日本の建築業界は崩壊間際!? 設計から現場まで外国人だらけの現実! 森山高至氏 #452
(深田)
皆さんこんにちは。政経プラットフォーム、プロデューサーの深田萌絵です。今回は建築エコノミストの森山高至先生にお越しいただきました。先生、よろしくお願いします。
(森山)
よろしくお願いします。
(深田)
前回は建築業界のクルド人問題で、解体業者がクルド人ばかりで、人々の不安が増しているということなのですが、最近、建築現場では、日本語が聞こえてこないようです。なぜこのようなことになったのでしょうか?
(森山)
建築現場は本当に人手出不足になっています。建設業界に若い人が全然入ってもらえない。高齢者の方が70歳過ぎまで現場に出てくれていたのですが、後期高齢者になって、病気になったり、体が動かなくなり引退しています。物件を受注したものの職人がいないので、人をかき集めると、外国人たちも入ってきたということですね。
(深田)
では、なぜ若い人たちが入ってこないのでしょうか?
(森山)
一つには、昔に比べて建築現場の賃金が相対的に下がっているのです。
(深田)
結局『給料が安くなった問題』ですか?
(森山)
そうです。昭和40年代の高度成長期には、工事現場の職人はサラリーマンの3倍も4倍も、もらっていました。新卒サラリーマンの給料が数万円の時に「俺たちは十何万もらっているぞ」というのが建設現場でした。
(深田)
元気のいい人がたくさんいたのですね。
(森山)
「大手企業のサラリーマンは安定しているかもしれない。お前らはそこでコツコツやれ。俺たちはドカンと行くぜ」という風に、現場の人たちは頑張っていたのです。
(深田)
景気のいい業界だったのですね。
(森山)
雨が降ったら休みになり、体が資本なので怪我をしたら終わってしまう仕事なので「動いた分だけ金をくれ」と言うと、雇う側は「分かった、その場で払う」というような状況でした。
(深田)
その場で払うのですか?
(森山)
即金です。かつての建設現場の日雇労働者は即金なので、集まったのです。30年ぐらい前までは高田馬場の駅前で、日雇いの人をバスに乗せて工事現場まで行っていましたよ。
(深田)
そうなんですか!
(森山)
そうですよ。僕が学生の時はそういうバイトがあって、即金のアルバイトならば、みんな行きましたよ。『あっ、明日払う電話代がない!今日は働きに行こう』という感じです。
(深田)
今はそうではなくなったのですか?
(森山)
今はだめでしょう。雇用契約などもあるので、いきなり働ける現場はほとんどないのではないですか。
大阪では以前暴動があった釜ヶ崎(大阪市西成区)、東京では山谷(台東区)です。日雇労働者向けの木賃宿(簡易宿泊所)のような施設があって、日雇いの仕事を求めている人が集まっているような街で、今はないでしょう。
高度成長期には、そのような人たちがいたので、工事現場は動いていました。今はものすごく建設投資が行われているのに、そのような労働者の街がないので、労働者不足であることは明らかですよ。
(深田)
なぜ労働者の街が消えたのでしょうか?
(森山)
少子高齢化が原因です。また、同じ(待遇で)働くのであれば、工事現場よりもホワイトカラー(事務職)がいいと、皆さんがそう思っているからです。
(深田)
『肉体労働ではなくて』ということですよね。
(森山)
だから、少し多めに稼がさないと働かないですよ。
(深田)
そうですよね。『同じ時給でこれだけの重労働はできない』と思いますよね。
(森山)
それから、昔はデスクワークをしていると、上司や同僚からうるさく言われるのが嫌で『もっと気持ちよく働いてすぐお金をもられるところがいいな』と職人の世界に来た人もいました。働いた分だけもらえるというのは気持も楽で、変なストレスがありません。
(深田)
その結果、今の有効求人倍率は解体事業者が9倍、事務職は0.4倍になっています。
(森山)
あとは、イメージもあります。母親が子供に職人になることをあまり勧めないのではないですか? やはり母親は影響力があります。子供たちの将来のことに口を出して、息子が「俺は腕一本でいく」と言ったとしても「やめなさい」と言うのでしょう。
(深田)
建築現場にたくさんの外国人が働くようになり、建築現場が危ないと聞きます。
(森山)
何が問題かというと、例えばアメリカでは現場に様々な国の人がいますが、だいたい英語が通じるし、指示も少ないです。そもそも建物の作り方が、2×4(ツーバイフォー)建築といって、開拓者の人たちが素人でも家が建てられるように考えられた工法です。部品などもシステム的で簡単にできているので、熟練工でなくても建てられます。
(深田)
分かります。絵本のようなマニュアルを見ると、字が読めなくてもできるのですよね。
(森山)
そうです。そういうカルチャーなので、いきなり工事現場に飛び込んでも、なんとなく大工ができるシステムになっています。それに対して、日本の家作りはある程度修行が必要で、親方からあれこれ指導を受けて、木材を加工して組み立ていきます。今は機械化されたとはいえ、日本の木造建築は複雑なパズルのようなもので、耐震性能が厳しいので釘やボルトも本数も規格通りにしないといけない。結局、技術的な熟練と理解がないと建設現場にはなかなか入れないのです。
加えて、言葉の問題があります。外国人からすると、日本語は漢字と平仮名があって難しいうえに「やっておけ」とか「そこだ」と省略して言われると、なおさら理解できないのです。そういう人たちが現場に来ると、やはり危険性はありますよね。知識不足の状態で現場にいたり、現場で正しく説明しておかないと、事故や間違ったことが起きてしまいます。
今まで、現場の話をしていましたが、最近は設計も外国に頼んでいます。
(深田)
あっ、そうなのですか?
(森山)
そうですよ。ベトナムなどで日本の建物の設計図を描いています。
(深田)
ベトナムですか?
(森山)
そうです。以前はベトナムが多かったのですが、タイや中国などにも発注しています。ベトナムで設計図を描かせる事業を行なった日本の会社があります。コンピューターソフトを使うのでデータはメールでやりとりできます。単価は日本の10分の1ぐらいなので、一時期、ベトナムの設計会社はすごく成功しました。最初は少なかったのですが、今は増えて、ネットには『建物の完成予想図を描きます』という人が、ベトナム以外にも現れました。
(深田)
設計図は日本語なのですか?
(森山)
日本に留学経験があり、日本語ができる人には発注が増えます。日本語ができない人は、日本語が分かるリーダーの下でやっているのではないですか。
(深田)
ただ、そのように外国に発注が増えると日本に何の技術も残らなくなります。
(森山)
このまま行くとそうなります。現在、日本には建築の仕事がたくさんありますが、できる人がいないので技術継承の問題があります。これまでは、日本の言葉を含めた特殊な環境全体が参入障壁でしたが、逆に日本の建設業の海外進出を難しくしています。したがって、その辺も含めて本当の意味で国際化をどうするのか考えなければならない段階だと思います。
(深田)
ああ、なるほど、そうですね。
(森山)
デザイナーは、結構外国で仕事をしています。
(深田)
山本理顕先生など有名な方はされていますね。山本先生は、今、ベネズエラですよね。
(森山)
山本理顕さん、伊東豊雄さん、安藤忠雄さん、磯崎新さんなど海外でも評価されている建築家は、海外でも仕事をしていますが、現地の建築家が技術的な翻訳作業などをサポートしています。
それから、海外は耐震構造が比較的に緩く、日本が一番厳しいです。
(深田)
日本は地震の国ですからね。
(森山)
耐震を考えると、ヨーロッパでは、柱を少し細くするなど、軽快な建築ができます。したがって、日本の建築家や設計技術者が外国で仕事するときは、技術的には取り組みやすいです。ただ、やはり言葉の問題を解決する必要があります。日本の建築家のデザインは、海外で評価されつつあるけれど、建設業全体は海外進出がうまくいっているとも思えません。
(深田)
そもそも建築業界があまり儲からず、下請けが儲からない夢のない世界になっているのが一番の問題だと思います。
(森山)
その通りです。問題です。
(深田)
森山先生から『大阪万博の被害者の会』の方をご紹介いただいて、お話を伺いました。この人たちは、コロナの時期に全然仕事がなく、結構な赤字で借金を作ってしまい、起死回生を狙い、大阪万博の仕事を受けたが、発注元が外国企業で、お金を払ってもらえないので、息の根止められそうになっています。
大阪の自民党の参院選候補者が「万博の未払い問題はあるかもしれないが、下請法(下請代金支払遅延等防止法)の改正で下請けは守られていて、賃金も上がっているから問題はない」などと言いました。しかし『その賃金を払ってもらえていないから問題なのだ!』と私は思い、そのことを被害者の会の方に申し上げたら、そもそも建設業は下請法の適用外とのことでした。
(森山)
建設業の元請けは、下請け保護のために厳しい支払義務が課せられています。しかし、今回の元請けは外資系で、外資系の企業が論理立てて、難癖をつけて払っていないのですよ。
(深田)
そうですよね。
(森山)
「注文通りできてないので、やり直した分を差引いただけだ」などと嘯いていますが『やり直しの原因をつくったのは注文主だろう。間違った部材を持ってきたではないか』という話ですよ。その辺の説明が全くなされていません。
(深田)
そうですよね。外国人が建築現場で溢れているだけではなく、今度は外国企業が参入して、日本企業に発注するが、お金を払わないなどいろいろな問題が起こっています。今後、これらをどのように解決していくべきでしょうか?
(森山)
国土交通省がきちんと規則運用しないといけないです。言いやすい日本企業ばかりいじめるのではなく、このようなことをマネジメントできる会社や、国際間での契約問題も含めて、間に入ってきちんと調整するような組織などが必要ではないでしょうか。
本来、大手ゼネコンがそのような機能持っているのですが、それを外に出しません。例えば大成建設、清水事建設、竹中工務店、大林組などは、外国とも取引して、外国の仕事も受注しているのですが、これらの会社の法務部や他のセクションが、他の会社のために動くことはありません。
(深田)
10人、20人規模の中小企業でそんな法務部門を持てないでしょう。
(森山)
持てないので、そのようなことを交渉できる組織や仕組みを、日本の建設業界の中に作らないといけないのです。
(深田)
やはり、国土交通省がきちんと取り締まるべきですよね。それから、最近、建築現場で危ない工事が多いですよね。
(森山)
そうですね。東京駅八重洲口のすぐ前の工事現場で鉄骨を落として人が亡くなった事故がありましたよね。現場作業が長い熟練者からすると「何であんな危なっかしいことをやっているんだ!」ということばかりらしいのです。しかし、工期が短く、急いでいたことに加え、経験不足により安全の判断を誤って起きてしまったようです。
(深田)
結局はファスト化しているからですね。
(森山)
そういえば刃傷沙汰という事件も起きていて、これも大手ゼネコンの現場で場所は東京駅の近くで、職人さん同士の喧嘩で片方がノコギリか刃物で相手を切ってしまいました。
(深田)
へえ⁉
(森山)
報道されてないけれど、救急車を呼んでICUに入って大騒ぎになりました。
(深田)
報道されてないのですか?
(森山)
大手ゼネコンは隠しますから(苦笑)。よく、工事現場で「無事故◯日」と貼ってあるでしょう。
(深田)
あれは嘘ですか?
(森山)
嘘です(苦笑)。あれは、建設業者は、事故が起きると保険も含めてマイナスになるので、無事故で頑張るのが建前です。何百日無事故、〇〇建設となっているのは、なるべく「保険を使わないで、お金払うから自費で病院にこっそり行ってくれ」ということです。
(深田)
そういうカラクリですか?
(森山)
工事現場で怪我をすると警察がすぐに来ます。警察はよく知っていますから。救急車を呼ぶと警察も来る。
(深田)
「事件でしょう?事故じゃないのでしょう。事件でしょう?」ということなのですね。
(森山)
だからこそ、現場監督は『怪我のないように、小さな怪我なら、病院に行かずにとにかく上手くやろう、大事(おおごと)ににならないように』しています。
(深田)
工事現場の監督が日本人で、現場で働いているのがいろいろな国の人であれば、指示が行き渡らないですよね。
(森山)
そこにも人材が必要になるわけですよ。現場で働く外国人の教育をどのようにしていくのか。ラジオ体操などやらないでしょう。日本人はやるけど、そのようなところを含めて、工事現場のマネジメントを見直さないといけないです。
(深田)
外国人はラジオ体操を知らないですよね。
(森山)
知らないでしょうね。逆にこれを取りいれて『準備体操は大事だ』と教えないとだめですよ。
(深田)
どうすれば建築の現場に、もっと若い人や日本人が入ってくれるのかを考えようと思うのです。最近よく仕事の相談を受けます。60代以降のシニア層で年金が低いという男性、50代を過ぎて年収が300万円未満の派遣の女性など、このような人たちがもっとよい仕事がないものかと思います。パソコン業務に慣れていない人や単純事務しかしたことがない人が、解体業や保安など有効求人倍率が高い方に行けば、事務職の賃金が下がるのを是正できるのではと思います。
(森山)
各業界はもう少し賃金の体系を見直すべきではないでしょうか。“何万円〜”というのではなく、本当にいくら貰えるのかを知りたいわけでしょう。やはり稼げるようにしてあげないと、人は集まらないですよ。これだけ建設不動産投資があるのに、末端の職人さんにお金がいかないのか真剣に考えないといけないです。
(深田)
私はそれがすごく不思議なのです。
(森山)
それは頭を撥ねているのです。
(深田)
どういうことですか?
(森山)
本来なら大勢の人を雇うのがゼネコンなのです。「みんな、このでかい船に乗れ。美味しいものを食わせてやるぞ」という船長のようなものが、ゼネコンであるはずなのですが、受注すると頭を切って(利益を確保して)、下請けに投げるのが仕事になっています。
(深田)
IT業界もそうです。日本人でコードを書ける人や設計できる人がものすごく減っています。
(森山)
頭を撥ねて次に渡す(利益を確保して下請けにやらせる)人が出世すると偉いと思っているけれど、それは間違いです。何人も食べさせられるかがエリートなのに、社内では、自社の利益だけを取って下請けに投げた者が偉いと思われている。
(深田)
それは維新が大阪万博でやったようなことですね。
(森山)
大手メーカーもみんなそうです。『この人のおかげで1万人が食べていけます』というような人が本来のエリートです。
(深田)
そうですよね。IT業界もファスト化が進んでいます。
(森山)
IT業界も多重下請けがすごいでしょう。
(深田)
多重下請けがすごいです。10年前、話題だったみずほ銀行のシステムなのですが、6000億円かけた銀行のシステムで『みずほのデスマーチ』と言われていました。
1次から2次、3次、末端の7次下請けぐらいまで外注に出して、現場はベトナム人、韓国人、タイ人、中国人、台湾人が様々な言葉で話をして、喧嘩になることがありました。
(森山)
それを放置いるのがおかしい。基幹システムはみずほグループのエンジンでしょう。そこを「どうぞ、どうぞ」と押し付けあう。以前、僕のところにバイトに来た子で、コボル(Common Business Oriented Language)の技術者がいました。みずほの基幹システムの最下層でCOBOLが動いていて、誰かがやらないといけないから、彼はその担当にさせられた。(笑)
(深田)
すごいですね、若いのにコボルができるとは!
(森山)
夜中も呼び出されるという地獄になったので彼は辞めました。
(深田)
IT大工と呼ばれるひとですね。大工もIT大工もすごくかわいそうな時代です。
(森山)
日本の政治家を含めて自称エリートたちは、やはり『そこにきちんとお金が流れる仕組みを考えろ』ということです。
(深田)
『建築業界の外国人問題、やはり日本が悪かった。同情するなら給料くれ』ということですね。
(森山)
そうです。建設業界が良くなれば日本は良くなります。
(深田)
『末端の給料を上げれば日本は良くなる』ということで、今回は建築エコノミストの森山高至先生にお越しいただきました。先生、ありがとうございました。
(森山)
ありがとうございました。