5億タワマンを転売ヤーが倍値で即売り!規制に動いた業界事情を専門家が暴露! 牧野知弘氏 #534
【目次】
00:00 1.オープニング
00:38 2.マンションが転売ゲームの対象になっている
05:50 3.民間で転売を規制するのは困難
15:10 4.購入者の実態は国税局なら分かる
(深田)
皆さん、こんにちは。政経プラットフォームプロデューサーの深田萌絵です。今回は、オラガ総研代表の牧野知弘先生にお越しいただきました。牧野先生、どうぞよろしくお願いいたします。
(牧野)
よろしくお願いいたします。
(深田)
最近、マンションの転売規制が始まったそうなのですが、これはどのような制度で、今後どのように変化していくと見ればよいのでしょうか?
(牧野)
マンション価格が非常に高騰し、ワンタッチで転売してやろうという、いわゆる転売ヤーが跋扈しているのです。
(深田)
転売ヤーですか?
(牧野)
はい、転売ヤーです。
(深田)
それは、通常の不動産投資として運用するのではなく、買ったらすぐに売るということですか。
(牧野)
キャピタルゲインのみです。
(深田)
振り切っていますね。
(牧野)
有名なものとしては、港区三田で2023年に分譲された『三田ガーデンヒルズ』という巨大マンションがあります。タワーマンションではありませんが、14階建てぐらいの大きな建物が5棟並んでいて、全部で1000戸あり、980戸ほど分譲されました。この物件は、まず売値が大きな話題となりました。坪単価と業界では言うのですが、1坪当たり1300万~1400万円です。
(深田)
えーっ!?
(牧野)
つまり3.3平方メートルあたり1300万円という水準でした。
(深田)
1坪1300万円とは、大阪では下手をすると家が買えます。
(牧野)
そうですね。120㎡前後の大型住戸が中心で、4億8000万円から5億2000万円ぐらいです。
(深田)
それを転売するのですか?
(牧野)
このようなマンションが売りに出されたとき、僕は「さすがに高すぎるのではないか」と思ったのですが、非常に高い競争率となりました。まず、モデルルームの見学申し込みが抽選なったのです。
(深田)
モデルルームを見るだけで抽選なのですか!?
(牧野)
モデルルームすら見られなかった人がたくさんいました。
(深田)
ブラインドで買うということですね。
(牧野)
それほどの大人気でした。こんな物件を買える人は、世の中にいないわけではありませんが、ここまで殺到するのはおかしいですよね。
(深田)
日本人は買えないでしょう。
(牧野)
僕の周りにも数人いましたよ。
(深田)
生涯年収の2倍以上ですよ。
(牧野)
僕の知人に限って言えば「どう考えても5億円を持っていないだろう」という人が申し込んでいました。
(深田)
えっ、どういうことですか?
(牧野)
転売するからです。
(深田)
ああ、転売して差額だけを抜くということですか。
(牧野)
以前のマクドナルドのハッピーセット(※1)と同じですね。転売が問題になりましたよね。
※1) 今年8月、マクドナルドのハッピーセットに付く限定ポケモンカードをめぐり、転売目的の大量購入やカードを抜き取って食品を廃棄する行為が相次いだ。
(深田)
絶対にそれで遊ばないだろうという人たちが、注文しまくったのですよね。
(牧野)
三田ガーデンヒルズに申し込んだ一部の人は、全く居住を目的とせず、転売ヤーだったのです。何が起こったのかというと、1300万ぐらいの坪単価で買ったマンションを、即売りに出して、その金額がまたびっくりで、坪あたり2500万から3600万でした。
(深田)
1000万円も上乗せるのですか!それでも売れるのですか?
(牧野)
売れたそうです。僕の知人も当選した時に電話を掛けてきて「やったあ、牧野さん。これで俺も大金持ちだ」と言っていました。つまり、物件引き渡し前に売っている人もいるのです。
例えば、僕がこの高倍率の大人気マンションを1300万円/坪で買って、萌絵さんに2000万円で売る。萌絵さんはそれを3000万円で売る。このように完全な転売ゲームが行われているのですね。
これが明るみに出て、物件引き渡し後も販売価格はどんどん上がっていきました。これは居住用の施設ではなく、昔NTT株が大フィーバーした時と同じで、誰もが宝くじと考えて、とにかく申し込んで当たれば、自分がその金額を支払えなくても、転売ゲームが売ってしまう。
(深田)
なるほど、お金がなくてもいいのですね。
(牧野)
もちろん、実際にそこに住むことを目的とする人もいますが、一方でマンションをマネーゲームの道具として扱う人たちがいます。こうした動きは三田ガーデンヒルズに限らず、最近の都内で分譲されるタワーマンションでも横行し始めています。
(深田)
ああ、なるほど。転売ヤーだらけという状況ですね。
(牧野)
そこで最初に声を上げたのが千代田区です。千代田区は「これでは一般の庶民が購入できないではないか」と問題提起しました。もっとも、坪単価1300万円という時点で私自身は「一般庶民の価格帯ではない」と思いながら聞いていたのですが、千代田区は不動産協会という業界団体に対し、市街地再開発事業に関わる問題として要請を行いました。
市街地再開発事業とは、駅前などにある小規模な店舗や住宅の地権者が組合を作り、再開発をするために拠出した土地の上にタワーマンションなどを建てる事業です。地権者は自分の持ち分に応じた床面積をもらえます。
この事業により防災機能の向上や老朽建物の更新ができるので、自治体は容積率の緩和を認めたり、補助金を出します。見返りとしてそこに区の公民館などを入れる。このようにお互いにメリットがある形で進められています。千代田区でも同様の開発がいくつか進められてきました。
しかし、それを転売目的の人たちの玩具にすることは「けしからん」となったわけです。
(深田)
確かにその通りです。
(牧野)
そこで千代田区は、不動産協会に対して、購入客に転売をやめさせるように指導したのです。例えば売買契約書に「5年間は転売禁止」を盛り込むという要請をしました。
すると、協会は困りますよね。萌絵さんがマンションを買って「5年間は転売しないでください」と言っても、その後どこで何をしているのかわかりませんよね。萌絵さんご自身も、5年の間に「状況が変わって、ローンが支払えないので売ります」というかもしれません。
(深田)
そうなりますよね。
(牧野)
これは憲法違反じゃないですか。基本的人権が守られていないので、裁判になれば、絶対に負けますよ。千代田区はそういうことを協会に要請したのです。
(深田)
税金を上げればよかったですよね。5年以内に転売すれば税金を倍にするとか、罰金を倍にするとか。そうすると、みんな自然にやめます。
(牧野)
それで、協会も困り果て「1社で20戸以上申し込んではいけない」など、いろいろな案を出しました。しかし、協会としては回答しようがなく、僕はどちらかといえば協会に同情的でした。買った人の行動をどうやって監視するのかということですよ。
(深田)
「それは国がやれよ」という話ですよね。国税局ならできますが、一般人はできないですよ。
(牧野)
さらに、業界としてもう一つ、すごく困る問題があります。タワーマンションを500戸建てたとして、それを一軒ずつ個人に直接売っていると思われますか。
(深田)
えっ、どうなっているのですか?
(牧野)
中堅以下のマンション業者は、今、ご飯を食べられないのです。彼らは財力がないので、郊外で土地買いますが、建築費は都心とほとんど変わりません。建築費が高騰し、土地代も上がっているので、お客さんの予算に合わないのですよ。
マンションデベロッパーは、毎年一定数を売らなければ、社員を食べさせていけないので、完全な自転車操業です。そこで何をしているかというと、大手が建てたマンションをまとめて20戸程買って、転売しているのです。
(深田)
大手の代わりに売ってあげるのですね。
(牧野)
そうです。これが5年間転売禁止になれば、この中小マンション業者は倒産してしまいますよね。
(深田)
中小デベロッパーが全滅してしまいますね。
(牧野)
買えなくなって買わなければ、会社が潰れてしまうという状況を、私はよく知っています。ですから「さすがそれはないよね」と思いました。千代田区の要請に対し、不動産業界はもごもごと答えに窮しました。そのような中、僕の出身でもある業界の雄の三井不動産が“ええかっこしい”をしたのです。
(深田)
「やります」と言ったのですか?
(牧野)
不動産の転売にあたって罰金制度を設けたのです。物件引き渡し前に萌絵さんへ転売し、さらに萌絵さんが別の友人へ転売すると罰金を取るのです。通常、手付金は物件価格の1割なので、それが没収されるわけです。1割と聞くと安く感じるかもしれませんが、今売っているマンションは2億円、3億円なので、手付金は2000万円から3000万円にもなります。
大型タワーマンションのような物件では、契約から引き渡しまで1年半とか長い場合には2年ほどかかります。その間に多くの人が転売を繰り返してきたのですが、これを行えば契約解除となり、手付金は没収されるのです。
僕は最初にこの話を聞いたとき「三井不動産はうまくやったな」と思いました。どんどん摘発して手付金を没収すれば、みんな利益になると思えるほどのアイデアでした。これを現在建設中の中央区の月島タワーマンションに適用すると発表したのです。
(深田)
おお、何と!?
(牧野)
三井不動産は胸を張ったのですが、中小のマンション業者は困りますよね。それから、外国人による転売も問題です。例えば中国人が契約後、本国で営業活動をして転売した場合、どうやって見つけるのですか?
(深田)
確かにそうですよね。
(牧野)
5年間の追跡どころか、契約から引き渡しまでの1年半でさえも追跡が極めて難しいのです。
(深田)
無理ですよね。
(牧野)
無理です。また、自社傘下のマンション業者にも、販売しなければなりません。しかし、これにはカラクリがあります。三井不動産が見つけたら没収するので、中堅の不動産業者に対しては「知らないふり、見ないふり」ができてしまうのです。
(深田)
そうですよね。
(牧野)
もう一つの問題は、例えば萌絵さんが引き渡し前に中古サイトへ「自分の物件を売ります」と広告を出して、三井不動産がそれを発見し「売ろうとしているではないか、手付金没収だ」と指摘したとします。しかし萌絵さんが「違います。引き渡しまで1年半あるので、相場を知るためにダミーで出しただけです」と抗弁すれば、立証はできません。実際に売ろうと思って出しているのか、営業活動を特定することは、実は難しいのです。
(深田)
難しいのですね。
(牧野)
私の知り合いの弁護士に確認したところ、「立証はほぼ不可能」という回答でした。つまり、この制度は『やっている感』はあるけれども、実効性という点では、ほぼ期待できません。
(深田)
要するに、このマンション転売規制は、三井不動産が「言ってみただけ」ということですね。なぜならば、追跡が不可能だから。
(牧野)
しかし、業界の雄である三井不動産が言ったので、協会も「三井さん、良くて言ってくれました。三井さんの決めたルールでやりましょう」となったのです。
(深田)
ただ、私はもう一つ疑問に思ったことがあります。高市政権の小野田紀美さんが「外国人がどれぐらい、日本の不動産を取得しているのかを調べます」とおっしゃったのですよ。何か業者に調べさせるということですが「そうじゃなく、国税庁を使ったら、全部わかるだろう」と思ったのです。
(牧野)
「自分で調べろよ」ということですね。
(深田)
そうです。民間業者には追跡する能力はありませんが、国税庁は一発で分かりますよね。固定資産税を誰が払っているのかを調べたらいいだけでしょう。私はそう思いました。
(牧野)
僕はあるタワーマンションの東南角部屋一列の登記簿謄本をすべて取ったことがあります。面白いですよ。日本の明らかなペーパーカンパニーが買っていました。デベロッパーに外国人購入者の数を取材しても「日本の会社です」と答えますが、バックはすべて中国です。表面上の調査をしたところで分かりません。
(深田)
そうですよね。愚かな自民党政権です。
(牧野)
やはり『やっている感』を出さないと、世論が厳しいですから、みんなでポーズを取っているのですよ。
(深田)
みんなが『やっている感』を出しているだけ、というのがマンション転売規制なのですね。
(牧野)
これをあまり厳しくすると、価格が下がり、デベロッパーも流通業者も困ります。みんなが困るので、それをいじらない、決して触れない、というのが実態です。
(深田)
臭いものには蓋をして終わり。いつもの自民党ですね。
(牧野)
自民党政権はこの状況はずっと続いてきました。高市政権で期待が膨らんだのかもしれないけれど、結局あまり変わらないように思います。
(深田)
いつもの自民党のままで行くだろうということですね。本日は不動産の話を伺うつもりが、いつの間にか政治の話になってしまいました。今回はオラガ総研代表の牧野知弘先生に、不動産転売ヤー規制についてお話をいただきました。どうもありがとうございました。
(牧野)
ありがとうございました。





