#481 日本の大企業が50代社員をクビにせざるを得ない驚愕の理由とは? 海老原嗣生氏

(深田)
皆さん、こんにちは。政経プラットフォーム、プロデューサーの深田萌絵です。

今回は雇用ジャーナリストの海老原嗣生先生にお越しいただきました。先生、よろしくお願いします。

(海老原)
はい、よろしくお願いします。

(深田)
最近、毎日新聞のニュースで「バブル世代が還暦で大量退職 再雇用や転職のミスマッチを防ぐには」という記事が出ていたのですが、いかがでしょうか?

(海老原)

いろいろ考える必要がありますが、一番のポイントは、シニアの話になると思いますので、その話をしたいのですよ。

まず、メガバンクの法人融資の担当者と考えてください。いろいろな知識を勉強しないといけないので、法人融資は結構難しいです。22歳で入って、30歳過ぎぐらいから結構大きいところを動かせるようになります。窓口業務はれほど時間はかかりませんが、大手法人を動かせるようになるには大体10年はかかるでしょう。

(深田)

組織の後ろ側や上層部、あとは財務諸表を読めないとできないですよ。

(海老原)
もちろんです。最初の3年間は、3か月ごとに資格をたくさん取らされて、それが実際に使う場面で、まずは個人融資で、そこはBS(貸借対照表)もPL(損益計算書)もない住宅ローンから慣れていくのです。その後、中小企業を担当し、小さな財務諸表を見ます。

中堅企業では、協調融資(※1)を経験します。そして準大手に行くと、今度はメインバンク制の勉強をして、本物の大企業に行くと直接金融(※2)などもかかわってくる。

※1)協調融資:一つの企業に対し、複数の金融機関が協力して融資を行うこと

※2)直接金融:会社が株式や債券などを発行し、投資家から直接お金を調達する方法

そういう勉強をして、一人前の仕事ができるようになるまで10年かかります。その10年かけて育てた人たちを、50歳になると「もう辞めてください」と言うわけですよ。

(深田)

そうですね。これは結構早すぎませんか?

(海老原)

逆に言うと、一人前になるのに10年かかる何も知らない22歳の若造を、一方で1000人も取るのですよ。これが、日本の労働問題であることに気づいてほしいのですよ。日本の企業はみんな、たとえばメーカーでも、無言の圧力があって、55歳になると出ていくような無言の圧力があるわけですよ。なぜだと思いますか?

(深田)
なぜですか?

(海老原)
一番簡単なことを言えば、給料が高すぎるからですよね。

(深田)
ああ、なるほど。

(海老原)
メガバンクで、いわゆるバブル役職で法人融資の50歳の平社員でも、年収1300万ぐらいもらっているのです。1300万円ですよ。

(深田)
いやあ、本当に結構驚くのですよね。それほど実力がない人でも給料が高く、50代半ばで会社を辞めて転職する時に、うちの会社に入りたいという人もいるのですが、給料を聞いて驚きますものね。

(海老原)
そこですよ。「なぜそのようなことをしているのですか?」ということですよ。もしメガバンクぐらいお金があって儲かっている会社であれば、彼らの給料を適正に抑えれば「70歳まで働いてください」となるはずなのですよ。

(深田)

そうですよね。最近は60歳定年で、再雇用で年収を半分にしてずっと働くというようになっています。それがその人の適正給与だと思います。

(海老原)

適正給与だと思います。それであれば、何の問題もなく、ずっと働けます。しかも1300万円まで上がるために、職能等級の評価を高くして、死ぬほど働かされているわけではないですか。そういうものではなく「私は今のままで昇格しなくてもいいので、仕事が終わったらすぐに帰ります。家事育児をします」と、男の人も帰っていくようにした方がいいではないですか。

つまり、60歳で仕事がなくなるという問題の一つは、給料が上がりすぎたからですよね。もしこれが600万、700万で止まっていたら、ある程度仕事はありますよ。

(深田)

本当にそう思います。

(海老原)
ここで、ラジアーの法則をしたいのですよ。これは、労働経済学の話です。

この図を見てください。年功序列であれば給与は右肩上がりになっていきますよね。ところが、人間のアウトプット=生産高、つまり業績はそれほど上がらず結構一定です。最初の頃は「俺の働いている分の給料をもっと払えよ。俺は損をしている」と思っているわけですよ。

ところが、途中で給料が業績を抜いてしまって、仕事もしてないのに、給料が高くなるのです。こうなると、どうなっていくのかというと、A(働き損)=B(貰い過ぎ)の段階で、企業は精算をして定年にしないといけない仕組みになってしまうのです。日本の年功序列はA=Bで作っているわけなのです。

(深田)

ああ、このように作っているのですか。知らなかったです。

(海老原)

日本で、給与がなぜ上がらなくなったかというと、65歳に定年を伸ばしたので、Bのカーブを少し抑えたのですよ。その結果、給与が上がらなくなったのですよ。ここで、日本で改革を考えるべきなのは、Cのようなラインを作るべきなのですよ。年収が1300万まで上がらないようにするためですね。

(深田)

ああ、なるほどね。

(海老原)

たとえば、今パナソニックでリストラを15年ぶりに行っています。三菱電機などもしています。彼らに取材すると、年収は平社員でも1000万で、大体1000万から1200万の間です。

(海老原)

みんな、結局メーカーはちょっと安いんですけど、それでもみんな1100万、1200万になるのです。それを700万で止めておけば、辞めさせる必要がなかったのです。

(深田)

確かにそうだと思いますね。

(海老原)

こちらの図も見てほしいのですね。日本は早期退職勧奨がなくなりません。

異端の人が二人いて、言うことは一緒で「早く定年にしろ」と言うわけですよ。なぜそう言うのかといえば、この図は定年のところで釣り合います。そうすると定年よりも前、すなわち早期退職をすると膨大な利益が出るのですよ。

パナソニックなどで早期退職をした場合、大体給与の30か月分を上乗せします。30か月と言うと、何かすごくもらっているように思いますよね。50代で1年間の支払いを考えると、まず12か月は固定給を支払いますよね。管理職は残業代がないとしても、このレベルではボーナスレンジが高くなっているので、19か月相当になるのですよ。これに社会保険料や人的経費、事務所経費などを入れると、1年間の経費は24〜25か月分になるのですよ。

そうすると、30か月分は1年3か月分ぐらいの(給与を含めた)人件費すよ。それで、この緑の部分を見てください。たとえば50歳で退職すると、65歳まで15年もあるわけですよ。

(深田)

あ、そうか。20年分儲かかるのですね。

(海老原)

すごく儲かるということなのですよ。だから、愚かな経営者人は、これを前倒しにすればするほど儲かるので、企業はその誘惑に駆られるわけです。2000年代に私が雑誌『works』や『HRmics』の編集をいていた頃、パナソニックを取材した時に「今回でリストラは最後にしましょうね」と言っていました。それが、15年たつと「やっぱりやってしまうんだよね」と言うのですよ。この仕組みになっているからです。

(深田)

では、ラジアーの法則ではなく、C案を作りましょうということですね。自分でも感じるのですが、40歳ぐらいになってから、夜の8時、9時を過ぎて働くのが無理になりました。もう頭が働かないのです。

(海老原)

わかります。俺はもう、酒を飲まないと無理ですね。

(深田)

前は、お酒を飲みながら12時を回って2時ぐらいまで仕事していたのですが、最近はもう頭が全く動かなくて。

(海老原)

でも、酒を飲まないとイライラして飲むじゃないですか。飲んだらもう何もできないです。

話が逸れましたが、そういうことだとご理解いただけましたよね。これは『日本型の給与が年齢に比例して上がりすぎる』ということを直さない限り永遠に続くということなのですよ。

(深田)

なるほどね。毎日新聞のニュースによると、再雇用者の特徴は何パターンかあるということで、会社への忠誠心で、給料が減ってモチベーション下がらずに頑張る人とか、他のパターンですね。

(海老原)

そこが日本人の間違っているところで、早くから700万とか600万を頭打ちにして、それ以上は上げない。役員になるようなすごく優秀な人はどんどん上げていく。こういう仕組みにしておけば、給与は700万で頭打ちだから「早く帰ってもいいよ」となってくるではないですか。給与が半額になっても「65歳まで滅私奉公しろ」というのは無理な話ですよ。おかしい話を言っているのです。

(深田)

このよう人達の転職はどうなるのですか?

(海老原)

その前にこの表も見てほしいのです。この話をしていると「そんなパナソニックとかメガバンクの話ばっかりするなよ。世の中はそんなに給料もらっていない人ばかりだ。俺なんて300万で400万だよ」とコメント欄に出るのですよ。

それで、給与をどれぐらいもらっているのか、平均がどれぐらいなのかも見たいですよね。よく話が出てくるのは、このグラフですよ。日本で働いている労働者の中央値は351万円です。

しかし、これはインチキで、たとえばひろゆきさん(西村博之氏)も平気で使い、政治家も平気で使うのです。『馬鹿じゃないの?』と思うのですが、これはパートタイマーが入っているのですよ。200万以下は主婦、高齢者、学生のパートタイマーがほとんどです。

今、中央値を出しましたよね。中央値ではなく平均値の方はもう少し上なのですが、平均値でも460万円という数字をよく出すのですよ。しかし、これもパートタイマーが入っているのです。

パートタイマーが入っていない人たちはどうなのかを見る前に、男と女でどれだけ違うのかも見てほしいのです。

男性の平均はパートタイマーがあまりいないのですよ。女性は主婦がたくさんいます。これを見ると男性はどんどん上がっています。高卒も中卒も地方の人も入れて全員平均です。これは税務署が出している民間給与の実態調査なので、何一つ間違いはないです。これで見ると全平均で700万になるのです。

(深田)

いや、すごいですよね。

(海老原)

これが平均なのですよ。見ていただくとこの19〜24歳、この辺りまでは学生を含んでいるので、低くて当たり前ですよね。それで、女性はどうなっているのかというと、女性は結婚したら、家事や育児をするので、パートを押し付けられているのです。したがって、この数字は主婦のパートタイマーが圧倒的に多く含まれるのですよ。

定年再雇用は正規の人がかなりいて、男性の非正規率は8%か9%ぐらいなのですよ。正社員だけに絞ったら、これよりも平均が100万ぐらい上がります。そうすると全平均で、50代は800万ぐらいになるのです。もらい過ぎなんですよ。

(深田)

もらい過ぎですか?

(海老原)

メガバンクで1300万もらっている人がいるから平均値がこうなるわけです。

(深田)

まあ、そうですよね。やはり、若い人をたくさん雇って、トレーニングするよりもスキルがある人をそれなりの給与で長く働いてもらった方が効率よさそうですね。

(海老原)

全くその通りだと思います。それも考えてほしいのですよね。昔のように若年世代がたくさんいた時代ならわかりますよ。これからは、高齢者までみんな一億総活躍で働かないと人が足りなくて社会が無理だと言ってるではないですか。それを50歳で辞めてさせるのは愚策だと思いますよ。

(深田)

本当ですよね。若い人とのコミュニケーションは結構難しいので、それよりも職歴のある人に長く勤めてもらう方が楽ですよね。

(海老原)

楽ですよ。だからそこを考えないといけないのです。そう考えると、50歳になっても、他に行かされなくて済むではないですか。年収は上がらないけれど、700万が頭打ちで、70歳まで働ける社会になるではないですか。

中堅中小企業はどうかというと、人を辞めさせても、新しく取れないから、75歳ぐらいまで働いている中小企業も多いのですよ。そういう意味でおかしいのは中堅、準大手以上のところですよ。給与を上げ過ぎなのです。転職云々よりもそういう社会にすべきじゃないですか。

(深田)

そうですよね。60歳で転職して新しい仕事を覚えるのは大変だと思います。新しい人間関係もあります。

(海老原)

しかも、若者は「あのできねえじじいがが、なんで1300万もらってんの?」とフラストレーションになるではないですか。それが700万だったら「まあしょうがねえか」となりますよね。もう、そろそろ日本の右肩上がりで給与が上がるという仕組みは壊さないといけない時期に来ているのだと思うのですよ。

(深田)

でも、大企業だけがそれをやっているだけで、中小企業はもう現実問題として、それができないのです。

(海老原)

その中小企業というのが一つの問題で、100人以下の企業は確かにそうなんですよ。100人を超えると完全年功カーブがついてくるのですよ。

500人未満はそれでも700万で止まりますが、500~999人になるともう結構なカーブがつきます。それも永遠に出世しない平社員でもこんなに伸びるのですよ。給与が伸びずにその分75歳まで働ける仕組みは、100人以下の中小企業しかないのですよね。

(深田)

これは、定年退職で転職をする時に、リスキリングをして新しい職場を見つけるよりも、雇用のあり方を考え直した方が、効率がいいよということですよね。

(海老原)

いいこと言うじゃないですか。おっしゃる通りです。

(深田)

ただ、転職活動はめちゃくちゃ面倒くさいですよね。

(海老原)

同業界なら、勝手がわかるので、いいけれど、他業界は面倒くさいですよ。

(深田)

こんな面倒くさいことをするぐらいだったら、安くて、長くのんびり勤められる方がいいですよね。

(海老原)

私はそう思いますね。そういうのが嫌で「俺はもっとバリバリ働きたいんだ。今の会社はもうだめだ」という人こそ転職すればいいですね。

次に、このグラフを見てください。これはフランスの給与体系ですよ。カードルというのはエリート層で、大学を出ただけではなれないのです。グランゼコールという大学よりもさらに一段上で、選ばれた人しか入れないのですが、出てきた瞬間にもう700万円ぐらいから始まって、1000万、1200万が平均なのですよ。しかも男女込みで、育休を取っている人も入れてこの給与になるのです。

一方で、大学を出た人の多くはこの中間的職務というコースに乗るのです。20代後半で470~480万円で、日本と大差はありません。50歳で570~580万円で、100万円しか増えていないのですよ。

(深田)

結構少ないですね。

(海老原)

つまり、フラットなのです。エリートだけがものすごく上がるけれど、いわゆる普通の大卒で、世の中の圧倒的多数の人たちは給与が上がらないのです。

(深田)

では高い給料をもらおうと思ったら、徹底的に勉強してエリートコースに入らないと無理っていうことですね。

(海老原)

特にヨーロッパはそうですね。ドイツはグランゼコールがないのですが、その代わり博士課程まで出ていないといけないのです。その博士課程もね、飛び級で人より早く出ていないとだめなのですよ。

(深田)

へえ⁉厳しい。

(海老原)

厳しいですよ。日本と全然違う仕組みで、超学歴社会です。

(深田)

日本は逆に博士号を取ると仕事がないようです。文系博士ですが。

(海老原)

向こうも文系博士で、例えば平安文学の研究をしているとか、日本のアニメを研究している人はたくさんいますが、そういう人は全然出世しませんよ。基本的に、経済か経営か、もしくは理系でないと無理ですね。

次に、アメリカの年収を見てください。

アメリカの中位の人を見ると、30歳から40歳までは3割ぐらいは給与伸びるのですが、40歳以降は給与が上がらないのですよ。アメリカは、普通の人は上がらないのです。上がるのはエリートだけですよ。

最初にも言いましたが、日本人は、アメリカと言う国はトップエリートで、ものすごく給与が良いと勘違いしているではないですか。

(深田)

勘違いしています。もう欧米型のトップエリートの仕事の過酷さを知らずに、何をのんきなこと言っているのかということですよね。それよりも私は、9時から5時で、年収500万の仕事が田舎でできるとありがたいと思いますよ。

(海老原)

私もそう思います。日本の大企業ならばそれよりもう少し待遇が良く、700万ぐらいもらえる。夫婦で家事育児も分担すれば、奥さんも正社員のまま残れて、合わせると1400万円です。そういう社会の方がずっといいじゃないですか。

(深田)

私の妹がそんな感じです。社内結婚で、同じ仕事で、家事も何もかも半分ずつです。

(海老原)

素晴らしい。

(深田)

それが理想ですよね。

(海老原)

理想です。それが今後の世の中の主流になっていく。さらに言うと、ずっと現場の仕事をしていたら腕は錆びないので、700万ではあるけれども70歳まで働くというのが仕組みになっていけばいいのではないですか。

(深田)

今日はまじめな海老原先生が、バブル世代還暦で大量退職という問題について「そもそも給与の体系から考え直せ」ということをお話しいただきました。先生、ありがとうございました。

(海老原)

ありがとうございました。

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