農協vs政府 TPP問題で闘った農協が政権により報復された衝撃の事実  鈴木宣弘氏 #320

ご視聴はここをクリック

【目次】
00:00 1. オープニング
00:39 2. 価格決定は需給が決め手じゃない!?
03:35 3. 野菜・果物高騰の意外な真犯人?
05:31 4.「日本を操るJA」は幻想?
07:15 5. JAと自民党、農水省のトライアングル
08:34 6. JAの政治力が「骨抜き」に
13:05 7. 米騒動の「犯人」はJAじゃない!
15:48 8. JA悪者論に隠された巨大マネーの思惑

(深田)
皆さん、こんにちは。政経プラットフォーム、ITビジネスアナリストの深田萌絵です。今回は、東京大学特任教授の鈴木宣弘先生にお越しいただきました。鈴木先生、よろしくお願いします。

最近の米騒動で、お米がなくなったとか、お米の価格がすごく上がっていると話題になっています。「米農家さんは困っていますよ」という話をすると、「いやいや、農家は絶対困らないよ。農家は自民党の票田なので補助金がたっぷり出されて、農産物の価格も需給ではなく政府が決めているようなものなので、大丈夫」と言われることがあるのですが、どうなのでしょうか。キャベツ1玉800円とか、白菜も600円、700円と「こんなに高かったかな」と思うことがあります。野菜の値段は誰が決めているのですか?

(鈴木)
そうですね、もちろん需給が決めているという要素もありますが、小売業界の力が強く、どれぐらいの価格で売れるのかということから逆算して、農家に支払う価格が決まるという構造が基本にあります。需給だけでは決まっていないのですね。例えばイオンがいくらで売るか決まると、そこから逆算して卸業者、中卸業者が農家に支払う価格が決まり、農家のコストは考慮されず、農家が追い込まれてきました。

所得が増えにくくなった構造は、米も含めて農産物全体、野菜も果物もそうですね。価格は需給で変動しますが、ベースは大規模小売業者がいくらなら売れるのか、その時の状態に応じて決める。そこから逆算するので、値段が高くなっていても、農家のコスト、肥料も2倍などに上がっているので、採算が合わないこともあります。いずれにしても、農家のコストを満たせるかどうかは関係なく、価格形成力、市場支配力の強さによって値段が決まる状態なので、需給で決まる状態とは少し違いますね。

(深田)
それは何か多重構造になっているのですね。先日、元衆議院議員の安藤裕先生が来られた時に「野菜の値段は需給で決まる」と言われていましたが、それは小売の世界で需給関係であり、農家のコスト増加分を価格に反映しきれていないということですか。

(鈴木)

そこは関係ない話ですね。小売業者がいくらで売れるかと判断して価格を設定します。そこから逆算していく構造が基本になっている。需給で決まっているので農家は大変だとか、あるいは価格が高騰して潤っているのではないかという話はあります。

今回の高値について、東京の大田市場の皆さんも、こういう話を始めました。確かに現象としては冷夏や猛暑により、野菜や果物の値段がすごく上がっている。きっかけは気象による影響なのだが、実は根深い理由がある。それは、小売業界が中心となり、農家のコストを無視した価格設定をした結果、農家が苦しくなり、果物も野菜もピーク時に比べ、半分以下の生産しかできなくなっているのです。全国の農家が疲弊しているのは米や酪農だけではないのです。

野菜農家も果物農家も疲弊が激しく、減ってきているのですね。そこにきっかけがあるので、これほど価格が上昇しているのです。根本原因は、流通業界が買いたたいてきて、農業が苦しくなったということです。やっと原因が分かったので「もっと適正な価格で買うようにするから、みんな頑張って作ってくれ」と市場関係者は言い始めているというのが今の状況です。

(深田)

今更というような感じですよね。

(鈴木)
もっと早くやれという話ではありますが、まさに「今だけ、金だけ、自分だけ」で、安く買い叩けばビジネスができると考えていた。しかし、ここまで日本の農業が苦しくなり、作る人がいなくなれば、ビジネスができなくなる。消費者も安いと思っていたのに、買えなくなってしまう。

(深田)

農家は農産物の価格決定権がすごく弱いということなのですが、農協は何をしているのでしょうか?よく聞くのは、実は日本を操っているのは農家で、JAの力が強く政治家をコントロールしているなどと言う人がいますが、そのあたりはどうなのでしょうか?

(鈴木)

そのような現実はないですね。以前そういう関係を作ろうと、JAグループも頑張ったことはありますが、今は全然機能していないですよね。

農産物が買い叩かれないように、共同販売という『共販』をやることで、できるだけ農家の手取りが増えるように頑張って売る、というのが農協の一番大事な役割なのですよね。確かにそれを果たしている面はあります。農協の共販があることによって、どのぐらい米の価格が農家に上乗せできているかというと、60kgで3000円ぐらいは農協の交渉力で上乗せできているという結果が出てくるのです。牛乳では16円/㎏です。そういう計算が出てくるということは、農協の共販、共同販売が農家を助けている側面、これは間違いなくあります。しかし、さきほどの話のように、それでも買い叩かれているので、本来、農協はもっと頑張らなければいけない。

次に、農家を守るための政策などを実現するために、今まで政治との関係で、どのように行動してきたのかということをご説明します。以前は中選挙区制度において、政権与党の自民党には農業の専門家が農林族として議員になっていることが多かった。農家の代表である農協グループの全中(全国農業協同組合中央会)が中心になって、農林族議員に要望を伝え、農林水産省が農家を守るための政策を立案する。農林族と全中と農林省はいわゆるトライアングルと呼ばれ、それなりの構造がありました。

たとえば2008年の餌飢饉の時、餌の値段が上がりました。その時、三者は「これは大変だ、農家を守らなければいけない」ということになり、私が座長を務めて審議会で4000億円ぐらいの緊急予算を組んで、座長がそれを認めて決定をしました。その構造が機能していたのですね。ところがTPP(環太平洋パートナーシップ、Trans-Pacific Partnership Agreement)交渉が分岐点となりました。

(深田)

TPPは2012、13年年頃ですか?

(鈴木)

決まったのはね。TPPは2009年ぐらいから話が始まり、2013年ぐらいに決まって、妥結したのが2015年です。TPPはアメリカが中心になって12カ国で、ほとんどの関税を全部撤廃するという話から始まりました。しかし、それでは日本農業は絶対に守れないということで、最初は全中も農水省も、農林族も含めて、みんな猛反発だったわけです。

ところが、日本政府はこれ以上アメリカに抵抗しきれない状況となった。それでも抵抗し続けようとした農協組織は、自民党に非常に強い要求をしたのです。それで、政治の方が「もうこれは、なんとかしないといけない」と、全中という日本の農協組織の一番の大事な根幹を、解体したわけです。今も全中という組織はあるけれども、前のような政治的な要求をしっかりと実現できるだけの権限が、削がれてしまったのです。

(深田)
事実上の解体で、骨抜きですか。

(鈴木)、

骨抜きになったわけです。

(深田)
どういう手段でやられたのですか?

(鈴木)
農協法(農業協同組合法)というものを変えてしまって、全中の権限を削いで、社団法人のような普通の寄り合い組織のように組織体を変更せざるを得なくなりました。

(深田)
えっ、社団法人の前は何だったのですか?

(鈴木)
これは農協法で規定された、強力な権限を持つ組織として特別に位置づけられていたのです。その農協法を変えることで、全中のできることを狭めてしまった。まあ普通の連合会、全国連合会的な組織に弱められました。

(深田)
それを解体に踏み込んだのは誰なのですか?いつの時代ですか?

(鈴木)

第2次安倍政権の時ですかね。いきなりTPPに舵を切りました。あれは、2012年ごろでしたか、民主党政権の時に「TPPをやる」と言ってしまったが、自民党は選挙で「TPP断固反対、絶対に農業を守る」と言って、300人が当選しました。ところが、選挙が終わって1ヶ月も経たないうちに「TPP推進します」と総理が宣言して、びっくり仰天したわけですよ。

それでは、反対してきたJA組織や農家も当然怒りますよ。「そうか、では君らの権限をなくしましょう」ということで、農協が総攻撃を受けたのです。

(深田)

自民党はその辺りが長けていますよね。自民党の政策に反対していた労働組合を2つに割って、その結果、立憲民主と国民民主に割れて、労働組合の力が半分以下になった。その辺り、自民党はやはり構造をよく分かっているのか、敵対しているグループを分裂させたり、弱体化させるという策の練り方がものすごく巧妙ですよね。

(鈴木)

そうですよね。まず労働組合がやられましたよね。今残っているところは、いわゆる御用労働組合のようになっているわけですよ。

(深田)

もう「労働者の賃金は国が決めるからまあいいや」みたいな感じですね。

(鈴木)

農業組織はそこまでではないにしても、農家の立場に立って政治的な要求を通していける力は削がれてしまった。これ以上抵抗すれば農協組織そのものがどれだけやられるかわからないという恐怖も働いたので、農協組織側もなかなか言いづらい状況になった。以前は、現場の声を何とか実現するために、徹底的に頑張るような力がまだあったけれども、今はできなくなったということです。そういう流れになっているのですね。

(深田)

なるほど。以前は農林族など政治家に対して交渉力を持っていたJAが、今は骨抜きにされてしまって、何の力もないということですか。

(鈴木)

ちょっと極端な言い方ですが、そういう方向になったのは間違いないです。今回の米騒動でも「悪いのは農協だ」みたいな話が出ていますよね。

(深田)

そうですよね、よく出てきますよね。

(鈴木)

そんなことはできていませんから。そもそも農協が価格をつり上げているとか価格を決めているといいますが、そもそも今回一番困ったのは農協です。業者がみんな農家に直接買いに来ましたので、農協に売っていた人もそちらに流れたわけですよね。

農協はさっき言った通り共同販売で、まず概算金という形でまずちょっと安めの価格、例えば「60kgを18,000円ぐらいで買います」と出して、後で売れてから5,000円とか追加支払いで精算をするのです。最初の概算金はそれほど高いものではなく、後で追加されることを前提にしています。

ところが、別の業者が農家の庭先に来て、「今即金で2万円払うから売ってよね」という人が増えれば、よく考えたら、農協の方が最終的には高くても、目先のお金が高い方に売ってしまうという傾向が強まった。農協の集荷率は米で言うと3割ぐらいまで減ってきていたのに、さらに今回は2割と、農協の影響力というか集荷力落ちているのです。したがって、農協が米の価格をつり上げたとか、どこかに隠しているという議論はありえないのです。そんなことができる状況になっていないです。

生産調整もやってきた、減反をやって価格をつり上げたという議論もあるけど、今回米価が上がる直前の価格は、60キロで9000円ぐらいまで下がっていたわけです。30年前は2万円を超えて、今年の米価ぐらいの値段があったのが、買い叩かれてどんどん下がり、1万円を切るぐらいまで下がってきたわけですから。

「農協の力で価格をつり上げてきた、その責任だ」などと言う人いるけれど、誰がつり上げているのですか。

(深田)
そうですよね。

(鈴木)
逆に言えば、もう影響力がないということですよ。農水省に生産調整だ、減反だと言われて、農協も頑張ってみんなに割り振って減らしてきたつもりだけれども、それでも価格は30年前の半分以下まで下がってきたわけです。農水省と農林族と農協が組んで価格を決めていないということは、現状を見れば誰でも分かることではないですか。なぜ農家が時給10円でやらなくてはならないような状態になってしまっているのか。そこにそういう力が働いていないということではないですか。そのことをよく考えてもらいたい。

(深田)
うーん、そうですよね。

(鈴木)

それで、農協攻撃論というのは、本当は危ないと思うのですよ。それはどこかがまた操っている部分もあるわけですよ。それはアメリカ側ですよね。アメリカの巨大企業、金融業界ですよね。

農協マネーが欲しくて仕方がない人たちです。

(深田)

農林中金をものすごく狙っていますよ。私は外資の金融機関にいましたが、農林中金の運用をいかに引き出すかというのは、彼らのアジェンダですよね。

(鈴木)

そうです。もう一つ、共済の方もあるではないですか。全共連(に全国共済農業協同組合連合会)に集まっている運用資金だけでも55兆円ある。中金(農林中央金庫)は運用資金だけで100兆円規模ですね。それで、もう手口といえば、分かっているのは、郵政民営化の流れですね。民営化されて解体される。かんぽがまだ変な保険の売り方をしているといじめられて、今やかんぽの保険が売りづらくなり、日本の郵便局網がアフラックの保険を売る代理店になってしまった。日本郵政がアフラックを買収したかのように言われているが、むしろ逆ですよね。完全に母屋を乗っとられました。

(深田)
そうですよね。そうなっていますよね。

(鈴木)

それで、郵政マネーは大体、方が付いた。残っているのはJAマネーの155兆円。中金も今、損失で大問題になっている。

(深田)

そもそも中金があれだけ損失を出しているのは、仕組債とか、ああいう外資の金融機関が中心になって組成してきた危ない商品が原因ですよね。

(深田)
うん、そうですよね。

(鈴木)

その辺りを含めて、外資が喉から手が出るほど欲しく最後に残っているのがJAマネーです。そのためには農協を解体して引きはがす必要がある。農協を悪者にする方が、そういう流れを作るためにも良いわけですよね。したがって、そういう点も考えると、農協をあまりにも悪者にしてしまうことは、日本にとっても大変な損失になります。

もちろん、農協を見直さなければいけないこともたくさんありますけども、必要以上に農協を悪者にすることで、利益を得る人たちが狙っているということも考えないと、危ないと思いますね。

(深田)
そうですね。実は農協悪玉論は意外とそうではないということを東京大学任教授の鈴木宣弘先生に、詳しく解説していただきました。どうもありがとうございました。

Visited 8 times, 1 visit(s) today

おすすめ

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です