#478 医療費抑制が日本を滅ぼす!国が隠す「医療亡国論」の真実 伊藤周平氏
(深田)
皆さん、こんにちは。政経プラットフォーム、プロデューサーの深田萌絵です。
今回は、鹿児島大学教授の伊藤周平先生にお越しいただきました。先生、よろしくお願いいたします。
(伊藤)
よろしくお願いします。
(深田)
前回は社会保障制度の問題についてお話を伺いましたが、今回は『医療費負担増で国庫破綻?』というテーマについてお聞きしたいと思います。
(伊藤)
国庫が破綻するかどうかは極めて疑問で、私は破綻しないと考えています。現在、医療費は45兆円~47兆円と増え続けていますが、前回も申し上げたように、GDP比で見れば高齢化に比してもそれほど多くはない。ただ、金額の規模が非常に大きいため、昔から医療費抑制が叫ばれてきて、1980年代には、当時の厚生省の局長が『医療費亡国論』を唱えました。
(深田)
『医療費亡国論』とは、具体的にどのような内容なのでしょうか。
(伊藤)
このまま高齢化が進み、医療費が膨張すれば日本が滅びるという主張です。私は滅ぶことはないと思うのですが、その議論をきっかけに医療費抑制政策が始まり、以来ずっと続いてきました。特に高齢者の医療費が大きいため、いまだに「高齢者が増えると医療費が膨らみ国庫が破綻する」と言われています。私はむしろ「医療費を抑制することこそが国を滅ぼすのではないか」と考えています。
(深田)
それはどういうことしょうか?
(伊藤)
医療費抑制の名のもとに行われてきた典型例が病床の削減です。それに加えて医学部の定員を抑制してきて、今年も減らすと言っています。2008年にようやく医師不足が公式に認められましたが、人口1000人あたりの医師数はOECD加盟31か国の中で日本は29位という低水準にとどまったままです。
(深田)
医師が足りていないということですね。
(伊藤)
そのとおりです。医師も病床も削減してきた結果、どのような事態が生じたかについては、新型コロナウイルスのパンデミックで明らかになりました。入院できずに自宅で亡くなった方が続出したのです。コロナ対応の検証が十分に行われていないので。私は遺族の方と「遺族の会」を立ち上げ、研究班を作りました。
こうした政策の中で、さらに患者の負担を増やした結果、必要な医療を受けられなかったり、お金がなければ病院に行けない事態が増加しました。実際に医師に話を聞くと「手遅れで亡くなる患者が増えており、どうしようもなくなってから受診し、末期がんなどは取り返しのつかない状態だった」というのです。
(深田)
確かに、そうした現状は深刻ですね。
(伊藤)
そのような時、医師は患者に「なぜもっと早く来なかったのか」と言うことがあります。しかし、実際には自己負担を支払うことができないケースも多いのです。日本の医療費自己負担割合は3割で、これは諸外国と比べても高い水準にあります。
日本はフリーアクセス制度が整っており、世界的に稀な医療制度を持っています。しかし、その制度が機能しているのは、医療従事者の献身的な努力によって支えられているためであり、お金がなければ医療にアクセスできないという問題も生じています。特に最近は、物価高や年金の減額、実質賃金の停滞などによって生活が厳しくなり窓口負担を支払えない人が増加しています。
(※1)フリーアクセス制度:患者が受診する医療機関や医師を自由に選択できる仕組み
(深田)
一方で、国民健康保険の保険料が高いので「加入しない」という若い世代も増えているようです。
(伊藤)
加入しないというより、加入できないのではないですか。保険料が高く、若い人は高齢者と比べて病気になる確率が低いため、加入しない傾向にあるのでしょう。
(深田)
国民健康保険の掛け金は、他国と比べて高いのでしょうか、安いのでしょうか?
(伊藤)
高いです。加入者は応益負担(※2)の部分があるため支払い義務が生じます。つまり、無収入であっても保険料を支払わなければならないのです。もともと国民健康保険は自営業者を対象とした制度で、現在は無職や非正規雇用の方も加入していますが、事業主負担がありません。自営業者は自らが事業主であるため、雇用者負担部分がないのです。(社会保険よりも負担割合が大きい)
(※2)応益負担:所得の多寡にかかわらず、一部を負担すること
さらに、国民健康保険には応益割(※3)と呼ばれる仕組みがあり、世帯の子どもの数が多いほど保険料が高くなります。これは明らかに少子化対策に逆行しています。
(※3)応益割:収入に関係なく世帯や被保険者の人数に対して掛けられる
(深田)
確かにそのとおりですね。
(伊藤)
事業主負担がないことに加え、所得に関係なく一定額が課される部分があるので、保険料が非常に高くなっています。そのため、国は「国庫負担」を行ってきました。しかし、その割合を徐々に減らしてしまったのです。かつては医療費の40%を負担していましたが、患者負担分を除いた医療給付費の40%負担に下げました。それにより1兆円がカットされました。その結果、保険料(患者負担額)は上昇しました。
保険料を引き下げるためには、国庫負担を増やすしかありません。実際、自治体によっては一般財源を投入して保険料を抑えているところもあります。そうしなければ、保険に入れないのです。
(深田)
たしかに、低所得の人々にとっては非常に厳しいですね。
(伊藤)
そのとおりです。したがって、保険料を引き下げるか、あるいは所得がない人からは徴収すべきではないと私は考えています。現状では、介護保険料も含めてすべて徴収されています。
消費税などとは異なり、保険料方式では医療給付額が増えると、その分がすぐに保険料に跳ね返ります。医療従事者の給与を上げたり、医療を受ける人が増えたりすると、給付費が増大し、それが保険料の上昇につながるのです。
したがって、保険料の算定方法を見直し、より所得に応じた形へと再設計する必要があります。国民健康保険にも所得比例の部分はありますが、上限が設定されています。
(深田)
確かにそのとおりですね。
(伊藤)
現在、健康保険料の標準報酬月額の上限は139万円となっています。保険料の取り方を大きく変えるよりも、国民健康保険の場合はまず公費負担を元の水準に戻すことが重要です。そうすれば、保険料はかなり引き下げられます。
(深田)
つまり、公費負担を減らしたので、結果的に国民負担が増えているということですね。
(伊藤)
そのとおりです。公費負担を1兆円ほど削減したわけですから、国民負担は増加します。
(深田)
公費負担を減らし、国民負担を増やし、さらに消費税まで引き上げた結果、国民の負担は一層重くなり、この国はまさに「五公五民」に近づいている状況だと言えますね。
(伊藤)
そのとおりです。社会保障の最大の問題は社会保険が中心になりますが、治療費が増えれば必ず保険料に跳ね返ってしまいます。そのため、保険料を所得に応じた形に全面的に組み替えるか、あるいは公費負担をしっかりと導入して補う形にしなければ、保険料は今後も上昇していきます。
(深田)
最近では、外国人による保険証の不正利用問題が取り沙汰されています。旅行などで来日した外国人が、知人の保険証を使って高額な医療を受けるといった事例が報じられていますが、こうした問題についてはどのようにお考えですか?
(伊藤)
確かにそうした報道はありますが、実際にはごく一部のケースだと思います。不正利用はどこでもありますが、それは全体から見ればごく一部です。ただ金額が大きければ目立ち、メディアで大きく取り上げられるために、外国人が頻繁に不正利用をしていると誤解が生じてしまうのです。
もちろん、知人の保険証の不正利用自体は違法なので、厳正に取り締まるべきですが、外国人による不正利用が医療保険財政を逼迫させているとまで言えず、実際の影響は微々たるものだと思います。
(深田)
では、医療保険財政を最も逼迫させている要因は何でしょうか?
(伊藤)
医療費そのものは、高齢化率の上昇に比べると、実はそれほど増えていません。問題の本質は、保険料制度が極めて逆進性が強いという点にあります。所得の低い層ほど負担感が強く、保険料が高くなれば入れない人が出てくるわけですよね。
もう一つの要因は、高額な医薬品と医療の高度化です。高齢化はもちろんありますが、これが医療費を押し上げています。オプジーボ(抗がん剤)のような高額薬品が出てきて『オプジーボ亡国論』と言われるほどで、最近ではバイオ医薬品など高価な薬が医療保険財政を圧迫しています。
結局これらが理由で、医療費全体が上昇し、それが保険料に跳ね返り、逆進的な制度なので、低所得層ほど強い負担を感じています。これをを是正するには、税による補填しかありません。
(深田)
しかし、現在税による補填は消費税で行われているので、弱者ほど負担を強いられる構造になっているのが現状です。
(伊藤)
おっしゃるとおりです。したがって、別の税体系による補填へと転換する必要があります。ところが、今の自民党政権にはそれを実行する力も意思もありません。
(深田)
確かに、そうでしょうね。
(伊藤)
なぜなら、高額所得者や大企業から政治献金を受け取っていて、賄賂ではないかと思います。法人税や所得税を軽減し、金融所得も優遇している現状では、社会保障改革など望むべくもありません。その利権構造を断ち切らない限り、根本的な改革は不可能です。
(深田)
よく分かりました。本日は、鹿児島大学の伊藤周平先生にお話を伺いました。
先生のお話によれば、「自民党政権である限り、社会保障が良くなることは絶対にない。なぜならば、大企業や富裕層から資金を受け取っているからである」とのことです。
先生、本日はありがとうございました。
(伊藤)
ありがとうございました。