます。

(深田)

次のグラフです。このグラフは、フランス選出欧州議会選挙の政党別支持率の推移を、2019年の欧州議会選挙結果と2024年の欧州議会選挙の世論調査の支持率との比較で示しています。

一番下の「国民連合」が、フランスで、今一番伸びていると分かります。

(八幡)前の選挙の時は、大統領派リベラルの「アンサンブル」はマクロンさんの与党「再生」より少し下あたりだったのですが、30%から15%に落ちています。

(深田)

前回の選挙から今回の選挙予想で、極右の「国民連合」がグっと支持率を伸ばした形になっているのですね。

(八幡)

ドイツでは、今の与党はみんなボロ負けに負けています。メルケルさんの党であるキリスト教民主党が第一党に復帰を果たしましたが、第二党は、ドイツの戦後ずっと社民党とキリスト教民主党との二大政党制だったのがついに崩れて、極右の「ドイツのための選択肢(AfD)」が、ドイツの第二党、旧東ドイツでは第一党になったのです。

(深田)

東ドイツで右派が第一党になってしまったのですね。

(八幡)

それからイタリアでは、今の首相のメローニさんが、元々ムッソリーニの系統を引く極右なのですが、現役の首相たちの中で、ただ一人だけボロ勝ちしたのです。政権に対する不満ばかり言いながら、大勝ちをしました。

スペインだけは、へんちくりんな党が複数ありましたが、どちらかというと、元の二大政党の真ん中が勝つという、少々不思議な現象が起こっています。

ともかく、極右がフランスでは第一党、ドイツでは第二党になりました。フランスの場合、大統領の権限が強いので、すぐに問題にはならないのですが、法案を通すためには、議会の多数決が必要ですから、「負けた国会では何をやってもダメだ」となって、マクロンさんは、任期はまだ2027年まであるけれども、「ネームダックになるのは避けたい」とやけくそで下院を解散してしまったのです。

(深田)

やけくそ解散をしたら負けてしまうではないですか。

(八幡)うっかりすると、大統領も辞めざるを得ないのではないでしょうか。7月27日にオリンピック開会式を控えていますので、その前に総選挙をやって、オリンピックのお祝いムードでごまかそうとしているのではないか思うのです。

むちゃくちゃになっています。何が起こったのかについてはそこまでにしておきます。

ではこちらの表をご覧ください。欧州議会の主要会派と所属政党、政治家をまとめたものです。極右が勝ったというより、これまでの普通の保守派が左へ寄りすぎた一方で、極右と言われる人たちが真ん中へ寄ってきたのです。

(深田)

確かにそうかもしれないです。

(八幡)

例えば、前はフランスのマリーヌ・ル・ペンさんも、「NATOとEUから脱退だ」「ロシアとくっつく」と言っていたのですが、あまり言わなくなったので、それほど混乱にはならないのではないかと思います。イタリアで、メローニさん率いる極右政権が、実際に政治をやってみると、とても評判が良かったのも大きいです。

ヨーロッパの結束は乱さない代わりに、移民問題だけは譲れないと開き直り、みんな怖いから言うこと聞きますし、うまくやっています。

(深田)

面白い展開ですね。

(八幡)そもそも考えたら、日本の極右の政党というと、保守新党と参政党でしょうが、「そもそも極右かどうか」という話もありますし、保守新党はほぼ保守でも、参政党は性格がややこしいので少々違うところもあります。強いて言うと、あの二党なのですが、極右と言われるのが嫌がってすらいます。「大東亜戦争!」と言っている人たちが、世界の常識から言うと極右なのですが、自民党にいわゆる極右と言われる人がみんな入っているのです。イギリスも、ボリス・ジョンソンさんは極右、アメリカのトランプさんも極右です。要するに、日本、アメリカ、イギリスでは極右と言わずに保守と言われている人が、ヨーロッパでは極右と言われているだけではないでしょうか。

歴史的な経緯から言って、戦後の秩序、欧州統合に肯定的な人を保守、そこから反対の人を極右としています。もっと言うと、極右は、王様を担いでいた人です。

歴史的な呼び名なのです。

今回の問題として、保守の方が左へ寄りすぎたことです。

(深田)

それは日本もそうですよね。

(八幡)特にメルケルさんは東ドイツ出身だということもありますが、環境、移民、LGBTQの問題などで、いわゆる中道リベラルのような対応をしてきました。

(深田)

そうですよね、私も、メルケルさんは左だと思っていました。

(八幡)そんなこと全然なくて、彼女の理想というのは、彼女の執務机を見ると分かるように、ロシアとウライナを領土化した屈指の専制君主エカテリーナ2世の肖像画が置いてあったのです。もちろん、今も飾ってあるかは分かりませんが。かなり強権的な人でもあるので、非常に現代的価値であるのですが、いろんな問題も出ています。問題として、移民問題の深刻化や、LGBTQでの対策がキリスト教的な価値観を否定するのではないかという懸念などがあります。今のヨーロッパの政治的指導者で、一番キリスト教的なのはプーチンさんです。

要するに、キリスト教の守護者になっています。特にフランスみたいな、30%ものの人を、「危険な極右だ」と言って体制外にしたら失敗だと思います。

(深田)

確かにそうですよね。

(八幡)極右勢力は、ドイツではAfDが15%、郡小政党の極右政党を合わせると、およそ20%、フランスでも約35%の規模でしょう。「極右だ」「あいつら変な体制外だ」と言うのは、「安倍さんを支持している人は、みんな極右だ」と言うようなもので、安倍さんを強く支持していた岩盤支持層を弾くのは無理なので、路線を変更しないといけないのです。

もう一つの問題は、今の状況になった背景として、単純に移民問題とウクライナ問題の対応だと思っています。今起きている全ては、ほぼこの2つの間違いから出発すると思われます。

(深田)

間違いとは何ですか。

(八幡)

移民問題は、「移民を受け入れることで、その移民を出す専制国家や変な国を潰すことができる」、要するに東ヨーロッパからの若い人が移民としてどんどん出ていったことで、社会主義が潰れた成功体験です。ところが、現実には、非常にイスラムの強いところ、中近東やアフリカ、中南米の国にとっては、厄介な連中が移民として出ていってくれるだけの話なのです。

この間違った成功体験が、かえって社会主義国家を喜ばせてしまっています。

ウクライナ問題は、法律的には「ウクライナが正しくて、西側が正しくて、ロシアが間違っている」のだけど、現実的な統制から言うと「ロシアが言っている方が正しい」のです。要するに、ウクライナは歴史的に言うとロシアの一部であり、冷戦で潰れた後、アメリカも「NATOは旧東ヨーロッパに広げない」と言っていたのです。

(深田)

そうですよね。そもそもNATO側が一歩そちらには行かないと約束がありました。

(八幡)口約束ですがね。しかし、ついに旧ソ連のところまで手を出したのです。ウクライナは、独立はしていても、歴史的に言うと日本にとっての東北や九州や沖縄、中国にとっての四川省や広東省です。それにも関わらず、NATOやEUに希望するから入るとなると、日本にとって、東北や九州の人が独立して中華人民共和国に入るような困る事態ですし、アメリカにとっても、カナダやメキシコが中国と同盟を結ぶようなものなので、黙って見ていないでしょう。

法律に国際法違反であろうがなかろうが、開き直っているのです。

どのように治めるか考えながらやらないから、どんどん経済がダメになります。もっとひどいのは日本で、結局物価がウクライナ紛争のせいで上がって、自民党への不信感も高まりました。韓国も台湾でも、与党保守党が議会選挙で負けました。どこかで治めどころを考えないとやばいと思います。

(深田)

ロシアとウクライナの関係の収めどころの話ですね。

(八幡)そうです。だから、ヨーロッパ経済は、そこそこうまくいっているのです。経済の話になると、この番組の視聴者は「税金を安くしろ」と言う方だから、「中々受けないぞ」と言われていますが、結局一番、国際万博を出して、財政規律に無頓着だった日本が一番ここ30年~40年、経済成長率が低いのです。それはマクロ経済学で無理しても、経済成長は起こらないということです。ヨーロッパはきちんと財政規律を守ったが故に、経済は好調ですし、産業育成政策もきちんとやっています。

(深田)

産業育成政策に関しては、日本は全く何の手も打ってこなかったと思います。

(八幡)ともかくマクロ経済政策で、明らかな失敗としては、エネルギーとウクライナとパレスチナの問題です。ドイツで緑の党が負けた一番の理由は、その外務大臣のベアボックさんがウクライナとイスラエルの肩を持ちすぎたからです。また、化石燃料を使う暖房装置を新しく家に導入させるのを禁止するなど、荒唐無稽な政策だったので、不満が爆発しました。経済政策はこれほどひどくありませんでしたが、環境政策とウクライナ問題で真ん中の保守中道がしくじった結果だと思います。

(深田)

保守中道が、環境寄り、リベラル寄りになったことが失敗だったのですよね。

(八幡)

環境派はもっとひどいことになると分かったのです。

(深田)

今回は、国際政治評論家の八幡先生に、「脱炭素をやりすぎると票を落としますよ」というありがたい教訓をいただきました。先生どうもありがとうございました。

政経プラットフォームでは、毎回様々なゲストをお招きし、大手メディアではなかなか得られない情報を皆様にお届けします。日本を変えるため、行動できる視聴者を生み出すというコンセプトで作られたこの番組では、皆様のご意見をお待ちしております。また番組支援は説明欄のリンクからお願い申し上げます。

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