#155-森山高至×深田萌絵 建築家が警鐘 大阪万博危機 夢洲汚染問題はあって当たり前
(深田)
自由な言論から学び、行動できる人を生み出す政経プラットフォーム、ITビジネスアナリストの深田萌絵がお送りします。今回は建築エコノミストの森山高至先生にお越しいただきました。先生、今回もよろしくお願いします。森山先生は愛のある建築家として、いつもただダメ出しするのではなく、うまくいく方法や、住んでいる人の環境を良くする方法を提案されていてすごいと思います。
今回、大阪万博を誘致した夢洲でガスや謎の物質が出てくるという汚染問題があります。
(森山)
結局、埋立地にガスは付き物です。食べ物や山の木の葉など、捨てられた有機物が無酸素状態の地下で嫌気発酵し、メタンガスなどが生じます。ガスは軽いのでフワッと上昇し、空気中に出ていくはずなのですが、それがどんどん溜まり濃度が高まると引火して爆発してしまうのです。
(深田)
夢洲は地盤が軟弱なので、改良するために蓋をしていますから、どんどん溜まっていきますね。
(森山)
以前の爆発事故も、コンクリート床の下に溜まっていたのが原因です。ガスが溜まっているのに、床下に配線や配管を通す工事をしていると、静電気だけでも大きな爆発が起きてしまうのです。
(深田)
大阪府はその対応として「メタンガスを危険だとする認識が間違っている」「メタンガスは危険ではない」と広報をしています。
(森山)
もちろん微量のメタンガスは危険ではないのですが、濃度が高まったら危険です。あらゆる物質に言えることですが、塩分の摂りすぎは病気になりますので、「塩分は悪くない」と言っても、度が過ぎたら病気になります。
だから、「メタンガスは危険ではない」と言いつつ、「溜まったら危険だが」と小声で補足するような詭弁です。
(深田)
「刺身に醤油つけて食べるのは良いが、飲んだらダメだ」という話ですね。
(森山)
コンクリートの蓋の下にあるガスを抜くには、パイプを打つべきでしょうね。
(深田)
ソリューションがちゃんとあるのですね。
(森山)
メタンガスを出すために、そもそも埋め立てのときに、水やガスの出入り口を作るのも手ですが、「もう間に合わないから埋めてしまえ」という発想は危ないです。
(深田)
今、危ないことが進行しているように思うのですが、夢洲の土壌汚染の原因はそもそもメタンガスだけなのですか。
(森山)
メタンガスだけでなく、一番問題とされているのは、PCBという物質です。夢洲は一区、ニ区、三区と区が分れており、PCBを埋めた北西の区域からPCBが流出しないようにしっかり封鎖されているのか懸念の声があります。
(深田)
なるほど。PCBはそれほど体に悪いのですか。
(森山)
勿論悪いです。元々、PCBは電気を通さない燃えない性質をもつ油として「夢の材料」と言われていました。高度成長期、「これを使えば危なくないぞ」ということで、発電所や変電所や電柱の変圧器の絶縁用油など、いたるところに使用されました。PCBが自然界に溶け出し、動物に脂肪に吸収されるという有害性が分かり、世界中で禁止・回収されました。しかし持っていく場所がないので埋めたのです。
(深田)
すいません。PCBの袋の上にコンクリートの蓋をしたのでしょうか。
(森山)
多分、土をかぶせて、さらにコンクリートで蓋をしたのかな。
(深田)
そこに、さらに50mの杭を打ってパビリオンを建てると、どうなってしまうのですか。
(森山)
ちゃんと地区が違います。パビリオンの地区にPCBはないのですが、堤防がところどころ切れていて、水が入ってくるのではないか心配もされています。今回のパビリオンの敷地は、普通にゴミが埋まっているジャバジャバの埋め立て地なのですが、「地下水で繋がっているのではないか」と指摘する人もいました。万博を誘致した当初、水を活かして島のようにパビリオンを並べるデザイン「ウォーターワールド」を採用していましたが、「ウォーターワールド」のウォーターの危険性を懸念する声で、最近埋めました。
(深田)
全然分かっていないのですね。
(森山)
付け焼き刃なので、「最近、水はやめたのではないか」と言ったら、再度シートを敷いて人工池を作って、リングの一部が水辺になるそうです。
(深田)
我が国はここまで劣化してしまったのですか。
(森山)
なぜ「事実を受け止め、問題をみんなで解決する方法」を考えないのか不思議でならないです。
(深田)
私から見たら「あえてウォーターワールドにする理由」がありません。
(森山)
前回のエキスポ70が「新しい街が生まれるきっかけ」作りとなった結果、大阪北部に千里ニュータウンが生まれ、インフラも整備した甲斐あって、当時人口10万人だった吹田市は、今40万人近くまで増えています。高速道路や電車などが建設され、非常に重要な街に成長しました。
(深田)
そうですよね。若いとき、吹田と言えば「猿しかいない」と言われ馬鹿にされる地域でしたが、今はとても成長しました。
(森山)
関東で言うつくば学園都市でしょうね。何もないところに最先端の街ができて、若い人も引っ越して来ています。
(深田)
大阪で花博が開催された跡地は鶴見緑地公園になっています。長堀鶴見緑地線もできて、とても栄えています。
(森山)
大阪の南方にある一角のオアシスになっています。
しかし、夢洲には都市の背景になるものがありません。例えば、駅も電車も道路も充実したので家を建てる段階になっても、周りが海なので街ができません。
(深田)
そうですよね。
(森山)
駅ができても、行先は庶民には関係のないIR施設だけです。
(深田)
お金持ちの道楽ですものね。
(森山)
お金持ちの人が国境を跨いで、同じ系列のカジノでお金が下ろせる機能です。IRをどこに誘致すべきかの議論はさておき、わざわざ夢洲に万博誘致をする必要はありません。先のことを考えれば、万博開催地を夢洲にしたのは愚策だと思います。
(深田)
汚染物質はメタンガスやPCBだけではないのですよね。
(森山)
そうですね。ダイオキシンなどいろいろな物質が埋め立て地の地下水に溶け込んでいますから、きちっと対処していくべき問題ですよ。
(深田)
今回の大阪万博の目玉とされる休憩所で、本物の石を吊り下げていますが、危ないのではないでしょうか。
(森山)
危ない見た目ですよね。
(深田)
地震が起きて切れてしまったら石がダーっと落ちてくる可能性もありますよね。
(森山)
切れないだけの強度のワイヤーだとは思いますよ。しかし、専門家が口でいくら「大丈夫、大丈夫」と言っても、見る側が怖いと感じるのならば問題です。「実は、この怖さが面白みだよ」とアピールするくらいなら、もっと他の方法で面白い場所にすれば良いと思います。
(深田)
せめて発泡スチロールに石のような色を塗って吊れば、みんな安心して楽しむのに。
(森山)
そもそも、あえて石の表現をする必要がないのです。「木陰をつくろう」というテーマで、ありきたりに木を植えるのではなく、石を使いだしたようですね。
(深田)
現代アートが「これ、面白いよね」「ウケルでしょう」という一発芸ノリになっていませんか。
(森山)
そうですね。「これまでやったことないこと」「価値観の逆転」といった現代美術に近いコンセプトですよ。重い物と軽く、軽い物を重く、黒を白に、白を黒に、男は女に、女は男にするなど、「逆にすればアートだ」「誰もやったことがない」という本当に間違った考え方をしています。例えば、誰も食べたことがない食材を使った、誰も作ったことがない料理を食べたいと思いますか。
(深田)
砂糖と塩を入れ替えるような料理ですよね。
(森山)
そうです。どんな料理が嫌か感覚で分かるように、アートにしても建築にしても視覚表現だから、視覚で嫌だと思うのです。安全安心かどうかを感覚で判断するのですから、「見た目が面白い建築だ」と言われても不安に思いますし、今までにない料理を出されて「栄養がある」と言われても嫌だと思うでしょう。
(深田)
いらないですね。コオロギなんかも食べたくないです。
(森山)
料理と同じなのです。
(深田)
そう思います。日本の芸術教育はそもそも弱すぎだと思います。
(森山)
その通りです。文化的、歴史的、哲学的な背景や論理が何にもないのです。
(深田)
芸術は背景になるコンセプトありきですし、アートと言われるからには、技術的に優れているところも評価のポイントになってくると思います。表現された技術、コンセプト、直観的に感じる美、大阪万博にはいずれもありません。
(森山)
ミャクミャク君もそうですね。深田さんがおっしゃったように、美や芸術とは、人間の認識をどれほど拡張できるか、心豊かにするかというものです。確かに「今までにない新しい考え」も大事ですが、審美眼に叶う、これまでの文化の背景のある構成がなければ、芸術ではありません。
(深田)
岡本太郎の芸術は、縄文時代からの文化的な流れ、プリミティブな人類を表現するという裏打ちされたコンセプトがあって、見る側も面白いと思うのです。ですが現代絵画や、アートにある「面白い表現」には背景がありません。
(森山)
金の蒔絵などの工芸は、長い練習によって習得された巧みな職人技を必要とします。しかし今の現代美術には、そのような技術を「古いもの」「職人のもの」としか見ていません。裏打ちされた技術や表現力がないものは芸術ではないと思います。
(深田)
そうですね。後世に名を残した芸術家は新しい技法で表現しました。その新しい技法が万博にはありません。
(森山)
「受け継いできたその先」が万博にはありませんね。今あるものを「付け替え」「入れ替え」をして、頓智を利かして物の見方を変えただけです。
「誰もやったことないから」と岩を吊るすことをアートとしていますが、普通はやらないのだということです。
(深田)
やってはいけないとなぜか分からなかったのでしょうか。大阪万博が、今後仮に始まったとして、メタンガス問題はどうなるのでしょうか。
(森山)
事故が起きたら大変なので、対応をしていくべきです。本来、建設会社や土木会社の人たちが集まって問題を把握し、どのように対処しているのか説明できる体制を作っておくべきです。封じ込め体制で、「黙っていろ」「どうにかしてうまくやれ」と押し付けられる現場の人は困ってしまいます。
(深田)
押し付けられた側が、限られた予算の中で、提案しても聞いてもらえずに工事を進め、仮に事故につながっても、大阪府は説明責任を果たせないでしょう。
(森山)
その通りです。その証拠に、建設会社が今「パビリオンの工事は嫌だ。やらない」と言うので、工事会社が見つからないのです。
(深田)
なるほど。汚染がひどく軟弱地盤な上に、 政府も「知らぬ、存ぜぬ」「間に合わせろ」と下に責任を押し付けるだけなのですね。
(森山)
間に合わないのに「やります」と言ってしまうと、「間に合わせろ」と言われてしまうから、誰もやらない事態になっています。
(深田)
次は、「なぜ建築会社が逃げ出すのか」について教えていただければと思います。今回は、大阪万博の夢洲汚染がひどい実態について森山先生からお話をいただきました。先生、ありがとうございました。