脱炭素はオワコン! 世界の潮流に逆行する日本のグリーン利権のどす黒い内実 杉山大志氏 #422

【目次】
00:00 1.オープニング
01:45 2.世界は脱脱炭素の潮流の中、日本は推進中
08:55 3.イギリス保守党「炭素排出0は幻想だ」
12:03 4.ドイツのやり過ぎた脱炭素の反動
13:50 5.日本が良識に目覚めるのはいつか
(深田)
みなさん、こんにちは。政経プラットフォームプロデューサーの深田萌絵です。今回はキャノングローバル戦略研究所研究主幹の杉山大志先生にお越しいただきました。先生、本日はありがとうございます。
(杉山)
よろしくお願いいたします。
(深田)
先生の肩書はすべて言えましたが、少し変更しませんか。社名を変えるか、研究主幹の部分を変えるかなど…。
(杉山)
だいぶ慣れましたから、これでよいのではないでしょうか。
(深田)
本当にキャスター泣かせの名称ですね。
(杉山)
私は慣れましたので、皆さんにも慣れていただきましょう。
(深田)
先日ABEMAにご出演されていましたが、その際はいかがでしたか。肩書は正確に読み上げてもらえましたか。
(杉山)
分かりません。覚えていません。
(深田)
覚えていらっしゃらないのですか。あの時はちょうど選挙の前後だったと記憶していますが、議論で戦っておられましたね。
(杉山)
そのようなコンセプトの番組だったようです。
(深田)
脱炭素推進派と激しく議論を交わしていましたね。
(杉山)
私としては対立というより、ただ当たり前のことを述べただけです。
(深田)
結局のところ、先生は普通のことをおっしゃっていただけでしたが、相当手厳しくやり込めていたように見えました。
(杉山)
普通のことを述べるだけで、結果として相手にはかなり手厳しい内容になるのです。
(深田)
やはり事実に勝るものはありません。そこで今回は、「与党で脱炭素を推進しているのは日本だけ」という趣旨でお話を伺います。
(杉山)
その趣旨ではありません。正確には、国全体がオール与党体制で脱炭素を推進しているのが日本だけ、という意味です。すなわち、与野党を問わず、立憲民主党や国民民主党を含む主要政党のすべてが、脱炭素に関しては賛成という、異例の構図になっていたということです。
(深田)
強固な利権が背景にあるからですね。
(杉山)
その通りです。ただし、海外では状況がまったく異なります。本日のタイトル「オール与党で脱炭素は日本だけ」は、まさにその趣旨を示しています。
(深田)
具体的には、どのような状況を指しているのでしょうか。
(杉山)
米国ではトランプ大統領の下、共和党はすでに「脱炭素は論外だ」という立場を明確にしています。昨日、米国のエネルギー長官が報告書を公表しましたが、科学者が取りまとめたその報告書は、率直に言えば従来の気候危機説を全面的に否定するような内容でした。
(深田)
昨日、7月31日のことですか?(2025年7月23日に発表)
(杉山)
おそらく2、3日前かもしれません。その件については資料の準備がまだ間に合っていないため、今日は詳しくは触れません。ただ、アメリカだけでなく実はヨーロッパでも、主要政党の多くが「脱炭素はおかしいのではないか」と公然と主張する状況になっています。
(深田)
ついに、それが単なる利権であったという認識でしょうか。
(杉山)
概ねそのとおりです。この点について少し触れたいのですが、近年のヨーロッパでは次のような光景が頻繁に見られます。
(深田)
これは何の光景ですか。
(杉山)
何かというと、ワインの畑で使われるトラクターです。これが高速道路を走って首都まで向かい、デモを行います。
(深田)
いわゆるトラクターによるデモのことですか。
(杉山)
そのとおりです。トラクターで官庁舎に堆肥を撒きつけるといった抗議行動も見られます。
(深田)
堆肥とは、いわゆる「排泄物」のことですか。
(杉山)
文字通りその「排泄物」を撒きつける参加者もいるのですが、それはさすがにいかがなものかと考えます。一方で、農民による抗議デモは非常に多く、彼らが怒っているのは、生活が厳しいうえに、ヨーロッパで農業に対する環境規制がきわめて厳しくなっているからです。
(深田)
日本でも、「田んぼはメタンガスを排出するからやめるべきだ」といった、理解しがたい主張をする人がいます。
(杉山)
しかし、そのような主張は日本では多くありません。水田を否定的に語るのは相当に勇気が要るため、これまで環境省も農林水産省も、農業由来の温室効果ガスについてはほとんど言及も対策もしてこなかったのが実情です。ただし、現実には、温暖化に寄与する温室効果ガスの約3分の1は農業や食品関連に由来します。肥料や農薬の製造には石油やガスが多く用いられ、トラクターの燃料消費もあります。さらに、食品の冷蔵・冷凍などコールドチェーン全体でもエネルギーが継続的に使用されています。私たちがこの猛暑の中でも毎日おいしいものを口にできるのは、こうしたエネルギーをふんだんに投入しているからです。それにもかかわらず、ヨーロッパでは、机上の理屈に偏った人たちがブリュッセルに多数いて、「温室効果ガスを排出しているのはけしからん」として、農家に対し「牛を飼うな」といった過度な要求を突きつけることがあるのです。
(深田)
非常に厳しいですね。
(杉山)
それで農家が怒り、ブリュッセルなどに出向いてトラクターでデモ行進を行うことがあります。欧州では環境規制が農業も敵に回すかたちになっており、政治的にも真っ向からぶつかり合う状況が各地で生じています。
(深田)
なるほど。
(杉山)
ここで少しクイズのようになりますが、この人物は誰でしょう。
(深田)
これは何でしょうか。
(杉山)
上段の3人が与党側で、「脱炭素はおかしい」「再生可能エネルギーはおかしい」と主張している人たちです。いちばん左がアメリカのトランプ大統領、上段中央のこの可愛らしい方がイタリアのメローニ首相で、いずれも与党です。ただし、脱炭素はEUレベルで推進が決まっているため大枠には逆らえませんが、規制や新税の導入となる局面では反対に回ることがあります。
(深田)
このオレンジの人は参政党の……いえ、違いますね。
(杉山)
この人物はハンガリーのオルバン首相です。EUの中で独自の立場を取り続け、非常に人気のある与党の党首でもあります。この方も、折に触れて「脱炭素」などの方針に対して「おかしいのではないか」と反論します。いわゆるヨーロッパでは「極右」と呼ばれることもあります。
とはいえ、近年はさすがにメローニ氏を「極右」と呼ぶ声はほとんど聞かれなくなりましたよね。
(深田)
そうですか。
(杉山)
要するに、リベラルや左派の人々は「極右」というレッテルを貼る傾向がある、ということです。
(深田)
私も「極右」だとか「極左」だとか言われますよ。
(杉山)
どちらの呼称でも呼ばれるのですね。
(深田)
どちらでも呼ばれます。
(杉山)
イタリアとハンガリーでも、与党が「脱炭素はおかしい」と主張しています。しかも、それだけではありません。最大野党の側にも同様の主張が見られます。左下は、比較的最近に英国保守党の党首となったケミ・ベイデノック氏で、彼女も「脱炭素はおかしい」と述べています。
興味深いのは、英国保守党がそうした立場を取っている点です。英国では労働党と保守党が政権交代を続け、現在は労働党政権です。つまり、次の首相になり得る立場の人々が「脱炭素はおかしい」と明確に発言しているのです。詳細は後ほど正確に触れますが、その表明はかなりはっきりしています。
(深田)
中央の人物はどなたですか。
(杉山)
中央は、ドイツのAfD(ドイツのための選択肢)の共同党首で、2人のうち女性のアリス・バイデル氏です。彼女のほうが圧倒的に知名度が高く、その要因としては容姿の影響も指摘されますが、いずれにせよ「脱炭素はおかしい」と明確に主張しています。
彼女は選挙の主要争点として脱炭素をはっきり掲げています。右下はフランスのルペン氏で、現在は代替わりしていますが、国民連合の党首を務めた人物です。同党も「脱炭素化はおかしい」としています。
このように見渡すと、アメリカ、イタリア、イギリス、ドイツ、フランスのいずれにおいても、与党または最大野党が「脱炭素はおかしい」「再生可能エネルギーはおかしい」と主張しているのが現状です。
(深田)
確かに、これまで十分に無駄を重ねてきました。太陽光パネルの拡大が止まらないのは、日本だけです。
(杉山)
日本の話に進む前に一点だけ触れておきます。英国保守党の党首が述べた言葉は、簡潔で非常に分かりやすいものです。
まず「net zero by 2050」は、2050年にCO2排出を実質ゼロにするという意味です。そのうえで「is fantasy politics(幻想に基づく政治)」「built on nothing(何の根拠もない)」と続き、さらに「promising the earth」というのは、私はこの言い回しを最近知ったのですが、「到底できないことを約束する」という意味らしいです。
(深田)
なるほど。良い表現ですね。メモして覚えておきます。
(杉山)
そして「and costing(しかも多額の費用がかかる)」とも述べています。
要するに、こうした方針は根拠に乏しく、実現困難で、費用だけが嵩むと、明確かつ痛烈に批判しているわけです。
(深田)
費用ばかりかかり、根拠もなく、実現性も低いということですね。
(杉山)
まさに、幻想であり、根拠がなく、実現しがたいという指摘です。
(深田)
その通りだと思います。小泉農相にもぜひお伝えください。
(杉山)
加えて、費用面の重さも強調しています。こうした主張を英国保守党の党首がはっきり示しているのです。
次に、ドイツのAfD(ドイツのための選択肢)についてですが、かつては極右と呼ばれていたものの、直近の選挙では大きな影響力を持ち、旧東ドイツ地域では第一党となっています。また、イーロン・マスク氏がトランプ政権と関係が良好だった時期で、大統領選挙前だったと記憶していますが、彼と対話を行った際、共同党首の一人であるアリス・バイデル氏は、「わが党には現在二つの大きな政治的争点がある。ひとつは移民、もうひとつはグリーン(環境・脱炭素)」だと明言しました。
(深田)
日本でも、状況は近いものがあると思います。
(杉山)
「恥ずかしい風車はすべて撤去すべきだ」といった強い表現が用いられるほど、グリーン政策は大きな争点となっており、しかも最大野党が明確に反対を表明しています。
(深田)
日本でも、先の参院選では移民問題だけが争点になりましたよね。
(杉山)
移民は争点になりましたが、エネルギーは誰も争点化しませんでした。
(深田)
各党がエネルギーには触れないよう配慮していた印象です。
(杉山)
ただ、日本でも状況は少し変わりつつあるのではないでしょうか。直近の参院選前に、ヨーロッパ・アメリカ・日本で「ネットゼロ、脱炭素」に反対する層の規模を、議席シェアや支持率のシェアで比較しました。多い順に並べると、まずイタリアなど欧州主要国が上位に位置し、4番目にアメリカ、続いてイギリスやポーランド、さらにフランスやドイツが続く、という結果でした。つまり、「脱炭素はおかしい」「電気代の高騰は困る」と考える人々が、各国で相当な割合を占めているのです。
(深田)
その電気料金の高騰は、脱炭素政策以上に、ロシアからのガス供給を止めたことが原因ではないでしょうか。
(杉山)
それも要因の一つです。
(深田)
いわゆるセルフ制裁ですね。
(杉山)
セルフ制裁の影響もあります。ただし、石炭を適切に活用していれば、状況は大きく異なったはずです。
(深田)
その通りですね。
(杉山)
ドイツでは石炭火力発電所の閉鎖を過度に進め、閉鎖にとどまらず冷却塔を爆破解体するイベントまで実施して二度と使えない状態にしました。実施のたびに近隣から人を集めて動画を撮影し、歓声や拍手のなかで公開され、調べるとYouTubeにも多数の映像が上がっています。
(深田)
その結果、石炭火力が再稼働不能となり、天然ガスの供給も途絶えて電気料金が高騰した、ということですね。
(杉山)
ロシア産天然ガスの代替として風力発電を増設するとしましたが、それだけで需要を賄えるはずがありません。石炭を止めればその分はロシアのガスに依存するしかなく、深い依存関係のためにプーチン大統領から侮られ、「経済制裁は大したことはない」と見積もられました。こうして戦争が始まり、さらに欧州側がセルフ制裁として「ガスは買わない」と宣言した結果、電気料金は急騰しました。
(深田)
電気料金の高騰によって、産業の空洞化も進んでいます。
(杉山)
まさにヨーロッパで起きているのはそれです。そのため、「この状況はまずい」「高熱費の高騰は何とかしてほしい」と怒る有権者が多く、議席や支持率にも表れ、国会でも相応の議論が行われます。一方、日本では、前回の参議院選挙前の段階でCO2ゼロに明確に反対していたのは参政党と日本保守党のみでした。議席は当時少数でしたが、現在は支持率が大きく伸びています。
(深田)
ようやく、少しずつ議論の俎上に上がるようになってきました。
(杉山)
ただ、この点に関する図表はすでに古く、状況は徐々に変化しつつあります。
(深田)
確かに、変わりつつありますね。
(杉山)
このまま次の衆議院選挙などが実施されれば、情勢はさらに大きく変化する可能性があります。
(深田)
そうですね。これまでの与野党では、多くの国会議員の実家の事業が太陽光パネルの設置に関わっているように見受けられます。
(杉山)
そのような例はありましたね。
(深田)
多くの関係者が太陽光パネル利権に関与しているのです。
(杉山)
その方面に関わる人々もいますが、冷静に考えれば、セメント会社の御曹司が自民党の有力者であるといった構図も存在します。
(深田)
確かに、その通りですね。
(杉山)
ですから、冷静に考えれば「このような脱炭素政策はおかしい」と考える人が多数派であるはずです。どちらかといえば、国全体で多大なコストがかかる政策だからです。
(深田)
太陽光パネル利権というスキームを作ったシンクタンクに所属していた人が、2009年ごろに「賦課金で太陽光パネルを広げましょう」と言い出しました。結果として、そのシンクタンク、いわば太陽光パネル利権の中核となった組織が、落選議員の受け皿となるなど、資金の流れが生まれました。
(杉山)
そのような経緯によって強固な利権が形成されました。しかし、利権は所詮、関係者自身の利益にとどまります。社会全体のより広範な利益を考えれば、別の選択肢があるはずです。実際に私が話をすると、自民党の議員だけでなく、野党の参政党や日本保守党以外の議員の中にも、「脱炭素には疑問がある」と考える方は少なくありません。
ただし、これを公然と口にするのは、これまで言いにくい雰囲気があったのでしょう。
(深田)
批判されるからですね。
(杉山)
各党には党議拘束があり、「わが党はグリーンを掲げる」と表明すると、党内で異論を述べにくい空気が生まれます。こうした中で参政党や日本保守党が躍進してきたのは、もはや自民党が十分に保守的とは言い難く、国民民主党もやや疑問があると受け止められていること、そして与野党を問わず多くの政党がリベラル・左派的な価値観に染まり、その文脈の一部としてグリーン政策を位置づけてきたことの反動だと考えます。しかし、その構図は変化の兆しを見せています。参政党の伸長により、自民党内では次期選挙に向けた警戒感が広がっています。
(深田)
参政党は参院選で自民党右派の票を取り込みました。次の衆院選では、旧安倍派を中心とする支持が大きく流れる可能性があると思います。
(杉山)
この点は、自民党のみならず、国民民主や日本維新の会も再考すべきです。無条件に「再生可能エネルギー利権万歳」「グリーン万歳」と唱えることは、結局のところ国民の光熱費を押し上げ、企業の存続を危うくしかねません。そもそも、与野党が一体となってグリーン政策を推進する、いわば「オール与党によるグリーン大政翼賛体制」が続いているのは、今や日本だけなのです。
(深田)
そうですね。とはいえ、このまま石破氏で突き進むと、自民党内の右派が反発して離党し、参政党と合流する、そのような見方もあります。
(杉山)
その流れが大きなうねりとなり、ネットゼロや脱炭素についても、まともな議論ができるようになることを期待します。
(深田)
まず、議論すら成り立たないという現在の政治状況がおかしいのです。
(杉山)
おかしいですね。
(深田)
党議拘束で縛られ、各議員が妥当な意見を言えなくなる。結果として、最終的には皆が同じことしか言わなくなる。この状況を打破しない限り、前進は難しいのではないでしょうか。
ということで、今回はキャノングローバル戦略研究所研究主幹の杉山大志先生に、「ネットゼロをオール与党で推進しているのは日本だけだ」というお話を伺いました。どうもありがとうございました。