#398 元裁判長が語る「日本の原発は耐震設計なされてない」衝撃の真相とは!? 樋口英明氏
(深田)
皆さん、こんにちは。政経プラットフォーム、プロデューサーの深田萌絵です。今回は、元裁判長の樋口英明先生にお越しいただきました。樋口先生、よろしくお願いします。
私は樋口先生の裁判所に関するお話を伺って「本当にこの国はどうしようもない国だ」ということがますます明らかになってきて、正直、怖い気持ちになっています。
今、多くの人が国の原発推進政策にだんだん賛成するようになってきています。言論界でも「もっと原発を推進しろ」といった案件が出回ってきているような印象を受けています。
なぜ樋口先生が裁判長として原発の差し止めという判決を出したのか、その背景についてお話しいただければと思います。
(樋口)
分かりました。
脱原発派が一時は国民の9割近くいたのではないかと思います。けれど、今ではその割合も半分を切っているのではないかとも言われています。
なぜそうなるのか、理由は分かる気がします。最大の理由は「嫌なことは考えたくない」ということです。「3.11の福島原発の事故は過去の問題であって、もう二度と起こらないだろう」と思いたいのです。それは人間として当然のことだと思います。
(深田)
裁判長は元々「原発は安全なものだ」と思っていたのですよね?
(樋口)
恥ずかしながら以前は今の国民と同じように思っていました。嫌なことは考えたくないし「多分大丈夫だろう」と思っていました。
(深田)
裁判長として裁判を担当する中で、原告側から提出される資料を見ることになります。それが裁判長としての考えを変えるきっかけになったのですか?
(樋口)
原告と被告、それぞれの主張を裁判では比較するわけですが、ある意味で詳細は必要ないことが多いです。本質的なことだけ申し上げます。
原告の主張は「大飯(おおい)原発の敷地に強い地震が来ると、原発は耐えることができません。そして事故になります。だから原発の運転を止めて、我々の命と生活を守って下さい」というものでした。
それに対して、被告である関西電力の主張は「大飯原発の敷地に限っては、将来にわたり強い地震は来ませんから安心してください」というものでした。
(深田)
それは根拠がないように感じます。何を根拠にそう言っているのでしょうか?
(樋口)
地震学者を連れてきて、地震に関するたくさんの論文などを出してきます。
(深田)
でも、それで万が一にも地震が起きて事故になったら「想定外でした」と言って済ませてしまうのでしょうね。
(樋口)
そういうことです。
(深田)
本当に酷い国ですよね。
(樋口)
現に福島原発事故では、耐震設計基準を意味する「基準地震動」を超える地震が来ました。日本国内では、これまで少なくとも6回、「基準地震動」を超える地震が発生しています。ですが、多くの人はその事実を知りません。耐震設計を超えているのですよ。
(深田)
耐震設計では何度までの地震に耐えられるのですか?
(樋口)
敷地ごとに異なります。「ガル」という単位で表すのですが、数字が大きいほど強い地震になります。

(※政経プラットフォーム#398 樋口英明氏の解説より転載)
統計では4022ガルが過去最も強い地震です。有名な熊本の地震は1740ガル、北海道の地震は1796ガルです。およそのイメージですが、1500~1600ガルを超えると震度7が多くなります。
別に宣伝をしているわけではありませんが、三井ホームは5115ガルに耐えられる家を建てているわけです。そして、私が判決を出した大飯原発の耐震設計基準は700ガルだったのです。
(深田)
全然ダメですね!
(樋口)
「700ガル以上の地震は来ませんから安心して下さい」というわけです。
(深田)
ここに31回と記されていますね。
(樋口)
そうです。例えば、昨年1月1日に起きた能登半島地震は2828ガルでした。実はここは志賀原発が当初設置される予定の場所でした。ところが住民の反対運動があったので、南に10kmズレたのです。
志賀原発は震源から70kmくらい離れていて、震度は5弱でした。震度7が最も強い揺れを表すので、これは大した地震ではありませんでした。それでも設計基準を超えていたのです。ですから酷い状況なのです。
(深田)
そうすると、原発の設計は次からは三井ホームにやってもらわないといけないですね。
(樋口)
三井ホームでも無理です。その理由は原発の構造にあります。

(※政経プラットフォーム#398 樋口英明氏の解説より転載)
原子炉は火力発電所と基本的な仕組みはほぼ同じです。ウラン燃料を水に浸けておくと、核分裂の熱エネルギーが蒸気を発生させて、タービンを回して発電します。それを海水で冷却して水に戻すという循環をさせています。
火力発電では石油を燃やして蒸気を発生させているので仕組みは一緒です。ただし、違いは2点あります。
1点目は毒性が強いことです。ウラン燃料は人が近づくだけで死んでしまいます。そんな毒物は世の中にほぼありません。
2点目は沸騰が止まらないことです。火力発電所は火を止めれば沸騰は止まります。ですが、原子炉は運転を止めても沸騰が終わらないのです。
(深田)
止める方法はないのですか?
(樋口)
止める方法はありません。そうなると「空焚き」になってしまいます。電気を使って水を原子炉に送り続けなければ必ず過酷事故になります。
(深田)
つまり、予備の発電機が止まったら終わりということですか?
(樋口)
その通りです。停電してもメルトダウン、断水してもメルトダウン、これが原則です。
原子炉の耐震性について皆さん議論をしています。しかし、私は原子炉がひっくり返ることをイメージしているのではありません。停電や断水を心配しているのです。
(深田)
充分にあり得ますよね。
(樋口)
はい。三井ホームは家を丈夫に作れますが、停電や断水は防げないですよね。
(深田)
しかも関西電力は「大飯原発は安全です」と言っているわけですね?本当に安全であれば、大阪駅の上にでも設置すればいいと思います。
(樋口)
その方が効率的だと思います。
(深田)
そうではなく、わざわざ田舎に置いているということは「安全ではない」と分かっているからではないでしょうか?
(樋口)
こういう議論をすると、電力会社はおそらく「ほとんどゼロパーセントに近いがゼロではないから、事故が起きた時の被害が小さいようにしています」と言うと思います。
「ゼロリスク論」というのがあります。「ゼロリスクを求めるかどうか」というものです。ですが、原発に関しては「ゼロリスク」を論じるような低いレベルの危険性ではないのです。それなのに、三井ホームの1/5か1/6の耐震設計なのです。
(深田)
民間の住宅よりも低いのですね。
(樋口)
志賀原発での震度は5弱でしたから、周りにある従業員宿舎は大丈夫なはずです。
(深田)
(苦笑)。なぜ原発そのものの耐震設計を高めないのでしょうか?
(樋口)
耐震設計を高めるのはものすごく難しいと思います。本当に的外れな耐震性で作ってしまいました。私が担当した大飯原発は405ガルで設計しています。
(深田)
えっ!それは震度4相当くらいですよね?
(樋口)
そうです。それが、私の判決当時だと700ガル、現在は856ガルあります。だから老朽化するに従って耐久性が上がっているのです。不思議ですよね。
(深田)
意味が分かりません!数字を改ざんしてないですか?
(樋口)
私は改ざんだと思っています。
(深田)
老朽化するほど耐震度が増すなんて、そんな設計ないですよ!
(樋口)
あり得ないはずですが、平気でそういうことをやっているのです。
「私(樋口)が原発を止めた唯一の裁判官だ」とイメージで思っている人が多いのですが、実は8人くらいの裁判長が止めています。ですが、それをはるかに上回る裁判官が「動かしても良い」と言っています。8対40とか8対50とか、そんな割合です。
それを見た国民はおそらくこう思うでしょう。「多くの裁判長は『動かしても良い』と言っている。だから日本の原発は安全に違いない」と。
(深田)
私は、日本の政治家を見ていると「信用してはいけない国家だ」と思った方がいいと感じます。
(樋口)
始めにも言いましたが、日本の国民は嫌なことを考えたくないし、「政府が『安心だ』『安全だ』と言っている以上は、ある程度安全なのだろう」「原発は必要なのだろう」と思っています。
そう思いたい心理は理解できます。ですが、そう思いたい国民であればこそ、政治家や官僚や裁判官は嫌なことを考えなくてはいけないと思います。その役割を担っているのです。
(深田)
そうですね。でも政府に迎合する裁判官も出てきました。
(樋口)
原発問題は、日本で最大の問題だと思います。今、国民の関心は「物価高」と「消費税」をどうするかです。ですが、仮にこの政策を間違ったとしても、多くの人が貧乏になって苦しむことはあるかも知れませんが、国が滅びることはありません。
短期間に国を滅ぼし得るのは「戦争」と「原発事故」のふたつだけです。政策を決定し、実行し、判断する立場の人々の無責任さが、日本をこのような危うい状態にしてしまったと私は感じています。
(深田)
敵国が原発テロを仕掛けたら、戦わずして相手は勝てますよね。
(樋口)
そうです。
自民党は保守であり「防衛が大事だ」と言っています。しかし、彼らはリアルな戦争の恐ろしさを想像できないのではないかと思います。日本の最大の弱点は、海岸沿いに54基も原発を並べてしまったことです。その時点で「日本の防衛能力はほとんどなくなった」と思わないといけません。
(深田)
確かにそうですね。そこを攻められたら終わりですね。
(樋口)
テロに対しても弱いし、大砲、ミサイル、空爆、ドローン、何に対しても弱いです。原発を維持したまま「防衛力増強」と言うことは、私にはほとんど理解不能です。
(深田)
例えば、ドローンで水を送るための送電網や発電機を攻撃すると、それだけで何時間後かには「空焚き」になって危険な状態になるのですよね。だから、大きな攻撃は必要ないのですね。
(樋口)
あまり知られていませんが、原子炉の格納容器は厚い鉄製でそれなりに丈夫に作られています。ところが、隣に置いてある使用済み核燃料は裸のままです。普通に水に浸けて置いてあります。
(深田)
ということは、それが爆発したら…
(樋口)
使用済み核燃料だけが攻撃されても大被害が出ます。
(深田)
怖いですね!
(樋口)
怖いです。ですが、誰も真剣に考えようとしないですよね。
トランプ大統領は「ディープステートがある」と言っています。私は国家意思の形成に関わってきました。その立場から申し上げますと、日本にはそういうものはありません。では、なぜこんな状態になってしまったでしょうか?
「政策を決定する政治家」「それを実行する官僚」「それらを判断する裁判官」の徹底した無責任ぶりが、日本をこういう状態にしまったのだと思います。
(深田)
同感です。そもそも、日本のエネルギー政策がほぼ派閥争いで決まっている様子が見られます。安倍派のバックにいる電力会社による「原発推進」と、神奈川県連と小泉一派による「太陽光パネル利権」です。
火力発電なら5年で稼働できます。ですが、原発は稼働させるまでに15年かかります。火力発電の方がクリーンで、すぐに発電もできるし停止もできます。それにも関わらず「火力発電はいけない」という謎ルールがあります。
「原発推進」と「太陽光パネル推進」の2択になっていることが本当に情けないと思います。
(樋口)
私は「原発問題はエネルギー問題でもあり、環境問題でもある。けれど一番大きな軸足を置いているのは国防問題である」と考えています。「国を守るかどうか」の問題です。
国とは3つの要素から成り立っていると言われます。3つの要素とは、まず「国土」と「国民」です。3つ目は人によって違いますが「文化」や「歴史」です。
原発事故が起これば「国土」も「国民」も「文化」も「歴史」も全てを終わらせてしまいます。つまり「原発問題」は国の存立の問題であって、単なるエネルギー問題ではありません。あえて言えば、国を守るかどうかに関わる「防衛問題」なのです。
(深田)
確かに「国防問題」ですね。あんなに無防備な原発を狙われたらひとたまりも無いですからね。
今回は、原発を止めた元裁判長、樋口英明先生にお話をうかがいました。どうもありがとうございました。