#469 日本円は暴落の憂き目!? トランプ新法によるドル覇権と日本弱体化の行方とは? 大西つねき氏
(深田)
皆さん、こんにちは。政経プラットフォームデューサーの深田萌絵です。今回は無所属連合共同代表の大西つねきさんにお越しいただきました。つねきさんよろしくお願いします。
(大西)
よろしくお願いします。
(深田)
今回は今話題のステーブルコインですが、よく分からないので教えていただけますでしょうか?
(大西)
これは、簡単に説明できないのですが、ブロックチェーン(※1)という技術の上にある仮想通貨はビットコインやイーサリアムがありますよね。特にビットコインは相場の変動が激しいので、投機の対象としてはいいのですが、通貨としては使いづらいです。
(※1)ブロックチェーン:同じデータを複数の場所に分散して管理する技術
本来、ブロックチェーンは分散型の台帳システムで決済にも使えるのがコンセプトだったが決済には使えない状態なので、よりステーブル(安定)で相場の変動がないような仮想通貨をブロックチェーン上に作ろうという発想からできたのがステーブルコイン(※2)なのです。これに関して、7月にアメリカでジーニアス(GENIUS)法が成立しました。それは、アメリカのステーブルコインをどのようにしていくのかという法律で、注目されているのです。
(※2)ステーブルコイン:法定通貨や金等のコモディティ(商品)価格と連動するように設計された暗号資産
どのようにステーブルにするかという方法は基本的に4種類ぐらいあります。
一つ目は法廷通貨に紐づける方法で、日本でもJPYCという日本円と価値が連動しているコインがあります。ジーニアス法ではドルや米国債が紐付けの対象になっています。
二つ目は仮想通貨に紐付ける方法ですが、ビットコインのような仮想通貨自体、変動が激しいので、おそらく別のやり方をすると思います。
三つめは何の担保もないのですが、アルゴリズムで上がったら売りが出て、下がったら買いが入るようにして、ステーブルにしようとするタイプです。
四つ目は金や原油などの商品(コモディティ)に紐付ける方法です。ただ金自体もそもそも商品相場で取引されているから本当にステーブルかというと、微妙です。
もちろんステーブルにもリスクがあり、発行の主体が潰れたら終わりで、どこまでステーブルかはわかりません。
(深田)
でも、法廷通貨にペッグ(固定)といってもバックオフィス側の固定レートに合わせるための売り買いは忙しいですよね。それをアルゴリズムでやるということなのですか?
(大西)
常に1対1なのですよ。単純に100ドルだったら100ステーブルコインという風にしています。
(深田)
そうですよね。でも、かつて東アジア通貨危機の時にドルにペッグして外貨準備高を積み上げていたのに、売りを浴びせられて外貨準備の残高が尽きてしまい、買い支えができなくなって、タイのバーツも暴落しましたよね。
(大西)
あれは基本的には相場がある中での話であり、ステーブルコインは1対1で紐付けるので相場がないのです。
(深田)
それは仮想的に1対1で紐付けているだけで“呑み行為(※3)”ではないのですか?
(※3)呑み行為:顧客からの注文を取引所に出さず、自分が相手方となって売買し、通常の取引のように装うこと。
(大西)
呑み行為というか、なぜ僕がこれに注目したのかと言うと、トランプ政権はうまく考えたと思いました。
現在、基軸通貨としてのドルは世界的に需要が減っています。BRICS(ブリックス(※3))などはドルで貿易しなくなっています。ドルの需要がどんどん減っている中で、アメリカは国債が返せないレベルになっています。
(※3)BRICS:ブラジル(Brazil)、ロシア(Russia)、インド(India)、中国(China)
今回、ステーブルコインはジーニアス法でドルまたは米国債と紐付けることになり、発行するためにはドルを持つか米国債を買わないといけなくなり、ドルを担保で持つことになります。
(深田)
ステーブルコイン用の外貨準備高のような形でドルを積み上げなないといけないわけですよね。
(大西)
現在、世界中の政府が外貨準備でドルを持たなくなっています。たとえば、BRICSは自国の通貨で取引を進めようとしています。それが、新しくステーブルコインの発行でドルまたは米国債を持たなければならないようにして、それが広がると、ドルを持つとか米国債を買うインセンティブになるのです。
(深田)
つまり、呑み行為ではなく、ステーブルコインには実際の裏付け資産を持った上での1ステーブルコイン=1ドルということですね。
(大西)
そうです。この取引にはプラットフォームがかかわってきます。プラットフォーマーがステーブルコインで決済できるようにすると、そこでいろいろな流通や精算が行われるようになります。プラットフォーマーは、ほとんどがアメリカの会社なので、ドルの経済圏が間接的に広がっていきます。結果として斜陽になりつつあるドルに別のインセンティブができます。
通貨に金利が発生するようにステーブルコインも基本的には同じく発生することになります。たとえば、ステーブルコインを持つ人が増え、それに比例して、米国債を買うわけですよね。その米国債に金利が発生するので、ステーブルコインにも金利がつくようになります。
米国債を購入して金利を得ようとすると、その資金は固定化され、動かすことができませんでした。しかし、ステーブルコインなら金利を稼ぎながら、決済にも利用できる。こうなると金利が最強のツールになります。
本来、金利という概念はおかしいのです。お金が増えても価値が増えることはありません。しかし、現実は金利が幅を利かせています。日本円がなぜこれほど安くなっているのかというと、やはり金利差が大きいわけですよ。
日本の金利はほぼゼロに対して、アメリカは高金利なので、円を売ってドルを買い、金利を稼ぐ「キャリートレード」が世界中で行われています。ドルはどんどん価値をなくしているのだけれど、今はみんな気にせずに儲かればいいと思っています。
ステーブルコインは決済ができて、かつ金利を稼ぐことができる。そうなると、需要が大きく広がり、世界中がその方向に動き出すと、金利が安い通貨は最悪最弱になっていき、金利が安い日本円を持つ意味がなくなる可能性が高くなります。
日本国内で作った農産物もステーブルコインで売るという話になると、日本の生産物が円を通す必要がなくなります。
僕は1985年のプラザ合意以降、40年間為替ディラーをしていて、いずれドルは大暴落して紙くずになると見ていました。最終的には50円ぐらいに絶対になると思っていたのですが、このジーニアス法と今の日本の状況を見て、40年間で初めて見方を変えました。
もしかすると、本当に大円安時代がやってくるかもしれないです。
(深田)
藤巻健史氏の超円安予想がついに当たりますか?
(大西)
藤巻氏はこのような事態を想定せずに言っていたのでしょうけれど、現実化するかもしれません。
(深田)
危機ですよね。
(大西)
これをやられると、おそらく日本はなす術がありません。自民党総裁候補の5人に、この問題を考えられる人はいないでしょう。このレベルで金融とか経済を考えることができる専門家もほとんどいないので、日本はやられ放題になると思います。
(深田)
日本国内で外国の決済システムや外国の通貨、それがステーブルコインなのかわかりませんが、そういうもので決済されてしまうと最終的には経済を乗っ取られているのと同じですよね。
(大西)
そうです。それから金融政策も一切効かなくなります。これを、誰がどのように計画して進めようしているのか、目先の利益を追求しているのかわかりませんが、両方だと思いますが、ものすごいインパクトを生む可能性があります。
今までの伝統的な為替とか金利政策が全部吹き飛ぶ話です。
(深田)
まあ、そうですよね。『虚の世界』に突入しそうですね。
(大西)
そうです。非常に怖いというか、自分が予測できないほどの円安になるだろうという気がします。
(深田)
「日本円で貯金していてもいのかな」と疑問に思いますよね。
(大西)
僕は少し前まではドルは本当に紙くずになると思っていました。こうなってくると、(価値が下がる可能性が高い)円よりも実体資産である土地であったり、生活に必要な場所や水源だったり、そういうものを確保する必要があります。
円安になればなるほど、ステーブルコインを持ちたい人が、円を売ってドルを買うわけで、その円がまたどんどん外国人に買われて、日本の土地や会社を次々に乗っ取られる。これは今も起きているし、加速すると本当に日本はなくなります。
(深田)
そうですよね。
(大西)
では「何をどうすればいいのか」と聞かれると、すごく難しいのですが、結局は本質に立ち返るしかないということでしょうね。
(深田)
外国人に乗っ取られたくないと考えると、円を強くするしかないと思います。
(大西)
円を強くするにはやはり金利です。しかし、金利をいきなり上げるわけにはいきません。金利を上げると当然住宅ローンの金利も上がり、いろいろな問題が多分発生するので、そこをどのように対処するのかを合わせて考えながら金利を上げる方向に持っていく必要があります。今までと全く逆の政策です。
金利はインフレにならないと絶対に上がりません。実はインフレを起こそうとアベノミクスを進めました。しかし、インフレにならなかったのは今までの金融緩和ではお金が一部のところにしか回らず、みんなお金が行かなかったからなのです。
(深田)
私は、そもそもアベノミクスがすごく間違っていたと思っています。金融緩和だけでは、お金が外国に抜けていくだけで、日本国内で回っていなかったのです。貨幣の流通速度は最初の1、2年はマイナスでした。
先にお金が外に流れ出ないような施策を打って、国内にお金をジャブジャブにしないと信用の高い大企業やファンドがどんどんお金を取ってしまいました。無駄に流し過ぎました。
(大西)
金融緩和をするなら、政府が借金してお金を作るだけでなく、それを庶民に直接配らなければ意味がありません。伝統的な金融緩和をしたので、一部のところにしか回らず、それが最大の問題です。円を売って海外のものを買うことから、逆に日本国内の資産が買われる状況になっています。
これを止めるためには、時代に逆行しますが、為替の規制が有効です。しかし、一つの国だけではできないので、国際と協力してやる必要があります。
今は逆を行っており、もちろん規制も行われてないので、このステーブルコインによって、もっと開かれてしまいます。
そうすると完全に日本人の労働力がステーブルコインを得るために使われることになり、完全に経済が乗っ取られてしまう。相当怖いことになりつつあります。
(深田)
そうですよね。今、外国人が日本を目指すのは、日本が何もかも安いからですよね。
(大西)
そうです。安過ぎるのですよ。
(深田)
安過ぎて、楽だから来るのですよね。
(大西)
それには、我々自身のマインドも大きな問題があります。日本人は給料が安くても真面目に働くじゃないですか。今の日本経済は日本人の給料を上げない構造になっているので、やはり戦う必要があります。
1985年以来ずっと円高の中で輸出するためにコストカットしてきたという全く間違った政策が、未だにみんなのマインドを縛ってしまっているので、そこも解放する必要がります。とにかく良いものを安く売ってはだめなんですよ。
戦後の復興期はそれで良かったかもしれませんが、今は違います。良いものを安く売れば、世界中が買いに来て、それは命の安売りになってしまうのです。
だから根本的に考え方も変えて、施策もそういう風に大きく方向転換していく必要があるのですが、そのレベルの政治が全く行われていないのです。議論すらありません。
(深田)
そもそも議論ができる議員が一人もいないです。それに議会が議論をさせませんよね。
(大西)
それは、本当にそうです。
(深田)
与党も野党も上層部が口裏で話を合わせてから国会を開いているので、どの政党のどの政策がいいのか議論するのが無駄ではないのかと思います。
(大西)
僕は14年間、政治活動をしてきて感じるのは、やはり基本的なリテラシーを上げる必要があるということです。
特に金融に関してはお金の発行の仕組みさえ知らないわけですよ。そもそもお金が借金だってことすら知らないのです。したがって財政金融の考え方が全然分からないので、それこそステーブルコインのインパクトがあまり理解できていないでしょう。みんなが理解する必要はないのですが、全体の底上げが必要です。
「消費税を上げる」とか「下げられない」とか「財源が…」というレベルで止まっている状態では全く進歩がないので、少なくともそれぐらいは分かっていてほしいですね。
財源は税金ではないという当たり前のことすら分かってないので、底上げされると、初めて議論ができる専門家が出てくるだろうし、そこも地道にやるしかないとは思います。
僕は十数年「お金の発行の仕組みを理解しないと政治ができません」と言い続けてきました。
(深田)
今、教育の効果が出てきているのではないですか?
(大西)
どうでしょうか。今日(9月27日)、財務省解体デモがあるらしいので、顔を出してみようと思います。
あのデモはある程度危機意識というか問題意識を持っている人が少し増えてきた証左だと思います。
(深田)
そうですよね。やはりここ数年、少し変わってきましたよね。
(大西)
確かに少しは変わっていると思います。しかし、今のスピードで世界に動かれたら、多分巻き込まれるでしょう。
(深田)
これの防衛術はあるのですか? ステーブルコインによって日本の円がクラッシュされるとなるとどうやって防衛すれらいいのでしょうか?
(大西)
本当に難しいのですが、自分の資産を守るにはトレンドに逆らえないのですよ。トレンドに乗らないと守られない。だから難しいのです。
(深田)
そうですよ。グローバリストとの戦いは難しいのです。
(大西)
一人で戦えないですよ。だから本当にみんなの意識やマインドを変えないとひっくり返らないのです。為替ディーラー時代からトレンドの逆張りをして散々死ぬ思いをしてきましたから(笑)。
(深田)
まだ生きていてよかったですね(笑)。
(大西)
これについては、どうすればよいのかと言うと、どうしようもないですね。実は今日、このことを喋るべきなのか少し躊躇していました。これを説明すると逆にそれが起きてしまうのです。なぜなら、みんなが思うと、そちらの方に逃げるではないですか。
(深田)
はい、逆に土地を持ったり、金(ゴールド)など現物を買ったりした方がいいのでしょうか。
(大西)
金はわからないです。相場があります。それに、金を持っていてもそれは食べられないです。土地であれば、食べ物を作れます。土地や水源を確保するとか、みんなが自給自足しても多分ダメだとは思うけれど、ある程度確保をして、主導権や決定権は手放さないというのは重要だと思います。
(深田)
ということは田舎にセカンドハウスを買って、ダーチャ(※4)生活で、家庭菜園をして生きていくということですか?
(※4)ダーチャ:ロシアの家庭菜園付きセカンドハウス
(大西)
その方がステーブルコインを買って、ドルや米国債を買って資産を守るよりもいいのかもしれない。
(深田)
そちらの方が安そうですよね。200~300万ぐらいで老朽化した田舎の家を買って、隣で畑をする。
(大西)
その方がはるかに人生は楽しくなるでしょう。そちらの方が重要です。
(深田)
森永卓郎先生もそのようにおっしゃっていました。
今回は無所属連合共同代表の大西つねきさんに、ステーブルコインと資産防衛策についてお話いただきました。どうもありがとうございました。
(大西)
ありがとうございました。