【米価10倍の真実】国民が損し続ける日本の農政の闇とは? 海老原嗣生氏 #458

【目次】
00:00 1.オープニング
02:01 2.嗜好品ではなく主食なのにお米の値段は世界の10倍!
02:53 3.お米問題のそもそもの原因は利権
06:39 4.お米問題を解決しようとした昔の農水省
08:18 5.農民190万人・JA1045万人の票の力
10:23 6.政府が主導しているお米の種類と値段
13:43 7.生産者に対して5倍以上も居る利権に群がる人達
14;15 8.昔の自民党・共産党がやってきた事
15:58 9.郵政改革とは利権構造の浄化が目的だった
19:17 10.郵貯のお金は消失していない
20:44 11.ゼロからお金を生み出す回数券
22:21 12.非正規社員問題の発端は小渕内閣
(深田)
皆さん、こんにちは。政経プラットフォーム プロデューサーの深田萌絵です。
今回は、雇用ジャーナリストの海老原嗣生先生にお越しいただきました。先生、よろしくお願いします。
(海老原)
よろしくお願いします。今日は少し腰を据えて政治の話をしましょう。
(深田)
先生は「呪われた家系」という表現も出るほどの政治一家だそうですね。お父様はもともと政治家で、有名…と言ってよいのでしょうか。
(海老原)
有名というほどではありませんが、参議院議員から副大臣まで務めました。海老原義彦といいます。
(深田)
ありがとうございます。ところで先生、最近は農政についても語りたいとのことでしたね。
(海老原)
はい。まず小泉進次郎さんについて少し触れておきたいのですが、私は同氏に期待しています。一方で、「日本の農業を海外に売りつける政策だ」といった批判も耳にします。こうした強い批判の多くは、出所をたどると既得権益を持つ団体に行き着くことが少なくありません。
(深田)
そうなのですか。
(海老原)
まずコメの話をしましょう。いま国内のコメは1キログラム700円程度でしょうか。一方で世界価格は1キログラム70円前後です。10倍の差です。同じ農産物で、せいぜい3倍程度ならまだ理解できますが、ここまで乖離しているのはおかしい。私たち国民が不利な構造に置かれているという事実に、もっと目を向けるべきです。
(深田)
ただ、海外に行くとブドウなど果物が非常に安い一方で、日本では高い印象もあります。品種で味がまったく違うという面もありますよね。
(海老原)
だからこそ、コメでも選択できるようにすればよいのです。1キログラム70円のコメと700円のコメを並べ、「こちらの方が美味しいから700円を選ぶ」と消費者が選択できる状態にする。問題の本質は輸入の可否ではありません。多くの人が「輸入の問題だ」と捉えがちですが、そうではない。鍵は、JAが何をしてきたのか、そして自民党に対して強力な圧力団体がどのように働きかけてきたのかという点にあります。
そもそもアメリカの作物が安いのは、農地が広く、1人の耕作者が日本の何十倍も作付けできるからです。同等の生産性を日本で実現できていれば、価格差はここまで拡大しなかったでしょう。
(深田)
しかし、日本は地形的に難しいのではないでしょうか。
(海老原)
まさにそこです。中山間地、とりわけ山間部には、0.2ヘクタール規模の農家が多数存在します。米作農家の約4分の1がそのような小規模経営です。0.2ヘクタールでは、販売で大きく稼ぐのは現実的ではありません。
それでも農地を手放さない理由がいくつかあります。第一に、税制上のメリットです。たとえば家族がサラリーマンとパートで収入を得ていても、「農家」であることで、食費や電気・ガスなど家計の相当部分を農業経費として計上しやすい。これが大きな誘因になっています。
(深田)
なるほど、そうなのですね。
(海老原)
第二に、農業者年金の存在です。農業者は基本的に自営業なので国民年金に加入しますが、さらに農業者年金基金で上乗せできます。一般に企業経営者などが厚生年金に上乗せする場合は、本人負担に加え会社負担も必要になり、実質的に2倍の負担になります。ところが農業者年金では、本人の上乗せ分だけを負担すればよく、向こう側は国が支援してくれる。これは非常に有利です。
このように、税務上の扱いと年金の上乗せ支援があるため、「農家をやめられない」という人が少なくありません。実際には農業の比重がごく小さい兼業農家も多く、米作の兼業農家の大半は給与所得が主体で、わずかな農業収入を維持しつつ、こうした制度の恩恵を受けているケースが多いのです。ここに構造的な問題があります。
(深田)
そうなのですね。
(海老原)
さらに付け加えると、畑作は兼業化が難しい分野です。まず雑草対策が大変で、こまめな除草が欠かせません。次に連作障害があり、同じ作物を続けて作れません。一つの畑地を三つ四つに区分し、科目が重ならないように輪作する必要がある。例えばナスとトマトは同じナス科なので、連続して作付けすると弱ってしまう。
一方、水田は水が循環して栄養が供給されやすく、連作障害が基本的に起きにくい。水を張るため雑草の発生も比較的抑えられます。こうした特性から、水田はサラリーマンが兼業として維持しやすく、結果として土地が市場に出にくい。これが日本の農地構造の硬直化を招き、生産性向上と価格是正の妨げになっているのです。
(深田)
しかし、兼業で続けられるのであれば、それはそれで良いのではないでしょうか。
(海老原)
ところが、常に0.2ヘクタール程度しか作付けできないため、どうしても単価が高騰します。これを打開しようとしたのが、かなり以前の農政でした。
具体的には、秋田県の八郎潟のような大規模干拓地を活用する方策です。日本の農地は山間部では極めて小規模ですが、新たに干拓した土地では、アメリカと同様の大規模農業が可能になります。八郎潟では、埋め立てにより約170平方キロメートルという非常に広大な土地が造成され、これを1人あたり17〜20ヘクタールずつ、約1,000人に分配しました。その結果、彼らの現在の年収は約2,000万円に達しています。大規模化すれば生産性が上がり、コメの単価も大きく下げられるのです。
さらに、この路線を広げる構想もありました。九州の諫早湾、山陰の宍道湖・中海などでも干拓を進め、総量としては山間地に点在する小規模農地(約25万戸分)に匹敵する面積を干拓する計画が描かれていました。そうなれば、中山間地の零細農地は順次集約・転換し、干拓地で大規模経営に移行することで、売上・所得は大幅に増えたはずです。
しかし、これを阻んだのが「コメ余り」でした。「これ以上作ってはいけない」という統制の下、国が余剰米を買い上げる統制価格制度が続き、売れ残りは古米・古々米として積み上がっていきました。そこで実施されたのが「減反政策」です。本来であれば、その期間に中山間地の小規模農地を順次整理し、干拓地を拡充して生産性を高めるべきでした。アメリカ、オランダ、フランスが辿った道と同様の集約・大規模化を進めていれば、わが国の生産性も大きく向上していたはずです。
加えて、政治的な構造も大きな影響を与えました。農民は強い「票」を持っていたのです。現在でも、JAの会員は約1,045万人に上ります。一方で、農業就業者数は約190万人超にすぎません。つまり、JA会員は農民の5〜6倍規模で存在しており、強力な圧力団体となっています。たとえば、先ほど触れた農業者年金の加入もJAが窓口となっており、「年間60日以上の従事」や「50万円程度の収入」といった要件も、実務上は窓口対応で通ってしまうことがある。こうして裾野の広い会員基盤が形成されてきました。
選挙制度上の「1票の格差」も無視できません。1976年に最高裁が格差を問題視する以前は、極端な格差が容認されていました。是正後も当初は「せいぜい1対5以下」を目安とし、最高裁が「それは問題だ」と判断しつつも、実務上は1対5まで認められていたのです。当時、仮にJA会員が1,000万人であっても、格差の影響を考えると実質的には5,000万人分に匹敵する政治的重みを持ち得ました。現在も上限は概ね2対1です。過疎地域が多いことを踏まえると、1,000万人の勢力でも実質的には2,000万人規模の影響力を持ち、都市部よりも相対的に大きな力を及ぼし得ます。
こうした事情が重なり、構造は容易に動かせません。その結果として、私たちはコメ価格が世界価格の「2〜3倍」ならまだしも、「10倍」に達する状況を長年容認してきました。これは明らかに問題です。
深田さんは利権に厳しいご姿勢をお持ちですが、なぜこの件については容認されるのでしょうか。
(深田)
その点を言うならば、ワインは産地やブランドによって価格が異なりますよね。ですから――
(海老原)
そう、「選択できる」のであれば問題がないのですよ。
(深田)
なるほど。つまり、ワインは選べるが、コメは選べない、ということですね。
(海老原)
そうです。コメは自由に選べません。「備蓄米なら選べる」と言われることもありますが、結局のところ価格差は10倍ではなく7倍程度で済む、という話にとどまります。備蓄米を選んでも7倍です。やはりおかしいでしょう。
(深田)
ただ、アメリカ産のコメも輸入されていますが――。
(海老原)
輸入はありますが、その仕組みが問題です。現在、ミニマムアクセス米(MA米)は備蓄米に回され、その際に関税を課しています。関税は1キログラムあたり340円です。
例えば、カリフォルニア産の米(カルローズ米)は原価が1キログラム90円程度ですから、関税を加えると430円になります。ここに運輸費などを上乗せすると原価だけで500円前後、物流コスト等を含めれば600〜700円になります。すると、700円程度の国産米との差は100〜150円しかありません。価格差がそれだけなら、多くの消費者は日本米を選ぶでしょう。
(深田)
確かに、「輸入米は思ったほど安くない」と感じます。
(海老原)
その要因は、明らかに340円の関税の存在が大きいのです。関税が価格を押し上げています。ここは強く問題視すべきです。「関税はいかんぜい」と言いたくなります!
(深田)
……(苦笑)。ただ、自動車を見ても、関税が話題になった時期はありましたが、結局は嗜好の問題もありますよね。日本人は日本車を好む傾向が強く、輸入車は富裕層中心で広くは普及しない。実際に競争させてみたらどうなるのか、試してみれば良いのではないでしょうか。
(海老原)
輸入自動車について言えば、今は関税はかかっていません。それでも最終的にどちらを選ぶかとなれば、日本車の方が良いという結論になることが多い。つまり、関税がなくても競争で選ばれるケースはあるわけです。
コメの関税340円は、もともと世界価格に上乗せして、80円+340円=420円程度とし、運送費を含めて原価を450円前後に収めることで、当時500〜600円だった日本のコメに価格で勝てないよう設計された水準でした。「日本産が必ず勝てる」価格設定だったのです。ところが、その後日本の米価が700〜800円へと上昇してしまった。結果として、相対的に安いカルローズ米は外食チェーンなどで採用が進むことになりました。
(深田)
結局のところ、減反政策が米価高騰を招いた面もあるのではないでしょうか。
(海老原)
減反は、もともと「コメ余り」への対応として導入されました。先ほど述べたように、八郎潟や中海などで干拓を進め、アメリカのような大規模農地で米作を拡大する構想がありましたが、「余っているのになぜさらに作るのか」という理屈で、干拓事業は次々と止まりました。
もし干拓を続けていれば、中山間地、とくに0.2ヘクタール規模の零細農家は大幅に縮減され、規模の大きい干拓地へと生産が移行して、1人あたりのコストは下がり、米価も安定していたはずです。これを阻んだのは、JAや農業委員会を含む制度的・政治的な仕組みです。
要するに、自民党は各地で同様の構造を築いてきました。農業委員会の網羅的な配置により、農民の実数が約200万人であるのに対し、JAの会員は約1,000万人規模へと膨らみ、既得権を支える強力な基盤が形成されました。結果として、農民・JAの枠組みから逃れにくい仕組みが固定化されたのです。
対照的に、漁業では漁民が約12万人、漁協組合員が約25万人と、おおむね2倍の関係で比較的バランスが取れています。
ところが林業では、従事者が約4万人に対して林業組合員が約150万人と桁違いに多く、こちらも利権構造が肥大化しています。
さらに、自民党は経済団体への働きかけでも巧妙でした。日本商工会議所や経団連が強い中、日経連を中間に置いて、意欲的な企業人や地元の中小企業を束ね、一派を形成していった。繊維など各業界に橋頭保(事業の始点)を築き、まとめて影響力を行使してきたのです。
また、1960年代に日本共産党が民青など若者組織で勢力を伸ばすと、自民党は対抗してJC(青年会議所)を各地に整備し、若手起業家層を取り込んでいきました。こうして地域社会の隅々にまでネットワークが張り巡らされ、政治的・経済的な支持基盤が固められていったのです。
(深田)
JC(青年会議所)は自民党の組織なのですか。
(海老原)
そうです。たとえば野中広務氏や佐藤孝行氏らが中心となって各地で整備していきました。北海道では革新勢力が強く、共産党や社会党に予算を持っていかれる状況があったため、対抗策として北海道開発庁を設置しました。
このように各地域ごとに根を張り、地元の利権団体と結び付いて、その代表が衆議院議員として選出され、派閥に所属する。結果として「派閥 × 利権団体」という育成の仕組みが日本中に張り巡らされました。私は、この構造を壊す必要があると考えており、農業改革もその一環として不可欠だと見ています。
(深田)
そのような観点からの改革ということですね。
(海老原)
ええ。基軸にあったのが郵政改革です。さらに言えば、道路公団改革も同列の根本的な改革でした。
(深田)
郵政改革とは、いわゆる「郵政票」を崩すための取り組み、という理解でよいでしょうか。
(海老原)
「郵政票」というより、本質は資金の規模と運用の仕組みです。郵貯・簡保などで約250兆円の巨額資金が積み上がっていましたが、これは国会の正式な予算手続を経ずに、大蔵省(現在の財務省)理財局の運用部が裁量で外郭団体に資金を流し、さまざまな事業を進めることが可能でした。そこが問題の核心です。
(深田)
ただ、郵政改革後、郵便のサービスが良くなったのかという点については疑問の声もあります。
(海老原)
議論の焦点は郵便サービスそのものではありません。問題は、250兆円もの資金が実質的に「予算外」で運用され、政策や事業に投じられていた構造です。
(深田)
現在、その資金のうち約70兆円が大きく毀損している、という指摘が国会でも取り上げられていました。
(海老原)
歴史的な経緯を含めて説明します。郵貯は「国のための貯蓄」を掲げて拡大し、昭和12〜13年ごろ、戦時体制下で軍事費が不足すると、赤字国債の相当部分(2〜3割)を郵貯が引き受けました。結果として、敗戦により日本人の資産はほぼ失われました。戦後も同様の構図が続きます。
たとえば「マル優(障害者等の少額預金の利子非課税)」によって郵貯は優遇され、資金が集まりやすかった。さらに、民間銀行が負担する保険料(預金保険)を郵貯は負担せず、税制面でも有利でした。日銀当座預金の準備率といった市中銀行への規律も、郵貯には及ばない。こうした優遇の積み重ねで郵貯は肥大化し、集まった資金は外郭団体を通じて道路整備などへ大量に流れ、族議員の温床にもなったのです。
この構造を正すための取り組みが郵政改革でした。ところが利権側からは「郵便サービスが壊れた」「ナショナル・ミニマムが崩れた」「ユニバーサル・サービスが損なわれた」といった反論が出る。そうした声が強調される一方で、当時の自民党や業界団体による「資金と利権の結節点」がどれほど深く社会を侵食していたかという本質が、しばしば見えにくくなってしまうのです。
(深田)
そのあたりの歴史には詳しくありませんが、私が20代の頃に始まったのが郵政改革でした。振り返ると、「郵政を民営化して何が本当に良かったのか」という点について、当時から疑問を抱いていました。
その後20年を経て、郵便サービスの品質低下が指摘されるようになりましたし、当時の融資資金のうち何十兆円かが消えたのではないか、という問題提起もありましたよね。
(海老原)
「どこに消えたのか」という点ですが、消えてはいません。運用の約8割は国債で行われており、その点は現在も大きくは変わっていません。ただし、国会の予算手続きを経ずに恣意的な事業を生み出せるような旧来の仕組みは廃されました。そこは評価すべきです。
また、一般のメガバンクも国債を保有しますから、その点だけをもって批判するのは筋違いでしょう。かつての「財政投融資」は、「財政投融資特別会計の債券(財投債)」という再構成を経て、条件が魅力的であれば購入する、魅力度は市場が判断する、という枠組みに転換されました。魅力があれば一般銀行も、ゆうちょも購入できる。私はこの仕組みに問題はないと考えます。
(深田)
ただ、民営化の際の「かんぽの宿」などの処分については、二束三文で売却された、しかも先が不透明な会社ばかりだった――といった指摘がありましたよね。
(海老原)
それはオリックスの問題でしょう。正直に言えば、「李下に冠を正さず」という言葉があるのに、なぜわざわざ疑念を招くような振る舞いをするのかと思います。あの件に関わった人たちには非がある。批判されるのは当然です。
ただ、背景にはより深い構造的問題があります。猪瀬直樹氏が『日本国の研究』などの書籍で数多く指摘しているとおり、道路公団の周辺には「ファミリー企業」と呼ばれる組織が存在していました。道路公団自体は当時としてはそれなりの監査を受けていましたが、周辺のファミリー企業は資本関係が希薄で、公団職員の共済組合が独自に設立するなど、実質的に監視の目が届きにくい構造だったのです。
たとえば高速道路の回数券。紙券は実質的に“刷れば刷るだけ”発行できる。これが闇に流れ、165億円規模の不正資金が生まれた。最初に問題を突いたジャーナリストに対し、「不正はせいぜい8億円、しかも決済ミスで有効期限切れの券が流出しただけ」と話していましたが、徹底追及の結果、総額は200億円近くに達していたことが明らかになりました。
こうした事例が各所にあり、猪瀬氏は「この一つでも正せば日本の借金は減らせる」と怒り、改革に取り組んだのです。道路公団には約40兆円の債務がありましたが、そこを立て直せるなら、日本の財政も改善できると思ったのです。小泉純一郎氏は猪瀬氏と相性が良く、小泉氏が「全部民営化すればいい。民営化して買い手がつかないなら株式にして売る。それでも売れないなら潰れればいい」と語ると、猪瀬氏は「その通りだ」と応じ、二人三脚で改革を進めました。
にもかかわらず、利権側からはレッテル貼りが続きました。代表例が「小泉改革は派遣改革で非正規を増やした」という批判です。しかし、これは事実に反します。関連法の改正を行ったのは森喜朗内閣で、施行も森内閣です。法案作成は小渕恵三内閣期に遡ります。当時、製造業への「派遣」は原則禁止でした。そのため、実態は派遣に近いのに「請負」と称して丸投げする「偽装請負」が横行し、労災補償の責任所在などで深刻な問題が多発した。これを是正するための法改正が小渕内閣で立案され、森内閣で成立・施行されたのです。したがって「派遣拡大=小泉改革」という図式は誤りで、むしろ損失を被った側の業界団体が流した言説がマスメディアに広がった側面が大きい。
そもそも、非正規が約2,200万人いると言っても、そのうち「派遣」は約150万人にすぎません。それでも「派遣のせいで非正規が増えた」というのは、因果関係を取り違えた議論です。利権に基づく情報発信と、それに飛びつく報道の構図が、改革の評価を歪めてきたのだと思います。
(深田)
結局、あの時期は、就職氷河期の問題にも通じるところがありますよね。
(海老原)
確かに似ています。当時は官公庁の採用を強く絞っていました。日本経済が危機的状況にあり、公務員叩きの風潮も強かったうえ、「総定員法」の存在など複合的な要因が重なり、採用抑制が続いたのです。
また、教員については、単に絞ったというだけではありません。小中学校の生徒数が減少し、“教員余り”の構図が生まれていたため、採用を抑える面もありました。実際、当時は教員採用を相当に絞っていました。
(深田)
一方で、今は教員不足になっていますが。
(海老原)
そうですね。きょうは少し話し過ぎましたが…
どうも人々は、耳触りの良い言説に流されがちです。とりわけネット上では、業界団体や利権側が流す虚偽の情報を信じる傾向が強い。戦時中、郵便貯金が軍備に充てられ、結果的に失われたという事実があるにもかかわらず、「ゆうちょは良かった」とする声が根強いのです。さらに、道路整備への過剰な資金投入や、高速道路の回数券が闇に流れて数150億円の不正資金が生まれた件など、重要な問題が忘れられがちです。
(深田)
ただ、そのあたりはバランスの問題でもあるのかなと感じます。最近は各地で道路の急な陥没事例が報じられ、「こんな国だっただろうか」と思うこともあります。
(海老原)
昔からそうした事例はありました。たとえば、あなたのご実家の近くのJR福知山線の脱線事故は2005年でしたし、かつては炭鉱の爆発事故も多数起きています。安全を巡る問題は、以前から存在していました。
(深田)
なるほど。ただ、やはり私とはどこか感覚が違うようにも思いますが・・・
以上です。今回は、雇用ジャーナリストの海老原嗣生先生に、海老原義彦・元参議院議員に関するお話も含めて伺いました。
(海老原)
もう、結構ですって。(笑)
(深田)
本日は貴重なお話をありがとうございました。