#489 能登半島復興が進まないのは政治利権が原因だ!建築のノーベル賞受賞者の復興ビジョンとは!? 山本理顕氏

(深田)

これまで「建築とコミュニティー」をテーマにご説明していただきましたが、その中で「能登半島の復興をどのように進めていくか」という点について、先生の構想を踏まえ、お伺いしたいと思います。

能登でボランティア活動をされている方々にお話を伺うと「復興はほとんど進んでいない」という声を多く聞くのです。コミュニティーの分断で、地元に住んでいた人が今は離れ離れになり、寂しい思いをされています。

あったものを単純に「元に戻す」だけではなく、新しい形に変えて、かつ外からより多くの人が集まる建築に生まれ変わらせる方法はないのかと考えています。

(山本)

私も能登には何度か足を運んで状況を見てきました。もともと市場は港のそばにありました。しかし、地震によって港の周囲が隆起し、岩だらけになり、さらに市場も焼失してしまった。その市場を復活させるには、港そのものを復活しないとうまくいくはずがないのです。

港の周辺の地形が変わり、港が利用できなくなっているのが、今回の能登の大震災のかなり大きな特徴です。

(深田)

地形そのものが変わるとは、自然の力はすごいですね。

(山本)

多くの震災現場を見たわけではありませんが、あれほどの変化は初めてでした。

この復興に対しては国家的な救済がなければ、とても無理です。国は各地方自治体に任せようとしていますが、地形が変わってしまっているところに、地方自治体だけでは救済を行うことはできないと思います。

東北大震災の時は国家的な救済が行われたのですが、能登については、国家はほとんど予算を使おうとしないのです。

(深田)

そうですよね。それがすごく不思議です。

(山本)

東北大震災の時は、たまたま福島第一原発が大きな被害を受けて、国は大慌てになったのです。「こんなことは起きない」と言っていたのに起きてしまった。あれはもう完全に行政、特に官僚機構の責任です。

官僚機構が「起きない」と言ったのに、あんなもろい形で爆発してしまったわけですよね。それに対して国は責任を感じておらず、「責任はない」と言い張っています。

国は「自然災害である」と言っていますが、防ぐ方法はありました。今になれば、堤防や避難所を作っておけばよかったのです。専門家の助言を受け入れていれば、爆発しなくて済んだのです。国家の大失態ですよ。

実際には自分たちの失敗を認めているようなものですから、東北大震災には国から予算がたくさん出たのです。

それ以外にも東北は、災害が起きることが分かっているにもかかわらず、インフラを通して住宅地開発をずっと進めていったのですよ。開発をしたのはデベロッパーですが、許したのは行政です。そういう人たちが「東北の発展に」といって、田んぼを潰して、住宅をたくさん作っていったわけですね。

東北ではデベロッパーたちが大きな利益を上げられる開発を行ってきて、それが地震で壊れたのです。被害に会ったのは元々あった古い住宅ではなく、デベロッパーが新しく作った住宅なのです。

(深田)

えっ、あれは逆なのですか?

(山本)
逆ですよ。元々、住宅は地震津波が来ない高台に作っていました。国の都市計画がいかに杜撰だったかということです。それを自覚して、自分たちの責任だと分かっているから、きちんと手当をしようとして予算をつけたのだと思いますね。

ところが能登に関しては、本当に自然災害だったので、彼らは自分たちに責任がないという立場です。

(深田)
ああ、そういうロジックですか。国の失態を隠蔽しなくていいので、お金かけなくていいということですね。

(山本)

被害が大きかっただけで、それは他の自然災害と全く同じという扱いなのですよ。国土交通省はもちろん助けには行っているけれども、ほとんど支援しておらず、全部自治体任せです。しかし、自治体にはそういう能力はないですよ。各自治体は独断で救済をしているので、私たち建築家集団が救済したいと申し入れても、聞き入れないのです。

本来は国土交通省が全体の仕組みを決めて、救済しないといけないのにやらない。これが今の能登の現状です。建築家集団もそこに救済の手を差し伸べていないのですよ。心ある建築家だけが動いています。

(深田)
支援をされているのですね。

(山本)
それは、本当に数少ない人たちです。しかし、日本建築家協会は何も支援しないのです。今、佐藤尚巳という者が建築家協会の会長なのですが、彼は何もしないのです。これが建築家集団の現状です。大阪の博覧会においても、能登に関しても何の力も発揮しようとしない。本来、建築家集団は一般市民や日本国民に対して大きな責任があるのです。

建築家集団は、国家が「できない」と言っても、国家に「やれ!」と命令ができるのです。それが建築家集団、専門家集団です。しかし、専門家集団の役割を果たそうとせず、官僚機構の一部になってしまっているのです。

(深田)

建築家がそうなっているのですか?国交省との関係を良好に保った方が、自分たちも得をすると計算が働いているのでしょうか?

(山本)
ものすごく計算しています。仕事がきますから。名前を出せば、安藤忠雄や内藤廣。内藤は東大の土木の元教授で、東北の港湾などの復興の中心にいました。彼は建築家として「高い防潮堤を作ると景観を壊す」と言いながら、一方で土木の教授として防潮堤を作る委員会に参加して、二枚舌で救済にかかわっているのです。

問題は東大の建築学科、土木学科です。彼らはほとんど国家に属してしまっているような状態で、特に東大土木は国家と非常に深い関係があります。土木の技術者はほとんど公共事業に携わるのですよね。それで、彼らはほとんど官僚と同じような立ち回りをしているのです。

(深田)

そうですね。隈研吾さんの建築もかなり問題が出ていますよね。

(山本)

ただ、隈さんについては、たとえば愛知万博(2005年)で「建物などは作らないで、自然のままでやりましょう」と言ったのは隈さんです。彼はサステナビリティの意識が非常に強く、そのようにやってきた人でもあります。ところが木造の知識がないので、あのようなことになってしまいました。ですから、隈さんは必ずしも否定する側面ばかりではないのですよね。

(深田)

構想自体は良かったのですね。

(山本)

きちんとものごとを考えられる人です。ところが、東大の教授になると国交省と非常に深く、かかわるようになり、国交省の考え方に自分の建築を合わせていかざるを得なくなりました。

(深田)

東大教授は大学教授の中で最も名誉なことなのですか?権威があるのですか?

(山本)

名誉なことです。ですから、東大の教授は博士論文をきちんと書いていないといけないのです。優れた論文が教授会で評価されている人しか教授になれないのです。

ところが建築だけは、何かの賞、たとえば建築学会賞を取れば、それはドクターに値すると建築業界の方で勝手に決めている。ですから東大の教授でも博士号を持っていない人がいるのです。安藤忠雄がそうで、彼は教授になるような能力は全くなく、論文も書いていないのです。

ドクター論文以外でもいいのです。自分の思想を表明するような論文を書いている建築家はたくさんいます。磯崎新とか原広司は優れた論文を書いています。磯崎さんは博士号を持っていませんが、彼は建築家として非常に社会的な影響力がある論文を書いています。そういう人が教授になることができるのです。

丹下健三や槇文彦のような人たちも、きちんと自分たちの考え方、思想の表明をしています。それが教授会で評価されて教授になっているのです。

(深田)

東大は、教授を選ぶという大事なシステムが歪めたことによって、建築家としての責任や公共に対する考え方が確立されないまま国への忖度が始まり、今の状態になったのですね。

(山本)

東大は権威をずっと守ってきました。日本の学者や研究者が集る中心的な存在であるという自負が東大にありました。今でもあると思いますが、それが壊れたのです。建物を作ることに対して責任感が本当に失われてしまいました。

日本国にとって東大の権威は重要なのです。東大がその権威を守らないといけない。それを自ら壊したのです。

今回の能登に関しても同じことが言えるのです。実は建築家たちは能登で様々な研究をしています。たとえば「瓦屋根があるので建物が壊れた」と言われていますが、そうではないのです。伝統的な瓦屋根の建物は、地震で屋根瓦が落ちてしまいます。しかし、重さがなくなるので、免震にはなっていなくても、倒壊まではいかない建物がたくさんあります。

神戸の地震(1995年)以降、建築基準法を改正して新耐震制度を作ったのですよね。新しい耐震構造ができて、それを守っている建物は瓦屋根があっても一棟も壊れていないです。

(深田)

そうなんですね。

(山本)

それが、今、能登で困っているのは「瓦屋根をやめてトタンにしましょう」という自治体の首長が何人もいるのですよ。こちらは「それは嘘だから、聞いてはだめですよ」と言っているのです。瓦屋根が悪いのではありません。きちんと耐震をすれば瓦屋根でも全然頑丈で、問題ありません。

(深田)

瓦屋根をやめると、瓦職人さんが困ります。

(山本)
それより能登の文化が壊れます。あれだけ能登の風景が美しいのは瓦屋根があるからなのです。だから今、私たち全壊、半壊にかかわらず補助金が出るように活動しています。国土交通省は補助金を全壊には出しますが、半壊には出さないというルールを独断で決めました。生殺しのような中途半端な状態です。

(深田)
そうですよね。半壊でも使えないのは同じですからね。

(山本)
能登の建築の伝統的な工法は少し曲がっても、簡単にすぐ戻せるのですよ。私の意見は、全壊、半壊というルールをやめて、国は被害に対して全額救済すべきということです。それから今ある伝統的な住宅をそのまま保存にすること。瓦屋根も保存できます。

能登は一つ一つの家族が持っている住宅は大きいのです。だから未来の住み方はシェアハウス的にしたらどうかと提案します。それとお店を一緒に作るのです。

(深田)

ああ、いいですね。

(山本)

観光客がたくさん来るので、お店が役立つ。お店があるので、自分で稼げる。職場ができる。アトリエがある。

(深田)
軒先ショップのようなものですね。

(山本)
そうです。そのようにして、能登は復興できます。

(深田)

能登の復興には軒先ショップ付きシェアハウスでいかがでしょうか、ということですね。


(山本)

それは、すぐにできます。能登の人はみんな、そういうような能力を持っているのですよ。

(深田)

そうやって能登が早く復興するといいですね。

(山本)
これは建築家の責任ですよ。

(深田)

今回は山本理顕先生に、東大の問題、そして能登半島の復興をどのように成し遂げるかという観点からお話をいただきました。先生、どうもありがとうございました。

(山本) ありがとうございました。

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