#512 米国に80兆円投資!日本「成長戦略」はなぜ成長しないのか? 杉山大志氏

(深田)

皆さん、こんにちは。政経プラットフォーム、プロデューサーの深田萌絵です。今回は、キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹の杉山大志先生にお越しいただきました。先生、よろしくお願いします。

(杉山)

よろしくお願いします。

(深田)

高市政権が始まって、先日トランプ大統領が来日して、対米投資80兆円です。その一方で、日本の成長戦略はどうなのでしょうか?

(杉山)

本当に成長すれば良いのですけれど。

(深田)

成長できそうにない案件に注力されているようです。

(杉山)

そうなのです。それがまた悔しいことに対米投資の方は、本当に成長しそうなのです。「なぜ日本は?」というのがありますけれども、その対米投資の中身から見ていきます。

この間、トランプ大統領が来日した時に、高市首相といろいろとやっていましたけれど、その時の内容が『日米間の投資に関する共同ファクトシート』です。

以前、石破政権の時に赤沢経産大臣がアメリカに何回も行ったり来たりしていましたね。

https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100926029.pdf

(深田)

ピストン赤沢と呼ばれていましたね。

(杉山)

それで「関税投資に関して合意した」と言っていましたが、合意した割には中身が今ひとつよく分からなかったのだけれども、このファクトシートで、その中身らしきものが出てきました。中身らしきものは、完全に紐づいているのかというとそうでもなくて、ここに書いてありますけれど「今般のトランプ大統領の訪日に際し、日米両政府は、日本両国の企業が、次の分野におけるプロジェクト組成に関心を有していることを歓迎した」ということです。

(深田)

関心を持っていることをウェルカムしました、ということですか。

(杉山)

別に誰もやるとも言っていないし、誰もお金を出すともまだ言っていないのだけれども、大きな柱がふたつあって、ひとつがエネルギーというか原子力なのです。

(深田)

「原子力の開発をする」と言っていましたね。

(杉山)

原子炉もそうなのですけれど、SMRという小型モジュール炉で、新型の原子力発電所ということです。ここにWestinghouse やGEとかアメリカの企業の名前があり、三菱重工など日本の重電の名前も並んでいて、一緒にやると凄い金額で「最大で30兆円?!本当か?」という話です。それから電力・AⅠインフラに、たくさん名前が書いてあります。

(深田)

ソフトバンクグループ様もありますね。

(杉山)

日本の企業も幾つか並んでいて、アメリカのベクテルもあり、これも一緒になって30兆円です。アメリカは今、A1がブームで、そのデータセンターやチップを供給する工場の建設で、もの凄く電力需要が伸びるという話になっています。ある予測では向こう7年間で、日本丸々1個分、1兆kWhぐらいの電力が要る。そんな予想があり、そこは商売になるだろうと、日本の企業も関心を示してやっている訳です。

もうひとつ、このファクトシートに「重要鉱物等」と書いています。銅の精錬やアンモニアなどの肥料製造です。こちらにも日米の企業の名前が書いてあって、金額では全部足しても65億ドルなので、日本円にすると1兆円です。さっきの30兆円に比べると小さく感じるけれど、1兆円は大きな金額です。

(深田)

そうですよね。これを見ると原子力に30兆円、電力・AIつまり火力にも30兆円ということですね。

(杉山)

こういうのを見ると、なぜアメリカにこんなに投資をするのに、日本にはしないのか。アメリカは火力発電がメインなので、この電力・AIインフラは事実上、火力発電の開発に投資するようなものなのですよね。

(深田)

そうですよね。ソフトバンクも送電網と書いてありますよね。

(杉山)

そのための送電線であり、データセンターといっても主には火力発電所の電気を使うデータセンターです。だから、これをやると日本の環境屋さんは間違いなく「CO2がー」と言います。ところで、さっきから見ているけれども再エネと一言も書いていないですよね。

(深田)

一言も書いてないです。

(杉山)

日本は何をやっているのかといえば、グリーンばかりです。

(深田)

太陽光パネルだらけですよね。

(杉山)

「火力発電はCO2を出すからけしからん!」と言って、今はいろいろな規制や賦課金が掛かっていて、石炭火力とか建てようとすると環境アセスメントで環境省が「ダメ」と言うと作れない。

(深田)

そうそう、その割には太陽光パネルを貼る時は、アセス逃れをしています。

(杉山)

最近、それがあまりにも酷いので、規制をするとは言っているけれど、日本は「化石燃料はけしからんから、そっちには投資させない」と言っておいて、アメリカの火力発電にはうんと投資をするとは、一体どういうことなのか。確かに、アメリカはこれで経済が潤って、いいビジネスになるでしょう。「AIをやってガッツリ儲けるんだぜ」というところに対する投資で、みんな「これは儲かるだろう」と思ってやる訳です。こういうことを日本で起こせないとおかしいのではないでしょうか。

(深田)

そうですよね。現状を見ると、日本の発電は火力が主力ですが、火力発電所は、施設の老朽化が指摘されていても、火力発電所をなかなか建てられない。

(杉山)

「潰せ、潰せ」と言われているうえに、今度は排出量取引制度も入ってきて、ますます採算が合わなくなってきます。それで、電力会社はみんな持ちたくないから、どんどん廃止してくるのです。廃止すると分かっているものには、老朽化しても維持費を払わない。

(深田)

そうですよね。そうやって、次々に太陽光パネルに取って変わられ、原子力発電に投資をしましょうと言っても稼働するのはいつなのかという話で、電力消費量だけどんどん増えて、電力は足りなくなります。

(杉山)

電力が足りないのは事実で、毎年節電要請があります。気楽に要請をしているが、される企業は大変なのです。ただ、電力需要が増えているかというと、大して増えていないのですよね。これまで減ってきたのが、これから元に戻るぐらいの話です。アメリカみたいに、元から日本の5倍くらい電力使っているところに、今後7年で日本1個分くらい付け加わるとか、そういう話とは全然無縁です。

なぜなら、日本に投資したい企業がそんなにいないのですよ。これはいろいろな理由があるのだけれど、明らかな理由のひとつは、電気代がものすごく高いので、大量に電気を消費するデータセンターを作っても元が取れるのか、みんな考える訳です。

アメリカは電気代が安いです。ガスが地面の下から出てきて、それでガスタービンを回すというのが基本なので断然安い。

(深田)

ウエストバージニア州などに行くと、石炭が地表に露出しています。

(杉山)

あれは羨ましいですね。

(深田)

本当に、あれを焚べるだけですから。

(杉山)

アメリカはバイデン政権の時に、石炭火力は「CO2を出してけしからんから止めろ」と言っていました。一方、ガス火力は、アメリカのテクノロジーが進んで採掘コストが大きく下がって、もの凄く安くなったので、石炭は価格競争で負けて、石炭火力がどんどん減っていきました。いよいよ大半を廃止するタイミングで、今また電力需要が伸びてきたので、今度はアメリカのエネルギー省が「廃止するのは止めろ。やっぱり回せ」と言っているのです。

(深田)

確かに、数年前にアメリカに行った時に、ノーザンバージニアにあるアメリカ政府のデータセンターが、3日くらい電力不足で止まっていました。バイデンが石炭発電を止めさせたので、ウエストバージニアからの電力が流れてこなくて一時的に止まったのです。

(杉山)

そんなこともあるのですね。やはり産業を回すためには、電気が大事なんですよ。

(深田)

原子力も悪くないのだけれども、投資をしてから立ち上がりまでの時間が長いです。そういうことを考えると、これから電力需要が伸びることが予測されているのであれば、火力発電にもっと投資するしかないのに、それを絶対に言わない。「カーボンニュートラル実現する」と言っているのです。

(杉山)

一方、日本は図のようにグリーン投資です。グリーン・トランスフォーメーション(GX)と言って、官民で150兆円を再エネ、水素、バイオなどに投資する。

(深田)

焦げ付く匂いしかしないですね。

(杉山)

「お前の金で出資しろ」と言ったら、誰もやらないようなものばかりで、国のお金であればやるという話で、規制や補助金で無理矢理導入させて、ツケは国民に来る訳です。日本はこんなことばかりをやっていたら「皆さん日本の電力インフラに投資しませんか?」と言っても、誰もする訳ないじゃないですか。

(深田)

こんなものは頓挫しますよ。

(杉山)

太陽光を売りにくる中国人は別かもしれないですね。

(深田)

その太陽光パネルは今、長崎線の佐世保市の離島の宇久島で、日本最大のメガソーラーが建設される予定なのですけれど、島と長崎が送電網で繋がっていないのですよ。

(杉山)

繋がってもいないのですか?

(深田)

繋がってもいないのです。

(杉山)

幾らなんでも、繋げるのではないですか?

(深田)

繋ごうという考えはありますが、九州全体で太陽光パネルの発電は余っているので、すでに電力会社は捨てている訳です。

(杉山)

捨てていますね。

(深田)

それなのに送電網が繋がっていない離島に太陽光パネルをつけて、太陽光で発電をして、それを捨てて、賦課金200億円を貰う『とんでも事業』がまだ横行している訳です。

(杉山)

九州は多すぎます。

(深田)

九州は酷いですよね。それでもまだ、グリーントランスフォーメーションやるのでしょうか。

(杉山)

今、太陽・風力は電力の1割ぐらいを発電しているのですけれど、それを2040年までに3~4割に増やすというのが、日本政府のグリーントランスフォーメーション計画です。

(深田)

確実に脱産業化路線ですね。電気代は跳ね上がり、産業は消滅します。

(杉山)

高市さんも安定的で安価な電力というキーワードを入れて、それを熱心に言っているのですけれども。

(深田)

どうやって実現するのですか?

(杉山)

その一方でGXを辞めるとは言わない。こんな愚かなことをやっていたら、絶対安定的で安価な電気になんかなるわけがない。

(深田)

GXは「推進して実現する。GX投資で成長する」と仰っています。

(杉山)

言っていることが矛盾しているわけですから、やはり変わってもらわないといけないです。安定的で安価とGXのどちらかを捨てるしかないのですが、役人は撤退とは言えず、転進としか言えないから、GXをどう転進させるかという話をしないといけないです。

(深田)

そうですね。言葉遊びさせてあげないといけないですね。

(杉山)

実際に、こっそり転進していて、お金をグリーンに付けるとか言いつつ、実はバッテリーの工場の基盤整備だとか、半導体工場の基盤整備のお金はここから出ています。

(深田)

なるほど。

(杉山)

愚かな使い道はやめて、もっとましなところに使ったほうがいいのではないか。そもそも国がこっちのGXにいくら、あっちのGXにいくらというのは、どれぐらい意味があるのか。明らかにどうしようもない風力発電や洋上風力を進めたが、三菱商事グループが撤退してしまい、その後をオークションするのでしょう。そうすると最終的に値段の3倍くらいで落札するところが出てきて、光熱費が上がって、全部ツケは国民に回ってくるわけです。そのような状況では、アメリカで起きるような投資ブームは絶対起きないわけですよね。

(深田)

そうですよね。このままでは確実に投資が焦げついてしまう路線に突っ込んでいるので、そそそろ方向転換をしていただきたいですね。

(杉山)

そう思いましたね。

(深田)

今回はキヤノングローバル戦略研究所研究主幹の杉山大志先生に「高市総理そろそろ方向転換をしていただかないと投資のリターンは得られませんよ」という話をいただきました。どうもありがとうございました。

(杉山)

ありがとうございました。

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