社会保障崩壊の危機!原因はあの税制?国民負担45%の真実 伊藤周平氏 #465

【目次】
00:00 1.オープニング
00:42 2.日本の社会保障は充実しておらず、社会保険料の負担率は高い
05:45 3.増えている日本の富裕層が応分負担をすべき
08:44 4.社会保障を削るか消費税を上げるか悪魔の選択を仕組まれている
10:40 5.社会保険料を払っているのに十分な社会保障を受けられない日本
(深田)
皆さん、こんにちは。政経プラットフォーム、プロデューサーの深田萌絵です。
今回はオンラインで、鹿児島大学教授の伊藤周平先生にお話を伺います。先生、よろしくお願いいたします。
(伊藤)
伊藤です。よろしくお願いします。
(深田)
先生はご著書『日本の社会保障』(2025年7月、筑摩書房)の中で、社会保障制度の課題を指摘され「このままでは日本の社会保障は持たなくなる」と警鐘を鳴らされています。現在の日本の社会保障制度で、最も深刻な問題はどこにあるのでしょうか。

(伊藤)
よく指摘されているのは、医療費を含めた社会保障費の増大です。高齢者が増え若い人が減っているので、当たり前といえば当たり前なのですが、その結果、費用は増加します。その自然増を抑えるために、給付の抑制や患者負担の増加、さらには年金の削減が進められています。
年金では『マクロ経済スライド』により、実質的な価値を減らす仕組みになっており、給付抑制を行なっているのです。ただし、社会保障費用が増えているといっても、高齢化率から見れば、GDP比で見ると他国によりもそれほど高いわけではありません。
(深田)
具体的には、どの国と比較するとわかりやすいでしょうか?
(伊藤)
2021年のデータですが、社会保障・人口問題研究所が、OECD主要国の社会保障支出の対GDP比のデータを出しています。GDP比なので、経済力に対してどの程度賄えるかという点で見ています。それによると、フランスが33.49%、ドイツが31.27%、アメリカは27.03%です。一方、日本は25.79%にとどまり、さらに2023年には23%程度まで下がっていて、日本の社会保障支出はむしろ少ない水準です。
(深田)
他の先進国と比べると、日本の社会保障支出は決して高いわけではないのに、そこから何が日本の問題なるのでしょうか?
(伊藤)
無理やり抑え込んでいるため、社会保障が充実していないのです。その結果、国民の老後に対する不安が高まっています。さらに現行の社会保険料は逆進性が強いので、所得の低い人の負担割合が大きくなっています。
(深田)
確かに、社会保険料はものすごく上がっていますよね。
(伊藤)
上がっています。OECDの統計をよく見ると、日本は本人負担が非常に大きく、事業主負担が少ないのです。
(深田)
えっ、そうなんですか?
(伊藤)
はい。例えば厚生年金の場合、標準報酬月額が65万円で上限となり、それ以上の収入があっても負担は変わりません。仮に月100万円を稼ぐ人でも、65万円で計算されるわけです。結果的に高額所得者は負担が軽く抑えられる一方、中間層には厳しいです。私自身もそうですが、「たくさん取られている」という実感があります。
(深田)
なるほど。高額所得者には上限があるため負担は限定的で、中間層が最も厳しい状況に置かれているのですね。
(伊藤)
はい。労使折半とはいえ、日本では本人負担が大きすぎます。海外では事業主が7割を負担する国もあります。日本では税金を含めた国民負担率が約45%(※1)に達し、まるで『五公五民』で、江戸時代並みだとまで言われています。
(※1)財務省の見通し:令和7年度46.2%
(深田)
保険料負担が増える一方で手取りは減り、その割には受けられるサービスは充実していないように感じます。
(伊藤)
その通りです。給付を削っているからです。
(深田)
そうした状況を踏まえて、日本は諸外国と比べて今後どのような方向に進むべきでしょうか。
(伊藤)
社会保険料を下げる方法はいくつかありますが、よく言われるのは給付抑制です。病床を減らせ、患者負担を増やせ、といった具合です。しかしそれでは、社会保障制度が本来果たすべき役割を果たさなくなります。
必要な医療を受けられず、自己負担が払えずに治療を中断し、手遅れで亡くなる方も出ています。国民健康保険料も非常に高く、給付抑制を続ければ命にかかわる問題になります。自己負担が重く、ますます老後が不安になります。
(深田)
諸外国はどのように制度を維持しているのでしょうか?
(伊藤)
多くは税金による公費負担を拡大しています。結局、社会保険料を下げるには税金を投入するしかないと思います。
(深田)
そうなると、日本では消費税が財源になるということですか?
(伊藤)
いいえ、消費税で社会保障の財源を賄うのは間違いです。消費税ではなく、他の税で賄うべきです。なぜなら、消費税を上げて、法人税や所得税は引き下げられてきたわけですから。
さらに言えば、日本では富裕層の数が大幅に増えています。1億5000万円以上の金融資産を持つ富裕層は、日本はアメリカに次いで多いのです。ところが、その金融所得に対する課税は非常に緩いです。むしろ累進性を強化するべきです。所得税の最高税率はずっと引き下げられてきたわけですから。
法人税も引き下げが続いています。法人税率は23%ぐらいなのですが、大企業は研究開発減税など租税特別措置によって、実際には15~16%程度しか払っていません。そのような余力のある企業に負担を求めるべきなのです。
お金のある人が応分の負担を果たせば、社会保障の財源は十分に確保できます。それが本来の所得再分配の仕組みです。資産や収入のある人がたくさん保険料や税金を払い、その分を中間層や生活に困っている人に回す。これこそが社会保障の基本的な役割です。
ところが現状は逆で、お金のない人から多くを取っている。消費税はその典型です。物価が上がれば上がるほど税収は増えます。消費税は完全に庶民いじめの税です。その消費税を社会保障に充ててしまうと、所得再分配にはなりません。
むしろ「消費税が上がるくらいなら社会保障が充実しなくてもいい」と考えてしまう。これでは社会保障は改善されません。
(深田)
確かにそうですね。消費税と社会保障をセットにしている限り、どちらも逆進性が強く、単なる弱い者いじめににしかならないということですね。
(伊藤)
結局「消費税を引き上げるか、社会保障を切り下げるか」という、まさに悪魔の選択になってしまうのですね。私は、これは社会保障費を削りやすくするために意図的に仕向けたと考えています。
(深田)
確かに、意図的かもしれませんよね。
(伊藤)
実際に自然増の部分まで削られています。普段、働いているとそうは思わないのですが、病気になったり失業すると、その問題の深刻さに気づきます。日本人の二人に一人はがんになる時代です。誰にでも起こり得ることであり、そう考えると不安は一層大きくなります。
(深田)
最近よく耳にするのは、国民年金にしか加入していなかった人が、70代でも月に5万円程度しか年金を受け取れないという話です。一方で生活費はかかり続け、インフレで物価高になり、使えるお金は減っている。病気になっても治療費を払えるのか不安だとよく聞きます。
(伊藤)
その通りです。自己負担が払えず診療を中断すると、亡くなってしまうので、命にかかわる問題です。本来、医療保険はお金がなくても必要な医療を受けられるためにできた制度なのに、窓口負担が他の国に比べて高すぎます。3割負担というのはありません。例えばイギリスでは全額税金で医療費は無料、ドイツでも外来は無料です。
社会保険料は何かあった時のために払っているのに、何かあった時にまたお金を取るのですか?それはおかしくないですか?
多くの人が当たり前のように払っていますが、他の国はそういう発想なので、ドイツやフランスでは自己負担がほとんどなく、入院時にわずかな負担がある程度です。
したがって、高額療養費制度は必要がないのです。また、自己負担があまりなく、払える範囲内なのですね。しかし日本では自己負担が大きく、しかも高額療養費制度の負担上限を引き上げようとしている。これでは家計が破綻してしまいます。
(深田)
おっしゃる通りです。ほとんど貯蓄のない人が、月5万円の年金とわずかな貯えを切り崩して暮らしている。そのような状況では病気や怪我に耐えられない構造になっていますよね。
(伊藤)
まさに「真綿で首を絞める」ように、じわじわ貯金が減っていくわけですね。
(深田)
結局、社会保障制度を消費税で賄っているかぎり「社会保障を充実させてほしい」と願えば、そのまま増税につながってしまう。この二つがトレードオフの関係にあることが、本当に厳しい状況ですね。
(伊藤)
そうです。そこを改めない限り、社会保障の充実は実現できません。今のままでは切り捨てが続き、社会不安はさらに大きくなります。
(深田)
確かにそう思います。本日は「社会保障崩壊の危機、それは消費税に原因があった」というテーマで、鹿児島大学教授の伊藤周平先生にお話を伺いました。先生、どうもありがとうございました。
(伊藤)
ありがとうございました