#503 最終局面?トランプVSゼレンスキーの密室激論!停戦決裂の裏側とは? 宇山卓栄氏
(深田)
皆さん、こんにちは。政経プラットフォーム、プロデューサーの深田萌絵です。今回は、作家の宇山卓栄先生にお越しいただきました。先生、よろしくお願いします。
(宇山)
よろしくお願いいたします。
(深田)
今日は久しぶりに国際情勢について伺いたいと思います。トランプ大統領は、ウクライナとガザ情勢については、どうするつもりなのでしょうか?
(宇山)
まったく動きませんね。特にウクライナ情勢は停滞しています。
先日、トランプ大統領はハンガリーのビクトル・オルバン首相と会談しました。そこから「米ロ首脳会談がハンガリーで行われるのではないか」と言われましたが、結局は流れてしまいました。なぜこうなっているのか、その経緯を説明します。
実は、ゼレンスキー大統領とトランプ大統領は今月(2025年10月)も会談を行い、また激しくやり合ったようです。今回はカメラが入っておらず、前の会談のように「お前は生意気だ」とJ・D・ヴァンス副大統領が言い、それにゼレンスキーが言い返した、というような場面は報道されていません。しかし、今回の非公開の会談でも罵声の応酬になったと、経済紙『フィナンシャル・タイムズ』が伝えています。
何を言い合ったかというと、トランプ大統領はゼレンスキー大統領に対し「いつまでも突っ張っていたら、プーチン大統領はキーウまで侵攻するぞ。そうなればウクライナという国家自体が滅びてしまう。それでも良いのか?」と迫ったらしいのです。それに対してゼレンスキー大統領は「そうはさせない。自分たちも必死で戦っている」と反論した。つまり交渉は決裂したわけです。要するに、トランプ大統領は「ドネツク州をロシアに譲れ」と示したのですが「いや、ドネツク州だけは譲れない」というのがゼレンスキー大統領の考えです。
(深田)
なるほど。トランプ大統領としては、「譲らなければウクライナの国全体が滅ぼされてしまうよ」と示したわけですね。
(宇山)
どちらが正しいのか、トランプ大統領の見通しの方が正しいのです。ここで、領土の一部を譲らなければ、近い将来ウクライナが滅ぼされる可能性はあります。ただ、ゼレンスキー側の言い分も理解はできます。
ドネツクにはウクライナ側の重要な防衛拠点が張り巡らされています。もしここを失えば、キーウまで一直線で丸裸になります。ロシア軍が一気にドネツク以西に侵攻すれば、ウクライナは防御線を維持できません。ここで踏みとどまらなければならないとロシア軍を食い止められないというのがゼレンスキー大統領の言い分です。
(深田)
しかし、トランプ大統領としては、「では、そのドネツク州に米軍を入れる」という話を持ち出したいのではないでしょうか。
(宇山)
以前、そのような話がありました。ただ、米軍あるいはNATO軍をウクライナに展開させるという案では、ロシアはそれを絶対に認めません。そこで英仏軍を展開させるという折衷案が検討されたことがあります。
さらにトランプ大統領は、アメリカ民間企業をロシア側とウクライナ側双方に入れ、資源採掘などに関わらせることで、アメリカ民間人のプレゼンスを確保し、ロシア軍が簡単に侵攻・占領できない状況を作ろうとしたとも言われています。しかし、私はそうした策があってもロシアは必要とあらば、侵攻するだろうと考えています。アメリカの民間人がいようがいまいが、ロシアは止まらないでしょう。
(深田)
確かに、そうでしょうね。
(宇山)
私は以前から申し上げている通り、プーチン大統領は最終的にキーウを取るつもりだと見ています。領土の割譲があろうとなかろうと、ウクライナを攻め滅ぼすことが目的である限り、この戦争はそう簡単には終わりません。
(深田)
そういうことになりますね。
(宇山)
ただし、最近は戦況が変わりつつあります。ロシアは産油国でありながら苦しい状況にあります。ガソリン、燃料不足なのです。理由は、ウクライナがドローン攻撃でロシアの石油精製施設を効果的に破壊したためです。
(深田)
なるほど。精製できなければ、原油があっても使えませんね。
(宇山)
その通りです。現在のロシアではガソリン供給が追いつかなくなっています。ウクライナはロシア全体の石油精製システムの約4割を攻撃したとされています。
(深田)
供給力が4割減となれば、大きな痛手ですね。
(宇山)
はい。しかしロシアも修復を急いでおり、数週間で復旧できた施設もあります。そこへ再びウクライナが攻撃を仕掛けるという、鼬ごっこの状態です。ガソリンの供給不足により、一部でロシアの前線部隊が撤退する状況もあります。それを見て反ロシア派のYouTuberたちは「これはロシアが追い込まれている証拠だ。ロシア崩壊だ」と騒いで喜んでいますが。それは、あり得ません!
(深田)
ロシア経済は破綻しないということですか?
(宇山)
いまロシアが崩壊するということは絶対にありません。「ロシア軍が崩壊の兆しを見せている」と言って喜んでいる人が多いのですが、それはあり得ない話です。私はロシアの肩を持つつもりも、腐敗国家のウクライナの肩を持つつもりもありません。中立的な立場から申し上げますが、客観的に見て、ロシア軍の圧倒的な優勢という状況は崩れていません。
一時的に燃料不足が不安視されている側面はありますが、それでロシアがどうこうなるというものではありません。進軍の速度が多少落ちたという程度の話です。つまり、ロシア軍の戦略的優勢という体制には全く変化がありません。
ただ、そのことを「してやったり」ということかもしれませんが。アメリカの一部の諜報機関はトランプ大統領に対し「ロシアは追い詰められています。今こそプーチン大統領と交渉すべきです。そのためにはゼレンスキーに譲歩させる必要があります」と焚きつけていました。そうした流れの中で、ハンガリーで米露首脳会談が準備されていたのです。
(深田)
そのような流れがあったのですね。
(宇山)
ええ。しかしゼレンスキー大統領が言うことを聞きません。そうなると、トランプ大統領も何の成果もなくプーチン大統領と会っても意味がないわけです。お土産なしに会談しても、プーチン大統領が譲歩するはずがありません。結局「これでは会っても無駄だ」という判断になり、会談は流れました。いずれにしても、このウクライナ戦争は簡単には終わらないのです。
(深田)
まだまだ長引くということですね。
一方でガザについては、トランプ大統領が「リゾート地にしよう」と言っていますよね。そうすれば攻撃できないだろうということですか?
(宇山)
「中東のリビエラにする」という話がありましたね。しかし、私はこのガザ和平合意案の内容は茶番だと申し上げています。確かに、第一段階の合意で人質解放は一定レベル進みました。でも、この合意によってガザ・パレスチナの紛争状態が収まるとか、恒久的な停戦が実現するということは絶対にありません。
なぜなら、今回のガザ和平案には「ハマスは武装を完全に解除する」「武器をすべて引き渡す」との条件が含まれているからです。さらに、何千㎞にも及ぶガザの地下トンネルをすべて破壊するという内容まで含んでおり、そんな要求をハマスが応じるはずがありません。そして極めつけは「ハマスから統治権を奪い取る」という条件です。つまり全面降伏せよということです。これをハマスが受け入れるわけがありません。
(深田)
日本の敗戦時のポツダム宣言ですら「統治権は日本にある」という形でしたよね。それを下回る要求なんて呑めないですよ。
(宇山)
そんな案を呑めるはずがありません。加えて今回の和平案では、ガザの統治委員会を作り、その委員長にトランプ大統領本人が就任するという案だったのです。これはもう、ふざけた話です。
(深田)
驚きですよ。「お前、舐めているのか!」と。日本よりひどい扱いですね。
(宇山)
そうです。こんな和平案が前に進むはずがない。しかし、ハマスも一息つかないと持たないので、一時的に人質を返すという形でポーズは取っていますが、このあと支援物資が入り、民衆の飢えが解決すれば、また必ず戦闘は再開されます。
そして、戦闘を再開したいのはハマスだけではなく、イスラエルも戦闘を続行したいのです。イスラエル側は和平や停戦と言いながら、断続的に空爆を続けています。そもそもイスラエル側に戦闘を止める意識はさらさらないのです。にもかかわらず、トランプ大統領はいまイスラエルと並んで動いている。これをどう捉えるかということです。
(深田)
トランプ大統領は、なぜイスラエルにそこまで肩入れする必要があるのでしょうか?
(宇山)
そう思いますよね。トランプ大統領は、間もなく(2025年)10月27日にも来日予定とされていますが、現在、外交的な成果をまったく上げられておらず、相当焦っていると思います。
ウクライナに関しては「半年以内に解決する」と言っていたにもかかわらず、半年たっても解決できていない。さらに、イスラエル・中東紛争でも全然収まる気配がない。このまま外交政策が低迷したまま中間選挙に向かうのか、とかなり焦って、あり得ないほどの強引な合意案を出してきているのだと思います。
ただし、トランプ大統領の外交については、いつもこう考える必要があります。今はイスラエルに寄っている、そしてゼレンスキーにも寄っている。ある所では「ユダヤ金融資本・ディープステート側に完全に絡め取られてしまったのではないか」という見方などもありますが、トランプ外交の本筋とは、常に『白いネズミ』と『黒いネズミ』を同時に走らせるのです。
(深田)
うん、確かにそうですよね。
(宇山)
いつも「どうなるか、まずは様子を見てみよう」という姿勢なのです。そして、どちらのほうが利益を生むのかが見えた段階で、その側に一気に舵を切る。今まさに、「全く異なるポジションを二つ同時に動かしている最中だ」ということです。
例えばウクライナにしても、今年の4月まではゼレンスキー大統領と大喧嘩しているように見せていた。ところが5月以降は手のひらを返してウクライナ支援を語り始めた。そして現在は、プーチン大統領の方へ寄っているような動きもある。両側面を行ったり来たりしているのです。中国に対しても同じです。「対中包囲網を固める」と言いながら「習近平主席は素晴らしい」と称賛する。完全なる両建てです。
中東も同様です。5月にはサウジアラビア・UAE・カタールなどへ赴き「イスラエル外し」を進めていた。しかし今はイスラエルと密接に連携している。では、どれが本心なのか?という問題です。
(深田)
そうなのです。いつもどちらを向いているのかが分からないですよね…つまり、どちらも応援しておいて、最後に「美味しい方だけ食べる」ということですか?
(宇山)
まったくその通りです。それを理解せずに「トランプは裏切った」「あっち側に行った」と短絡的に決めつけてしまうと、日本の外交判断は誤ります。
さて、ここで問題となるのは、高市さんが今後トランプ大統領と日米蜜月関係を築いていけるかどうか、という点です。私が高市さんを評価していない部分は、この外交面なのです。
(深田)
あっ、そうなんですか?
(宇山)
なぜかと言えば、高市さんは「ウクライナ支援万歳」という立場の方です。そしてロシアを明確な「敵」として強硬な姿勢を取る。その点が、トランプ大統領の外交姿勢とはそぐわないのです。トランプ大統領は、プーチン大統領とアラスカで会談して以降、米ロ関係は水面下では蜜月関係にあると私は見ています。おそらく両者はがっちり握手をしている。
その一方で、日本の外交は「ウクライナ支援」の一辺倒です。岸田政権でも、石破政権でも、高市政権でも、この構造は変わらないでしょう。しかし、これはトランプ大統領が求めるものではありません。トランプ大統領は、イデオロギーに偏らず、状況を多面的に読みながら、両方に布石を打って、有利な方に転びます。この多元的・複眼的なやり方に、高市さんがついていけるでしょうか。
(深田)
高市さんは、どちらかというとイデオロギー重視の方ですからね。
(宇山)
そうです。「自由と民主主義を守る」「だからロシア独裁を許さない」という価値観外交です。ネオコン(新保守主義)の論理を振りかざして、それを外交にそのまま当てはめてしまうと、大きな火傷を負います。バイデン大統領相手であれば通用したかもしれませんが、トランプという新たな局面では通用しません。
私は、この局面ではインドの外交姿勢がモデルになると考えています。
(深田)
インドのやり方とは、どういうものですか?
(宇山)
インドは非常に巧みです。日本・アメリカ・オーストラリアとともに「クアッド」という中国包囲網の枠組みを作っていますから、一見すると日米寄りに見えます。しかし実際には、インドはロシアとの連携を深く保っていて、ロシアの原油を最も多く買っているのはインドです。
(深田)
ああ、それはインドにとっては、中国を牽制できて、しかも安い原油を買えるというメリットがありますよね。
(宇山)
はい。今おっしゃった通り、インドには二つの明確なメリットがあります。一つは中国の牽制、もう一つは安価な原油を得られるという経済的メリットです。モディ首相はウクライナ戦争後もロシアとの関係を維持しつつ、同時にアメリカとも連携しているわけです。
しかし今、トランプ大統領はインドに対して「ロシアとの関係を続けるなら100%の関税をかける」と言っています。それに対してインドは「やれるものならやってみろ。ならばアメリカとは距離を置き、中国と付き合うぞ」と言っている。そして実際に中国とも蜜月関係を深めています。SCO(上海協力機構)というロシアと中国が主導する枠組みの中で、インドの存在感は非常に大きくなっています。中国もインドをかなり気を使っている状況です。
例えば、今年の春にインドとパキスタンが軍事衝突しましたよね。パキスタンの後ろには中国がいます。一対一路でパキスタンから中東へ向かいたいのです。そしてインドの後ろにはロシアがいる。これは冷戦時代から変わらない構造です。つまりインドとパキスタンの衝突は「中国とロシアの代理戦争」という側面がある。その中でインドは、ロシアと中国が直接的に連携しすぎないよう、絶妙な距離感と牽制でバランスを取っている。
(深田)
ああ、なるほど!
(宇山)
このインドの外交力を見習う必要があります。インドには著名な外務大臣、ジャイシャンカルという人物がいます。彼が『インド外交の流儀』(2022年出版)という著書の中で述べています。
「我々インド人は、欧米に長く植民地支配を受けてきた。しかし我々は欧米に対して『植民地時代の補償をしろ』などと求めたことはない。そこが中国とは違うところだ。中国は日本に『補償しろ』『金を出せ』と言い続けてきた。しかし我々はそうではない。にもかかわらず欧米は、今でも植民地時代のような態度でウクライナ戦争に臨んでいる。それは我慢ならない」と言っているのです。
(深田)
なるほど……。
(宇山)
つまりインドは、「欧米とは一線を画して付き合っていきます。いつまでも植民地気取りで言ってくるな」とはっきり言っているのです。
(深田)
同じことを日本の首相にもやってもらいたいですね。
(宇山)
最後に、中国とロシアの関係についても触れておきましょう。
現在のウクライナ戦争において、ロシアは特に中国を必要としています。経済制裁により、ロシアはSCOやBRICS諸国、いわゆるグローバルサウス圏との協力を強めています。その中心に中国がいる以上、中国のサポートは欠かせない。だから『中ロ蜜月』がこれまで以上に強調されているのです。しかし、両国は口で言うほど仲良くできる関係ではありません。
(深田)
何度も国境紛争を繰り返していますよね。
(宇山)
おっしゃる通りです。両国はおよそ4,000kmの国境で接しており、冷戦期にはダマンスキー事件のような軍事衝突も起きました。中ソ論争に象徴される政治闘争も続いてきました。現在でも中国とロシアは、互いにスパイを送り込みあって牽制している間柄です。
さらに今回、北朝鮮が中国からやや距離を置き、ロシアに接近して「ウクライナ戦争に支援する」と言い始めました。プーチン大統領はこれを歓迎した。しかし中国からすれば「自分の裏庭に手を突っ込まれた」わけです。そこで今度は中国がロシアの裏庭である中央アジア、例えばウズベキスタンなどに資金援助を行って影響力を強めようとしています。これを見てロシア側も怒っている。つまり、表面上は「蜜月」でも、実態はお互いに隙間風が吹いているのです。
(深田)
全然「蜜月」じゃないですよね。
(宇山)
そうです。そして、そこに「楔(くさび)をどう打ち込むのか」を考えるのが本来の日本外交であるべきです。ところが、いまの高市さんのように「ウクライナ支援万歳!」ということでは話にならないですね。
(深田)
やはり、イデオロギーベースで動いてしまうと、自らの選択肢を狭めてしまいますね。
(宇山)
外交はイデオロギーではありません。国益と国益のぶつかり合いです。「国益に資する」と判断すれば、イデオロギーに反してでも動くべきなのです。日本にとって中国を牽制するには「ロシアとの連携」は欠かせません。もちろんロシアと軍事同盟を結べとまでは言いません。しかし、一定レベルの協力関係を築き、中国を牽制する。これは日本の国益にかなう方針であると言えます。
(深田)
ロシアのガスや石油を輸入すれば、物価も安定しますし、ある程度は中国に対する牽制にもなりますよね。合理的に考えれば、悪い手ではないはずです。それを、自らそのカードを切れないような状況に追い込んでいるのはもったいない話ですね。
(宇山)
まさにそこで「インド外交を見習うべきだ」と言っているのです。インドは、中国を牽制するため、そして安価な燃料を確保するためにロシアと付き合っている。それと同じことを、なぜ日本はできないのでしょうか。アメリカからの圧力があった、という面は確かにバイデン政権下ではあったでしょう。しかし今はトランプ大統領という大きなパラダイム転換が目前にあるわけです。であれば、従来の外交姿勢では立ち行かないはずです。高市さんはそこにどう切り込んでいくのか。それが、まさに今問われていることだと思います。
(深田)
なるほど。大変興味深いお話でした。ありがとうございます。今回は、作家の宇山卓栄先生に、最近の国際情勢、そして高市政権がどうあるべきかについてお話を伺いました。先生、どうもありがとうございました。
(宇山)
ありがとうございました。





