#445 建築界のノーベル賞受賞者が語るコミュニティーと建築のあり方とは? 山本理顕氏

(深田)

山本先生、こちらの横須賀美術館ですが、どのようなコンセプトで作られたものなのですか?

(山本)

まず、この敷地がいいでしょう。

(深田)

素晴らしいです。

(山本)

この前が浦賀水道で、東京湾の向こうが千葉です。浦賀水道は東京湾の中で向こうとこちら側の一番距離が狭くなったところで、昔は敵の軍艦が入ってくるのを上から大砲で撃ったのです。ここは江戸時代から非常に重要な場所だったので、普通の人は入れませんでした。

(深田)

そういう軍事的に重要な場所なのですか?

 

(山本)

その後は海軍の基地になり、現在は米国の第7艦隊の基地になっています。これまで一般の人は入れなかったので、自然の植生が全部残っているのです。

(深田)

この木も全部自然なのですか。すごく素敵ですよね。

(山本)

本当に珍しいのですが、非常に深い自然の森があって、ここを見た時にこれだけでも建築のようだと思いました。これだけ海があって、後ろに自然の山があって、これを活かすように建築が作ればいいと思ったのですね。だから建築が目立つのではなく景観の中に収まるように考えました。

(深田)

溶け込むような形ですか?

(山本)

そうです。一番前にレストランを持ってきて、美術館というよりもこの景色を楽しんでもらうための場所です。

(深田)

この景色だけで十分楽しいです。

(山本)

ここで1日ワイン飲んでいても飽きないですよ。

(深田)

景色がよくて、この気温でも十分涼しいです。風がすごく気持ちいいです。

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(館内)

(山本)

美術館の入口から見ると全部見えます。ここは誰でも無料で入れるところです。

(深田)

ここまでは誰でも入れるところですね。外の空間とプライベートの空間を一体化させ、分断しないということですね。

(山本)

美術館がこの空間を独占してはだめなのですよ。つまりお客様は、美術館に来る人もいるけれど、この景観を楽しみたい人も来ている。美術館は展示品があるので有料なのですが、同時にこれは公共建築なので、多くの人たちがこの建築を(無料で)楽しむことができるように、公共側は考える必要があると思います。

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(丸窓)

 

(山本)

ここは外を見ると向こう側の景色見えます。ガラスが外側にあるでしょう。丸いところにはガラスも何も入ってないのです。

(深田)

空もちらっと見えます。海も見えます。入口もレストランも見えます。

(山本)

ここは面白いでしょう。写真を撮るのに絶好な場所です。

(深田)

確かに写真スポットですね。

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(屋上テラス)

(山本)

ここは最上階で、公園に出ます。ここが一番景色のいいところです。

(深田)

本当ですね。風も気持ちがいいです。

(山本)

そうです。休館日ですが、皆さん来ています。ここはもう自由に入ってこられる。

(深田)

すごく素敵です。

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(特別展示室)

(山本)

ここは地下で、ぐるっとお堀みたいに一周できます。

(深田)

これがぐるっと一周できるのですか。

(山本)

はい。天井高が12mぐらいで幅は4mぐらいです。ここは特別な展示室で、常設展示のために作った場所です。

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(山川山荘)

(山本)

こちらの山荘は外面にガラスも何も入っていません。

(深田)

ここの空間がベランダですね。

(山本)

標高1700mなので、冬は寒くて使えません。注文主が「夏だけ使い、大きいテラスを作って欲しい」という希望で、こういう形になっています。

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(熊本の団地)

 

(山本)

こちらは熊本の団地です。5階建てで、一番上は1世帯が住んでいます。

(深田)

この一棟が1世帯ですか?

(山本)

5階建てで、下の方はワンフロアに2世帯入っています。上の方は1世帯入っていて、フロアによって違います。面白いことに、中庭に入る入口がないのです。つまり、この住宅に住んでいる人しか中庭に入れないようになっています。それで、全体のプライバシーが守れるのです。

(深田)

分断される建築ではなくて、コミュニティーが一つになるような形ですか?

(山本)

その人たちがお互いに同じ自治を行うためには、こういうやり方はかなり有効だと思います。

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(横浜のターミナル)

(山本)

こちらは横浜のターミナルで、次等賞で負けました。

(深田)

どこからどこまでが公で、共有空間として存在して良くて、どこからがプライベートなのかという意識がはっきりしていないといけないということなのですね。

(山本)

そういうことです。

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(建物)

 

(山本)

こちらの建物は窓際に全部トイレとかお風呂が並んでいます。

(深田)

私はこれが一番嫌です。窓側は自分のプライベートなところが外から丸見えで、緊張します。

(山本)

ここはブラインドがあるから大丈夫です。

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(ドラゴン・リリー氏作)

(深田)

こちらはドラゴン・リリーさんという方の作品ですか?

(山本)

そういう名刺を持ってこられました。

(深田)

この真ん中がリビングルームで、左上はキッチンですね。

(山本)

これはおばあちゃんが来た時に使う部屋です。こういう風にするとすごく解放的になります。

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(横須賀美術館ジオラマ)

(山本)

横須賀美術館で大事なのは建物もそうですけど、この広場(右下)は誰でも自由に入れるのです。

(深田)

そうですね。この広場は自由ですものね。

(山本)

桜の季節には人がたくさんきます。

(深田)

桜も咲くのですか?

(山本)

はい。元々は桜の名所だったところなのです。ここから上に行くのが、先ほどお話したように自由に通れます。

(深田)

中を通って自由に無料で通れるのですね。

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(韓国の集合住宅)

 

(山本)

これは韓国に作った集合住宅です。真ん中に、住人がお店を開くことができます。

(深田)

住民がお店をできるのですか?

(山本)

そのような提案をして当選しました。現実に建っています。

(深田)

どこでお店ができるのですか?

(山本)

全部お店です。

(深田)

全部お店なのですか?

(山本)

お店にすることができるように考えました。

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(チューリッヒ国際空港)

(山本)

これはチューリッヒ国際空港のコンペの作品です。ブランドショップやレストラン、チューリッヒの病院が入っています。それから1500人を集客できるようなコンベンションセンターや文化センターもあります。チューリッヒ空港は、国際的な小さな都市みたいなものを作ろうとしたのです。

(深田)

ということは、滞在型の空港ということなのですね?

(山本)

滞在型にもなるように考えられています。

(深田)

滞在もできるし、世界中の人たちが来てここでカンファレンスを開ける。通常、カンファレンスといえば、空港から1、2時間離れたところで開催するのですが、もっと時短ができて、一斉に集まってすぐに解散できるということですか? 

(山本)

そういうことを考えているので、カンファレンスもたくさん開かれるようになりました。

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(ベネズエラ・カラカスのスラム)

(山本)

ところで、ワールド・バリオ・シンポシオン(WORLD BARRIO SYMPOSION)という世界会議があります。ベネズエラの首都でカラカスのスラムなのですが、これは住民たちが公共の場所を勝手に作り始めたのです。

(深田)

この少し山の向こうは、すぐ都市ですよね?

(山本)

あちら(左上)は都市部で、マンションに住む人たちはみんな自分でお金を払って、建物に住んで住民登録をしている人たちです。

(深田)

向こう(都市部)の土地を買えない人がこちらの山間(やまあい)に、勝手に作ってしまったのですね。不動産の所有権という概念はないのですか?

(山本)

なかったのですが、チャベス大統領が革命を起こして、その土地を彼らに渡したのです。彼らが住民権や市民権を取れるようになったのですよ。自分たちで自主管理をするようになっていて、うまく進めようとしているのだが、実際は、この状態で環境が非常に悪いです。インフラもうまく通っていません。

それで私が頼まれたのは「環境整備や交通網の整備など、全部整理してこの街を作り替えてもらえないだろうか」と頼まれたのです。

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(WORLD BARRIO SYMPOSION)

(深田)

これは2025年11月24日から26日に、ベネズエラのカラカスで開催されるのですね。

(山本)

はい。これは自由参加です。また告知します。

(深田)

自由参加ですね。

(山本)

もし参加したい人がいれば、ベネズエラ政府の方から招待状を出していただけます。

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(深田)

「山本理顕展コミュニティーと建築」は2025年7月19日から11月3日まで、横須賀美術館で開催されていますので是非ともお越しください。

(山本)

それから、もうすぐ自著『山本理顕 コミュニティーと建築』(平凡社)が出版されます。今までの全ての作品が掲載されています。写真も素晴らしい写真家に撮っていただきました。

(深田)

本当に写真も素敵です。

(山本)

読んでいただけると山本理顕の思想が分かります。

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