#149-山本隆三 × 深田萌絵『脱炭素推進のウソ』先進国は化石燃料依存? リチウム電池は環境汚染の原因に!?

(深田)

自由な言論から学び行動できる人を生み出す政経プラットフォーム、ITビジネスアナリストの深田がお送りします。今回は常葉大学名誉教授の山本隆三先生にお越しいただきました。先生、よろしくお願いします。

今回は「再エネがエネルギー安全保障を脅かす」というテーマでお話を伺いたいと思います。

(山本)

はい。再エネを導入すれば二酸化炭素が減り、電力供給も増えるので良いことばかりと思われますよね。でも、良い面もありますが、マイナス面も結構あるのです。

(深田)

どうしてそれが安全保障に関わってくるのでしょうか?

(山本)

2つの理由があります。まずひとつは、以前お話した安定供給の問題です。再エネの電気は常に24時間使えるわけではなく、電力が足らなくなるという問題がひとつ。もうひとつは再エネの設備がどこから来ているのかと考えると、そこにもうひとつの問題があるということです。再エネは、日本は太陽光パネルはあっちこっちにあって、たくさん導入されているように見えますが、世界の一次エネルギー供給を見てみると実は化石燃料が8割です。天然ガスと石油、石炭が1/3ずつくらい供給しているのが今の世界の現状で、実は日本もこれに近い。日本は、8割以上が化石燃料依存です。再エネは、風力で代表していて、その中に太陽光とかも含まれていますが、そんな多くありません。世界全体で8割。最エネ大国と言ってるドイツもよく見ると8割近く化石燃料依存なのです。

(深田)

イメージだけなのですね。

(山本)

そうなのです。世界の主要国で8割依存してない国は、フランスだけです。フランスだけは、化石燃料依存度が低くて半分ぐらいしか依存してないです。他の国はみんな8割ぐらい化石燃料に依存しています。日本のエネルギー自給率は今13―4%しかないので、最エネでエネルギー自給率を上げましょう!ということですが、電気の安定供給の問題と、もうひとつの問題が設備をどこから買っているのかです。

(深田)

太陽光パネルは、9割ぐらい中国じゃないですか。

(山本)

よくご存じです。今、世界の太陽光パネルの生産の3/4ぐらいが中国で、日本で導入されている太陽光パネルの9割以上95%ぐらい輸入品です。大半は中国製、あるいは東南アジアで作られているものもありますけど。太陽光パネルを導入するとなると中国から買わなきゃいけないとなるわけです。それと今、風力発電で洋上風力がブームですけれども、世界で陸上風力はどこに入っているか言うと中国が4割ぐらい世界の陸上風力設備を導入しています。洋上風力だと中国は半分です。中国が太陽光と風力発電設備の大きな市場を持っているのは何故かというと、中国で物を作るためです。要は太陽光パネルが3/4中国製になったのは、中国の導入量が多いからです。風力発電設備のブレイドですとか変速機といった使用設備は、中国が大体6割から7割。

(深田)

製造能力でこれだけ持っているのは、凄いですね。

(山本)

そうなのです。昔は、洋上風力ではヨーロッパの会社が強かったのが、中国が自分の国で洋上風力設備をどんどん入れて、自分の国のメーカーを育てていったわけです。その結果、最近では洋上風力設備・風力設備の1大拠点だったドイツが中国製の洋上風力設備を導入するということまでやっているのです。

(深田)

そこまで性能が良くなってきたということですか。

(山本)

性能的に差がなく、ドイツの新聞報道では「中国製は2割安い」とあります。そこまで技術が上がってきたということです。我々は中国を「コピーばかりしている」と思いがちですが、今や一大技術大国です。そのためアメリカが中国を非常に警戒しているわけです。つまり、再生可能エネルギーを導入しようとして、事業者が競争力のある安価な設備を選ぶと、中国製に行き着くのです。

(深田)

そうですよね。中国とアメリカの関係が悪化している中、日本はアメリカ陣営に入らないといけないので。

(山本)

ですけれど、現実に再生可能エネルギーを設備を導入しようとなると、アメリカ製はないし、ヨーロッパ製は高いし、中国製に頼ることになってしまいます。日本政府は今、日本国内でこうした設備を作るメーカーを育てようとしていますが、正直簡単ではないですね。そんなに簡単に出来るなら、中国にここまでシェアを取られていないだろう。実際、太陽光モジュールは2000年頃までドイツと日本が世界一だったのが、いつの間にか、中国が世界一になって、日本やドイツがどこかへいってしまったのです。

(深田)

そうなのです。太陽光モジュールは半導体技術ですから、半導体製造に強いドイツ、そして日本が強かったはずなのです。しかし、日本政府が半導体製造にかなり冷たかったおかげで無くなってしまいました。

(山本)

そうですね。今後のEV(電気自動車)に関しても、電池を生産しているのは中国で、EVの生産そのものも、今、世界の3割近くが中国で生産されています。中国が昨年、日本を抜いて世界一の自動車輸出国になったのはEVで、ヨーロッパに中国製EVがかなり入っています。

(深田)

今、逆にヨーロッパは、EV推進で儲かるのは中国だけだったと、太陽光パネルとEV車の輸出で、中国は「デフレを輸出している」と批判しています。

(山本)

確かに、そうですね。安いですからね。消費者の立場からすると安いほうがいいとなるので、なかなか難しい問題ですね。そしてもうひとつ、中国製の問題としては、再生可能エネルギーの発電設備には多くの鉱物が必要で、火力発電や原子力発電に比べて数倍の鉱物を必要とします。その鉱物の多くを生産しているのが中国です。結局、再エネ設備を自国で作ろうとしても、原料は中国から購入せざるを得ないということです。

(深田)

そうですよね。車載用のリチウムイオンバッテリーもかなりのシェアを中国がもっています。コバルトも、中国が多いです。そうなると、EVや再生可能エネルギーを推進することによって、日本だけでなく、世界各国が中国に依存を強めてしまっているのです。

(山本)

そうなのです。プーチン大統領が始めた戦争の影響で、ヨーロッパはエネルギーや重要な鉱物の依存が危険であることに気づき、脱中国を計ろうとしています。ヨーロッパの中で、鉱物を掘って自分の国で生成しようとしていますが、元々それができないから中国に頼んでいたので、そんなに簡単ではないでしょう。例えば、リチウムの産出国はオーストラリアですが、環境負荷があまりに高いから、自分の国で生成出来ず、中国に送って、中国で生成してもらって、それを輸入しているわけです。そういうものを、今からヨーロッパやアメリカに出来るのか。日本もそうです。

(深田)

これは凄い問題ですね。今、自衛隊も米軍も再生可能エネルギーを使いましょうと、どんどん再エネ導入に向かっています。そうなると、自衛隊も米軍も動力源を中国に依存することになっていきますよね。

(山本)

そうですね。さらに、サイバーセキュリティの問題があります。例えばイギリスでは、一時、中国製の原子力発電設備を導入する決定をしましたが、ウクライナ問題以降、中国を排除しました。色んなところでサイバーセキュリティの問題があって、ヨーロッパで中国製の風力発電設備を排除しようという動きがあります。これはサイバーセキュリティの問題なのです。

(深田)

洋上発電とサイバーセキュリティが関係あるのですか?

(山本)

要は、いざというときに設備を停止される可能性があるということです。イギリスが中国製の原子力発電設備を導入しようとしたときに問題になったのは、緊急時に電力供給を止められるリスクが指摘されました。例えば、データセンターを使わなきゃいけないとか、どこかと紛争が起こった時に突然停電する可能性があるのです。イギリス政府が一時的に「中国製でも構わない」と判断したのは、中国が数千億円を投資する計画だったからです。まさか、数千億の投資を捨てることはないだろうと判断したようです。しかし、ロシアの戦争を見て、いざとなったら、この人たちはやるかもしれないとイギリス政府は考えを変えて、「やはり中国製はやめよう」という決断に至ったわけです。今、ドイツが導入した洋上風力設備もサイバーセキュリティが問題になっていますが、事業者は色んな角度から検討した結果「問題はない」としています。それでも、やはり安価な中国製を選んでいるのが実情です。

(深田)

そうですよね。私も太陽光パネルの発電にはサイバーセキュリティの問題があると考えています。太陽光パネルに付属している変圧器には通信設備が搭載されていますが、それがファーウェイ製なのです。「JET認証」という認証を持っている通信機器を使わないといけないが、そのJET認証を出すのが変圧器メーカーです。この変圧器が中国系が多いので、安い変圧器を買うと自動的にファーウェイ製の通信機器を買うことになりセットになっているそうです。そういうことを考えると、二酸化炭素を出さないかもしれないけれども、太陽光パネルの発電に依存するのはリスクがあると思います。

(山本)

そうですね。最近、ヨーロッパやアメリカは、そのリスクに気が付いて、サイバーセキュリティーの観点から中国製を排除しています。しかし、現実には世界市場の多くが中国製品で占められており難しい問題ですね。

(深田)

そうですよね。サプライチェーンの問題もありますし。ただ、欧米がエネルギーの中国依存は危険だと舵を切り変え始めていることは非常に重要な変化として捉えて、日本政府にもこの欧米の変化についていってもらいたいと私は思います。

(山本)

日本政府もその中に入って一緒にやろうとしていますし、エネルギーとか重要鉱物は同盟国でもあるヨーロッパ、アメリカ、オーストラリアに依存するしかない点は政府もよくわかっていると思います。ただ、現実問題として切り替えが難しいですね。

(深田)

価格競争力の問題もありますし難しいとは思いますが、日本政府にはこのあたりに梃入れをしていただきたいと思います。

では、今回は常葉大学名誉教授の山本隆三先生に再生可能エネルギーの安全保障問題についてお話をいただきました。先生、ありがとうございました。

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