#529 金利急上昇で「勝ち組」転落?変動金利型住宅ローン破綻のリアル 牧野知弘氏
(深田)
皆さんこんにちは。政経プラットフォームプロデューサーの深田萌絵です。今回はオラガ総研代表の牧野知弘さんにお越しいただきました。牧野先生よろしくお願いします。
(牧野)
お願いいたします。
(深田)
高市政権になってから先生にお越しいただくのは初めてだと思うのですが、高市経済政策で、今後不動産市況はどう変わっていくのかというところをお話しいただきたいです。
(牧野)
なるほど。まず高市さんが掲げている積極財政は、見た目は株や不動産を持っている人にとってはハッピーです。高市さんになって「この状態がまだまだ続くのだ」「今まで上がってきたけれども、さらに加速するぞ」と期待している人は多いです。
(深田)
それはもう勝ち組ですね。すでに勝っている人ですね。
(牧野)
しかし、彼女がこの政策をいつまで続けられるかと言うと、ちょっと疑問ですよね。
(深田)
なぜでしょうか?
(牧野)
まず円安です。積極財政をやればやるほど、国債を大量に発行します。ということは、国債の価格が下がり、国債の利回りが上がる。すでにものすごい勢いで上がり始めましたね。
(深田)
そうなのですよ。1年前高市さんは「こんな時に金利上げるやつはアホや!」とおっしゃっていたのに「金利はかなり上がっているんですけど」と言いたいです。
(牧野)
金利で、よく言われるのは日銀が政策金利を上げるかどうかに関係なく、いわゆる長期金利、国債のレートは、マーケットが決めてしまう。いくら日銀が利上げを躊躇していても、例えば足元の20年国債、30年国債のレベルになると、ものすごい勢いで上がって制御できないですよね。
(深田)
そうなんですよね。結局「国債は売り」ということでしょうかね?
(牧野)
そうなのです。円も今157円近くまで円安が続いていくと、かつて学校で習った頃は、日本は輸出大国で、輸出で稼ぐから円が安い方が日本の企業はたくさん儲かります。こういうふうに教えられたのだけれども、今、日本は完全な輸入国ですよね。食料品の大半は、輸入に頼っていますし、それから、今までは日本の優秀な工業製品を輸出して儲けていたが、今は例えば、スマートフォンの部品を作っているだけですよね。
(深田)
そうですよね。
(牧野)
そういった意味では本当に、輸出に耐えうる製品は自動車ぐらいですよ。
(深田)
ところが「もう日本向けの自動車もアメリカで作ります」と、トヨタが言い出す始末で「あらあらあら」ですね。
(牧野)
トヨタさんが日本にいる意味がない的な発言もしていますよね。
(深田)
まあ、この国のこの政治では意味がなくなってしまいますよね。
(牧野)
何か気持ちは分かりますよね。
(深田)
ものすごく気持ち分かります。トヨタも自民党にめちゃくちゃいじめられていますよね。
(牧野)
この円安を続けていると、もうすでにみんな苦しみ始めているけれども、生活物価の高騰が止まらない。
(深田)
そうです。
(牧野)
「日本で食料を作っていればいいではないか」と間違ったこと言う人がいるけれども、石油・ガスを使って、それで一生懸命調理をするわけですから、日本産の食料だけで物事は進まないですよね。こういうふうに生活の物価がどんどん上がって苦しむのは一般庶民ですよね。
(深田)
そうですね。苦しいですね。
(牧野)
高市さんは首相になってから、どんどん自民党の政治家に戻ってしまいました。
(深田)
そうなのです「いつもの自民党に戻っちゃった!」みたいです(笑)。
(牧野)
石破さんの顔が高市さんの顔に変わっただけで、そういうふうにしか見えないですよね。
(深田)
石破さんも首相になるまでは、石破カラーだったのにガラっと変わってしまい、首相になったらいつもの自民党のお馴染みの答弁になりました。
(牧野)
ということは、誰が総理大臣になっても自民党から出ている限り、政策は変わらないのです。
(深田)
その言葉を多くの有権者に教えてあげてください。
(牧野)
そうですね。何となくイメージが変わったとか、何かやってくれそうと見た目で判断するのもやめた方がいいですね。
(深田)
何にもやってくれません。
(牧野)
そうですよね。このようになってくればくるほど、株や不動産持っている人はニンマリして、持ってない人は不満がどんどん溜まるどころか、生活ができなくなってくる。
そうなると、普通は世界史を紐解くと革命が起こるのですよ。日本人は、未だかつて自分で革命を起こしたことがないので、これがどのような形で爆発するのか分かりませんが、みんなが気づいた時に自民党の政権は、多分持たないですよね。
(深田)
早く崩壊してほしいです。
(牧野)
当然、自民党もアホではないですから、現実的に少しずつ政策を変えていき、その第一歩が多分利上げなのですよ。そうせざるを得ないと思います。
(深田)
無策で長期金利上がってきて「制御できていないじゃないか」と言われるぐらいだったら「政策で利上げしました」というポーズ取った方が、いいですよね。政府は利下げに向かいたいと思っているのに、金利がどんどん上がってきて、慌てふためいている無様な姿を見せられないですものね。
(牧野)
そうですね。(日銀は)12月に政策金利を上げるのではないかと言われ始めました。12月の金融政策決定会合で上がると、今度は一部の人が騒ぎ始めるのです。変動金利型住宅ローンで、ものすごくお金を借りている人は、政策金利が0.25%とか0.5%上がると、連動して住宅金利も上がるのですね。
(深田)
0.5%ぐらい上がるのですか?
(牧野)
ほぼ同率で上がります。今までは、日本の低金利政策というのは変えられないので、変動金利型が絶対に正しい。したがって「変動金利で住宅ローンを借りないやつはアホ」と2、3年前まで言っている人が多かったのです。
ところが実際に、これまでも2回上がり、おらくこれからも1回ではなく数回小出しに上がってくるということを考えると、これを信じて、住宅ローンを組んでいる人は少しそわそわし始めます。
(深田)
そうですよね。
(牧野)
それから不動産の価額が上がっていますよね。今までは、日本社会全体がインフレになって、金利が上がってくると、不動産や株はどんどん上がると信じられてきました。
日本の不動産は、ロンドンやニューヨークに比べれば、かなり割安だという人もいるでしょう。これは為替に要因があります。コロナ前の2019年は1ドル大体110円前後ですよね。これがこのわずか数年の間で157円まで上がったのです。だから、昔円高だった時に、僕らがハワイやニューヨークに行くと、何でもめちゃめちゃ安く思えたのですが、逆転現象が起こっているだけです。
(深田)
そうですね。
(牧野)
そういった意味では、投資をする立場からすると、多分国際価額で、購買力平価で考えると1ドル90円台半ばぐらいなのですよ。ということは、今の価額が下駄を履いているだけなのですね。これが金利を調整することによって当然調整されてくるのです。
(深田)
そうですよね。
(牧野)
簡単に言うとこれは円高要因なのです。まず利回り、金利が上がるということは、不動産投資をするのを全額キャッシュでやる人はいないですよね。当然、レバレッジをかけるわけです。このレバレッジをかけようとしている借入金の金利が上がることになります。今、例えば東京都内のマンションに投資し、貸しますよね。利回りはどのぐらいだと思います?
(深田)
ちょっと想像がつかないですね。
(牧野)
僕らはよくキャップレート(還元利回り)という単語を使うのですが、コロナ前だと大体東京都心も、3.5%から4%ぐらいだったのですね。
(深田)
妥当ですね。
(牧野)
はい。それが、今は1%台に入ってきました。
(深田)
えっ、1年前まで、まだ2%はありましたよね。2%でも危険ですよね。今は1%台なのですか?
(牧野)
これがどんどん上がってくると、家賃の方も値上げできれば当然3%、4%を保てるのですが、今の中古マーケットで売りに出されている希望価格で、今の賃貸相場、例えばあるエリアとか街を絞って計算すると、2%から中には1%台に突入しています。
不動産投資をする時は、当然まずエンター(入り口)で買って、それで運用して、収益を稼ぎ最後に売却でエグジット(出る)して終わりです。運用している間の期待利回りが2%を切ろうとしている物件を、例えば萌絵さんが2億円でタワマンを買うとします。月額相場で貸して期待利回りは1.8%です。2億円全額キャッシュがないから借りてきますよね。利上げされて金利が3%と言われたら、誰も買わないですよね。
(深田)
赤字じゃないですか。
(牧野)
このような状態に今突入しているのです。もうすでに期待回りが2%台になってきていますので、これからローン金利はどんどん上がってくるわけです。しかも長期で調達するほど高いコストがかかる。もう長期金利がどんどん上がってきていますから投資が成り立たないのですよ。
(深田)
しかも、今、中国が日本への渡航を自粛するように呼びかけていますよね。
(牧野)
金利が上がり、円高に変わってくると外国人の投資家も、今までのように日本の物件が安く見えなくなります。これは僕らが円高から円安で経験したのと全く同じです。
今、東京の不動産を買っている外国人は、円高になると自国通貨が下がるから売ってしまい、一旦、手仕舞いしようという動機になりますよね。ましてや今中国との間で揉め事が始まり、中国人の投資家が全部マネーを引くと、日本の不動産がどうなるか大体目に見えていますよね。
(深田)
ああ、その時が買い時かな?
(牧野)
高市トレードが逆回転を始めると、今までの日本の不動産の上昇相場が一転して変わってしまう。こういうことを言うと「いやそんなことあるわけないだろう」と言う人がいるのだけれども、リーマンショックも全くそうでしたから。
(深田)
リーマンショックは、私は実は2006~2007年ぐらいから、このバブルは弾けるのではないかなと、ずっとかなり早くから心配していたのですよ。
(牧野)
僕はリーマンショックの時、実はJ-REIT(ジェイリート)の社長やっていて、もろに食らいました。
(深田)
生き延びたのですか?
(牧野)
生き延びられませんでした。
(深田)
あ、そうだったのですね。
(牧野)
僕のやっているリート(不動産投資信託)は、他社のリートと合併させられ、僕は合併ができたので、うまく逃げ果せられました。実はリーマンショックが日本で騒がれる1年半ぐらい前に、当時のみずほ銀行の産業調査部の方がうちの会社にきました。その時に、アメリカの住宅マーケットについて「サブプライムローンというのがあって、これがちょっとやばい状況です」と説明を受けたのですよ。
(深田)
そう、そう。1年以上前から「サブライムローンは、やばいよ」とみんな言われていましたよね。フレディマックとファニーメイ(※1)がどうのこうのと、みんな言っていましたよね。
※1)フレディマック(連邦住宅金融抵当公庫)、ファニーメイ(連邦抵当金庫):ともに米国の金融機関で住宅ローンの債権買い取りや証券化などが主な業務
(牧野)
その時、僕を含めた会社の役員の反応は「バカじゃねえの?住宅ローン切り刻んでそれでばらまいて、もうどこに行ったのかわかんない状態になって不良化している。何かアメリカも少しやりすぎだよね」と言って終わりですよ。それがまさか巡り巡って日本に大津波で来るなど、当時は僕も含めて誰一人思わなかったです。
(深田)
いや、だって私も当時外資の証券会社にいたのですけれども、イギリスのとろい証券会社だったので、リートがすごく売れていたのに、2007年ぐらいからやっとリートやりましょうとなって、そこからやっと物件を集め始めて、リートになる前にマーケットが弾けてしまって困りました。
(牧野)
完全に完全に崩れるマーケットでリートを始めるとは、それこそアホですね。
(深田)
すごいですよ。しかも証券会社なのに株の部門がなくて、リーマンショックが弾けた後に、株の部門を作りましょうと、どれだけ遅いのだよと思いました。
(牧野)
センスがなさ過ぎですね。でも、そういうふうにマーケットとは、みんな今の価値観、今の時間軸でみんな考えて、これがずっと続くという前提で物事を考えるのですけれども、実は変化の兆しは突然来るのではなくて、本当は見えているのです。
(深田)
そうですよね。
(牧野)
小さな針の穴の時は誰も気がつかないけれども、この穴が少し目を離している隙によく見るとわかる大きさになっていて、ある日突然全員が穴だとわかった時はもう遅いのです。逃げきれません。
この積極財政をどこまで強引に進めるか分からないですけれども、これをやっていけばいくほど、反転させようとした時に、逆に大きなハレーション(悪影響)が起こりがちですよね。これが一番心配です。
(深田)
確かにそうですよね。でも、私は都内にタワマンも持ってない負け組です。
(牧野)
いや、今に相対的勝ち組になるかもしれないですね。
(深田)
そうですよね。バブルが弾けたらその時に全力で行きます。
(牧野)
だから気にしなくていいだけ楽ですよね。
(深田)
そうですよね。気にしなくてもいいので、楽かもしれないですよね。
(牧野)
持っている人は、どこで見切るかなのですよ。投資のマーケットはそうじゃないですか。株をやっていても債権をやっていても、どこでエグジットするかというのはすごく大事なのですよ。
(深田)
私は大体何でも早いのですよ。早く始めて、気が短いので2、3年前ぐらいにエグジットしてしまいます。
(牧野)
その方が失敗しないです。少し儲けそこなったと思うかもしれないけれども、それが安全なのですよ。どちらかというと、せっかちあるいは少し臆病なぐらいの人の方が最終的な結果はいいです。
(深田)
そうなのですか。
(牧野)
はい。そこはあまり欲張らない。それから一番やられるのは個人なのです。不動産投資は、僕もずっとリートをやっていたけれども、不動産はプロの世界なのですよ。
(深田)
そうですよね。
(牧野)
だからこれに、たくさんファイナンスして突っ込んで、マーケットがうまくいっている時にはみんな楽しめるので、波乗りみたいなもので、バンバン行くのだけれど、下がった時は、プロは一斉に逃げるのです。ところが、これが自宅で、家族もいて、楽しんでいた人は「じゃあ明日荷物まとめて逃げようぜ」とはできないですよね。損切りもできないですよね。
(深田)
住んでいますからね。
(牧野)
だから、投資家はポートフォリオを組んでいます。東京が少し厳しくても、上海が上がっているとか、バンコクがいいと、バランス取っているのですよね。ところが一点主義で、都心のタワマンで俺は金持ちになったと思っている人ほど逃げきれないです。
(深田)
ああ、恐ろしい。今年一番怖い話聞きました。
(牧野)
だから今はいいのですよ。これがいつまで続くかというのを予測するのは、すごく難しいのです。
(深田)
いやいや「50歳過ぎて、もう絶対出世する見込みがない。役職定年が見えているあなた、あなたが売り時なのです」みたいな話じゃないのですか。
(牧野)
だから、今はまだ逃げきれると思うのですね。まだ信じている人がいっぱいいますから。
(深田)
まだ信者がいる。
(牧野)
こういう不動産投資の業界というか、ここで生きていると、みんな言葉が悪いのですよ。みんなが「早く、ど素人どもに、売りつけて逃げようぜ!」と言いますから。
(深田)
証券会社も株は同じですよ。
(牧野)
一緒ですよね。必ず何も知らないいたいけな素人が、儲けたいためにいそいそとやってくるからみんな投げつけるわけですよ。
(深田)
そうです。玉(ぎょく)はゴミ投資家に。
(牧野)
そう、ゴミなのです。
(深田)
我々ゴミ投資家ですからね。
(牧野)
だからね、ゴミにならないように今からでも準備を進めておくと、あんまり火傷せずに済む。
(深田)
そうですね。私は幸い都心にタワーマンション持ってないので、良かったですけれども、今都心にタワーマンション持っていて、これから出世の見込みがない方、自分自身の人生と投資を諦めてください。
今回は、オラガ総研代表の牧野知弘先生に「高市経済政策で不動産はどうなる」というお話をいただきました。どうもありがとうございました。
(牧野)
ありがとうございました。





