#322 日本の食文化を世界へ!47種特産品世界展開の戦略とは? 林正勝×深⽥萌絵

(深田)

皆さん、こんにちは。政経プラットフォームITビジネスアナリストの深田萌絵です。

今回は、事業プロデューサーであり、スターマーク代表の林正勝さんにお越しいただきました。林さん、どうぞよろしくお願いいたします。

前回は、「日本の伝統文化をどのように盛り上げ、復活させていくのか」というテーマでした。

伝統文化であっても、世界向けに発信することで注目され、再評価されるようになるという話でしたよね。たしか「抹茶チョコレート理論」と呼んでいたと思います。本当に、リクルート出身の方って、キャッチーなネーミングが得意ですね。必ず「○○理論」みたいな形で表現しますよね。

(林)

まあ、「言ったもん勝ち」みたいなところはあるかもしれませんね。

(深田)

たとえば、北の達人コーポレーションの木下社長も、さまざまな法則を自分で名付けて、それをオリジナルのメソッドとして発信していますよね。また、リクルート出身といえば、うちの番組によく出演していただいている海老原嗣生さん、彼の元同僚の動画などを見ると、「G-POP理論」や「PKI」など、アルファベットを並べてもっともらしいことを語っているのですよ。こういうスタイルって、リクルート出身の方によく見られますよね。どうしてなのでしょう?

(林)

やはり、「自分のオリジナルを作りたい」という気持ちが強い人が多いからだと思いますね。そういうことをやりたい人たちが、リクルートに集まってくるのかもしれません。

(深田)

なるほど。今回、林さんにご出演いただいたのは、林さんが一見チャラい印象なのに、実はチャラいなりに日本の文化を真剣に応援している方だからなのです。

(林)

チャラいなりに応援しています。

(深田)

「マーク林」というお名前も印象的で面白いなと思いました。なぜ「マーク」という名前を使っているのですか?

(林)

本名は「正勝(まさかつ)」なんですが、海外で仕事をしていると、どうしても発音してもらえないのです。「マサカチュ」とか、ちょっと可愛らしくなってしまって、自分でも調子が狂ってしまうのですよね。ですので「まさかつ」は難しいなと思って、「マーク」と名乗るようにしました。

(深田)

今回は、日本の文化を海外に広めていく「日本すきぴ」を増やす活動をされているということで、その手段として「ジン(GIN)」を活用していらっしゃるとお聞きしました。本当にジンで、日本の文化を広めることができるのでしょうか?

(林)

広められますよ。

(深田)

ジンといえば、もともとは外国のスピリッツというお酒ですよね。確かにメイド・イン・ジャパンのジンではありますが、日本酒とは違い、起源は海外のお酒です。そんなジンに日本の伝統文化を乗せて、発信することが本当に可能なのでしょうか?

(林)

私たちは、ホーチミンの高島屋さんなどで日本酒の販売も行っていますし、日本酒の魅力を伝える活動もしています。ただ、やはり海外市場においては、日本の土俵だけで戦うのではなく、相手側の土俵にも入り込む必要があると思っています。日本酒は完全に日本の土俵ですよね。では、海外の土俵で勝負できるものは何かと考えたときに、ビールやウイスキーも候補に挙がりました。しかし、これらはすでに多くのプレイヤーが参入しており、競合が激しいのです。競合して争うよりも、みんなと仲良くできる選択肢として、ジンに注目しました。ジンなら世界195カ国で知られていて、認知度も高く、そこに各県の特産品を加えて、日本らしさを表現することができると考えたのです。

(深田)

各県の特産品というのは、具体的にはどんなものがあるのでしょうか?

(林)

「県ジン」というブランド名で展開しているのですが、たとえば北海道は昆布、茨城は干し芋、最近話題になっている埼玉は草加せんべいですね。

(深田)

ちょっと待ってください、草加せんべい味のジンということですか?なんだか怪しい雰囲気が漂ってきましたが。

(林)

いえいえ、きちんと取り組んでいますよ。ジンを作る際には、アルコールにさまざまな素材を漬け込む工程があります。

(深田)

ということは、草加せんべいを実際に漬け込んでいるのですか?

(林)

はい、本気で草加せんべいを漬け込んでいます。醤油やお米などと組み合わせて、いわゆる草加せんべい風の風味を再現するのではなく、本当に草加煎餅丸草一福さんというお店の、割れてしまって出荷できない「訳あり品」のせんべいを使っているんですよ。これは、エシカルな取り組みの一環でもあります。本来であれば廃棄されるものでも、品質に問題がなければ、資源として有効に活用しようという姿勢で取り組んでいます。

(深田)

そんなに真剣に取り組んでいるとは驚きです。

(林)

私は本気ですよ。煎餅を漬け込む作業は非常に手間がかかりますし、その後の蒸留工程でも多くの苦労があります。それでも、日本の文化を世界に届けるために、真摯に取り組んでいます。

(深田)

それで、実際に売れているのですか?

(林)

おかげさまで、多くの方に手に取っていただいています。

(深田)

どのような方が購入しているのですか?

(林)

現在は、個人の方がご自宅用やお土産として購入してくださるほか、バーの方々にもご活用いただいています。特に「コミュニケーションツール」として面白がって取り入れてくださるケースが多いですね。

(深田)

たとえば、「俺、〇〇県出身だから、これ飲んでみるわ」みたいな、ちょっとした遊び感覚ということですね。

(林)

その通りです。それに、県人会という集まりもあります。たとえば「ニューヨーク静岡県人会」や「高知県人会」などで、「高知県人会だから高知のジンを飲もう」といった、ちょっとしたダジャレのような楽しみ方もされています。

(深田)

やっぱりチャラいですね。それで、本当に味は美味しいのですか?

(林)

これがまた、めちゃくちゃ美味しいのです。特に柚子は人気があります。

(深田)

どこの県の柚子を使っているのですか?

(林)

高知県産の柚子です。香りがとても良くて評判もいいですし、他にも利尻の昆布漁師さんと一緒に作った、昆布を使ったジンもあります。

(深田)

ちょっと昆布のジンを飲んでみますね。そうですね、だしが効いていて、美味しいです。

(林)

そう言っていただけて嬉しいです!

(深田)

本当に驚きました。これが、あの「抹茶チョコレート理論」から生まれたジンなのですね。

(林)

そうです。私は、世界という土俵の中で、日本の良いものを紹介していきたいと考えています。「昆布っていいよ」「草加せんべいって美味しいよ」「しいたけもおすすめだよ」そんなふうに、各地の名産品を並べて伝えていきたいのです。とはいえ、実際に「口に入れてもらうまで」が一番のハードルなのですよね。

(深田)

なるほど、そこが課題なのですね。

(林)

だからこそ、「ジン」を選んだのです。多くの人にとって親しみのあるお酒という入口を用意して、「あ、柚子ってこんな味なのだ、美味しいな」と感じてもらえたら、自然と「じゃあ高知に行ってみたいな」という気持ちが芽生えるかもしれない。そういう、会話や行動のきっかけになるツールをつくりたかったんです。

(深田)

つまり、これは単なる遊びではなく、本気で考えられたプロジェクトなのですね?

(林)

はい、完全に本気です!

(深田)

この取り組みが、本当に日本文化の突破口になり得ると思いますか?

(林)

なります、間違いなく。最終的には47都道府県すべてを網羅し、それぞれのジンをつくって、それらをブレンドした「日本ジン」という一本のジンを完成させる構想があります。今のところ10種類が完成しており、蒸留まで終わっているのは14種類ほどですね。

(深田)

14種類も進んでいるのですね。私の出身地である大阪や奈良では、どんな素材が使われるのか気になりますね。葛とかでしょうか。

(林)

そういう会話こそが楽しいのですよ。たとえば「大阪だったらソースかな?」とか、地域ごとの素材や文化を話題にできるのも、魅力のひとつです。

(深田)

このジンづくり、参加したいという方は多いのですか?

(林)

とても多いです。各県に「プロデューサー」と呼んでいる方々がいて、その人たちが中心になってプロジェクトを進めてくれています。私一人では到底できないことですので、そういった仲間たちと一緒に作り上げているのです。仮に各県に10人ずつ関わっているとすれば、全国で500人ほどの仲間がいることになりますし、そこからさらに数千人、数万人へと広がっていく可能性があります。

(深田)

なるほど、ジンを通じてコミュニティづくりも同時に行われているのですね。

(林)

はい。むしろ、そちらが主軸かもしれません。ただ「お酒を売りたい」ということではなく、地域と人とをつなげる遊び心のあるツールとして、ジンを活用してもらえたら嬉しいですね。

(深田)

なるほど。私はやはり、日本の文化をもっと海外に広めるにはどうしたらいいのか、また文化をどう継承していくかといった点に関心があります。ぜひ、そうしたお話も伺いたいです。

(林)

そうですね。現在、私たちはベトナムの高島屋さんにも店舗を出させてもらっています。

(深田)

この商品が高島屋に置かれているのですか?

(林)

はい。実はもう7年ほどになります。ジンの取り扱いは3年目ですが、高島屋さんとのお付き合い自体は7年目になります。

(深田)

ベトナムでは、どのようなものを販売されているのですか?

(林)

もともとは、日本酒や伝統工芸品など、老舗の逸品を紹介・販売していました。アジア圏では、日本の食品は比較的受け入れられやすいのですが、伝統工芸品となると事情が少し異なります。というのも、アジアには似たような文化的ルーツを持つ地域も多く、日本独自のものとして認められにくいことがあるのです。そのため、工芸品の販売は意外と難しかったりします。

一方、ヨーロッパやアメリカでは、日本の伝統工芸に対して「これは本物の技術だ」「美しい」といった評価がされやすく、ポジティブな反応を得られることが多いです。ですから、紹介すべきものはエリアごとに選び分ける必要があると感じています。

(深田)

確かに、アメリカに行くと、庭にお寺の鐘のようなものを吊るしている家を見かけたりしますよね。「それはそういう使い方じゃないのだけどな」と思ってしまいますが、向こうの方々は先入観がない分、純粋に装飾として捉えてしまうのでしょうね。

(林)

その通りです。でも、私はそれでも良いと思っています。たとえ正しい使い方ではなくても、日本のものを買って「好き」と言ってもらえることが大事だと思うのです。

たとえば、うちのベトナムのスタッフは、ほうじ茶に砂糖を入れて飲むのですよ。私としては「やめてくれ」と言いたいところなんですが、本人たちは「この方が美味しい」と主張して譲りません。

(深田)

ほうじ茶に砂糖ですか。でも、たしかにほうじ茶ラテなどもありますしね。

(林)

今では私も折れて、砂糖入りほうじ茶を一緒に飲んでいます。でも、それで彼らが「美味しい」と感じてくれるなら、それも一つのあり方だと思うようになりました。文化を押しつけるような「正しい使い方はこれだ」と決めつけてしまうのは、かえって文化侵略のようになってしまいます。それは避けたいのです。

(深田)

なるほど。でも、日本文化への冒涜だ、みたいな気持ちにはなりませんか?

(林)

そうですね、私の考えとしては、「好きになってくれた人は、いずれもっと深く知りたくなる」というところがあります。もしかすると、ある日「ボス、やっぱり砂糖入れないほうが美味しいですね」と言ってくるかもしれません。まあ、来ないかもしれませんが。それでもかまいません。日本のものを一つでも「好き」と思ってくれる、その気持ちが何よりうれしいですね。

(深田)

ベトナムの高島屋では、日本のどんな商品がよく売れるのですか?

(林)

やはり日本酒が一番人気ですね。最近は、多くの方が日本酒のことを知ってくださっています。

実は、お寿司屋さんが増えると自然と日本酒の需要も伸びます。ここには明確な相関関係があります。

(深田)

確かに、最近はアメリカでも日本人が経営するお寿司屋さんが増えてきていますよね。

(林)

そうですね。寿司屋が増えると、お酢やワサビ、お米といった日本食材の需要も連動して伸びていきます。

海外の飲食文化には「三世代理論」という考え方があります。

まず第一世代は、日本のものを何でも扱う居酒屋スタイルの店。これは最初の入口として機能します。次に第二世代として、寿司や天ぷらなど、専門性の高い店舗が登場します。そして第三世代では、第二世代の専門店で修業した現地の人々が、自分たちでお寿司屋さんを開くようになります。

ベトナムでは、こうした第二世代の店が増え始めたのが10年ほど前。シンガポールでは20年前にその流れが見られました。そして今、第三世代へと進化しつつあるフェーズに入ってきています。

(深田)

ああ、なるほど。それはとても興味深いですね。

(林)

現在、ベトナムには「現地人オーナー・現地人職人」の寿司店が多数存在しています。こうした店が増えることで、日本酒の需要も急速に高まっているのです。

(深田)

なるほど。そうやって段階的に文化が根付いていくのですね。

(林)

はい。ただし、国によってそのステップは異なります。たとえばアフリカでは、まだ駐在員向けに何でも提供する第一世代の飲食店が主流だと思います。一方、アメリカなどではすでに第四世代、第五世代に進んでいる地域もあります。だからこそ、その国の文化的背景や成熟度に応じて、提供すべきものを選ぶ必要があるのです。

日本の伝統工芸や食品文化には、アジアの影響が色濃くあります。だからこそ、アジアでは受け入れてもらいやすい側面もありますが、一方で「これって自国にもあるよね」と思われてしまうこともあります。

たとえば、ベトナムには漆器やお重があります。しかしその価格は、日本の製品の100分の1ほどです。そうした中で、日本の漆器を100倍の価格で購入してもらうのは、やはり難しいですよね。

ところが、フランスなどでは、「こんなに素敵なお重がこの価格で買えるなんて」と驚かれることもあります。

(深田)

確かに、私も仕事でアメリカに行ったあとに日本に帰ってくると、あらゆるものが安く感じます。

(林)

そうですよね。だからこそ、伝統工芸品の価値を理解してくださる方には、ぜひ正当な価格でご購入いただきたいと考えています。

(深田)

日本酒については、もともと日本酒ブームのようなものがあり、航空会社がラウンジなどで取り扱うようになったことで認知度が上がり、価格も上昇していく、そうした構造があるように思っています。

(林)

おっしゃる通りです。たとえばワインは、すでに「世界フォーマット」になっています。実際、ワインの方が売りやすいケースもあります。

(深田)

なぜワインは世界フォーマットになっていて、日本酒はそうではないのでしょうか?

(林)

ワインやウイスキー、ジン、ビールといったお酒は、ほとんどの人が知っている飲み物です。しかし、日本酒はまだ世界的にはマイナーな存在です。

実際、お寿司でさえ知らない人がまだいます。「日本」という国名よりも、「トヨタ」の方が有名だという国もあるほどです。

以前アラブに行った際、「これはトヨタの車だぞ!」と誇らしげに言われたことがあります。しかし、「日本って中国の一部か?」と真顔で尋ねられたこともあります。つまり、日本酒はまだ世界フォーマットにはなっていないのです。

ワインのように、誰もが知っているという存在になるには、これからもっと世界中に紹介していく必要があります。

(深田)

知らない人もいるのですね。

(林)

それは、日本人にとっての「ネプモイ」のようなものです。

(深田)

ネプモイ?それは何ですか?

(林)

ベトナムのお酒で、日本で言えば焼酎のようなものです。現地ではごく当たり前に知られているものですが、日本人にはあまり馴染みがありません。だからこそ、相手の国に行って、その国の文化や常識を理解したうえで、日本のものをどう紹介するかが重要だと考えています。

(深田)

日本酒がもっと売れるようになれば、お米の消費も増えて、良い循環が生まれそうですね。

(林)

本当にそう思います。徳川家康は偉大ですよね。私は、もう一度「米本位制」に戻せたらいいのにと思ったりします。

(深田)

米本位制?そんな時代があったのですか?

(林)

ええ。江戸時代はまさに米本位制でした。武士の給料も米で支払われていましたし、米を通貨のように用い、時には酒に加工することで相場の安定を図っていたのです。

(深田)

それは興味深いですね。

(林)

経済理論として再評価してもいいくらいだと思っています。日本の米文化を見直すきっかけにもなるかもしれません。

(深田) 事業プロデューサー、スターマーク代表の林正勝さん。日本文化の輸出を目指しながら、なぜかその手段が「ジン」だったという、一見突飛な展開のようでいて、実はしっかりとした戦略と想いがあることがわかりました。本日はありがとうございました

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