#150-森山高至 × 深田萌絵 建築家が警鐘!! 大阪万博、夢洲ゴリ押しは危険です!!
(深田)
今回は、建築エコノミストの森山高至先生にお越しいただきました。
私自身、建築が好きでマッキントッシュやフランクロイドライトなど色々見に行って
いる中で、実は、ツイッター(現X)で先生を偶然お見かけしたのです。そこで、隈研吾さんが関わった栃木県の那珂川町馬頭広重美術館(なかがわまちばとうひろしげびじゅつかん)の老朽化が進んで大変なことになっていますよ、という呟きが結構、批判の対象になっていたのですが?
(森山)
そうですね。でも、建物が腐っていたのは今に始まったことじゃなくて、何も塗らず素材そのままを使っていたので、出来上がった時から専門家からは「大丈夫なのか?」と言う声はあったのです。
(深田)
そうですよね。生の木をそのまま使うのってどうなの?と思いますが。
(森山)
出来たての時は、見た目には美しい白木の感じで、まるで割り箸や弁当のヒノキ材みたい、とみんな良い印象を持ったと思います。でも、そのままではいつか朽ち果てるっていう前提ですよね。
(深田)
そうなのですよね、普通なら表面に加工を施すのですが、白木のまま使っているのですよね。一般の方は批判するだけのことが多いですが、森山先生は「それを補修しよう」と呼びかけていらして、建築に愛のある方だなと思いました。
(森山)
建築が好きすぎてこうなったわけですから(笑)
(深田)
そんなことから森山先生に大変に興味を持ちまして、オムニバス形式の『大阪・関西万博「失敗」の本質』-ちくま書店-の中の、森山先生が書かれた大阪万博に関する部分を読ませていただきました。なぜゴミ捨て場だった夢洲に大阪万博が誘致されたのだろうか?と私も思っていたのですが、建築エコノミストの視点でここまで論理的に説明されていてとても興味深かったです。
(森山)
ありがとうございます。ゴミの島だからダメということではないのですが、本当に活用できる土地にするまでには何十年もかかるものなのですよ。東京の夢の島にしても、都会のゴミ問題対策のために山を削った時の土や家を壊した時の瓦礫とか色んなものを湾に埋めて、でも、海なので重量で沈むから、また埋めて… ということを何度も繰り返すのです。
(深田)
そうですよね。東京の江東区でも元々の面積の4倍くらいになっていると聞いていますが、300年くらいかかっているのですよね。
(森山)はい、江東区も関東大震災の頃、あの辺りに島を作ったり、そこに新しい産業を誘致したりして、だんだん街になっていったのです。深田さんがおっしゃるように本当に時間がかかるものなのです。
(深田)
東日本大震災の時も、液状化が起こったのは有明や豊洲のような新しい方の埋立地で、古い方にはそれがなかったのです。
(森山)
それには、地下水がどれだけそこにあるのかや土の中に埋まっているものがどうなっているのかなどとの関係がありますね。
(深田)
今回、大阪万博が夢洲に誘致されましたけど、夢洲は出来立てほやほやで埋め立ての途中ですよね。
(森山)
そうなのです、大阪万博を夢洲に誘致決定した時は、半分ぐらいは水たまりでした。だから、その水を活かした「ウォーターワールド」という構想で、パビリオンや施設を作るという計画での誘致だったのです。土地が埋まりきれていないのは仕方がないけど、それでもそのままこの計画を進めてしまおうとしていて、今もまだいろいろ大変な状況です。
(深田)
埋め立て地の関西空港も毎年沈んでいますよ。
(森山)
そうです、関空は30年くらい毎年沈んでいますが、それを前提に作られた空港なのです。建物は水平に沈むならまだいいですが、片側だけ沈むと「不同沈下」が起きて建物が使えなくなってしまいます。だから関空にはジャッキアップの仕組みが入っていて、沈んだ分をうまく調整しています。30年経った今も続けているのですよ。
(深田)
なるほど、沈んだ部分を上げて全体を水平に保っているのですね。夢洲ではどうなのですか?
(森山)
夢洲はまだ埋めたばかりの土地なので、建物を建てるのは本当に難しいのです。それで、こんなに難しい場所で大丈夫か?と思ったのがこの問題のきっかけでした。
(深田)
私は大阪の人間で、東京ではちょっと考えられないと思いますが、自分が20代のころはトースターなど燃えないゴミを燃えるゴミ扱いにするような所だったのですよ。
(森山)
そうなのですか? 確かに一般の家庭ゴミというより産業廃棄物に近いものも多く埋め立てられています。PCBという公害物質も一部埋まっている場所があります。PCBは燃えない油と言って、発電関係や電柱のトランスの絶縁体としてとても優れていて当時は夢の油と呼ばれていました。ところが、自然界に残留すると問題があることがわかり世界的に禁止された物質です。それで回収したのですが、それを埋めてしまえばいいといいうことで埋められている場所があります。
(深田)
なるほど。PCBって硬いのですか?
(森山)
液体です。色んなものに染み込ませて使うのですが、そうしたPCBが含まれたものを集めて袋に入れて埋めてある。囲みを作って管理はしていますが、その囲みを超えて時々、流れ出しているものもあるんじゃないかとも言われています。
(深田)
そうですか。夢洲はもともとゴミ捨て場で、交通の便もほとんどありませんよね?
(森山)
夢洲を地図で見ると大阪の中心にあるように見えますが、実際には街の中心からは遠くて公共交通機関も無くて、距離で言えば一番遠いのです。そういう場所を利用するのは本当に難しい。真剣に考えないといけないのに、あっさりと万博やIRとして利用しようと進めているのは問題がありますね。
(深田)
夢洲まで行くには南港より先のコスモスクエアの向こうですから、大阪の人も殆ど行かないエリアです。そうした場所にたまたま土地があるからそこを使う、という発想だったのでしょうか。
(森山)多分、地図を見てそう思った可能性はありますね。地図でみると島があるように見えたり、ちゃんとした土地に見えますから(笑)でも、ここは本当に曰く付きで、大阪は20年ほど前にオリンピック誘致をしたことがあって、その時も夢洲と
舞洲と咲洲が候補にあって、オリンピック招致委員会の人たちが見学に行ったのですが、「遠い」「ちょっとイメージと違う」というので候補からは外れたという経緯があります。
(深田)
普通はそう考えますよね。でも今回は、多分、維新の会の関係者と近い人たちが夢洲がいいと言ったのではないかと勘繰っています。論理的に考えてあり得ない場所なので、そう考えざるを得ないですね。
(森山)
開発してもその将来性が見えない場所ですし。
(深田)
普通であれば軟弱地盤の土地は、地盤改良工事をすると思うのですが今回はどうなのでしょうか?
(森山)
地盤改良はしていますが、まだ不十分で、もっと時間をかけないといけないと思っています。人でいえば赤ちゃん〜小学生くらいのレベルで、大人になってない土地というところですね。
(深田)
どういう部分にそう感じるのでしょうか?
(森山)
まず埋め立て地の作り方なのですが、そこに枠を作ったらその中にどんどん埋める材料を入れていくのです。でも、水分が多いので、埋めた材料と水分がどろどろで固定しないから、上から更にいろいろ材料を追加していきます。すると一見、ちゃんとした土地に見えるのですが、やはり水と一緒に埋めた材料が上に浮いてあがってくるのですが、そういうところがまだまだだと思います。
(深田)
水と一緒に埋めた材料が、何かわからないものと一緒に浮き上がってくる懸念もありますが。
(森山)
メタンガスや他の化学物質があるのでは?と心配する人達はいるのですが、それでもコンテナヤードにするなどそうした使い方をしていました。それはそれで良いと思います。あの場所は何かに使えるはずだから、今頑張って利用できる土地づくりとして、「ゴミの埋め立てをする」という意味であと10年くらいの利用可能性はありました。
(深田)
ゴミ捨て場としての役割はあったのですね?
(森山)
ありましたよ。それを途中でやめてIR建設に切り替えたりしたわけです。
(深田)
では、ゴミはどこに捨てればいいのでしょうか?
(森山)
大阪のゴミの捨て方も問題になっているのはこの影響でしょうね。
越境してどこかに捨てに行っているのではないのでしょうか。
(深田)
夢洲のこれからのリカバリーですがどうするのでしょうか?
(森山)
そうですね、万博の場合は短期間のイベントなので、柔らかい地盤でもなんとかパビリオンを建てようとしています。でも、軟弱な地盤だから50メートルの杭を打たなければならないのです。しかも、万博のルールで「杭は抜け」と書いてあるのですよ。
(深田)
えっ、50メートルの杭を縦に抜くのって大変ですよね。
(森山)
15階建てのビルぐらいの高さですよ。それを杭として使って、上には2階建てのパビリオンを建てるだけなので無理があるのです。しかも杭抜きは杭打ちよりずっと難しいのですよ。
(深田)
どうして杭を抜けと言うのでしょうか?
(森山)
杭が残っていると土地の価値が下がるからで、将来、別の人がその土地を使いたい場合には、杭を抜いてほしいと言われることがあるのです。でも、これが非常に大変で、地下室を作ろうと考えた人もいましたが、夢洲では2.5メートル以上は掘ってはいけないという制限があるのですよ。
(深田)
地下もダメなのですか?
(森山)
そうなのです。そこで、EPS置換工法といって発泡スチロールを埋めて、その上に軽い建物を建てる方法を取っているのです。今、準備されている日本館もすべて軽量のドーム建築です
(深田)
そうすると多様性が無くなって、昔の万博のように色々なタイプの建物が見られるわけではないのですね?
(森山)
はい、そういう構造的な制約があるので、似たようなデザインのものばかりになります。でも、海外のパビリオン設計者はこの制約を知らず、工事が遅れている国もあるのです。
(深田)
そもそも夢洲に万博を誘致したのが間違いだったのでは?
(森山)
そうですね。どうしても夢洲で何かをしたいのであれば、「軟弱地盤での建築技術を競うフェスティバル」のようなものなら理にかなっていたでしょう。そうすれば世界中から素晴らしい技術が集まったと思います。
(深田)
それは良い案ですね。
(森山)
そうすれば、世界中で土地や地盤に問題のある国々へも技術が広がりそうです。
(深田)
確かにドバイやバングラディシュからも人が来そうですよね。
(森山)
そういうことも出来たのに、誘致した側は「夢洲には問題がない」という前提で話を進めてしまっているので、問題のある夢洲に新しい建築技術の投入もできず、改善の機会も奪われているのですね。
(深田)
日本独特ですね、「走り出したら止まれない」というのは。
(森山)
問題点を指摘すると怒られてしまうでしょ?
(深田)
「それは問題だ」と言うと「いや、問題はない」と言い切る。
(森山)
前に進むために問題を指摘し、「どう解決していこう?」という関係者は沢山いたと思いますが、それを黙っておけという隠蔽するような方向に行くとこうなります。
(深田)
そうそう、「メタンガスが危険だなんて認識が間違っている!」というような発表ばかりで、何も改善しようとしない。
(森山)
そうすると、本当に何も解決しないのです。
(深田)
そもそもゴミ捨て場として活用しておけば良かったのに、その夢洲を「未使用の土地」ということで無理やり万博を誘致したことがまず最初の間違いですね。
(森山)
住民もいない場所なので、反対する人もいないし説明も不要だったので、さっさと進めたのでしょうね。
(深田)
そうでしょうね。でもこうした失敗をどうやってリカバリーしていくのかもそうですが、まず日本政府は間違いを認めるところから始めて行かないといけないと思います。建築エコノミストの森山先生に、大阪万博とカジノが夢洲に誘致された背景と問題点についてお話をいただきました。先生、ありがとうございました。