#335 マツダが500人早期退職募集の衝撃 中国が自動車市場のシェアを奪ったのか?その真相に迫る!  池田直渡氏

(深田)

皆さん、こんにちは。政経プラットフォーム、 ITビジネスアナリストの深田萌絵です。今回は、モータージャーナリストの池田直渡先生にお越しいただきました。先生、よろしくお願いします。

最近、少し不穏なニュースが流れてきました。「マツダが希望退職者500名」ということですが、これは一体どういう状況なのでしょうか?

(池田)

まず「希望退職者」という言葉が、完全にネガティブワードになってしまっていますよね。

(深田)

そうですね。整理解雇のような印象があります。

(池田)

そうです。経営に不具合が起きていて、「会社の経営を守るために支出を切り詰めなければならない」という文脈で捉えられますが、「リストラ」も本来はネガティブな意味ではありません。

「働き方改革」とずっと言われ続けています。働き方はもっと多様であるべきだと思います。たとえば、最近は「社内ハンティング」も許容され始めていて、社内の別部署にいる人材を他部署が欲しいと思えば、引き抜けるようになってきています。人材の流動性を高めて、それぞれの能力が最大限発揮できるようにするのが狙いです。

今回のマツダの件ですが、私の見解では、決算はそこまで悪くないと思います。現時点で明確な証拠は出ていませんが、「人員整理しないと立ち行かない」というほどの経営状況ではないと見ています。

(深田)

日産とは違うわけですね。

(池田)

日産の場合は、整理のためのコストが大きくのしかかっているようですが、マツダに関しては事情が異なります。実際にマツダに問い合わせてみたのですが、「これは働き方改革の一環だ」という回答でした。ただ、年齢を50歳以上に絞っている点が少し引っかかります。

本来であれば全年齢を対象にした方が良いと私は思います。ただ、企業側としても守りたい人材というのがいるわけです。どうしても在籍してもらいたい人材と、「このタイミングでやり直すことが人生の再設計になるのではないか」という人材を分けて考えているのだと思います。

普通に考えれば、サラリーマン社会では50歳くらいで勝敗が決まってしまいますよね。

(深田)

確かにそうですね。自由業であれば年齢に関係なく働き続けられますがね。

(池田)

サラリーマンの世界では、50歳になってから部長になるのは難しいですよね。

(深田)

40代の中盤くらいで将来が見えてくると思います。

(池田)

そう考えると、「今のスキルを使って他へ移ることで、もう一花咲かせる時間がまだありますよ」というのが、今回の新しい制度になるわけです。

(深田)

でも、50歳を過ぎて自動車業界から転職する人は、実際どこに行けるのですか?

(池田)

例えば、自動車メーカーにとって非常に大事なのはサプライヤーの存在です。メーカー側にいた人がサプライヤーに転職すれば、様々なノウハウを共有できて、サプライヤーが強くなります。

極端な言い方をすれば、メーカーとしては「うちの会社を支える経営幹部クラスの人材は選抜しました。でも、それ以外の人材もまだまだ能力はあります。もし必要な人材がいるのなら、使ってみてはいかがでしょうか」というスタンスなのです。

(深田)

そういうことならば、今回の件は前向きに捉えても大丈夫ということなのですね?

(池田)

そうです。別にネガティブに報道する必要はまったくありません。ただ、「希望退職者募集」と聞くと、「経営が危ないのでは?」と条件反射で考えてしまう人が多いので、大手メディアなどではネガティブに扱われがちなのです。

(深田)

今回のニュースを見て、「マツダ愛」の強い加藤康子先生などがショックを受けているのではないかと心配しました。

(池田)

マツダに人生を捧げるような思いの人からすれば、「出て行ってもいいですよ」と言われるのは感情的に受け入れづらいかもしれません。ただ、日本にとって重要なのは「労働の柔軟性」や「雇用の柔軟性」です。

日本では年齢が上がると転職しづらくなりますが、それを壊していかなければなりません。そのための制度なのです。

(深田)

でも、50歳というのは現実的には転職がかなり厳しい年齢ですよね。35歳を過ぎると厳しくなり、40歳を越えるとギリギリという印象です。

(池田)

その通りです。でも、それを変えていかなければならないと思います。アメリカなどでは年齢は関係ないですよね。

(深田)

確かにそうですね。ですが、文化的背景が異なると思います。私は職を転々として来たので慣れているのですが、多くの日本人は転職していくことにあまり慣れていないように思います。

(池田)

ただ、今の若い世代は「一つの会社に骨を埋める」という意識を少しも持っていないですよね。だから、これから中心世代になる人たちに合わせて、雇用の考え方も変わっていかないといけないと思います。そのためには、今の世代で変化を始めておかないといけないのです。

(深田)

確かにそうかも知れないですね。

ですが、やはり「希望退職」とは言っても、実質「クビ」だと思うのです。

(池田)

もちろん、実際に辞めてほしい人に対して肩を叩いていたとしたら、それは大問題です。でも、今のところそういう話は出ていません。

(深田)

でも、今回のように業績の良いタイミングで希望退職を募ると、優秀な人から辞めていってしまう可能性もあるのではないですか?

(池田)

そこは何とも言えません。これまでも企業はそういうリスクを警戒して、優秀な人を縛り付けていたわけです。そのことが、結果として社会全体の雇用の流動性を阻んできたことも事実です。

(深田)

そうですね。でも、池田先生のように自分の腕に覚えがある人だけが独立できるのだと思います。

(池田)

そこは誤解があります。アメリカでも日本でも、「フリーランスで独り立ちしている人はすごい」と言われますが、多くの場合は他に選択肢がなくて、結果として生き残っただけです。

(深田)

そうなのですか?

(池田)

はい。私が会社に属さなくなったのは45歳くらいのときでした。それまでは非正規ながらも会社から給料を毎月貰っていました。辞めたのはその頃です。「今から履歴書を書いても採用されることはない」と思って、それで独立に至ったのです。

(深田)

私も同じかもしれません。

今回のマツダの希望退職の原因は、「中国のEVメーカーとの競争を悲観してのことかも知れない」とも思ったのですが、いかがでしょうか?

(池田)

中国の車は、今後は基本的に「中国国内向けの製品」になっていくと思います。アメリカやヨーロッパで売ろうと思っていたら高い関税を掛けられてしまい、今は輸出できない状況です。そこでASEANに行こうとしたら、別のルールが作られてしまいました。

そこで、事前に自動車を大量に輸入したのです。それが不良在庫となり、50万台も港に積み上がっているのです。

(深田)

売れてないのですか?

(池田)

そうです。彼らは需要に合わせて生産することができません。高い所や明るい場所に集まってしまうように、行動が単純なのです。

だから、「EVが売れる」と聞けば、多くの会社がひたすらEV車を作ってしまう。市場規模の限界を考えられるのならば、人口の4倍もの不動産物件を作ることはしないと思います。

(深田)

すごくアグレッシブなのですね!

(池田)

人口よりも多い家が売れる理屈がないですよね。でも彼らは「投機で儲かる」となると、「複数持った方が効率が良い」と考えるのです。ただし、投機の対象になるのは「実用に足もの」だけなのです。

今、トランプ前大統領は「俺(アメリカ)に付くのか、あっち(中国)に付くのか、はっきりしろ」と各国に迫っています。その手段として世界各国に対して関税で圧力をかけています。そういう状況で、中国車は売れると思いますか?

(深田)

確かにおっしゃる通りです。

今、日本には中国の車は入って来ているのですか?

(池田)

日本には入って来ていません。輸入車のシェアが10%を超えたのは、バブル期の一瞬だけです。日本では輸入車は売れません。だから、日本は「輸入車の墓場」と言われています。

(深田)

日本には軽自動車が合っているのではないですか?

(池田)

そうです。アメリカでも日本の自動車には関税をしっかり掛けています。それに対して、日本ではアメ車にはゼロ%です。部品も含めて、全部関税はタダです。それにも関わらずシェアは10%なのです。

(深田)

素晴らしいですね!やはり日本車の品質が良いからですか?

(池田)

そうなります。故障して治すことを楽しめる人なら輸入車でいいのでしょうが、それ以外の人には向きません。そうした人は日本車を選ぶので、特に心配する必要はありません。

(深田)

確かに、日本で韓国車や中国車を街中で見た記憶がないです。

(池田)

アメリカのフォードやGMでさえ、日本市場から撤退してしまいました。

(深田)

ほとんど見かけないですね。

(池田)

クライスラーは一応ありますが、「フィアット500」と「ジープ」が売れているだけです。キャラクター性がはっきりしている車は売れています。

その象徴がベンツ、BMW、アウディの御三家です。彼らが「カローラ」と同クラスのCセグメントと呼ばれる小さい車を作っても、日本のマーケットは取れませんでした。

(深田)

日本の軽自動車が神すぎます。絶対に勝てないと思います。

(池田)

ですから、マツダも中国車にやられる事ばかり考える必要はないのです。

一方で、今回トランプは関税を大きく下げましたが、アメ車はなかなか売れていません。

(深田)

確かに、アメ車を欲しいとは思わないですね。なぜなのでしょうか?

(池田)

中国が台頭してくるまでは、世界最大のマーケットはアメリカでした。「世界のビッグ3」と言われますが、実質は「アメリカのトップ3」です。メジャーリーグの戦いを「ワールド・シリーズ」と言うのと同じで、「アメリカのトップは世界のトップなのだ」という考えです。

(深田)

ジャイアン思想ですね。

(池田)

その通りです。その考えで売れていただけなので、実はアメリカの車はヨーロッパでも売れた事がないし、日本でも売れません。つまり「ドメスティック商品」なのです。

(深田)

大きすぎて、駐車場のパレットに乗らないです。

(池田)

ジャガーがまだイギリス製だった頃、ジャガージャパンの人と話したことがあります。「ミラーを折りたたみにしてくれ」と何年も言い続けていたのですが、「うちの客はそんな狭い駐車場には入れない」と答えたのです。

(深田)

そういう発想なのですよね。

ヨーロッパのデザイナーは「私の作った服を着るのはこういう人だ」と言って、着る人を決めて作っています。同じ発想が車にもあるのですね。

(池田)

そうです。

(深田)

それにしても、なぜジャガーに乗っている人は、あんなに変わった人が多いのでしょうか?ジャガーに乗っている女子は大体がアグレッシブで恐怖を覚えます。

(池田)

一部のマニアは別ですが、わざわざジャガーを選んだということは「ベンツが嫌だ」ということだと思います。「みんなと同じは嫌」ということでしょう。BMWを選ぶのも、本流としてのベンツがあればこそです。

(深田)

私はずっとトヨタに乗っていましたが、ある時から会社でベンツに乗るようになりました。

(池田)

ベンツも昔ほどは良くありませんが、世の中の常識はまだ変わっていないので、下取り価格がベンツだけ高いわけです。

(深田)

電気系統はものすごく弱いですよ。

(池田)

そういったことを考えると、故障せずに安く乗れるトヨタ一択になってしまいますよね。

(深田)

トヨタは本当に素晴らしいですよ。

(池田)

国産メーカーで比べても強いです。故障しません。

(深田)

カローラには13万kmくらい乗っていましたが、全然故障しませんでした。

(池田)

昔はトヨタの乗り心地はあまり良くなくて我慢も必要でしたが、最近はそれも良くなってきましたね。

(深田)

日本車の底力を感じます。

最後に、「マツダ希望退職者、500人募集」の話に戻りたいと思います。

(池田)

新しい雇用時代に向けた政策の一部です。ですが、年齢制限を掛けているので「ここは持っていかないで」というガードの姿勢はまだ残っていますよね。

(深田)

今回は、モータージャーナリストの池田直渡先生に、「マツダは決して業績が悪いわけではない」という安心のお話をしていただきました。どうもありがとうございました。

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