#338 石破降ろし狙う保守派のジレンマ 石破政権を支える5つの理由とは? 宇山卓栄氏×深⽥萌絵

(深田)

皆さん、こんにちは。政経プラットフォームプロデューサーの深田萌絵です。

今回は、著作家の宇山卓栄先生にお越しいただきました。宇山先生、どうぞよろしくお願いいたします。

(宇山)

よろしくお願いいたします。

(深田)

これまでの対談では、主に諸外国における問題についてお話を伺ってきましたが、そろそろ日本の国内事情にも目を向けていきたいと思います。

たとえば、「石破総理はこのまま続くのか」という点は、大きな見どころの一つではないでしょうか。

私自身、自民党の歴史には非常に興味を持っており、とても面白いと感じています。昨年の総裁選挙では、まさに“嫌われ者同士の戦い”だったと言えるかもしれません。

(宇山)

確かに、そうでしたね。

(深田)

両者ともに支持基盤を持ちながらも、相手側からは強く反発されているという構図の中での争いでした。私は、まさか石破さんが本当に首相になるとは思っていませんでした。しかし、結果として彼は就任し、そのまま現在に至るまで続投しています。とはいえ、今後どこまで続くのかは未知数です。

(宇山)

そうですね。そろそろ終わるのではないかと予想していたのですが、意外にも政権は盤石な状態が続いています。

(深田)

本当に安定していますよね。どれだけ批判されても、その批判が彼に対して致命的な影響を与えることがないのです。ある種の強さを感じます。「糠に釘」「暖簾に腕押し」といった例えがぴったりくるような人物だと思います。

(宇山)

私も同様に感じています。これほどまでに成果が乏しい中で、たとえば「商品券10万円問題」や「おにぎり食べ散らかし事件」などがありながらも、政権支持率が大きく下落することはありませんでした。石破政権の支持率は依然として30%を超えています。(2025年5月2日時点/NHK世論調査)

(深田)

まだ30%もあるのですね。

(宇山)

さらに、世論調査において「石破総理は辞任すべきだと思いますか?」という問いに対し、「思わない」と回答した人が6〜7割に達しているのです。つまり、「特に好感は持っていないが、辞めるほどではない」という有権者の感覚が根強く存在しているということです。

(深田)

確かに、石破さんの印象は薄いですよね。政治にあまり関心のない人々からすると、強烈な発言をするわけでもなく、全体的にのらりくらりとした印象があるのではないでしょうか。

(宇山)

おっしゃるとおりです。

(深田)

だからこそ、「特に支持しているわけではないけれど、では代わりに誰がいるのか」となると、明確な選択肢が見当たらない。そうした消極的な理由で現状維持を選ぶ人が多いように思います。

(宇山)

まさにその通りで、積極的な支持とは言えないまでも、結果的に続投が支持されている形です。

仮に「石破降ろし」の動きが出たとしても、その次に誰を担ぐのかという課題がすぐに浮上してきます。本来であれば、こうした局面では派閥の求心力が働き、後継候補を推す動きが強まるはずなのですが、今の自民党には、かつてのような派閥の影響力はほとんど見られません。また、代わりに前面に出られるような有力な人材も見当たりません。

しかも、現在の政権は少数与党にとどまっている状況です。この状態で石破総理を退陣させ、新たな総裁を選出したとしても、その人物が国会の内閣総理大臣指名選挙において、必ずしも過半数を得られるとは限りません。

与党が多数派を確保できていない現状では、野党が統一候補を擁立することで、自民党が野党に転落する可能性すらあるのです。

(深田)

石破さんを無理に引きずり下ろそうとすれば、それこそ地獄のような事態になりますよね。進んでも地獄、退いても地獄といった状態です。

(宇山)

おっしゃる通りです。

(深田)

これは、反石破派にとってのジレンマでもありますね。

(宇山)

まさにジレンマだと言えるでしょう。そうした極めて微妙なバランスの上に、石破政権は成り立っており、ある意味で意気揚々としているとも言えます。

(深田)

本当に石破さんは、意気揚々とされていますよね。

(宇山)

石破官邸は、現在かなり勢いづいています。たとえば、今年度の予算案はすんなりと年度内に成立しました。これは日本維新の会が賛成に回ったことも影響しています。維新が比較的“安く釣れた”とも言われており、結果として政権にとって大きな追い風となりました。

また、対米交渉においても、トランプ大統領から「日本を最優先交渉国とする」といった趣旨の発言を引き出すなど、外交面でも成果をアピールしています。

石破総理はそうした経緯を背景に自信を深めているように見受けられます。

ただし、私から見れば、この自信は少々甘いものであると感じており、その点については後ほど触れていきたいと思います。

私たちの目には石破政権の運営が支離滅裂に映る場面もありますが、それでも「石破降ろし」が本格的に進まないのはなぜなのか。この点について改めて考えてみたいと思います。

たとえば、今年3月には西田昌司議員が「予算が通過した時点で石破総理は辞任すべきだ」と主張していましたが、その後、自民党内に「石破降ろし」の大きなうねりが起こることはありませんでした。

私は、この背景には大きく5つの要因があると考えています。

(深田)

5つもあるのですか?

(宇山)

はい、5つあると思います。第一は「地方議員の存在」です。

(深田)

石破さんは、地方での支持が強いとよく言われていますね。

(宇山)

そのとおりです。地方に根を張る自民党の地方議員の存在は非常に大きいのです。

次に第2の要因は「高齢者層の存在」、第3は「リベラル層の存在」、第4は「公明党の存在」、そして第5は「経団連の支持」です。

(深田)

経団連からも支持されているのですか?

(宇山)

はい、非常に強く支持されています。

(深田)

そういうタイプには見えませんでした。

(宇山)

実際にはしっかりと支持を受けています。それでは順を追ってご説明していきましょう。

まず一つ目の「地方議員の支持」についてです。

その前に、少し私の経歴をご紹介させていただきます。私は10年前の統一地方選挙において、自民党の公募で大阪府議会議員選挙に立候補した経験があります。

当時、維新の会が「大阪都構想」を強く推進しており、私は「大阪市を廃止するなどとんでもない」との立場から反対し、大阪自民党から出馬しました。一人区だったため維新の候補に敗れ、落選となりましたが、その後、ある衆議院議員の秘書のような仕事をしながら、政治の現場に出入りしておりました。そうした背景から、自民党の内部事情については一定の理解があります。

私の経験から申し上げると、石破さんは総理大臣に就任する以前から、地方を非常によく回っていました。

地方の議員たちは、中央政府との距離を感じがちで、要望を出してもなかなか取り合ってもらえないという“アウェー感”を抱えています。そうした地方に石破さんは自ら足を運び、「皆さん、大変ですね。私が味方になりますよ」と声をかけていたのです。

たとえば、私たち大阪人の立場で言えば、当時橋下徹氏が「都構想」を掲げて強く推進しており、安倍総理や菅官房長官も維新寄りの立場を取っていました。

(深田)

そうですよね。維新があれほど力を持つようになったのは、安倍さんと菅さんの後押しがあったからだと思います。

(宇山)

おっしゃる通りです。維新は、ある意味で菅官房長官が作り出した“別動隊”のような存在でした。私たちが「大阪市を解体する都構想はやめてほしい」といくら中央に訴えても、全く耳を傾けてもらえなかったのです。

そうした中、石破さんが大阪に来て、「大阪自民党の皆さんは本当に大変ですね。お気持ちはよくわかります」と語りかけてくれたのです。

当時の私たちにとって、その存在は非常に大きなものでした。

(深田)

やはり、中央の大物たちに冷たくされている中で、「次の総理候補」とされる人物が自分たちのもとに来て、気遣ってくれるというのは、誰だって心を動かされますよね。

(宇山)

本当にそうです。私自身もそうでした。

(深田)

やはり、石破マジックにかかってしまったということですね。

(宇山)

ええ、完全にかかってしまいました。「石破さんは、私たちのことを本当に理解してくれている」と強く感じました。

(深田)

それは当然の反応ですよね。どんな人でもそう感じると思います。

(宇山)

もちろん、石破さんには「自分が総理になりたい」という思惑や、「安倍憎し」といった感情が背景にあるのだとは理解しています。それでも、地方で孤立しがちな私たちにとって、石破さんが寄り添い、温かい言葉をかけてくれたことは心に残っています。

そのため、今でも大阪自民党の中には、「石破さんに足を向けて寝られない」といった思いを持つ地方議員が少なくありません。

(深田)

なるほど、よくわかりました。

(宇山)

大阪に限らず、全国の都道府県でも、地方で“アウェー感”のある地域には、石破氏が巧みに入り込んでいます。

(深田)

特に大阪の場合は、自民党の票を維新に奪われた背景に、菅氏の存在がありますよね。大阪の自民党関係者の間では、「自分たちが落選したのは、安倍・菅両氏が維新に肩入れしたからだ」と強く感じており、少なからず恨みを抱いています。

(宇山)

そうした感情は非常に根強いものがあります。石破氏はその点を鋭く見抜いており、過去の総裁選でも、地方議員から厚い支持を得た背景には、こうした事情があると考えています。

(深田)

石破さんは“マメ男”なんですね。モテるタイプではないですが、丁寧に接し続けられると、だんだんと好意を抱いてしまうような。

(宇山)

おっしゃる通りです。石破氏には、意外にも人心掌握術が備わっているのだと思います。彼は政治家の家系出身であり、その点はやはり侮れません。

さて、これが一つ目の要因です。続いて二つ目は、「高齢者層の支持」です。

(深田)

いわゆる“ジジ転がし”ということですか?

(宇山)

そうです。石破氏はまさに“オヤジハンター”です。自民党員の多くは高齢の男性ですが、彼らの間では石破氏はヒーローのように崇められています。

(深田)

確かに、そういう方々、いらっしゃいますね。

(宇山)

「なぜそんなに石破氏を支持するのか?」と尋ねると、「語り口調が良いのだ」と返ってきます。彼が白目をむくような表情で、じっくりと話す様子が「説得力がある」「納得してしまう」と評価されているのです。

(深田)

私は彼の話し方、4倍速くらいでちょうどいいと思ってしまいますが。

(宇山)

そうでしょう。石破氏の語り口は、どこか“ネチネチとした”印象を与えるものですが、そこが高齢者層には好まれるようです。

(深田)

あまりはっきりと物を言わないですよね。

(宇山)

その通りです。結論を明示しない話し方が特徴的です。「この問題には長年取り組んできました。ああでしょうか?こうでしょうか?」と、自問自答する姿勢を示すのです。これが高齢者にとっては、人生の苦悩や葛藤を共有しているように映るのでしょう。

(深田)

確かに、高齢の日本人男性には、その自問自答の姿勢が親近感を呼ぶのかもしれませんね。

(宇山)

そうだと思います。彼らにとって、石破氏は「人生の悲哀を共有してくれる存在」に映っているのです。反対に、早口で軽快に話すような政治家では、そうした共感を得ることが難しいのです。

(深田)

そう考えると、私がおじさん世代の支持を得られないのも、そのあたりが原因かもしれませんね。

(宇山)

石破氏のように、「皆さんのご苦労はよくわかります」とゆっくり語りかけるスタイルが、彼らには響くのです。そして何より、高齢者層はテレビの情報に強く影響されます。テレビでは石破氏を好意的に取り上げることが多く、「トランプとの外交でも120点満点だった」といった評価が広まることで、「石破さんはよくやっている」と信じてしまうのです。

(深田)

テレビしか見ていない方々には、そうした印象が強く残りますよね。

(宇山)

「石破氏に悪いところは一つもない」と信じている人も少なくありません。そして、テレビは石破氏のネガティブな面を報じることがほとんどありません。

この情報の偏りが、支持の温床となっています。これが二つ目の理由です。

続いて三つ目は、「リベラル層の存在」です。

(深田)

リベラル層が石破氏を支持するというのは、わかりやすい構図ですね。

(宇山)

現在の自民党は、もはや“保守政党”とは言えない状況にあります。

(深田)

本当にエブリシングな政党ですよね。右から左まで、親米・親中・親台・親韓・親露、すべて揃っている。

(宇山)

共産党以外、すべて網羅している政党と言っても過言ではないでしょう。むしろ「リベラル政党」と言って差し支えない状況です。

たとえば、自民党員に対して「夫婦別姓に賛成ですか?」と問うと、60%以上が「賛成」と答えているという調査結果もあります。

こうした中、自民党としてはリベラル層を取り込む必要があります。そこで登場したのが、参議院選挙・東京選挙区で名前が挙がった渡部カンコロンゴ清花氏です。

(深田)

カンコロンゴ清花さん?

(宇山)

そうです。SNSなどで話題になった方で、左派的な思想で知られ、安倍政権に対しても強く反発してきた人物です。そんな彼女が、自民党の東京選挙区候補として内定間近にまでなっていたのです。

なぜ彼女が候補に選ばれそうになったのか。それは、現職の武見敬三氏がすでに候補として決まっている中で、もう一人の候補を立てる必要がありました。もし同じような“保守おじさんタイプ”、たとえば石原伸晃氏のような人物を立てても、目新しさがなく、新しい票の掘り起こしにはつながりません。そこで、全く異なるバックグラウンドを持つ候補者を立てる必要があったのです。これは明らかに選挙戦略の一環です。

(深田)

なるほど。個人的には、武見さんには退場してほしいと思っていますが。

(宇山)

実際、さまざまな問題を引き起こしており、党内でも批判の声があります。

(深田)

私は奈良に住んでいましたし、宇山先生も奈良に住んでいたことがあるとのこと。関西人としても、武見氏のやり方には納得がいかない部分があります。

(宇山)

そのような背景の中で、自民党はさらにリベラル層にウイングを広げようとしています。

(深田)

最初からリベラルなのに、まだ広げるのですか。

(宇山)

さらに幅広い層を取り込もうという動きです。LGBT政策についても、アメリカのエマニュエル大使などの外圧が背景にあるとはいえ、選挙戦略として「自民党はもはや右派ではありません。リベラル層にも配慮できる政党です」とアピールする目的があります。

しかしながら、これによって“岩盤保守層”を敵に回す結果にもなっています。

(深田)

実際、LGBT法案を通したことで、自民党は内部から崩壊しかけましたよね。

(宇山)

自民党執行部の判断には、見過ごせない誤算があると思います。岩盤保守層の支持者は確かに全体の1割に過ぎません。しかし、彼らは非常に発信力が強く、“うるさがた”の存在でもあります。執行部は「1割を切り捨てても、残る7〜8割のリベラル層を取り込めば勝てる」との読みで、この保守層を切ってしまったわけですが、その結果として党全体に“火がついた”という状況が繰り返されています。

(深田)

まさに、火だるまになっていましたよね。

(宇山)

その通りです。数字だけを見て判断するのではなく、発信力や影響力といった質的側面も選挙戦略上は重要なのです。選挙のプロであれば、本来そこまで見通すべきでしょう。

現在の自民党は、目先の選挙勝利ばかりを追い求め、理念や矜持といった根本的価値観を簡単に投げ捨ててしまっているように見えます。

その一方で、たとえば参議院の全国比例では杉田水脈氏のような人物を公認しています。これは、失った保守岩盤層を引き戻したいという意図が明確です。

しかし、LGBT法案の推進や中国との親密な関係など、自民党が近年取ってきた路線を見る限り、保守層が再び戻ってくるとは到底思えません。

(深田)

実際、多くの保守層は参政党や日本保守党など、他の政党へ流れてしまっています。

(宇山)

その通りです。そして4つ目と5つ目の要因である公明党と経団連の存在が、事態をさらに複雑にしています。両者ともに対中協調的であり、公明党の代表はつい先日も中国を訪問しています。彼らは自民党の政策に強い影響を与えており、政策的な歪みをもたらしている一因です。

経団連は企業団体献金という形で自民党議員を支えています。たとえば石破氏は年間1億円もの献金を集めていると言われています。

(深田)

それは驚きです。

(宇山)

これだけの資金を受け取っている以上、経団連に足を向けて寝ることはできないわけです。とはいえ、その資金の流れの中で、「中国と仲良くすべきだ」「対立は避けるべきだ」といった要望が出されれば、自民党の政策が歪むのも当然のことです。

たとえば、岩屋氏による中国人観光客のビザ緩和措置などもその一例でしょう。これにより、観光業界、特に大分県の温泉地などでは歓迎ムードが高まっています。

結局のところ、公明党は「石破氏であれば支援する」、経団連は「資金を提供する」、高齢者は「支持する」といった構図ができ上がっており、多方面から石破政権が“心地よい存在”として容認されているのが実情です。こうした中、「なぜ石破を代えなければならないのか」という疑問が自然と生まれ、それに対して誰も明確な答えを出せずにいます。

(深田)

つまり、石破政権はまだしばらく続くということでしょうか。

(宇山)

私もそう思います。たとえば野党が内閣不信任案を出さないのは、次の参議院議員選挙で石破氏相手のほうが戦いやすいと考えているからでしょう。これは明白です。

(深田)

三方よしの構図ということですね。

(宇山)

その通りです。本来であれば、10万円商品券の問題などを受けて、野党は速やかに内閣不信任案を提出すべきです。しかし、それをしないのは、石破氏のままのほうが得策だと考えているからです。野田氏などは、「この問題については責任追及を徹底するため、簡単に幕引きさせるわけにはいかない」と説明していますが、それは詭弁に過ぎません。

内閣不信任案を出さないということは、石破政権を容認しているのと同義です。正当な大義名分を掲げなければ、国民には理解されません。

(深田)

そう考えると、石破さんは実に巧みにパワーバランスを取っているとも言えますね。

(宇山)

そう思います。「石破氏は愚かだ」と言われがちですが、若い頃から永田町を泳ぎ抜いてきた人物です。その程度の計算ができないわけがありません。

「不信任案を出せるなら出してみろ。実際には出したくないのは君たちのほうだろう」と、内心では理解しているでしょう。そのため、自信に満ちた態度を取っているのです。

さて、もう一つ重要な選挙があります。6月の東京都議会議員選挙です。

(深田)

「再生の道」などといったスローガンも掲げられていますが、実際どうなのでしょうか。

(宇山)

実は、都議選と参議院議員選挙が同じ年に実施されるのは、12年に1度の周期です。都議選は4年、参議院選は3年ごとの選挙ですから、両者が重なるのは稀です。そして、過去の傾向として、都議選で自民党が敗れると、その後の参院選でも敗北するというジンクスがあります。

今回の都議選では、自民党は極めて厳しい情勢です。裏金問題などが影響し、都議団にも逆風が吹いています。こうした中で勝機は極めて薄いと言わざるを得ません。

ただし、都議選の敗北を受けて1ヶ月後に控える参院選の前に「石破降ろし」が起こるかといえば、私はその可能性は低いと見ています。

(深田)

起きないと?

(宇山)

はい。自民党内の議員たちは、もはや気力を失っているように感じます。

(深田)

そもそも次に自民党を率いる人材が見当たりませんね。

(宇山)

いないと思います。担ぐ人物が存在しないのです。

(深田)

高市氏には一定の人気がありますが、彼女が党のトップに立つと、公明党との関係が悪化するリスクがあるのではないでしょうか。

(宇山)

おっしゃる通りです。

(深田)

そのリスクを考えると、やはり石破氏のままで行くという判断が大勢になるのではないでしょうか。

(宇山)

私は前回の総裁選で、石破氏と高市氏の一騎打ちになった瞬間、「これは石破氏で決まりだ」と直感しました。その直後、知人にも「これは石破だ」とメールを送りました。

(深田)

すごいですね。私は高市さんが来るのではないかと思っていました。

(宇山)

私は、それは100%ないと見ていました。なぜなら、議員たちは自らの選挙を最優先に考えます。公明党が高市氏にはついてこないという事実は、彼らにとって明白だったからです。いくら党内で指示が出たとしても、裏では石破氏に票が流れると私は踏んでいました。

とはいえ、高市氏があれほどの票を集めたのは、ある意味で健闘と言えます。本人もその点を強く意識していたからこそ、総裁選の最終演説では繰り返し「公明党、公明党」と強調していました。「私が総裁になったとしても、公明党との関係を大切にし、丁寧に対話していきます」というメッセージを送らなければならないほど、高市氏と公明党の間には軋轢があったということでしょう。

そうした背景を踏まえれば、「次は高市氏を」とは、なかなか議員たちも言い出しにくいのです。経団連や企業団体献金を受けている自民党議員たちは、中国と決定的に対立するような人材を望んでいません。その意味でも、高市氏が総理になることを「都合が悪い」と感じている層が党内に一定数存在しており、こうした力学こそが石破氏の強さの源泉でもあるのです。

(深田)

今回、想像の10倍、いや100倍興味深い分析をいただきました。

(宇山)

それでは最後にこの本をご紹介させてください。これは深田さんがジェイソン・ホース氏と共著で執筆された『THE BIG PLOT』という英語の書籍です。私も拝読しましたが、大変驚かされました。中国共産党が発足以来、いかにして日本、アメリカ、台湾に対し影響工作を行ってきたかという点について、非常に詳細かつ実証的に書かれています。

事実関係に基づいた証拠や参考文献も明確に記されており、歴史的に検証された信頼性の高い書籍です。日本語版が出れば大きな反響を呼ぶであろう内容で、現在翻訳作業が進んでいると伺っています。推薦人には原口一博議員も名を連ねておられ、まさに“問題作”と言ってよいでしょう。組織名や個人名も具体的に示されており、英語も平易で、大卒程度の英語力があれば読みこなせる内容となっています。

本書が明らかにするような浸透工作は、政界はもちろん、経済界にも及んでおり、我々の社会はすでにがんじがらめの状況にあるとさえ感じます。そのため、改革を進めようとしても動きが極めて鈍いのです。

さて、最後に参議院議員選挙の情勢分析を行いたいと思います。

(深田)

ぜひ、お願いします。

(宇山)

今回改選されるのは124議席で、与党(自民・公明)の現有議席は71。非改選組が75議席あるため、過半数125議席の確保には50議席の獲得が必要となります。つまり、21議席減っても過半数を維持できるわけです。この数字を見ると、「石破氏でも大丈夫なのではないか」と思いたくなりますが、私はそう単純ではないと見ています。50議席に届かず、47〜48議席で止まる可能性があるからです。

一人区が32ありますが、ここでどれだけ勝ち星をあげられるかがカギとなります。32のうち12選挙区を獲得できれば、与党は50議席に届く可能性がありますが、現状ではそれも厳しい情勢だと考えます。

(深田)

難しいのですね。

(宇山)

はい。というのも、一人区はその時の空気や流れに一気に左右される特性があるため、一度風向きが変われば一斉に与党から離れる可能性もあります。そうなれば、参議院選挙敗北によって、さすがの石破氏も退陣せざるを得なくなるかもしれません。

ただし、そうなったとしても、政界再編がすぐに起こるかといえば、私は否定的です。今の政治家たちは、気力を失っており、バイタリティもない。多くが「自分のことで精一杯」という状態です。

(深田)

さまざまな政治家の先生に陳情してきた経験からも、それはよく分かります。日々の公務で疲弊し、飲み会で疲弊しています。

(宇山)

その通りです。「玉木さんでいいじゃないか」「維新の前原さんでいいのではないか」「立憲民主党と連携してもよいのではないか」といった安易な選択肢に流れようとする空気さえあります。

(深田)

結局、政治家というのは、誰とでも手を組める存在なのかもしれませんね。

(宇山)

まさにその通りです。参院選の結果次第では、とんでもない形の政局が到来する可能性も否定できません。

(深田)

仮に自民党と立憲民主党による連立政権が誕生しても、今の状況では驚きませんね。

(宇山)

そうですね。

(深田)

ということで本日は、「なぜ石破政権がここまで持ちこたえているのか」について、著作家の宇山卓栄先生に非常に興味深いご見解を伺いました。少々未来が暗く感じられる内容でしたが、非常に刺激的なお話でした。ありがとうございました。

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